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21話
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聖都の地下深く、冷たい湿気が肌にまとわりつく石造りの牢獄。
レオは、魔力を封じる重い鎖で両手首を繋がれ、床にへたり込んでいた。
「……っ、はぁ、はぁ……」
呼吸をするたびに、胸の奥が焼けるように痛む。
組織『銀の目』が施した特殊な封印は、レオの体内にある至純の魔力を無理やり抑え込み、その反動で激しい悪寒と熱を交互に引き起こしていた。
「無駄な抵抗はやめることだ。その鎖は、君のような希少な『器』を屈服させるために作られた特級品だからね」
暗闇の中から、組織の幹部と思われるバルカスという男が歩み寄ってきた。
彼はレオの顎を冷酷な指先で持ち上げ、潤んだ琥珀色の瞳を愉悦に浸りながら見つめる。
「……っ、みんなが……黙ってないよ。僕を……返して……!」
レオが声を絞り出すと、バルカスは喉の奥で低く笑った。
「ああ、あの野蛮な男たちのことか。心配しなくていい。今頃は聖都のいたるところに仕掛けた罠に足止めを食らっているはずだ。君を助けに来る者など、この世のどこにも――」
その言葉が終わる前に、地下深くを揺らすような凄まじい轟音が響き渡った。
一瞬、地震かと思うほどの振動が走り、天井からパラパラと塵が舞い落ちる。
「……なんだ? 何が起きた」
バルカスが怪訝そうに振り返ったその時、二度目の衝撃が走った。
今度は、牢獄の重厚な石壁が、内側から爆発したかのように粉々に砕け散った。
「――その汚らわしい指を、レオから離せと言ったはずだ」
煙塵を切り裂いて現れたのは、黄金色のオーラを全身から放つガウルだった。
その瞳はもはや人間のものではなく、愛する者を奪われた猛獣のそれだ。
肩に担いだ大剣からは、見たこともないほどの凶悪な闘気が溢れ出している。
「が、ガウル……!?」
「レオ! 今、助ける……っ!」
背後から、風を斬るような速さでカイトが飛び出してきた。
いつもは大型犬のように無邪気な彼の顔には、今は一欠片の笑みもない。
手にした剣は真っ赤に熱を持ち、近づく者すべてを焼き尽くさんばかりの殺気を放っている。
「おやおや、想定よりも随分と早い到着だね。……僕の宝物に、勝手に触れた罪は万死に値するよ」
最後に、静寂を纏った死神のようにシリウスが姿を現した。
彼の銀髪は逆立ち、手にした杖からは、視界が歪むほどの超高密度の魔力が溢れ出している。
シリウスの青い瞳は、極低温の氷のように澄み渡り、逆にそれが底知れない狂気を感じさせた。
「なっ……馬鹿な! あの結界をどうやって突破した!」
バルカスが狼狽えながら、レオを盾にするように引き寄せた。
「結界? ……そんな紙細工、ガウルの力と僕の魔術を合わせれば、一瞬で塵だよ。……さて、どの部位から削ぎ落としてほしいかな?」
シリウスが杖を軽く振ると、バルカスの周囲の空間がミシミシと音を立てて歪み始めた。
「ひっ……! 来るな! 来たらこのガキの首を――」
「――黙れ」
ガウルの低音が響いた瞬間、彼の姿が消えた。
次の瞬間には、バルカスの腕が不自然な方向に曲がり、レオの身体はガウルの強靭な腕の中に回収されていた。
「……レオ。済まない、怖かっただろう」
ガウルがレオの頬を大きな掌で包み込む。
その手は怒りで微かに震えていたが、レオに触れる時だけは、信じられないほど優しく、そして焼けるように熱かった。
「う、うん……ガウル……。みんな、来てくれたんだね……っ」
レオが涙をこぼしながらガウルの胸に顔を埋めると、カイトとシリウスもすぐさま駆け寄った。
「レオさん! 怪我はないっすか!? ひどい、こんな鎖……自分が今すぐぶった斬るっす!」
カイトがレオの手首の鎖を掴み、力任せに引きちぎった。
金属が悲鳴を上げて砕け散り、レオは自由になった腕で三人の男たちを順番に確かめるように触れた。
「……ああ、レオ。君の魔力が、恐怖でひどく乱れているね」
シリウスがレオの背中から抱きしめ、自分の冷涼な魔力を流し込んでレオの昂ぶりを鎮める。
背中に当たるシリウスの鼓動は、戦いの直後だというのに驚くほど静かで、けれど確かな独占欲を持ってレオを包み込んでいた。
「(……みんな、すごく怒ってる。僕のために……こんなに……)」
レオは、三人の男たちから放たれる圧倒的な『愛』と、敵に対する容赦のない『殺意』の渦の中にいた。
彼らが自分に向ける視線は、もはや「仲間」という枠を完全に踏み越え、一人の男としての、逃げ場のない執着へと変わっている。
「……レオ、あんたは下がっていろ」
ガウルがレオを壁際に座らせ、カイトとシリウスに視線を送った。
「こいつらには、自分がどれほど愚かなことをしたか、魂に刻んでやる必要がある」
「……賛成だね。僕のコレクションを傷つけた代償は、死よりも重い」
「自分も、レオさんを泣かせた奴は絶対に許さないっす!」
三人の最強の男たちが、バルカスと『銀の目』の残党たちに向き直る。
そこから始まったのは、討伐でもなければ戦いでもなかった。
それは、最愛の者を傷つけられた獣たちによる、一方的な『処刑』だった。
レオは、自分を守るように背中を向けて戦う三人の姿を見つめながら、
