お人好しな新米冒険者は最強パーティに愛で尽くされる~行き倒れ戦士と毒舌魔導師、そして大型犬な後継者に囲まれて~

たら昆布

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15話

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聖域での激戦から数日。レオの身体は、覚醒した「加護」の影響でひどく敏感になっていた。
宿のベッドで横になっているだけでも、隣の部屋にいるガウルの力強い鼓動や、シリウスがページをめくる魔力の微かな揺らぎまでが、肌を刺すような熱として伝わってくる。

「……はぁ。なんだか、外の空気を吸いたいな」

二人がギルドの手続きで席を外した隙を見計らい、レオはこっそりと宿を抜け出した。
もちろん、一人で出歩けば二人が激怒するのは分かっている。
けれど、今のレオには、彼らから放たれる圧倒的な「独占欲」という名の熱から、少しだけ逃げ場が必要だった。

聖都の活気ある大通りを避け、裏路地の訓練場近くを歩いていると、威勢のいい声と、金属が激しくぶつかり合う音が聞こえてきた。

「くっ……そぉ! もう一回、もう一回だ!」

声のする方へ目を向けると、そこには一人の少年がいた。
少年、というにはあまりに大きく、逞しい。
黄金色の髪を短く刈り込み、太陽のように明るい瞳を爛々と輝かせている。
身長は、あのガウルと並んでも遜色ないほど高い。
だが、その身に纏っているのは、名門の騎士家を思わせる立派な紋章入りの鎧……のはずだが、今は泥だらけで、あちこちがへこんでいた。

彼は巨大な木刀を振り回し、自動で動く訓練用の人形に挑んでいたが、足元がおぼつかない。
勢い余って自分の足に引っかかり、派手に転倒した。

「わわっ、大丈夫!?」

レオは思わず駆け寄り、少年の前に膝をついた。

「……あいたた。……え?」

少年が顔を上げると、レオと至近距離で目が合った。
レオの琥珀色の瞳に、心配そうに揺れる光。
少年の瞳が、驚愕に大きく見開かれる。

「……天使?」

「え、ええっ!? ち、違うよ! 僕はただの冒険者のレオ。君、すごい音がしたけど、怪我はない?」

レオが少年の額に手を伸ばすと、少年は顔を一気に真っ赤にして、バネのように跳ね起きた。
あまりの勢いに、レオは尻餅をつきそうになる。

「だ、大丈夫っす! 自分、丈夫なことだけが取り柄っすから!」

少年はぶんぶんと首を振り、耳まで赤くしてレオを見つめた。
その仕草は、まるで初めての散歩に大喜びする大型犬のようだ。

「……自分、カイトっていうっす! 騎士の名家の総領なんすけど、新米すぎて、実技が全然ダメで……。みんなに置いていかれて、一人で特訓してたところっす!」

「カイトくんか。……一人で頑張ってるんだね。偉いなあ」

レオがふわりと微笑み、カイトの肩についていた土を払ってやった。
その小さな、けれど温かい手のひらの感触に、カイトの心臓は爆発しそうなほどの音を立てた。

(なんだ……この人。すごくいい匂いがする……。それに、この瞳。……運命だ。運命の出会いっす!)

カイトは一瞬で確信した。
今まで、厳格な家柄の中で「総領」として期待され、重圧に押し潰されそうになっていた彼にとって、レオの無垢な優しさは、暗闇に差し込んだ救いの光だった。

「あの! レオさん! 自分、レオさんと一緒にいたいっす! 何でもするっす、荷物持ちでも盾でも、雑用でも!」

「ええっ!? でも、君は騎士の跡取りなんでしょう? 僕みたいなのと一緒にいたら……」

「関係ないっす! 自分、レオさんに一目惚れ……じゃなくて、一生ついていくって決めたんす!」

カイトはレオの手を力一杯握りしめた。
その掌は熱く、若さゆえの真っ直ぐな情熱がレオの身体に流れ込んでくる。
お人好しなレオは、そんなキラキラとした瞳で頼み込まれて、断る術を知らなかった。

「……じゃあ、もしよかったら、僕たちのパーティに来る? ちょうど、新しい仲間を探していたところなんだ」

「本当っすか!? やった――っ!」

カイトはレオを抱き上げ、そのままぐるぐると回った。
高い視界に驚くレオ。
カイトのガッシリとした腕の中にすっぽりと収まり、その胸の鼓動がダイレクトに伝わってくる。

「わわっ、カイトくん、降ろして……っ」

「あ、すみませんっす! 嬉しくてつい……」

カイトが照れくさそうにレオを降ろした、その瞬間。
訓練場の空気が、一気にマイナス百度まで冷え込んだ。

「……ほう。少し目を離した隙に、妙な雑種犬に懐かれているようだな」

冷徹な、殺気を孕んだ声。
シリウスが、杖の先から青白い燐光を散らしながら、影の中から現れた。

「レオ、離れろ。……その汚らわしい手で、あんたに触れさせるな」

逆側からは、地響きのような足音とともにガウルが歩み寄ってくる。
彼の大剣はすでに半分抜かれており、その瞳にはレオを奪われようとしていることへの、狂気じみた怒りが宿っていた。

「ガ、ガウル! シリウスさん! 待って、この子はカイトくん。僕、この子をパーティに誘ったんだ!」

レオが慌てて二人の間に割って入るが、ガウルとシリウスの視線は、レオの背後にいるカイトを射殺さんばかりに捉えていた。

カイトも負けてはいない。
彼はレオを守るようにその背中に隠し、ガウルに劣らぬ巨躯で二人を睨みつけた。

「あんたたちがレオさんの仲間っすか? ……レオさんに怖がられるような態度は、自分、許さないっすよ!」

「……何だと、ガキが」

ガウルの額に青筋が浮かぶ。

「やれやれ。教育の行き届いていない若輩者は、言葉も理解できないらしい。……レオ、この子は不採用だ。今すぐ、僕が次元の彼方に消してあげよう」

シリウスが優雅に杖を構え、膨大な魔力が凝縮されていく。

「二人とも、やめてってば! カイトくんは僕の大切な、新しい仲間なんだから!」

レオが必死に叫ぶと、二人の男は苦々しげに、けれど渋々と殺気を収めた。
レオの「お願い」にだけは、彼らはどうしても逆らえない。

こうして、レオを巡る争奪戦に、大型犬のような懐き方をする年下攻め・カイトが加わった。
最強の盾、最強の魔法、そして未来の騎士。
三人の大男たちに囲まれ、レオの身体は常に誰かの視線と体温に晒されることになる。

「レオさん! 自分、絶対にレオさんを守ってみせるっす!」

カイトがレオの腕に抱きつき、頬をすり寄せる。
その天真爛漫な愛着に、ガウルの拳が震え、シリウスの瞳が氷のように冷え切っていく。

お人好しな少年レオの受難は、さらに激しく、そして甘く、加速していくのだった。
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