甘灯の思いつき短編集

甘灯

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09 帝国の英雄『ブラン』は、敵国の姫『ノワール』の護送の任に就く。その道中、彼女から不穏な言葉を投げかけられる。

白銀の騎士と漆黒の姫

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「この国はいずれ滅びます」

幽閉塔へ続く城壁の上。
漆黒の髪を風に遊ばせながら、ノワール=スウルスは静かに呟いた。
 
白銀の騎士ブラン=ケオトルトは、その言葉をにわかには信じられず、思わず眼下に視線を落とす。

そこに広がるのは、グリーディオラ帝国。  

帝都は華やぎ、活気に満ちていた。
至るところに張り巡らされた水路を、客や荷を積んだゴンドラが忙しなく行き交う。

この大陸では『金』よりも『水』が尊ばれる。
水こそが『富の象徴』であり、繁栄の証だった。
そして、これほどまでの水路を擁する国は、グリーディオラ帝国ただ一つである。

「どんなに栄華を極めようと、所詮しょせんは人が作ったもの。…滅びる定めからは逃れられません」

動揺を隠せぬブランを見据え、ノワールは淡々と言葉を継ぐ。

「それが略奪による栄華なら、なおさら。いずれまた、人の手によって滅ぼされるでしょう」

「…口を慎んだほうがいい」

 ブランが低く遮った。

「貴女は、自らの立場をわかっておいでか?」

「ええ、もちろんです」

揺るぎのない澄んだ青い瞳が、まっすぐに彼を射抜く。
その毅然とした佇まいに、ブランは不覚にも息を詰めた。

白銀の騎士。
その名は周辺諸国に轟いている。
返り血一つ浴びることなく敵を斬り伏せる機敏さと卓越した剣術。
スウルス国との戦いは、彼の名声を盤石にした。
傷一つない白銀の鎧で凱旋したその姿に、帝国民は敬畏けいいの眼差しを向けた。
 
その英雄が今、亡国の姫に気圧されている。
それほどまでに、ノワールの気高さは揺るがなかった。

「――私は敗国の王女。今の言葉が“あなたの主人”の耳に入れば、“恩知らずな女”として処断されるのでしょう?」

皮肉を帯びた声音に、ブランは頷く。

「…そうだ。だから言葉を選んだほうが身のためだ」

「私が死ぬこと…自分の命が惜しいと思っているとでも?」

その瞬間、ノワールの瞳に初めて激情が灯った。

「あの日――祖国が焼かれた、あの時に…私の心はとうに死にました」

その言葉を、ブランは直視できなかった。



  ────  ────  

 

赤々と燃える、スウルス王都。
 
金目の物は奪われ、逃げ惑う民は次々と斬り捨てられる。
絶え間なく響く悲鳴の中を、白銀の騎士は駆け抜ける。

ブランは、皇帝から“ある勅令”を受けていた。

目的の石造りの建物に辿り着き、馬を繋ぐ。
入口のすぐ先には、地下へ続く広い石階段があった。
足音を殺し、慎重に降りる。

最奥には、巨大な石扉。
警戒しながら、ゆっくりと押し開ける。

『ここが…水の神殿……』

ブランは思わず息を吞む。

闇に沈む地下空間。
だが一面の水面が淡く輝いている。
水中には発光する小さな浮遊生物。
それが幻想的な光を放っているのだ。
 
ブランは前方へ視線を向ける。
中央へと続く細い石畳の道。
その先の台座に鎮座する“古びた杯”。

『あれが…聖杯…』

一歩踏み出した瞬間。
風を裂く音がし、踏み出そうとした石床に矢が突き刺さった。
ブランは即座に飛び退き、扉の陰に身を隠す。
呼吸を整え、広間内の様子を窺う。
上部のせり出した壁に、弓兵の姿。

(さて…どうするか)

これでは正面突破は難しい。

『……兄様?』

その時、背後から若い女の声がした。

『!』

反射的に真横に振った剣先が、女の喉元をかすめた。
漆黒の髪の一房が、はらりと落ちる。
澄んだ青い瞳が大きく見開く。
ブランは背後に回り込み、その首に片腕を絡めた。

