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44話
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魔導祭の当日。ログハウスの鏡の前で、リィエルはアイアンが錬成した「正装」を身に纏い、かつてない困惑の中にいた。
それは森の奥で見つかった光糸と、ルミの魔力触媒を幾重にも織り込んだ深紺色の礼服だった。光の角度によって、生地の表面に小さな魔法陣が浮かび上がり、まるで本物の星空を纏っているかのように輝いている。
「……アイアン。これは出力が高すぎます。ただの外出着に、物理防御と精神耐性のパッチを盛り込みすぎだ」
「お母様の安全を確保するための最低限の仕様です。計測結果、美観指数も目標値を百二十パーセント上回っています」
アイアンが満足げに駆動音を鳴らし、シロはリィエルの足元で「主様、すっごくかっこいい!」と跳ね回っている。
そこへ、王都の正式な軍装に身を包んだガイアスが現れた。普段のラフな格好とは違い、白銀の甲冑と純白のマントを羽織った彼の姿は、まさしく一国を背負う騎士団長の威厳に満ちている。
「……あ」
リィエルを見た瞬間、ガイアスは扉の枠を掴んだまま静止した。
その瞳は大きく見開かれ、普段の軽快な口調もどこかへ消え去っている。騎士団最強の男が、目の前の少年の姿に完全に思考停止(フリーズ)していた。
「……ガイアスさん。やはり、この服装は不自然ですよね。今すぐ部屋着にダウングレードしてきます」
「待て、動くな! ……いや、不自然なのは俺の心臓のほうだ。……リィエル、お前、自分がどれだけ……いや、なんでもない。とにかく、最高に似合っている」
ガイアスは耳まで赤くしながら、差し出した手の震えを隠すようにリィエルのエスコートを引き受けた。
王都へ向かう専用の馬車の中、二人きりの空間に揺られながら、リィエルは窓の外を流れる森の景色を見つめていた。
緊張のせいか、あるいは礼服の魔力循環のせいか、指先が少しだけ冷えている。それに気づいたのか、隣に座るガイアスが、グローブを外した素手でそっとリィエルの手に触れた。
「……緊張しているか?」
「……心拍数は平常時の範囲内です。ただ、不確定要素の多い場所へ行くことへの、論理的な警戒心があるだけで」
「なら、その警戒心の一部を俺に預けろ。……俺が隣にいる限り、どんなバグもお前に触れさせはしない」
ガイアスはそう言って、リィエルの細い指の隙間に、自分の指をゆっくりと滑り込ませた。
指先が絡み合い、互いの体温が共有される。
リィエルは一瞬だけ驚いて手を引こうとしたが、ガイアスの掌の確かな厚みと、自分を求めるような微かな力の入れ方に、逃げるのをやめた。
「……ガイアスさんは、本当に非効率な人だ。こんなことをしても、馬車の移動速度は上がりませんよ」
「速度の問題じゃない。……お前の体温をこうして確かめていないと、俺のほうが不安でシステムダウンしそうなんだ」
リィエルは反論を飲み込み、絡められた指先に自分からも少しだけ力を込めた。
馬車の揺れに合わせて重なる二人の影。
森を出て王都の明かりが見え始める頃には、二人の間にある境界線は、もう誰にも解読できないほど複雑に、そして愛おしく溶け合っていた。
それは森の奥で見つかった光糸と、ルミの魔力触媒を幾重にも織り込んだ深紺色の礼服だった。光の角度によって、生地の表面に小さな魔法陣が浮かび上がり、まるで本物の星空を纏っているかのように輝いている。
「……アイアン。これは出力が高すぎます。ただの外出着に、物理防御と精神耐性のパッチを盛り込みすぎだ」
「お母様の安全を確保するための最低限の仕様です。計測結果、美観指数も目標値を百二十パーセント上回っています」
アイアンが満足げに駆動音を鳴らし、シロはリィエルの足元で「主様、すっごくかっこいい!」と跳ね回っている。
そこへ、王都の正式な軍装に身を包んだガイアスが現れた。普段のラフな格好とは違い、白銀の甲冑と純白のマントを羽織った彼の姿は、まさしく一国を背負う騎士団長の威厳に満ちている。
「……あ」
リィエルを見た瞬間、ガイアスは扉の枠を掴んだまま静止した。
その瞳は大きく見開かれ、普段の軽快な口調もどこかへ消え去っている。騎士団最強の男が、目の前の少年の姿に完全に思考停止(フリーズ)していた。
「……ガイアスさん。やはり、この服装は不自然ですよね。今すぐ部屋着にダウングレードしてきます」
「待て、動くな! ……いや、不自然なのは俺の心臓のほうだ。……リィエル、お前、自分がどれだけ……いや、なんでもない。とにかく、最高に似合っている」
ガイアスは耳まで赤くしながら、差し出した手の震えを隠すようにリィエルのエスコートを引き受けた。
王都へ向かう専用の馬車の中、二人きりの空間に揺られながら、リィエルは窓の外を流れる森の景色を見つめていた。
緊張のせいか、あるいは礼服の魔力循環のせいか、指先が少しだけ冷えている。それに気づいたのか、隣に座るガイアスが、グローブを外した素手でそっとリィエルの手に触れた。
「……緊張しているか?」
「……心拍数は平常時の範囲内です。ただ、不確定要素の多い場所へ行くことへの、論理的な警戒心があるだけで」
「なら、その警戒心の一部を俺に預けろ。……俺が隣にいる限り、どんなバグもお前に触れさせはしない」
ガイアスはそう言って、リィエルの細い指の隙間に、自分の指をゆっくりと滑り込ませた。
指先が絡み合い、互いの体温が共有される。
リィエルは一瞬だけ驚いて手を引こうとしたが、ガイアスの掌の確かな厚みと、自分を求めるような微かな力の入れ方に、逃げるのをやめた。
「……ガイアスさんは、本当に非効率な人だ。こんなことをしても、馬車の移動速度は上がりませんよ」
「速度の問題じゃない。……お前の体温をこうして確かめていないと、俺のほうが不安でシステムダウンしそうなんだ」
リィエルは反論を飲み込み、絡められた指先に自分からも少しだけ力を込めた。
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