神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
118 / 201
【番外編】それぞれの……

【番外編25】事件の裏事情

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(三人称/ブッターヤ視点)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 カツ、カツ、カツ。
 石畳の地下牢に靴音が響く。

 つい数日前まで領主として君臨していたブッターヤ・ベゼロニアは、今現在地下牢にとらわれの身である。

「レイク・ブルテか」

 ブッターヤは足音の方に視線を向けて尋ねた。

「ええ。お久しぶりです」
「久しぶりというほど時間は流れていまい」
「確かに」

 レイクは苦笑して応じた。

「こちらは忙しくて目が回りそうでしてね」
「ふん、そのまま倒れてしまえ」

 毒づくブッターヤに、レイクは冷笑したままだ。

「それで、何の用だ?」
「明日、アル殿下と私たちはこの地を去ります」
「別れの挨拶か。いらんわ。それとも俺を王都に連行するか?」

 もはや取り繕う必要もなく、『俺』という一人称で言う。

「いいえ。あなたの身柄については、後日追って沙汰を出します。ただ、今のうちに確かめたいことがあったものですからね」
「ふん」

 ブッターヤは顔を背ける。
 どのみち、王女の命を狙った自分は、もはや助かるまい。
 仮にアル王女達が政争に負けたとしても、テキルース・ミルキアス・レオノル王子が自分を救うとも思えない。

 ブッターヤにできることはもはやなにもない。
 故に、質問に答える義理はなかった。
 だが、レイクは構わず続ける。

「どうにも今回の件、妙に感じるのですよ。なにゆえにあなたは心変わりをしたのか」

 心変わり、か。
 別段心変わりなどしていないと反論したくなるが、ここは何も言わないのが相手への最大の嫌がらせだろう。

 レイクもブッターヤが答えることに期待はしていないのだろう。
 ブッターヤの様子にかまわず続ける。

「最初に領主館を訪れたとき、あなたは良い感情を持ってこそいなかったでしょうが、アル殿下を殺そうとまでは思っておられないように感じました。
 にもかかわらず、わずか数刻後には毒殺をもくろんだ。なぜです?」

 答えるものか。

「誰かから指示されたのでは?」

 答える必要はないし、意味もない。
 何も答えないブッターヤに、レイクは唐突に話題を変えた。

「ところで、私は大魔導士アラブシ・カ・ミランテの弟子でしてね」

 それがどうしたというのか。

「実は師よりある特殊な魔法を授かっています」

 特殊な魔法?
 何を言っているのだ、この男は?

「探り合いに便利な魔法でしてね。相手が図星をつかれると、その動揺がわかるという魔法です」

 ハッタリだ。
 そんな魔法があるわけがない。
 いや、ブッターヤは魔法に関して門外漢だが、これはハッタリだと思える。
 単に、動揺を誘っているだけだ。

 そう自分に言い聞かせるが、それでも背中に冷や汗がでてくる。
 レイク・ブルテが大魔導士アラブシ・カ・ミランテの弟子であるという事実は、短い時間の中で調べさせていた。魔法についてはともかく、そこはハッタリではないのだ。

「それをふまえて質問します。あなたにアル殿下暗殺を指示したのはアルバンテ・ミルキアスですか?」

 違う。
 アルバンテは諸侯連立盟主であるが、あくまでも諸侯連立内の領主は名目上対等な関係だ。自分に王女暗殺を命じる権限などないし、命じられたら反発していただろう。
 アルの命などどうでもいいが、自分の命が危険な任務だったのだから。

「なるほど。やはりテキルース・ミルキアス・レオノル殿下ですか」

 少し、ドキッとする。
 正しくはないが、かなり回答に近づいた。
 おそらく、レイクは次に真実の名前を口にするだろう。
 そうなれば、自分は動揺を隠せないかもしれない。

 だから、ブッターヤは自ら口を開いた。

「想像にお任せするが、テキルース殿下は恐ろしい方だよ」

 暗にテキルース王子の名だったと認める。
 実際の指示者の名前をレイクが口にするまえに。

「なるほど。よくわかりました」

 レイクはそう言って、その場から立ち去った。

 ---------------

 アル王女一行がこの地を訪れた直後、ブッターヤは通信魔法で王都に連絡していた。相手はフロール・ミルキアス・レオノル王女。キルース王妃の第二子にて、テキルース王子の妹である。

