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16話
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「レオさん! おはようございますっす! 朝ごはん、自分が一番乗りで持ってきたっすよ!」
宿屋の部屋の扉が、壊れんばかりの勢いで蹴破られた。
まだ夢心地だったレオは、その爆音に跳ね起きる。
視界に飛び込んできたのは、朝日を背負ってキラキラと輝く金髪と、大型犬のような満面の笑みを浮かべたカイトだった。
「……ふぇ? カ、カイトくん……?」
「はいっす! レオさんの寝顔、めちゃくちゃ可愛かったっす! あ、これ、街で一番人気の焼きたてパンっす。さあ、あーんしてほしいっす!」
カイトがベッドの縁に腰掛け、レオとの距離をゼロにする。
十八歳という若さゆえの、熱を帯びた猛烈なエネルギー。
ガウルに匹敵する大きな体がレオに覆いかぶさるように近づき、石鹸と若々しい汗の混じった爽やかな香りがレオの鼻腔をくすぐった。
レオが困惑して口を開きかけたその時、背後の空気が凍りついた。
「……やかましいぞ、雑種。あんたの声でレオが怯えているだろう」
低い、地響きのような声とともに、ガウルがカイトの襟首をひっ掴んだ。
昨夜、レオのベッドのすぐ横で床に座ったまま眠っていたガウルは、不機嫌そのものの表情で立ち上がる。
百九十センチを超える巨躯が立ち上がると、それだけで部屋が狭く感じられた。
「うわっ! ガウルさん、離してほしいっす! 自分はレオさんに奉仕してるだけっす!」
「奉仕だと? レオの世話は俺の役目だ。貴様のような新米は、外で素振りでもしていろ」
「嫌っす! 自分、レオさんのパーティの一員になったんすから、これくらい当然っす!」
二人の大男が、レオのベッドの上で火花を散らす。
ガウルの岩のような筋肉と、カイトのしなやかで強靭な肉体。
二つの巨大な『熱』に板挟みにされ、レオは布団を握りしめて小さくなった。
「やれやれ。朝から野蛮な犬たちが吠え合っているね。……レオ、耳を塞いでいいよ。不快な音を聞くのは精神衛生に良くない」
涼やかな声とともに、シリウスが優雅な足取りで部屋に入ってきた。
彼は手にした銀の杖を軽く振ると、レオの周りにだけ柔らかな魔力の障壁を築き、外の喧騒を遮断した。
「シリウスさん! おはようございます」
「おはよう、僕の愛しいレオ。……さあ、あんな下品な食事は捨てて、僕が調合したハーブティーを飲みなさい。君の魔力を安定させる特製だよ」
シリウスはガウルとカイトを無視し、レオの背中に腕を回して自分の方へと引き寄せた。
シリウスの指先が、レオの項に触れる。
ひんやりとした、けれど不思議と熱を帯びた感触に、レオの首筋がゾクゾクと震えた。
「……んっ……シリウスさん、冷たい……っ」
「ふふ、ごめんね。僕の魔力が君を求めているせいかな。……ほら、一口飲みなさい。僕が直接、飲ませてあげようか?」
シリウスがレオの唇にカップを近づけ、その細い指先でレオの下唇をなぞった。
レオはあまりの距離の近さに、心臓が早鐘を打ち始める。
「待て、シリウス! レオに妙なものを飲ませるな!」
「そうっすよ! レオさんには自分のパンが一番っす!」
ガウルとカイトが同時にシリウスに詰め寄り、障壁がパリンと音を立てて割れた。
再び三人の視線がレオに集中する。
「レオ、俺が着替えさせてやる。腕を出せ」
ガウルがレオのシャツのボタンに手をかける。
大きな、ごつごつとした指がレオの肌を掠めるたび、火傷しそうな熱が伝わってくる。
「あ、自分も手伝うっす! レオさんの靴下、自分が履かせるっす!」
カイトがレオの足首を掴み、その逞しい掌でレオの細い足を包み込んだ。
