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20話
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「……ったく、ひどい痕だな。あのガキ、加減というものを知らんのか」
朝の柔らかな光が差し込む寝室で、ガウルの低い声がレオの耳元を震わせた。
ガウルはレオのシャツの襟を少しだけ引き下げ、白い鎖骨に残された小さな赤い痕を、忌々しげに親指でなぞった。
「あ、ガウル……。それは昨日の、その……お風呂で……っ」
レオは顔を真っ赤にして俯く。
昨夜の湯気の中での出来事を思い出すだけで、全身の毛穴から火が噴き出しそうだ。
三人の男たちの熱い指先と、逃げ場のない愛撫。
レオの体には、今も消えない熱が居座っているような気がしていた。
「ふん、その跡をつけたのは彼だけじゃないだろう? レオ、君のうなじには筋肉だるまの歯型がくっきりと残っているよ」
部屋の隅で魔導書の頁をめくっていたシリウスが、冷徹な視線をレオに向けた。
彼は立ち上がり、優雅な足取りでベッドへと近づくと、ガウルの手を払いのけてレオの頬を両手で包み込んだ。
「……ひどい顔だ。寝不足かな? それとも、三人の『愛』が重すぎたかな」
シリウスの青い瞳が、レオの瞳の奥をじっと覗き込む。
その視線は、レオを慈しんでいるようでいて、同時にその自由を奪う鎖のように重苦しい。
シリウスはレオの額に自分の額を押し当て、熱を測るように目を閉じた。
「魔力の波形が乱れている。昨日の『加護』の行使と、夜の……騒ぎのせいだね。今日は一日、僕の結界の中で安静にしていなさい」
「でも、今日はギルドに報告に行かなきゃ……」
「そんなものは俺たちが行けば済む話だ。あんたはここで、俺の気配を感じながら眠っていればいい」
ガウルがレオの腰に太い腕を回し、布団ごと抱き寄せた。
二人の男から向けられる、逃げ場のない保護という名の監視。
そこへ、朝のトレーニングを終えたカイトが、元気よく飛び込んできた。
「レオさん! 朝ごはんっす! ……って、また二人で独占してるっすか!? ずるいっす!」
カイトがガウルの腕を強引にこじ開けようとして、部屋の中は朝から騒がしい争奪戦が始まった。
レオはその光景に苦笑いしながらも、心のどこかで一抹の不安を感じていた。
昨日、飛竜を倒した時に感じた、あの奇妙な視線。
自分に向けられた、単なる殺意ではない、粘りつくような執着の感覚が、まだ肌に残っている気がしたのだ。
昼下がり。三人がギルドの会議に呼び出され、レオは宿屋の部屋で一人、留守番をすることになった。
「絶対に外へ出るな」「扉の封印に触れるな」と、シリウスとガウルから耳にタコができるほど言い聞かされたが、レオは窓の外に揺れる一羽の青い小鳥に目を奪われた。
その鳥は、不思議な光を纏いながら、レオに何かを訴えかけるように鳴いている。
「……どうしたの? 迷子?」
レオがおずおずと窓を開けた、その瞬間。
部屋の空気が、一気にどろりと濁った。
「――見つけたぞ。至純の『器』よ」
背後から聞こえたのは、ガラスが擦れるような不快な声。
レオが悲鳴を上げる間もなく、影の中から灰色のローブを纏った男たちが姿を現した。
彼らの胸元には、聖域の封印を象った不気味な銀の紋章が刻まれている。
「誰……っ!? ガウル! シリウスさん!」
「叫んでも無駄だ。この部屋の周囲は、すでに我々の沈黙結界で覆われている」
男の一人が手をかざすと、レオの身体が目に見えない糸で縛られたように硬直した。
足元から這い上がってくる、冷たい闇の魔力。
それは、レオの純粋な輝きを食らい尽くそうとする、邪悪な渇望だった。
「……ほう。近くで見れば見るほど、なんと美しい。この輝き、この純度。あのような野蛮な男たちに汚されるには、あまりにも惜しい宝だ」
男の指先が、レオの震える唇に触れようとした。
「やめて……っ、来ないで!」
レオが必死に抵抗し、胸の奥の光を解き放とうとする。
だが、男たちが放った特殊な鎖が、レオの魔力を根こそぎ封じ込めてしまった。
光が消え、レオの身体から力が抜けていく。
「我ら『銀の目』の主がお待ちだ。君はそこで、真の神へと至るための贄となるのだよ」
レオの視界が急速に暗転していく。
最後に脳裏をよぎったのは、自分を愛し、守ってくれると言った、三人の男たちの熱い瞳だった。
(みんな……助けて……っ)
レオの意識が途切れると同時に、男たちは彼を影の中へと引きずり込んだ。
数分後。
異変を察知して部屋に飛び込んできたガウルとシリウス、そしてカイトが見たのは、
無惨に開け放たれた窓と、レオが大切にしていた琥珀色のペンダントが床に落ちている光景だけだった。
「…………レオ?」
カイトの声が震える。
「……殺す。……一人残らず、跡形もなく」
ガウルの瞳から光が消え、深い闇のような殺気が爆発した。
シリウスの手にする杖が、凄まじい魔力の共鳴で砕け散る。
「……僕の大切な宝物に、汚らわしい手で触れた代償を、その魂に刻んであげるよ」
シリウスの微笑みは、もはや人間のそれではなく、冷酷な神罰のようだった。
最強の盾と、最強の魔法、そして未来の騎士。
守るべき愛し子を奪われた三人の獣たちが、ついにその牙を剥いた。
