神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ 第三章 龍と獅子と少年少女達

5.レイクの誤算

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◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(三人称・レイク視点)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「それが、歴史の真実、か。レイク、お前はこのことを知っていたな?」

 アルのその問いに、レイクはいよいよ青ざめる。

(これは……まずいですね)

 誤算はいくつもあった。
 大きな物から小さな物まで。

 たとえば、アルが甘やかしていたリリィがああいうことになってしまったこと。
 無論、伯父としての悲しみもあるが、アルを制御する1つの手段を失ったとも言えた。
 レイクから言えば反論されることでも、リリィに我儘を言わせる形ならば案外アルは飲み込んでくれたのだ。

 もう1つは、この場にキラーリアやダルトという、何だかんだいって王家寄りの考え方をする者がいないこと。
 アルのあまりにも現在の体制と異なる考え方に、レイク以外の誰も反発しない状況を作り出してしまった。

 リラのことも誤算である。
 龍族の因子を持つ少女程度にしか考えていなかったが、いつの間にかアルに5種族の関係の変革などという考え方を話していたとは思わなかった。
 もし、リラがここまで踏み込んだことをアルに話すかもしれないと気づいていれば、道中の宿を男女別にはしなかった。少なくとも、リリィにどんな話題が出たか報告させていた。

 エルフの里を『闇』が襲ったのも計算違いだ。
 あれのせいで、アルとパド、それにリラの3人はこの里の恩人になってしまった。
 レイクもエルフ族を何人か回復魔法で救ったが、どちらかと言えばやはり派手に戦った3人にエルフは肩入れするだろう。

 エルフと龍族の関係も、誤算と言えば誤算だ。
 まさかここまで、エルフが龍族を神聖視していたとは。
 あくまでも相互守護関係だと思っていたのだが、エルフ族が龍族の言葉を絶対とするがために、会話が龍族のおさとアルという単純図式になった。
 それゆえに、レイクが口を挟む隙が無くなってしまった。

 龍族の長が500年前から生きていたというのもまさかである。
 実のところレイクは500年前の歴史の真実が記された書物を読んだことがあるのだ。
 その書物がどこまで真実であるかは不明だ。
 実際、龍族の長の話とは食い違いもある。
 だが、いずれにしてもかつての勇者伝説の真実を龍族が知っていたとなれば、根本的に話が変わってしまう。

 そして、何よりの誤算は――

「諸侯連立は、500年前の武器を手に入れるつもりなのだろう。その事実こそが、レイクが龍族と交渉する切り札だった。違うか?」

 自らがあるじと定めたアルが、ここまで思考できる人間だったことだ。

(アル様――盗賊女帝ロバー・エンブレスと呼ばれていたあなたを、私は見誤っていたのですね)

 レイクはどこかでアルをなめていた。
 あるじとして軽んじたつもりはないし、剣術は大いに認めていた。
 頭も思ったほどは悪くないらしいと最近気づいた。

 だが違った。

 思ったほどどころではなかったのだ。彼女の頭の回転はレイク並、あるいはそれ以上なのかもしれない。
 最初にあったとき、粗野に見えたのはその育ちと学のなさ、そして単純明快を好む性格のためであって、彼女は本質的にものすごく頭脳明晰なのだ。
 そのことに、レイクはようやく気づき――そして気づいたときには追い詰められていた。

 今、場の空気は緊張感が流れている。
 龍族とエルフの長が、リラが、パドが、そしてアルが。
 レイクに冷たい視線を向けている。
 バラヌだけはよく分かっていない様子だが。

(当然ですね)

 レイクは自嘲する。
 自分はこれまであるじと定めたアルに真実を話していなかった。
 その偽りを前提として、パドやリラをこんなところまで連れてきた。
 龍族やエルフ達にも、偽りを含めた方法で説得しようとしていた。

 ここにいる全員を、何らかの形で欺そうとしていたのだ。

 互いに反目し合う者を纏めるには、双方に共通の敵がいれば良い。
 龍族を説得するために、レイクは諸侯連立と『闇』を共通の敵とするつもりだった。

 だが。

(私がアル様と龍族の共通の敵になってしまいましたか)

 ため息をつきたくもなるが、この状況下では悪手だろう。

 もはや、舌先三寸も通じそうにない。
 相手がアルとパドと龍族では、体力無しの自分が逃亡できるわけもない。
 仮にリラかバラヌを人質に取っても、アル達の怒りを買うだけだ。

(仕方ない、ですね)

「分かりました。私の知ることをお話ししましょう」

 レイクに残された選択肢は、真実を話すことだけだった。
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