お人好しな新米冒険者は最強パーティに愛で尽くされる~行き倒れ戦士と毒舌魔導師、そして大型犬な後継者に囲まれて~

たら昆布

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1話

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「レオ、お前は本当にお人好しが過ぎるんだよ。そんなんじゃ、冒険者として食っていくなんて夢のまた夢だぞ」

村を出る間際、幼馴染に呆れたように言われた言葉が、レオの脳裏にリフレインしていた。

二十歳という、冒険者を目指すには少し遅い出発。
栗色の柔らかな髪を揺らし、レオは期待と不安が入り混じった溜息をつく。
背負い袋の中には、最低限の着替えと、村の老婆から譲り受けた古びた短剣が一本だけ。

「……自分でも分かってるんだけどなあ」

困っている人を見かけると、損得を考える前に体が動いてしまう。
その性格のせいで、村では「都合のいいパシリ」として扱われることも多かった。
けれど、レオの琥珀色の瞳には、決して折れない芯のような光が宿っている。

目の前に広がるのは、冒険者の拠点として名高い城塞都市・ラピス。
巨大な石造りの門を見上げ、レオは気合を入れ直すように頬を叩いた。
今日から、ずっと憧れていた自由な旅が始まるのだ。

「まずは、ギルドに行って登録しなきゃ……わっ!?」

門を潜ろうとした瞬間、足元に飛び出してきた小さな影に、レオは慌てて足を止めた。
ボロボロの服を着た、まだ幼い少年が転んでいる。
レオは反射的に駆け寄り、少年の膝についた土を払ってやった。

「大丈夫かい? 怪我はない?」

「……お、お腹、空いた……」

少年の潤んだ瞳に見つめられ、レオの胸が締め付けられる。
自分も決して裕福ではない。
これからの生活費を考えれば、一銭も無駄にはできないはずだった。
だが、レオの手はすでに、村で焼いてもらってきた保存食のパンに伸びていた。

「これ、よかったら食べて。少し硬いけど、味はいいんだ」

「いいの……? ありがとう、お兄ちゃん!」

パンを受け取った少年は、太陽のような笑顔を見せて走り去っていった。
レオはそれを見送り、軽くなった自分の懐を思って苦笑する。

「……あはは、さっそくこれだ。先が思いやられるなあ」

ギルドの重厚な扉を開けると、そこは荒くれ者たちの怒号と熱気に包まれていた。
酒の匂いと鉄の錆びた香りが混ざり合う、独特の空間。
レオがおずおずと受付へと歩み寄ると、派手な化粧をした受付嬢・ミリーが顔を上げた。

「はい、新規登録ね。名前と年齢、それから得意なことを書いて」

「レオです。二十歳です。得意なことは……料理と、薬草の判別くらいでしょうか」

ミリーは書類を一瞥し、ふいっと鼻で笑った。

「あんた、その外見で冒険者? 悪いことは言わないから、どっかの食堂の丁稚にでもなりなさいよ。ここは血と肉が飛び散る世界なんだから」

「それでも、やってみたいんです。小さい頃からの夢だったから」

レオの真っ直ぐな視線に気圧されたのか、ミリーは肩を竦めて銀色のプレートを差し出した。
それが、最低ランクである「Fランク」冒険者の証だった。

「はいはい。死んでも文句言わないでね。まずはその辺の依頼板から、薬草採取の仕事でも探しなさいな」

レオは丁重に礼を言い、掲示板へと向かう。
豪華な装飾の剣を携えた戦士や、賢そうな杖を持つ魔導師たちが、高ランクの依頼を求めて群がっていた。
小柄なレオが隙間から覗き込もうとすると、乱暴に肩を突き飛ばされる。

「どけよ、チビ。お前みたいなガキの居る場所じゃねえんだよ」

「……すみません」

謝りながら、ようやく見つけたのは「魔の森の入り口での薬草採取」という地味な依頼だった。
報酬は雀の涙だが、今のレオにはそれしかない。
彼は依頼書を握りしめ、一人で街の外へと歩き出した。

魔の森。
その名の通り、凶悪な魔物が生息すると恐れられている場所だ。
もちろん、入り口付近であれば危険は少ないと言われているが、それでも新米には酷な環境に違いなかった。

「確か、この辺りに『青星草』が生えているはずなんだけど……」

レオは膝をつき、湿った地面を丁寧に探っていく。
かつて村の薬師から教わった知識だけは、誰にも負けない自信があった。
集中していると、自分の周りの喧騒が消えていくような感覚になる。

ふと、レオの耳に奇妙な音が届いた。
風の音ではない。
重い何かが地面を引きずるような、そして、苦しげな吐息。

「……っ、誰かいるの?」

お人好しな本能が、警戒心よりも先に警鐘を鳴らす。
放置して帰るという選択肢は、彼の辞書には存在しなかった。
レオは短剣を抜き放ち、音のする藪の奥へと慎重に足を踏み入れる。

そこで彼が目にしたのは、無残に裂かれた防具を身に纏い、血の海に沈んでいる一人の男だった。
その体躯は、レオの倍ほどもあるだろうか。
鋼のような筋肉が刻まれたガッシリとした体つきをしているが、今は青白く震えている。

「ひどい傷だ……! しっかりして!」

レオは駆け寄り、男の体を抱き起こした。
男の意識は朦朧としており、深手を負った胸元からは、ドクドクと鮮血が溢れ出している。
普通の人間なら、あまりの惨状に逃げ出してしまうような光景だった。

「……う、ぐ……逃げ……ろ……魔物が……」

男は掠れた声で、レオを突き放そうとする。
その手は震え、死の淵に立っていることが一目で分かった。
レオは自分のバッグから、唯一持っていた高価な「中級ポーション」を取り出した。
これは、村を出る時に全財産を叩いて買った、命綱とも言える一品だった。

「逃げるわけないでしょう。僕にできることは、これくらいしかないんだから」

レオは躊躇なくポーションの蓋を跳ね除け、男の口元へと運ぶ。
男の瞳が、驚愕に大きく見開かれた。
なぜ、見ず知らずの自分に、これほど高価なものを使うのか。
そんな疑問が、言葉にならない視線の交差となってレオに突き刺さる。

ポーションの光が男の体を包み込み、傷口がゆっくりと塞がり始めた。
レオは安堵の溜息をつき、布を裂いて男の体に包帯を巻きつける。
その細い指先が、男の熱い肌に触れた。

「……熱い。まだ、熱があるんだね」

レオの心配そうな声が、静かな森に響く。
男は、自分を支えるレオの華奢な腕の感触に、戸惑いを隠せないようだった。
裏切りと憎しみに満ちた冒険者生活の中で、これほど無垢で、損得抜きの優しさに触れたのは初めてだった。

男の喉が、微かに鳴る。
琥珀色の瞳を見つめ返すうちに、凍りついていた彼の心に、見たこともない感情が芽生え始めていた。

これが、後に「最強の盾」と呼ばれる戦士ガウルと、お人好しな少年レオの、運命の出会いだった。

レオはまだ知らない。
自分が救ったこの男が、どれほど深い執着を持って、自分を愛でることになるのかを。

「……もう大丈夫。僕がついてるからね」

レオの微笑みは、残酷なまでに優しく、そして、あまりにも無防備だった。
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