『くっ…』

背後から首を絞め上げられた女が、必死で白銀の籠手こてに爪を立てる。

『貴様は、誰だ』

締め上げる腕の力を少し抜き、より一層低い声で問う。
女はなにも答えない。

『……このままへし折られてもいいのか?』

本気の言葉に、女は息を呑む。

『ノワール様!!』

第三者の声が割り込んだ。
舌打ちし、声の方へと振り向く。

そこには、横穴から現れた老人の姿。

(壁ではなく、隠し通路だったのか。…いや、それよりも…)

“ノワール”
その名に、ブランは気づく。

『スウルス国の姫君か』

女は明らかに動揺した。



   ────  ────


 
その後、ノワールを盾に弓隊を制圧し、ブランは聖杯を手に入れた。
こうして、運さえ味方につけた白銀の騎士は、さらなる栄光を得た。


『よくやった、ブラン。この聖杯で帝国は再び潤う!』

皇帝の称賛は、彼の胸に届くことはなかった。

(あの戦いに正義はなかった。無抵抗な他国への侵略と略奪…そして殺戮だけだった…)



  ────  ────



無抵抗なスウルスの民を殺した。 
投降しようとした者の首をはねた。

『なぜだ…我々が何をしたというのだ…?』

『痛い…痛いよ』

『抵抗はしない!だから殺さないで!!』

嘆き、悲しみ、もがき。
スウルスの死者たちが、ブランの身体を沈めようと纏わりつく。


「っ!」

ブランは飛び起きた。

…あの戦いの後から、ブランは悪夢にうなされるようになった。

その足で、幽閉塔へ向かう。

「――何か、望むものは?」

ノワールは首を小さく振る。
そして椅子に腰掛けながら、小窓から外をじっと眺め始めた。
 
食事に手をつけた様子はない。

給仕の女を見ると、静かに首を振った。

「なぜ、ここへ来るのですか?」

ノワールの視線は窓の外に向けられたままだ。

「あなたに……死なれては困る」

「ああ、聖杯のために、私は生かされているのでしたね」

生気のない眼差しを向けながら、乾いた声音で言う。 

聖杯はスウルス王家のみが『力』を引き出せる。


大陸は、深刻な水不足にあった。
数年間、雨が地上を潤すことはなく、大陸中の至るところの水場が干上がった。
乾き切った大地では、作物が育たず、人々は飢饉ききんに苦しんだ。
 
唯一、聖杯を持つ古い民族が統治する小国――『スウルス国』を除いて。

スウルス国は聖杯を独占することはなく、困窮こんきゅうする他国へ無償で水を分け与えた。
 
だがグリーディオラ皇帝だけは、独占を望んだ。

『スウルスの王は、水の配当を打ち切ろうとしている!!』

嘘の情報が流れ、それを信じた各国は、激しく動揺した。

『スウルスの民が、聖杯を独り占めしようとしている!』
『なんとしても阻止しなくては!!』

波紋は瞬く間に広がり、国同士の聖杯を奪う戦いが始まった。
そして戦いの末――聖杯を勝ち取ったのはグリーディオラ帝国だった。

(……あの戦いに正義などなかった。独占力に駆られた、ただの暴力だ。スウルスの民の慈悲の心を踏みにじった。これは彼らへの冒涜ぼうとくだ)


今の彼女には、かつての威厳はない。
その姿を、ブランは直視できなかった。

『本当に、彼女の心は死んでしまったのかもしれない』

『そうさせたのは一体…誰だ?』

静かに責め立てる、姿なき亡霊の声。

(違うんだ…私は…!)