大きな手で包まれる安心感と、若さゆえの強引な熱。
「……君たち、レオが困っているだろう? 身支度は僕が魔法で整えてあげるのが一番早い。……さあレオ、僕の胸においで。君を一番綺麗な状態にしてあげよう」
シリウスがレオの腰を背後から抱きしめ、自分の身体に密着させた。
背中に当たる、シリウスのしなやかな筋肉。
「わ、わわっ! 三人とも、やめて! 着替えくらい自分でできるよ!」
レオは顔を真っ赤にして叫んだが、三人の男たちの耳には届かないようだった。
ガウルの独占欲に満ちた瞳。
シリウスの獲物を観察するような冷徹で熱い眼差し。
カイトの純粋ゆえに真っ直ぐすぎる情熱。
三者三様の『愛』が、レオという一人の少年に一点集中していた。
視線が交差し、空気は甘く、重く、澱んでいく。
レオの琥珀色の瞳は、戸惑いで揺れていた。
けれど、左右、そして背後から押し寄せる三つの異なる体温に包まれていると、不思議と冷え切っていた心の奥が温まっていくのを感じていた。
村で疎まれていた頃の自分には、想像もできなかった、息苦しいほどの幸福。
「……みんな、仲良くしてくれないかな?」
レオが弱々しく呟くと、三人の男たちは一瞬だけ動きを止めた。
そして、互いに忌々しげな視線を送り合いながらも、レオの細い腕や腰を、より一層強く抱きしめ直した。
「……善処しよう。だが、俺が一番近くにいることだけは譲らん」
ガウルがレオの額に、自分の額を押し当てた。
「ふふ、僕もだよ。レオ、君を一番『深く』知っているのは僕だということを、忘れないでね」
シリウスがレオの耳朶を、甘く噛んだ。
「自分は、レオさんのことを世界で一番愛してるっす! 誰にも負けないっす!」
カイトがレオの首筋に、大型犬のように顔を埋めた。
朝の陽光の中で、レオの身体は三人の男たちの体温によってじりじりと焼かれていく。
これが、これから毎日続くことになる、甘く過酷な日常の幕開けだった。
「(……僕、本当に大丈夫なのかな)」
レオの小さな嘆きは、誰にも届くことなく、三人の男たちの熱い吐息にかき消されていった。
宿屋の部屋の扉が、壊れんばかりの勢いで蹴破られた。
まだ夢心地だったレオは、その爆音に跳ね起きる。
視界に飛び込んできたのは、朝日を背負ってキラキラと輝く金髪と、大型犬のような満面の笑みを浮かべたカイトだった。
「……ふぇ? カ、カイトくん……?」
「はいっす! レオさんの寝顔、めちゃくちゃ可愛かったっす! あ、これ、街で一番人気の焼きたてパンっす。さあ、あーんしてほしいっす!」
カイトがベッドの縁に腰掛け、レオとの距離をゼロにする。
十八歳という若さゆえの、熱を帯びた猛烈なエネルギー。
ガウルに匹敵する大きな体がレオに覆いかぶさるように近づき、石鹸と若々しい汗の混じった爽やかな香りがレオの鼻腔をくすぐった。
レオが困惑して口を開きかけたその時、背後の空気が凍りついた。
「……やかましいぞ、雑種。あんたの声でレオが怯えているだろう」
低い、地響きのような声とともに、ガウルがカイトの襟首をひっ掴んだ。
昨夜、レオのベッドのすぐ横で床に座ったまま眠っていたガウルは、不機嫌そのものの表情で立ち上がる。
百九十センチを超える巨躯が立ち上がると、それだけで部屋が狭く感じられた。
「うわっ! ガウルさん、離してほしいっす! 自分はレオさんに奉仕してるだけっす!」
「奉仕だと? レオの世話は俺の役目だ。貴様のような新米は、外で素振りでもしていろ」
「嫌っす! 自分、レオさんのパーティの一員になったんすから、これくらい当然っす!」
二人の大男が、レオのベッドの上で火花を散らす。
ガウルの岩のような筋肉と、カイトのしなやかで強靭な肉体。
二つの巨大な『熱』に板挟みにされ、レオは布団を握りしめて小さくなった。