 ブッターヤは知っている。
 本当に恐ろしいのはフロール王女だ。
 キルース王子も恐ろしいかただが、フロール王女はその数倍過激な性格をしている。

 キルース王子のために、後ろ黒い役目を自ら負おうとしているあの王女。笑いながら相手の喉元に短剣を突き刺すような恐ろしさ。
 彼女に逆らえる人間などそうはいない。
 あるいは、テキルース王子ですら、フロール王女には逆らえないのかもしれない。

 彼女にアルを暗殺するように告げられたとき、ブッターヤは青ざめた。
 王女を暗殺するなど、自分にそんな大それたことができようか。確かに自分は諸侯連立派に属しているが、王位継承問題などに関わりたいとは思わなかった。
 そもそも、アル暗殺などという強硬手段に出なくても、すでにテキルース王子は貴族の大半を取り込んでいる。
 レイク・ブルテが何をしようと、アル王女がどうあがこうと、それが覆るようには思えない。

 だが、それでもフロール王女は自分にそう命じてきたのだ。

 思えば、なぜアル王女は自分の館を訪ねてきたのか。
 黙ってとっとと王都に向かえばいいのだ。別に邪魔するつもりもない。見なかったことにしてやったのに。
 ああも堂々と訪ねられては報告するしかなくなってしまったではないか。
 その結果がこれだ。

 なぜ、自分がこんな目にあわなくてはいけないのか。
 王位継承問題など自分とは別の場所で勝手にやってくれればいいのだ。
 自分は誰を恨めばいいのか。
 アル王女か、フロール王女か、それともレイク・ブルテか、キラーリアか。あるいはふがいない部下達か。

 その答はついぞ出ないのであった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(三人称/レイク視点)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(やはり、フロール王女ですか)

 ブッターヤ元領主と面談を終え、レイクはそう確信した。
 ブッターヤが素直に口を割るとは思っていない。むろん、動揺を知ることができる魔法なんていうものもないし、人の動揺を読む能力にけているわけでもない。

 だからこそ、相手を心理的に揺さぶるためにハッタリを仕掛け、口を割らせた。

 アル暗殺を命じるであろう候補数人の名前を順々に挙げていき、残りはフロール王女しかいないというところになると、彼はまるでテキルース王子が黒幕かのごとく語り出した。
 それまではほとんど黙秘していたのにだ。

 つまり、フロール王女の名前を出されて、自分が動揺してしまうことを恐れたのだろう。

(しかしあの方は……)

 フロール王女。
 彼女は恐ろしい。
 何が恐ろしいかというと、頭が良く、理屈をこね、それでいて最終的に感情を優先させる。
 その感情は極めて過激だ。

 今、アルの命をブッターヤに狙わせる意味はほとんどなかった。
 確かにアルが死ねばテキルース王子の王位継承が自動的に決まるかもしれない。
 しかし、失敗したときのリスクを考えれば、そんな手段をとろうとは思わない。
 何より、仮にも異母兄弟をあっさり殺そうとする感覚が、さすがにレイクにも理解しがたい。

 だが、現に彼女はシャルノール・カルタ・レオノル第一王子をはじめとして、異母兄弟達を殺しているのだ。
 それも、顔色一つ変えずに。

 ――と。

 領主館に戻ると、ラミサルがなにやら部下に指示を与えていた。その傍らにはなぜかバラヌ。

「お疲れ様です」
「ブッターヤ殿はなんと?」
「さあ、ほとんど黙秘を続けられましたよ」

 嘘ではない言葉で躱しておく。

「時に、どうしてバラヌくんがここに?」

 レイクの疑問にはバラヌが答えた。

「僕、お兄ちゃんに言われて教会に行くことになったから。ラミサルさんのお仕事を勉強しようと思ったんです」

 なかなかにしっかりした返事だ。
 いつの間にやら、パド少年はバラヌを説得したらしい。

(一体、どういう言葉で説得したんですかね?)

 泣いてばかりのバラヌがここまでハキハキ答えるのは不自然なほどに感じる。

(ま、それは後でパドくんご本人か、リラさんに聞きますか)

 レイクはあっさりそう判断する。

「それで、ほとんど黙秘ということは、何かは仰ったのですか?」
「ははは、それは言葉尻を捉えすぎですよ」

 レイクはそう言い残し、アル王女の元へと向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...