ブランは苦悶の表情を隠すように、片手で顔を覆う。

自分が人質に取られたことで、大切な聖杯を奪われた。
 
ノワールは、自分自身をとても恨んだことだろう。
兄だと期待し、隠し通路から出てきた彼女。
敵兵である自分の姿を見て、どんなに絶望したことだろうか。

「………」

ブランは意を決して、ノワールの前で片膝を折った。

「…何を、しているのですか」

その行動に、ノワールは疲れ切った顔のまま眉をひそめる。

「私は貴女に償わなければならない……」

ブランは片膝をついたまま、彼女を真っすぐ見つめる。

「何でも言うことを聞く。――貴女が望むなら…私のこの命を喜んで差し出す」

「何を…言っているの…?」

「私は本気だ。…この剣で私を殺してくれてもいい」

剣を差し出す。

「そんなことをして…何になるの?」

怒りに震えた声。

「貴方が死んだところで――父も、兄も、民たちも! 生き返るわけではないわ!」

立ち上がり、ノワールは涙を滲ませ叫ぶ。

「何でもするなら、皆を“生き返らせて”よ!」

――沈黙。

「……ほら、できないでしょ?」

力なく、椅子に座る。

「もう…いい。私の前から“消えて”」

ブランは、黙ってその願いに従った。



   ――― ―――



「ノワールを処刑する…」

グリーディオラ皇帝の言葉に、ブランは一瞬、息を呑んだ。

「ああ」

皇帝は当然のように頷く。

「しかし……彼女が死ねば、聖杯の力は――」

「それがな。あの女がおらずとも済む術を見つけたのだ」

皇帝は得意げに笑う。

「なあ、そうであろう?」

「左様でございます、陛下」

隣に控えていた男が、恭しく胸に手を当てて答えた。

「貴殿は…?」

ブランは静かに、その男を見据える。

「アッシュと申します。かつては、スウルス大神殿にて神官長を務めておりました」

(……ノワール以外にも、生き残りがいたのか…)

「こやつは禁書の中より、王族の血筋いなくとも聖杯の扱う術を見出したのだ。
 もはや、あの女を生かしておく必要はない!!」

皇帝は高らかに笑った。
 

皇帝は恐れていたのだ。
聖杯を操れるノワールが、いずれ民に“聖女”と祭り上げられ、自分の地位を脅かす存在になることを。
税を重く課し、周辺国を蹂躙して膨張してきた帝国。
 
