5 / 31
04 ある事件で屋敷に引きこもっていた『将臣』。彼の前に現れたのは、盲目の女性『伊織』だった。
比翼の鳥【後日談】
しおりを挟む【伊織サイド】
「将臣さん、今日は帰ってこれるのかしら」
伊織は、鳥籠の中で首をかしげる白い文鳥に話しかけた。
将臣が離れで暮らしていた頃、書き綴っていた【道化】の自伝。
彼に勧めて、出版社へ送らせたところ、思いかけず書籍化され、帝都でも評判になっていると聞いた。
続編を熱望され、最近の将臣は帝都にある出版社へ足を運ぶ日が増えている。
その間、伊織は狭い部屋で一人過ごすことが多くなっていた。
『私に?』
将臣は照れ臭そうに、そっぽを向き、それでも小さく頷いた。
『ありがとうございます…将臣さん』
ある日、将臣から文鳥を贈られた。
彼がそっと「白い文鳥だ」と教えてくれ、「小雪」と名を付けた。
『将臣さん、私は大丈夫です。…私には小雪がついていますから』
再び帝都に出向く間際、心配する将臣に、いつものように気丈に笑顔を向けた。
「でもね。本当は…とても寂しいの…」
思わずこぼれた本音に、小雪が柵越しに、伊織の指を嘴で突っついた。
まるで慰めているように思えて、伊織の頬が自然と緩む。
「小雪、元気付けてくれるの?…ありがとう」
そのとき、コンコンと扉を叩く音がした。
伊織は立ち上がり、ゆっくりした足取りで玄関へ向かう。
「……私に電話ですか?」
大家に手を引かれ、伊織はアパート1階にある電話機に向かった。
「はい。将臣さん?どうかなさったのですか?」
受話器越しに聞こえる将臣の声に、心配で尋ねる。
「…え、今日は早く帰れる?…わかりました! はい、待ってます」
受話器を握りしめながら、胸の奥がふわりと温かくなる。
――なんとも微笑ましい様子を見て、大家もまた、そっと笑みを浮かべる。
「あ、将臣さん。……大好きです」
言葉にした途端、急に恥ずかしくなり、伊織は慌てて受話器を置いた。
【将臣サイド】
(伊織…今、何をしているんだろうな)
編集者に用意された部屋で、将臣はふと天井を仰いだ。
伊織に背中を押され、出版社へ送った【道化】の自伝。
編集者の目に留まり、予想以上に帝都での評価はよかった。
続編を望まれ、ここ最近、帝都へ足繁く通っている。
そのたびに、伊織を一人部屋に残していくことが、気がかりだった。
『伊織…これをやる』
寂しい思いをさせている彼女へ、白い文鳥を手渡した。
笑顔を浮かべ、伊織はその文鳥を「小雪」と名付けていた。
『本当に一人で大丈夫か? 何かあったら隣の大家に言うんだぞ』
帝都へ向かう前、将臣は何度も念を押した。
それでも伊織は、いつもと変わらぬ笑顔で見送ってくれた。
「寂しくないのか?……俺は寂しいぞ!!」
誰ともなく吐き出し、将臣は窓の外の冬空を見上げた。
伊織もまた、同じ空の下にいる。
そう思うだけで、ほんの少し救われる。
それでも、距離は遠かった。
――将臣は、ついに決意する。
「よし… ひと仕事終わらせて、今日は帰る。…終わらなくても、絶対帰ってやる!」
編集者の制止を振り切って、アパートへ電話をかけた。
「……伊織か? あ…あれだ…今日は帰れる。……ああ、帰ったら、どこか食べにでも行くか!」
受話器の向こうから、弾むような伊織の声が返ってくる。
嬉しそうな顔が、ありありと脳裏に浮かんだ。
――そして、不意打ちの『愛の言葉』。
一瞬、思考が止まる。
はっ、と我に返り、慌てて伝える。
「……伊織!…お、俺も好きだよ」
そう告げたときには、すでに電話は切れてきた。
「……帰るか」
受話器を静かに置き、将臣は肩を落とした。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる