甘灯の思いつき短編集

甘灯

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04 ある事件で屋敷に引きこもっていた『将臣』。彼の前に現れたのは、盲目の女性『伊織』だった。

比翼の鳥【後日談】

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【伊織サイド】

将臣まさおみさん、今日は帰ってこれるのかしら」

 伊織は、鳥籠の中で首をかしげる白い文鳥に話しかけた。

 将臣が離れで暮らしていた頃、書きつづっていた【道化どうけ】の自伝。
 彼に勧めて、出版社へ送らせたところ、思いかけず書籍化され、帝都でも評判になっていると聞いた。
 続編を熱望され、最近の将臣は帝都にある出版社へ足を運ぶ日が増えている。

 その間、伊織は狭い部屋で一人過ごすことが多くなっていた。



『私に?』

 将臣は照れ臭そうに、そっぽを向き、それでも小さく頷いた。

『ありがとうございます…将臣さん』

 ある日、将臣から文鳥を贈られた。

 彼がそっと「白い文鳥だ」と教えてくれ、「小雪」と名を付けた。

『将臣さん、私は大丈夫です。…私には小雪がついていますから』

 再び帝都に出向く間際、心配する将臣に、いつものように気丈に笑顔を向けた。



「でもね。本当は…とても寂しいの…」
 
 思わずこぼれた本音に、小雪が柵越しに、伊織の指をくちばしで突っついた。
 まるで慰めているように思えて、伊織の頬が自然と緩む。

「小雪、元気付けてくれるの?…ありがとう」

 そのとき、コンコンと扉を叩く音がした。
 伊織は立ち上がり、ゆっくりした足取りで玄関へ向かう。

「……私に電話ですか?」

 大家に手を引かれ、伊織はアパート1階にある電話機に向かった。


「はい。将臣さん?どうかなさったのですか?」

 受話器越しに聞こえる将臣の声に、心配で尋ねる。

「…え、今日は早く帰れる?…わかりました! はい、待ってます」

 受話器を握りしめながら、胸の奥がふわりと温かくなる。

 ――なんとも微笑ましい様子を見て、大家もまた、そっと笑みを浮かべる。

「あ、将臣さん。……大好きです」

 言葉にした途端、急に恥ずかしくなり、伊織は慌てて受話器を置いた。 




【将臣サイド】

(伊織…今、何をしているんだろうな)

 編集者に用意された部屋で、将臣はふと天井を仰いだ。
 伊織に背中を押され、出版社へ送った【道化】の自伝。
 編集者の目に留まり、予想以上に帝都での評価はよかった。
 続編を望まれ、ここ最近、帝都へ足繁あししげく通っている。

 そのたびに、伊織を一人部屋に残していくことが、気がかりだった。

『伊織…これをやる』

 寂しい思いをさせている彼女へ、白い文鳥を手渡した。
 笑顔を浮かべ、伊織はその文鳥を「小雪」と名付けていた。

『本当に一人で大丈夫か? 何かあったら隣の大家に言うんだぞ』

 帝都へ向かう前、将臣は何度も念を押した。
 それでも伊織は、いつもと変わらぬ笑顔で見送ってくれた。

「寂しくないのか?……俺は寂しいぞ!!」

 誰ともなく吐き出し、将臣は窓の外の冬空を見上げた。

 伊織もまた、同じ空の下にいる。
 そう思うだけで、ほんの少し救われる。

 それでも、距離は遠かった。

 ――将臣は、ついに決意する。

「よし… ひと仕事終わらせて、今日は帰る。…終わらなくても、絶対帰ってやる!」

 編集者の制止を振り切って、アパートへ電話をかけた。

「……伊織か? あ…あれだ…今日は帰れる。……ああ、帰ったら、どこか食べにでも行くか!」

 受話器の向こうから、弾むような伊織の声が返ってくる。
 嬉しそうな顔が、ありありと脳裏に浮かんだ。

 ――そして、不意打ちの『愛の言葉』。

 一瞬、思考が止まる。

 はっ、と我に返り、慌てて伝える。

「……伊織!…お、俺も好きだよ」

 そう告げたときには、すでに電話は切れてきた。

「……帰るか」

 受話器を静かに置き、将臣は肩を落とした。

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