皇帝は“報復”を何よりも恐れていた。
王族が不要と分かれば、ノワールはただの囚人だ。

高笑いする主を前に、ブランは拳を強く握り締めた。
爪が食い込み、血が滲むまで。



   ――― ―――



皇帝が退いた後。

「なぜ、陛下に仕えている? お前にとって陛下は…」

ブランはアッシュを問い詰める。
アッシュは静かに人差し指を自身の唇へ添えた。

「お静かに。それ以上は不敬罪にございますよ」

ブランは沈黙する。

「まぁ…“命の保証と引き換えに、情報を差し出したまで”」

口元は笑う。
ただ目は冷え切っていた。

「ノワール様は、お変わりなく?」

命と引き換えに、国を裏切っても、王女のことは今だに気になるらしい。
 
その問いに、ブランはゆるく首を振る。

「彼女に“消えよ”と告げられて以来、足を運んでいない。ゆえに今の様子は、分からぬ…」

事情を聞き終えたアッシュは、小さく頷いた。

「それで?…貴方はこのままノワール様の言葉に従うと?」

「それが、彼女の望みだ」

アッシュは顎に手を当て、しばし思案する。

「ならば、その誓い、破っていただくほかありませんな」

「……どういう意味だ?」

アッシュは、わずかに口端を上げた。 



   ――― ―――



「アッシュ。他に誰もおらぬのか?」

「ええ、陛下と私のみにございます」

誰もいない部屋を怪訝そうに見渡す皇帝。

「このことは、他言無用の話ゆえ」

「む、そうだな。して、一体どうすれば、余が――」

言いかけた瞬間、鋭い衝撃を胸に受けた。
 
背中から己の胸を貫く、剣先。
上等な服に濃い赤が広がる。

「アッ…シュ。これは…」

血に染まる己の手を見下ろす、皇帝。
男はその背後から剣をさらに深く押し込んだ。

堪えきれず、皇帝は血を吐く。
そして自身が作った血溜まりの上へ、両膝を突いた。

「そのような術など、御座いませんよ」

倒れ伏す皇帝を踏みつけ、剣を引き抜く。
剣身についた血をひと振りで払い、鞘に収めた。

「貴様…余を…騙し…」

「…先にあざむいたのは、貴様の方だろ?」

低く、冷たい声。

「……貴様は…誰…だ……」

息も絶え絶えになりながら、目一杯に叫ぶ。
鬱陶うっとしい前髪を乱暴にかき上げ、男は告げた。

「俺はスウルス第一王子、アシュベルトだ」

「…ばか…な」

「配下に“死んだ”と聞かされていたものな。だが貴様は自身の目で、俺の死体を確かめてみたのか?」

戦いの最中。
皇帝は自国の城から一度も出たことがない。
あの戦火を、あの悲惨さを、この男は何も知らない。

――沈黙。

それが、答えだった。

アシュベルトは颯爽とその場から立ち去った。



   ――― ―――



『…お待ちください!……ぐっ』

制止する兵の声が途切れ、重い音が漏れ聞こえる。
軋む鉄扉。

「…ノワール」

名を呼び、片膝を折るブラン。

「ブラン…お願いがあります」

ノワールは消え入りそうなかすれた声で言う。

「私を、殺してください」

ブランは目を見開いた。
椅子から崩れ落ちるように石床に座り込むと、ノワールはその胸元に縋った。

「もう疲れました…皆が責め立てるのです。お前のせいだ…お前のせいで…我々は死んだ……と」

「違う!」

ブランは強く否定する。
彼女の両肩を掴み、強い口調で諭した。

「貴女は悪くない。 絶対に違う!
 私のせいだ…貴女から聖杯を奪ったのは、この私なんだ…!」

ブランは、下唇を噛み締めながら深く俯いた。

「一体…誰が貴女を恨むだろうか」

ノワールは涙を滲ませた。
 
「そうだ。貴女は悪くない…なにも悪くないんだ」



しばらくして、石畳を叩く足音が、複数、慌ただしく近づいてきた。

「…ノワール、行こう」

ブランは低く告げ、彼女を片腕で抱き上げる。

聖杯を奪ったあの日も、気を失った彼女を抱えた。
だが今は、あの時よりも驚くほど軽い。

「どこ…へ?」

戸惑うノワールに、ブランは薄く微笑んだ。
彼女を抱いたまま、剣を振り抜き、鞘を払う。

カラン――。
 
鞘が石床に軽やかな音を立てて転がった。
同時に、扉が乱暴に開かれ、兵が雪崩れ込んでくる。

「ブラン=ケオトルト! 貴様を陛下殺しの反逆者として拘束する! 大人しく投降せよ!」

突き出した剣先が、一斉に二人へ向けられた。

ノワールは身をすくませ、ブランの首に縋りつく。
ブランは彼女を抱く腕に力を込め、静かに言い放った。

「断る!」

不敵な笑み。
この状況下でも崩れぬ余裕に、兵士がわずかに足を引く。

「ノワール姫をお守りする。それが、この白銀の騎士の使命!!そう、心得よ!」

ブランは腰を落とし、踏み出す脚に力を溜める。

「――押し通る。死にたくなかったら、そこを退け!」

