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26話
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「……レオ。そろそろ、はっきりさせようではないか」
昼下がりの柔らかな日差しが差し込むサロン。
ティーカップを置く小さな音が、静まり返った部屋にやけに大きく響いた。
切り出したのは、いつになく真剣な表情のシリウスだった。
レオは、左右と正面を三人の男たちに囲まれる形でソファに座っていた。
逃げ場のない配置。
背後には、壁のようにそびえ立つガウルの存在感。
隣には、レオの手を離そうとしないシリウス。
そして足元には、レオの膝に縋りつくようにして座るカイト。
「はっきり、って……何を?」
レオが震える声で問い返すと、ガウルが重厚な低音で言葉を重ねた。
「あんたの気持ちだ。……俺たちは、あんたを愛している。それはもう、嫌というほど伝わっているはずだ」
ガウルの大きな掌が、レオの肩を包み込む。
その熱は、単なる守護の熱ではなく、一人の「男」を求める烈しい渇望の色を帯びていた。
「自分もっす! 自分、レオさんのためなら何だって捨てるって決めたんす。……でも、他の二人にレオさんの唇を奪われるのを見るのは、もう限界っす……っ」
カイトがレオの細い腰に顔を埋め、縋るような瞳でレオを見上げた。
若さゆえの真っ直ぐな、けれど刃のように鋭い独占欲。
「……レオ、君が僕たち全員を大切に思ってくれているのは分かっている。けれど、あえて聞かせてもらおう。……君が一番、心を通わせたいのは誰だい?」
シリウスの冷涼な指先が、レオの顎をそっと持ち上げた。
青い瞳が、レオの琥珀色の瞳の奥に潜む「真実」を暴こうとする。
逃げ場のない、究極の選択。
レオの心臓は、今にも口から飛び出しそうなほど激しく脈打っていた。
(誰か一人なんて、選べるわけないよ……っ)
脳裏に、これまでの旅の記憶が走馬灯のように駆け巡る。
行き倒れていたところを助け、ぶっきらぼうながらも命懸けで自分を守り続けてくれた、不器用なガウル。
その岩のような背中に、どれほど救われてきただろうか。
出会った瞬間に運命を確信し、冷徹な仮面を脱ぎ捨ててまで自分を導き、愛でてくれた、気高いシリウス。
彼の奏でる魔力と指先の熱に、どれほど心を開かされてきただろうか。
重圧に押し潰されそうだった自分を、「君がいいんだ」と認めさせてくれた、太陽のようなカイト。
彼の無邪気で烈しい思慕に、どれほど勇気をもらってきただろうか。
「僕は……僕は……」
レオの瞳が潤み、視界が滲んでいく。
三人の男たちは、一言も発さずレオの答えを待っていた。
静寂の中で、レオの荒い呼吸だけが響く。
視線の交差が、火花を散らすような緊張感を生み出していた。
「……選べないよ」
ぽつりと、レオの唇から溢れたのは、情けないほど弱々しい本音だった。
「選べるわけないよ! ガウルの強さも、シリウスさんの優しさも、カイトくんの明るさも……。全部、今の僕にはなくてはならないものなんだ! 誰か一人が欠けるなんて、考えられないよ……っ」
レオは顔を覆い、子供のように泣きじゃくった。
お人好しで、欲張り。
自分の中に芽生えた、三人の男たちすべてを愛してしまっているという背徳的なまでの多幸感。
「……ふぅ。全く、困った主(あるじ)だ」
ため息混じりに最初に動いたのは、ガウルだった。
彼はレオを後ろから包み込むように抱きしめ、そのうなじに顔を埋めた。
「……あんたが泣くなら、これ以上は問い詰めん。……だが、覚悟しろ。選ばないということは、俺たち三人全員の欲を、その身一つで受け止めるということだぞ」
「……くす。僕も同感だね。君が欲張りなら、僕たちもそれ以上の強欲さで君を愛し抜くだけだ」
シリウスがレオの涙を指先で拭い、そのまま濡れた睫毛に甘くキスをした。
その瞳は、もはや「選択」を迫る者のものではなく、獲物を分け合うことを決めた捕食者のそれだった。
「レオさん! 自分、三人一緒でも構わないっす! その代わり、自分にかまってくれる時間は一分も減らさないでほしいっす!」
カイトがレオの腕に飛びつき、その首筋に熱い吐息を吹きかけた。
レオは、左右と背後から押し寄せる、以前にも増して濃厚になった三つの「熱」に翻弄された。
一人を選ばなくていい。
けれどそれは、三人の男たちから放たれる逃げ場のない寵愛を、永遠に浴び続けるという過酷な、けれど最高に幸せな契約の始まりだった。
「(ああ……僕、本当にお人好しで、……幸せ者だ……っ)」
レオの小さな呟きは、三人の男たちの勝利宣言とも取れる、熱い抱擁の中へと溶けて消えた。
究極の選択の答えは、意外な形で幕を閉じた。
それは、一人の少年と三人の男たちが織りなす、前代未聞の「愛の形」。