聖都の夜は、レオを奪還するための、血塗られた処刑の時間へと変わっていく。
朝の柔らかな光が差し込む寝室で、ガウルの低い声がレオの耳元を震わせた。
ガウルはレオのシャツの襟を少しだけ引き下げ、白い鎖骨に残された小さな赤い痕を、忌々しげに親指でなぞった。
「あ、ガウル……。それは昨日の、その……お風呂で……っ」
レオは顔を真っ赤にして俯く。
昨夜の湯気の中での出来事を思い出すだけで、全身の毛穴から火が噴き出しそうだ。
三人の男たちの熱い指先と、逃げ場のない愛撫。
レオの体には、今も消えない熱が居座っているような気がしていた。
「ふん、その跡をつけたのは彼だけじゃないだろう? レオ、君のうなじには筋肉だるまの歯型がくっきりと残っているよ」
部屋の隅で魔導書の頁をめくっていたシリウスが、冷徹な視線をレオに向けた。
彼は立ち上がり、優雅な足取りでベッドへと近づくと、ガウルの手を払いのけてレオの頬を両手で包み込んだ。
「……ひどい顔だ。寝不足かな? それとも、三人の『愛』が重すぎたかな」
シリウスの青い瞳が、レオの瞳の奥をじっと覗き込む。
その視線は、レオを慈しんでいるようでいて、同時にその自由を奪う鎖のように重苦しい。
シリウスはレオの額に自分の額を押し当て、熱を測るように目を閉じた。
「魔力の波形が乱れている。昨日の『加護』の行使と、夜の……騒ぎのせいだね。今日は一日、僕の結界の中で安静にしていなさい」
「でも、今日はギルドに報告に行かなきゃ……」
「そんなものは俺たちが行けば済む話だ。あんたはここで、俺の気配を感じながら眠っていればいい」
ガウルがレオの腰に太い腕を回し、布団ごと抱き寄せた。
二人の男から向けられる、逃げ場のない保護という名の監視。
そこへ、朝のトレーニングを終えたカイトが、元気よく飛び込んできた。
「レオさん! 朝ごはんっす! ……って、また二人で独占してるっすか!? ずるいっす!」
カイトがガウルの腕を強引にこじ開けようとして、部屋の中は朝から騒がしい争奪戦が始まった。
レオはその光景に苦笑いしながらも、心のどこかで一抹の不安を感じていた。
昨日、飛竜を倒した時に感じた、あの奇妙な視線。
自分に向けられた、単なる殺意ではない、粘りつくような執着の感覚が、まだ肌に残っている気がしたのだ。
昼下がり。三人がギルドの会議に呼び出され、レオは宿屋の部屋で一人、留守番をすることになった。
「絶対に外へ出るな」「扉の封印に触れるな」と、シリウスとガウルから耳にタコができるほど言い聞かされたが、レオは窓の外に揺れる一羽の青い小鳥に目を奪われた。
その鳥は、不思議な光を纏いながら、レオに何かを訴えかけるように鳴いている。
「……どうしたの? 迷子?」
レオがおずおずと窓を開けた、その瞬間。
部屋の空気が、一気にどろりと濁った。
「――見つけたぞ。至純の『器』よ」
背後から聞こえたのは、ガラスが擦れるような不快な声。
レオが悲鳴を上げる間もなく、影の中から灰色のローブを纏った男たちが姿を現した。
彼らの胸元には、聖域の封印を象った不気味な銀の紋章が刻まれている。
「誰……っ!? ガウル! シリウスさん!」
「叫んでも無駄だ。この部屋の周囲は、すでに我々の沈黙結界で覆われている」
男の一人が手をかざすと、レオの身体が目に見えない糸で縛られたように硬直した。
足元から這い上がってくる、冷たい闇の魔力。
それは、レオの純粋な輝きを食らい尽くそうとする、邪悪な渇望だった。
「……ほう。近くで見れば見るほど、なんと美しい。この輝き、この純度。あのような野蛮な男たちに汚されるには、あまりにも惜しい宝だ」
男の指先が、レオの震える唇に触れようとした。
「やめて……っ、来ないで!」
レオが必死に抵抗し、胸の奥の光を解き放とうとする。
だが、男たちが放った特殊な鎖が、レオの魔力を根こそぎ封じ込めてしまった。
光が消え、レオの身体から力が抜けていく。
「我ら『銀の目』の主がお待ちだ。君はそこで、真の神へと至るための贄となるのだよ」
レオの視界が急速に暗転していく。
最後に脳裏をよぎったのは、自分を愛し、守ってくれると言った、三人の男たちの熱い瞳だった。
(みんな……助けて……っ)
レオの意識が途切れると同時に、男たちは彼を影の中へと引きずり込んだ。
数分後。
異変を察知して部屋に飛び込んできたガウルとシリウス、そしてカイトが見たのは、
無惨に開け放たれた窓と、レオが大切にしていた琥珀色のペンダントが床に落ちている光景だけだった。
「…………レオ?」
カイトの声が震える。
「……殺す。……一人残らず、跡形もなく」
ガウルの瞳から光が消え、深い闇のような殺気が爆発した。
シリウスの手にする杖が、凄まじい魔力の共鳴で砕け散る。
「……僕の大切な宝物に、汚らわしい手で触れた代償を、その魂に刻んであげるよ」
シリウスの微笑みは、もはや人間のそれではなく、冷酷な神罰のようだった。
最強の盾と、最強の魔法、そして未来の騎士。
守るべき愛し子を奪われた三人の獣たちが、ついにその牙を剥いた。
聖都の夜は、レオを奪還するための、血塗られた処刑の時間へと変わっていく。
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