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6話
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眩しい朝の光に目を覚ましたレオは、自分の体が全く動かないことに気づいて固まった。
右側からは、ガウルの岩のような太い腕が腹部をがっしりと抱き込み、背中には彼の熱い胸板が密着している。
左側からは、シリウスがレオの首筋に鼻先を埋めるようにして、細いながらも力強い腕を肩に回していた。
「……ん、レオ。もう起きるのか……?」
耳元で、ガウルの低く掠れた声が響く。
眠りから覚めたばかりの、無防備で熱を帯びた吐息が首筋を撫で、レオの体温が一気に跳ね上がった。
「う、うん。ガウル、ちょっと苦しいかな……」
「……ふふ、おはようレオ。朝から元気な戦士(ケモノ)に襲われていたのかい?」
反対側で、シリウスがくすくすと意地の悪い笑みを漏らす。
彼はレオの耳朶を、まるで羽毛でなぞるような繊細な指先で弄んだ。
「もう二人とも! 早くギルドに行かなきゃ!」
レオは顔を真っ赤にしながら、二人の腕をすり抜けるようにしてベッドを脱出した。
最強の二人に挟まれて眠るという、贅沢すぎる拷問からようやく解放されたものの、腰のあたりにはまだ二人の熱い感触が残り火のように居座っている。
準備を整えてギルドへと向かうと、扉を開けた瞬間に、昨日の比ではない沈黙が場を支配した。
「おい、見ろよ……。あのFランクのガキ、本当にガウルとシリウスを連れてやがるぞ」
「『孤高の狂戦士』と『氷の魔導師』だぞ? なんであんな小僧のパーティに……」
冒険者たちの突き刺さるような視線と囁き声。
レオは思わず肩を竦めて足早に進もうとしたが、左右を固める二人の男たちが、それを許さなかった。
ガウルがレオの肩を抱き寄せ、周囲を威圧するような鋭い眼光を放つ。
シリウスは優雅な所作で杖を弄びながら、レオを嘲笑おうとする者たちを冷酷な瞳で見下した。
「ミリーさん、おはようございます!」
受付のミリーは、引き攣った笑みを浮かべてレオを見つめた。
「お、おはようレオ……。あんた、本当にこの二人とパーティを組んだのね。ギルド始まって以来の、一番アンバランスなパーティだわ」
「そうでしょうか……。あ、今日は何かおすすめの依頼はありますか?」
レオが身を乗り出して依頼板を覗こうとすると、背後から無骨な声が割り込んだ。
「ようよう、お熱いねえ。おい小僧、そのお二人さんはお前には荷が重すぎるんじゃないか?」
現れたのは、Bランクパーティ『鋼の牙』のリーダー、ゾグだった。
彼はガッシリとした体格の戦士だが、ガウルに比べれば子供のようなものだ。
ゾグはレオの細い腕を乱暴に掴み、下卑た笑みを浮かべた。
「お前みたいなチビに、こんな上等な護衛はいらねえだろう。俺たちなら、もっとマシにこいつらを使いこなせるぜ」
「……離して。痛いよ」
レオが顔をしかめた瞬間、ギルド内の空気が一変した。
凍り付くような殺気が、中央の三人から爆発的に放たれたのだ。
「その手を離せ。……さもなくば、その腕を根元から叩き斬るぞ」
ガウルがゾグの手首を掴み、ギリギリと力任せに締め上げる。
ミシミシと嫌な音が響き、ゾグの顔色が瞬時に土色へと変わった。
「ひっ、あ、あああ……っ!」
「おやおや、野蛮だねえ。でも、僕も同感だよ。レオの綺麗な肌に、君のような汚らわしい男の指が触れるなんて……耐え難い屈辱だ」