「やれやれ。朝から野蛮な犬たちが吠え合っているね。……レオ、耳を塞いでいいよ。不快な音を聞くのは精神衛生に良くない」
涼やかな声とともに、シリウスが優雅な足取りで部屋に入ってきた。
彼は手にした銀の杖を軽く振ると、レオの周りにだけ柔らかな魔力の障壁を築き、外の喧騒を遮断した。
「シリウスさん! おはようございます」
「おはよう、僕の愛しいレオ。……さあ、あんな下品な食事は捨てて、僕が調合したハーブティーを飲みなさい。君の魔力を安定させる特製だよ」
シリウスはガウルとカイトを無視し、レオの背中に腕を回して自分の方へと引き寄せた。
シリウスの指先が、レオの項に触れる。
ひんやりとした、けれど不思議と熱を帯びた感触に、レオの首筋がゾクゾクと震えた。
「……んっ……シリウスさん、冷たい……っ」
「ふふ、ごめんね。僕の魔力が君を求めているせいかな。……ほら、一口飲みなさい。僕が直接、飲ませてあげようか?」
シリウスがレオの唇にカップを近づけ、その細い指先でレオの下唇をなぞった。
レオはあまりの距離の近さに、心臓が早鐘を打ち始める。
「待て、シリウス! レオに妙なものを飲ませるな!」
「そうっすよ! レオさんには自分のパンが一番っす!」
ガウルとカイトが同時にシリウスに詰め寄り、障壁がパリンと音を立てて割れた。
再び三人の視線がレオに集中する。
「レオ、俺が着替えさせてやる。腕を出せ」
ガウルがレオのシャツのボタンに手をかける。
大きな、ごつごつとした指がレオの肌を掠めるたび、火傷しそうな熱が伝わってくる。
「あ、自分も手伝うっす! レオさんの靴下、自分が履かせるっす!」
カイトがレオの足首を掴み、その逞しい掌でレオの細い足を包み込んだ。
大きな手で包まれる安心感と、若さゆえの強引な熱。
「……君たち、レオが困っているだろう? 身支度は僕が魔法で整えてあげるのが一番早い。……さあレオ、僕の胸においで。君を一番綺麗な状態にしてあげよう」
シリウスがレオの腰を背後から抱きしめ、自分の身体に密着させた。
背中に当たる、シリウスのしなやかな筋肉。
「わ、わわっ! 三人とも、やめて! 着替えくらい自分でできるよ!」
レオは顔を真っ赤にして叫んだが、三人の男たちの耳には届かないようだった。
ガウルの独占欲に満ちた瞳。
シリウスの獲物を観察するような冷徹で熱い眼差し。
カイトの純粋ゆえに真っ直ぐすぎる情熱。
三者三様の『愛』が、レオという一人の少年に一点集中していた。
視線が交差し、空気は甘く、重く、澱んでいく。
レオの琥珀色の瞳は、戸惑いで揺れていた。
けれど、左右、そして背後から押し寄せる三つの異なる体温に包まれていると、不思議と冷え切っていた心の奥が温まっていくのを感じていた。
村で疎まれていた頃の自分には、想像もできなかった、息苦しいほどの幸福。
「……みんな、仲良くしてくれないかな?」
レオが弱々しく呟くと、三人の男たちは一瞬だけ動きを止めた。
そして、互いに忌々しげな視線を送り合いながらも、レオの細い腕や腰を、より一層強く抱きしめ直した。
「……善処しよう。だが、俺が一番近くにいることだけは譲らん」
ガウルがレオの額に、自分の額を押し当てた。
「ふふ、僕もだよ。レオ、君を一番『深く』知っているのは僕だということを、忘れないでね」
シリウスがレオの耳朶を、甘く噛んだ。
「自分は、レオさんのことを世界で一番愛してるっす! 誰にも負けないっす!」
カイトがレオの首筋に、大型犬のように顔を埋めた。
朝の陽光の中で、レオの身体は三人の男たちの体温によってじりじりと焼かれていく。
これが、これから毎日続くことになる、甘く過酷な日常の幕開けだった。
「(……僕、本当に大丈夫なのかな)」
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