気迫が空気を裂く。
たじろぐ兵に向かって、ブラン=ケオトルトは突進した。



   ――― ―――



「…はっ、…はっ」

建物の影に身を潜め、ブランは荒い息を吐いた。

「大丈夫…ですか?」

腕から降りたノワールが、顔を覗き込む。

「…大丈夫だ」

そう言って、ブランは無理に笑う。

「でも…」
 
ノワールは両膝を折り、傷を確かめようとする。 

切り抜けはした。
だが無傷ではない。

……せめて彼女だけでも、国の外へ。

言うことをきかぬ身体に苛立ちが募る。

だがふと――ノワールの顔を見て、ブランは思い出した。

「ああ…そうだ。貴女に、吉報がある」

ノワールが小さく首を傾げる。

「兄上は、ご存命だ」

「――…っ」

ノワールの瞳に、光が戻る。

「お兄様が…生きて…いらっしゃるの……?」

「そうだ」

力強い肯定に、涙が溢れた。
青い瞳に再び生気が灯る。

まだだ。
自分は、まだ進める。

ブランの内に、ふっと力が戻る。
彼は立ち上がり、手を差し出した。

「ノワール、行こう」

ノワールは迷わずに、その手を掴んだ。



   ―――  ―――



「お兄様!」

アシュベルトの姿を認めた瞬間、ノワールは駆け寄り、その胸に飛び込んだ。

「ご無事で…本当に、よかった……」

声を震わせ、涙を零す。
アシュベルトは痩せた妹の背中を静かに撫でた。

「お前も、生きていてくれたか…」
 
深く息を吐く。
その安堵を見届けた途端、ブランの膝が崩れた。

「ブラン!」

ノワールの叫びが響いた。



   ――― ―――



乾いた喉に水が流し込まれる。
意識がゆっくりと浮上する。

「よかった…」

視界の先に、涙を堪えたノワールの顔。
ブランは膝枕されていることに気づき、ゆっくりと周囲を見渡した。

鮮やかな緑。
風に揺れる若葉。
そして、空を覆うほどに広がる大木。

「……これ…は」

思わず、身を起こす。

まるで二人を守るように、森が広がっていた。

「聖杯の力を使いました」

ノワールが静かに告げる。
その手には、あの聖杯。

「聖杯は水を湧かせるだけではありません」

ノワールは辺りを見渡しながら、ゆっくりと話す。

「生命の成長を促す力を持っているのです。種を撒き、聖杯の水を与えれば…数刻で森が生まれる」

ブランは言葉を失う。

「…だが、その力を引き出せるのはスウルスの王族のみ」

木の幹に寄りかかりながら、アシュベルトが低く言う。

「そして、代償がある」

「代償?」

「力を使うたびに、寿命が削られる」

ブランは弾かれたようにノワールを見る。

「では、…先ほど私に飲ませた水は……」

ノワールは微笑むだけで答えない。

「聖杯の水は、傷の癒しにもなります」

ブランは自身の身体を見下ろす。

深手は消えていた。

「だが、それでは貴方が――」

「――これから私たちは、巡礼の旅に出ます」

ブランの言葉を遮り、ノワールは静かに言う。

「兄と共に……この大陸を巡り、再び緑を取り戻します」

それは、自らの寿命を削る旅だ。
だがスウルスの民は、とても慈愛深い民族である。

「本来は、もっと早くにすべきでした」

ノワールの言葉を、アシュベルトが引き継ぐ。

「だが我らも人間だ。自分の命を削ってまで救う価値があるのか―― 見極めようとしていた」

その眼差しが鋭くなる。

「だが貴様らは、聖杯を奪い、独占しようとした」

ブランは何も言えない。

静かな沈黙。

「……ですが」 

ノワールが柔らかく微笑む。

「貴方は、命を差し出そうとした。その覚悟は私たちに通じています」
 
アシュベルトは腕を組み直し、頷く。

「だからこそ、私たちは許し、救う道を選びます」

ノワールは柔らかな声音で告げ、頷き合う。

「…その旅に、私も同行させてほしい」

ブランが静かに言う。
二人は目を見開いた。

「傭兵としてでも構わない。国を追われる身――むしろ好都合だ」

わずかに笑う。

「あなた方を、聖杯を狙う者は多いのだろう?」

否定はない。

「ならば、私を連れて行ってほしい」

ブランが深々と頭を下げる。

「……本当に、それでよいのですか?」

「ああ。これが、私の望みだ」

強く頷く。

「――何よりも、貴女と共に…生きたい」

ノワールの頬がわずかに染まる。

ブランは彼女の手を取り、片膝をつく。
そして手の甲に、額を近づける。

「ノワール=スウルス。我が魂に誓い、揺るぎなき忠誠を――」

顔を上げる。

「そして、貴女に、永遠の愛を捧ぐ!」

森を渡る風が、二人を包んだ。
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