聖都の午後は、甘い熱気に包まれたまま、ゆっくりと更けていく。
昼下がりの柔らかな日差しが差し込むサロン。
ティーカップを置く小さな音が、静まり返った部屋にやけに大きく響いた。
切り出したのは、いつになく真剣な表情のシリウスだった。
レオは、左右と正面を三人の男たちに囲まれる形でソファに座っていた。
逃げ場のない配置。
背後には、壁のようにそびえ立つガウルの存在感。
隣には、レオの手を離そうとしないシリウス。
そして足元には、レオの膝に縋りつくようにして座るカイト。
「はっきり、って……何を?」
レオが震える声で問い返すと、ガウルが重厚な低音で言葉を重ねた。
「あんたの気持ちだ。……俺たちは、あんたを愛している。それはもう、嫌というほど伝わっているはずだ」
ガウルの大きな掌が、レオの肩を包み込む。
その熱は、単なる守護の熱ではなく、一人の「男」を求める烈しい渇望の色を帯びていた。
「自分もっす! 自分、レオさんのためなら何だって捨てるって決めたんす。……でも、他の二人にレオさんの唇を奪われるのを見るのは、もう限界っす……っ」
カイトがレオの細い腰に顔を埋め、縋るような瞳でレオを見上げた。
若さゆえの真っ直ぐな、けれど刃のように鋭い独占欲。
「……レオ、君が僕たち全員を大切に思ってくれているのは分かっている。けれど、あえて聞かせてもらおう。……君が一番、心を通わせたいのは誰だい?」
シリウスの冷涼な指先が、レオの顎をそっと持ち上げた。
青い瞳が、レオの琥珀色の瞳の奥に潜む「真実」を暴こうとする。
逃げ場のない、究極の選択。
レオの心臓は、今にも口から飛び出しそうなほど激しく脈打っていた。
(誰か一人なんて、選べるわけないよ……っ)
脳裏に、これまでの旅の記憶が走馬灯のように駆け巡る。
行き倒れていたところを助け、ぶっきらぼうながらも命懸けで自分を守り続けてくれた、不器用なガウル。
その岩のような背中に、どれほど救われてきただろうか。
出会った瞬間に運命を確信し、冷徹な仮面を脱ぎ捨ててまで自分を導き、愛でてくれた、気高いシリウス。
彼の奏でる魔力と指先の熱に、どれほど心を開かされてきただろうか。
重圧に押し潰されそうだった自分を、「君がいいんだ」と認めさせてくれた、太陽のようなカイト。
彼の無邪気で烈しい思慕に、どれほど勇気をもらってきただろうか。
「僕は……僕は……」
レオの瞳が潤み、視界が滲んでいく。
三人の男たちは、一言も発さずレオの答えを待っていた。
静寂の中で、レオの荒い呼吸だけが響く。
視線の交差が、火花を散らすような緊張感を生み出していた。
「……選べないよ」
ぽつりと、レオの唇から溢れたのは、情けないほど弱々しい本音だった。
「選べるわけないよ! ガウルの強さも、シリウスさんの優しさも、カイトくんの明るさも……。全部、今の僕にはなくてはならないものなんだ! 誰か一人が欠けるなんて、考えられないよ……っ」
レオは顔を覆い、子供のように泣きじゃくった。
お人好しで、欲張り。
自分の中に芽生えた、三人の男たちすべてを愛してしまっているという背徳的なまでの多幸感。
「……ふぅ。全く、困った主(あるじ)だ」
ため息混じりに最初に動いたのは、ガウルだった。
彼はレオを後ろから包み込むように抱きしめ、そのうなじに顔を埋めた。
「……あんたが泣くなら、これ以上は問い詰めん。……だが、覚悟しろ。選ばないということは、俺たち三人全員の欲を、その身一つで受け止めるということだぞ」
「……くす。僕も同感だね。君が欲張りなら、僕たちもそれ以上の強欲さで君を愛し抜くだけだ」
シリウスがレオの涙を指先で拭い、そのまま濡れた睫毛に甘くキスをした。
その瞳は、もはや「選択」を迫る者のものではなく、獲物を分け合うことを決めた捕食者のそれだった。
「レオさん! 自分、三人一緒でも構わないっす! その代わり、自分にかまってくれる時間は一分も減らさないでほしいっす!」
カイトがレオの腕に飛びつき、その首筋に熱い吐息を吹きかけた。
レオは、左右と背後から押し寄せる、以前にも増して濃厚になった三つの「熱」に翻弄された。
一人を選ばなくていい。
けれどそれは、三人の男たちから放たれる逃げ場のない寵愛を、永遠に浴び続けるという過酷な、けれど最高に幸せな契約の始まりだった。
「(ああ……僕、本当にお人好しで、……幸せ者だ……っ)」
レオの小さな呟きは、三人の男たちの勝利宣言とも取れる、熱い抱擁の中へと溶けて消えた。
究極の選択の答えは、意外な形で幕を閉じた。
それは、一人の少年と三人の男たちが織りなす、前代未聞の「愛の形」。
聖都の午後は、甘い熱気に包まれたまま、ゆっくりと更けていく。
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