シリウスが冷たく微笑み、杖の先をゾグの喉元に突きつける。
杖の先には、今にも放たれそうな高密度の魔力が青白く渦巻いていた。
「二人とも、やめて! 怪我をさせたら依頼が受けられなくなっちゃう!」
レオが慌てて二人の腕を掴み、必死に宥める。
すると、あんなに獰猛な殺気を放っていた二人が、嘘のように静まり返った。
「……レオがそう言うなら、今回は見逃してやる。失せろ」
ガウルが手を放すと、ゾグは尻餅をつき、そのまま這うようにして逃げ去っていった。
周囲の冒険者たちは、今の光景に戦慄していた。
あの気難しい実力者たちが、Fランクの少年のたった一言で、牙を抜かれた従順な獣のように大人しくなったのだ。
「レオ、怖がらせて悪かったな。あんたに触れる奴は、俺が許さない」
ガウルがレオの髪を愛おしそうに撫で、その大きな掌をレオの頬に添えた。
熱い。
昨夜のベッドの中で感じたのと同じ、独占欲に満ちた熱だ。
「僕からも謝るよ、レオ。あんな下俗な男に気を取られる必要はない。さあ、今日はどの依頼にしようか? 君が選ぶなら、僕は地獄の果てまで付き合うよ」
シリウスがレオの手を取り、指先に軽くキスを落とす。
ギルド中の視線が集まる中で、レオは恥ずかしさのあまり爆発しそうだった。
「も、もう! 二人とも目立ちすぎだよ……っ!」
レオは真っ赤な顔をして、適当に掴んだ依頼書をミリーに突き出した。
それは、本来ならBランク以上が推奨される『黒狼の群れの間引き』の依頼だった。
「これにします! すぐに行きましょう!」
「ああ、あんたの望むままに」
「ふふ、勇ましいね。いいよ、僕たちがついている」
最強の盾と、最強の魔法。
そして、無自覚に二人を従えるお人好しな少年。
前代未聞のパーティが、ついに本格的な活動を開始した。
背後で見守るミリーは、遠い目をして呟いた。
「……レオ、あんた。無自覚なのが一番罪深いわよ」
右側からは、ガウルの岩のような太い腕が腹部をがっしりと抱き込み、背中には彼の熱い胸板が密着している。
左側からは、シリウスがレオの首筋に鼻先を埋めるようにして、細いながらも力強い腕を肩に回していた。
「……ん、レオ。もう起きるのか……?」
耳元で、ガウルの低く掠れた声が響く。
眠りから覚めたばかりの、無防備で熱を帯びた吐息が首筋を撫で、レオの体温が一気に跳ね上がった。
「う、うん。ガウル、ちょっと苦しいかな……」
「……ふふ、おはようレオ。朝から元気な戦士(ケモノ)に襲われていたのかい?」
反対側で、シリウスがくすくすと意地の悪い笑みを漏らす。
彼はレオの耳朶を、まるで羽毛でなぞるような繊細な指先で弄んだ。
「もう二人とも! 早くギルドに行かなきゃ!」
レオは顔を真っ赤にしながら、二人の腕をすり抜けるようにしてベッドを脱出した。
最強の二人に挟まれて眠るという、贅沢すぎる拷問からようやく解放されたものの、腰のあたりにはまだ二人の熱い感触が残り火のように居座っている。
準備を整えてギルドへと向かうと、扉を開けた瞬間に、昨日の比ではない沈黙が場を支配した。
「おい、見ろよ……。あのFランクのガキ、本当にガウルとシリウスを連れてやがるぞ」
「『孤高の狂戦士』と『氷の魔導師』だぞ? なんであんな小僧のパーティに……」
冒険者たちの突き刺さるような視線と囁き声。
レオは思わず肩を竦めて足早に進もうとしたが、左右を固める二人の男たちが、それを許さなかった。
ガウルがレオの肩を抱き寄せ、周囲を威圧するような鋭い眼光を放つ。
シリウスは優雅な所作で杖を弄びながら、レオを嘲笑おうとする者たちを冷酷な瞳で見下した。