恐怖とは別の、熱く、甘苦しい感情に胸を締め付けられていた。
レオは、魔力を封じる重い鎖で両手首を繋がれ、床にへたり込んでいた。
「……っ、はぁ、はぁ……」
呼吸をするたびに、胸の奥が焼けるように痛む。
組織『銀の目』が施した特殊な封印は、レオの体内にある至純の魔力を無理やり抑え込み、その反動で激しい悪寒と熱を交互に引き起こしていた。
「無駄な抵抗はやめることだ。その鎖は、君のような希少な『器』を屈服させるために作られた特級品だからね」
暗闇の中から、組織の幹部と思われるバルカスという男が歩み寄ってきた。
彼はレオの顎を冷酷な指先で持ち上げ、潤んだ琥珀色の瞳を愉悦に浸りながら見つめる。
「……っ、みんなが……黙ってないよ。僕を……返して……!」
レオが声を絞り出すと、バルカスは喉の奥で低く笑った。
「ああ、あの野蛮な男たちのことか。心配しなくていい。今頃は聖都のいたるところに仕掛けた罠に足止めを食らっているはずだ。君を助けに来る者など、この世のどこにも――」
その言葉が終わる前に、地下深くを揺らすような凄まじい轟音が響き渡った。
一瞬、地震かと思うほどの振動が走り、天井からパラパラと塵が舞い落ちる。
「……なんだ? 何が起きた」
バルカスが怪訝そうに振り返ったその時、二度目の衝撃が走った。
今度は、牢獄の重厚な石壁が、内側から爆発したかのように粉々に砕け散った。
「――その汚らわしい指を、レオから離せと言ったはずだ」
煙塵を切り裂いて現れたのは、黄金色のオーラを全身から放つガウルだった。
その瞳はもはや人間のものではなく、愛する者を奪われた猛獣のそれだ。
肩に担いだ大剣からは、見たこともないほどの凶悪な闘気が溢れ出している。
「が、ガウル……!?」
「レオ! 今、助ける……っ!」
背後から、風を斬るような速さでカイトが飛び出してきた。
いつもは大型犬のように無邪気な彼の顔には、今は一欠片の笑みもない。
手にした剣は真っ赤に熱を持ち、近づく者すべてを焼き尽くさんばかりの殺気を放っている。
「おやおや、想定よりも随分と早い到着だね。……僕の宝物に、勝手に触れた罪は万死に値するよ」
最後に、静寂を纏った死神のようにシリウスが姿を現した。
彼の銀髪は逆立ち、手にした杖からは、視界が歪むほどの超高密度の魔力が溢れ出している。
シリウスの青い瞳は、極低温の氷のように澄み渡り、逆にそれが底知れない狂気を感じさせた。
「なっ……馬鹿な! あの結界をどうやって突破した!」
バルカスが狼狽えながら、レオを盾にするように引き寄せた。
「結界? ……そんな紙細工、ガウルの力と僕の魔術を合わせれば、一瞬で塵だよ。……さて、どの部位から削ぎ落としてほしいかな?」
シリウスが杖を軽く振ると、バルカスの周囲の空間がミシミシと音を立てて歪み始めた。
「ひっ……! 来るな! 来たらこのガキの首を――」
「――黙れ」
ガウルの低音が響いた瞬間、彼の姿が消えた。
次の瞬間には、バルカスの腕が不自然な方向に曲がり、レオの身体はガウルの強靭な腕の中に回収されていた。
「……レオ。済まない、怖かっただろう」
ガウルがレオの頬を大きな掌で包み込む。
その手は怒りで微かに震えていたが、レオに触れる時だけは、信じられないほど優しく、そして焼けるように熱かった。
「う、うん……ガウル……。みんな、来てくれたんだね……っ」
レオが涙をこぼしながらガウルの胸に顔を埋めると、カイトとシリウスもすぐさま駆け寄った。
「レオさん! 怪我はないっすか!? ひどい、こんな鎖……自分が今すぐぶった斬るっす!」
カイトがレオの手首の鎖を掴み、力任せに引きちぎった。
金属が悲鳴を上げて砕け散り、レオは自由になった腕で三人の男たちを順番に確かめるように触れた。
「……ああ、レオ。君の魔力が、恐怖でひどく乱れているね」
シリウスがレオの背中から抱きしめ、自分の冷涼な魔力を流し込んでレオの昂ぶりを鎮める。
背中に当たるシリウスの鼓動は、戦いの直後だというのに驚くほど静かで、けれど確かな独占欲を持ってレオを包み込んでいた。
「(……みんな、すごく怒ってる。僕のために……こんなに……)」
レオは、三人の男たちから放たれる圧倒的な『愛』と、敵に対する容赦のない『殺意』の渦の中にいた。
彼らが自分に向ける視線は、もはや「仲間」という枠を完全に踏み越え、一人の男としての、逃げ場のない執着へと変わっている。
「……レオ、あんたは下がっていろ」
ガウルがレオを壁際に座らせ、カイトとシリウスに視線を送った。
「こいつらには、自分がどれほど愚かなことをしたか、魂に刻んでやる必要がある」
「……賛成だね。僕のコレクションを傷つけた代償は、死よりも重い」
「自分も、レオさんを泣かせた奴は絶対に許さないっす!」
三人の最強の男たちが、バルカスと『銀の目』の残党たちに向き直る。
そこから始まったのは、討伐でもなければ戦いでもなかった。
それは、最愛の者を傷つけられた獣たちによる、一方的な『処刑』だった。
レオは、自分を守るように背中を向けて戦う三人の姿を見つめながら、
恐怖とは別の、熱く、甘苦しい感情に胸を締め付けられていた。
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