「ミリーさん、おはようございます!」
受付のミリーは、引き攣った笑みを浮かべてレオを見つめた。
「お、おはようレオ……。あんた、本当にこの二人とパーティを組んだのね。ギルド始まって以来の、一番アンバランスなパーティだわ」
「そうでしょうか……。あ、今日は何かおすすめの依頼はありますか?」
レオが身を乗り出して依頼板を覗こうとすると、背後から無骨な声が割り込んだ。
「ようよう、お熱いねえ。おい小僧、そのお二人さんはお前には荷が重すぎるんじゃないか?」
現れたのは、Bランクパーティ『鋼の牙』のリーダー、ゾグだった。
彼はガッシリとした体格の戦士だが、ガウルに比べれば子供のようなものだ。
ゾグはレオの細い腕を乱暴に掴み、下卑た笑みを浮かべた。
「お前みたいなチビに、こんな上等な護衛はいらねえだろう。俺たちなら、もっとマシにこいつらを使いこなせるぜ」
「……離して。痛いよ」
レオが顔をしかめた瞬間、ギルド内の空気が一変した。
凍り付くような殺気が、中央の三人から爆発的に放たれたのだ。
「その手を離せ。……さもなくば、その腕を根元から叩き斬るぞ」
ガウルがゾグの手首を掴み、ギリギリと力任せに締め上げる。
ミシミシと嫌な音が響き、ゾグの顔色が瞬時に土色へと変わった。
「ひっ、あ、あああ……っ!」
「おやおや、野蛮だねえ。でも、僕も同感だよ。レオの綺麗な肌に、君のような汚らわしい男の指が触れるなんて……耐え難い屈辱だ」
シリウスが冷たく微笑み、杖の先をゾグの喉元に突きつける。
杖の先には、今にも放たれそうな高密度の魔力が青白く渦巻いていた。
「二人とも、やめて! 怪我をさせたら依頼が受けられなくなっちゃう!」
レオが慌てて二人の腕を掴み、必死に宥める。
すると、あんなに獰猛な殺気を放っていた二人が、嘘のように静まり返った。
「……レオがそう言うなら、今回は見逃してやる。失せろ」
ガウルが手を放すと、ゾグは尻餅をつき、そのまま這うようにして逃げ去っていった。
周囲の冒険者たちは、今の光景に戦慄していた。
あの気難しい実力者たちが、Fランクの少年のたった一言で、牙を抜かれた従順な獣のように大人しくなったのだ。
「レオ、怖がらせて悪かったな。あんたに触れる奴は、俺が許さない」
ガウルがレオの髪を愛おしそうに撫で、その大きな掌をレオの頬に添えた。
熱い。
昨夜のベッドの中で感じたのと同じ、独占欲に満ちた熱だ。
「僕からも謝るよ、レオ。あんな下俗な男に気を取られる必要はない。さあ、今日はどの依頼にしようか? 君が選ぶなら、僕は地獄の果てまで付き合うよ」
シリウスがレオの手を取り、指先に軽くキスを落とす。
ギルド中の視線が集まる中で、レオは恥ずかしさのあまり爆発しそうだった。
「も、もう! 二人とも目立ちすぎだよ……っ!」
レオは真っ赤な顔をして、適当に掴んだ依頼書をミリーに突き出した。
それは、本来ならBランク以上が推奨される『黒狼の群れの間引き』の依頼だった。
「これにします! すぐに行きましょう!」
「ああ、あんたの望むままに」
「ふふ、勇ましいね。いいよ、僕たちがついている」
最強の盾と、最強の魔法。
そして、無自覚に二人を従えるお人好しな少年。
前代未聞のパーティが、ついに本格的な活動を開始した。
背後で見守るミリーは、遠い目をして呟いた。
「……レオ、あんた。無自覚なのが一番罪深いわよ」
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