神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
126 / 201
第四部 少年少女と王侯貴族達 第二章 王都到着

5.パドとリラ

しおりを挟む
 僕らに宛がわれた部屋は、使用人宿泊館2階の使われていない一室だった。
 先代のブルテ侯爵の時代にはもっとたくさんの使用人がいたらしいが、レイクさんの代になって1/3以下に減らしたらしい。それでも屋敷全体で20人くらいは使用人がいるらしいが。
 そんなわけで、使用人宿泊館には空き室がけっこうあるとのこと。

『僕ら』というのは、僕とリラ。
 レイクさんはもちろん私室、寝室、書斎と専用の部屋を本館に持っている。
 アル様は本館の1番豪華な客間にいる。キラーリアさんはその隣の部屋。今の彼女の立場はアル様の護衛だからね。アル様に本当に護衛がいるかどうかは別問題としてだけど。
 ピッケとルアレさんも本館に部屋を用意された。あの2人は僕らより重要人物扱いらしい。

 この部屋はしばらく使っていなかったからか少しほこり臭い。
 とはいえ、僕らに使わせるには立派すぎる部屋だ。
 引き戸のタンスや机、椅子、ベッドまで用意されている。

 この世界ではタンスやベッドはけっこうな貴重品。機械がないので全て手作業で造るわけだしね。ちなみに、ラクルス村では獣の皮で造った布を床や土の上に敷いて寝ていた。

 ベッドに飛び乗るリラ。

「このベッド、ふかふかね」

 旅の途中の宿にはベッドがあったりなかったりだったけど、この部屋のベッドはそれらよりも寝心地が良さそうだ。

 ――ただし、問題が1つ。

「うん、じゃあ、ベッドはリラが使うといいよ。僕は床で寝るから」

 そう。
 部屋の中にはベッドが1つしかない。
 もちろん、大人1人が楽々と眠れるほどの大きさだから、子どものリラと僕と一緒に寝るのも不可能ではない。あくまでも大きさ的には。

 ……でも、やっぱり、ねぇ?

「別に2人でも十分使えそうだけど?」
「いや、でもそれはやっぱりマズいと思う」
「7歳児がなにを恥ずかしがっているのよ」
「だから、僕は実際には18歳だって。それに、ほら、僕の力は見たでしょ。一緒に寝ると寝返りを打っただけでリラを怪我させちゃうかもしれないし」

 実際のところ、僕は寝相が良い方だと思うけどね。

「あー、それは確かにね。じゃあ、私が床に寝ようか?」
「女の子を床に寝せて僕がベッドを使えるわけないだろ。それに、僕の力でベッドを壊しても申し訳ないし。たぶん、そのベッドだけでも結構なお値段だと思う」
「まあ、それもそうか」

 どうやらリラも納得したらしい。
 その上で、窓から外を眺め言う。

「それにしても、ここから見えるほとんどの場所がレイクさんの土地かぁ。あの2人、本当に侯爵さまと王女さまだったのね」
「信じていなかったの?」
「そういうわけじゃないけど、実感はなかったわね」

 それは僕も同じだ。

「なんだか私、とんでもないところに来ちゃった気がする」
「それは僕も同じだよ」

 思えば確かにとんでもない事件の連発だった。

 この半年間のことが脳裏に蘇る。

 ---------------

 ほんの半年前まで、僕はラクルス村の少年その1でしかなかった。
 前世の記憶やチートはともかくとしてだけど。
 前世で病院から出ることも家族とまともに会話することも叶わなかったからこそ、そういう日々が続くことがとても嬉しかった。

 始まりは、そう。川原でアベックニクスに襲われたこと。
 僕のチートが村の皆にバレてしまった。リラと出会ったのもあの時だ。

 そのあと、リラを獣人から逃がそうとして、崖から飛び降りるなんて無茶もした。
 ブシカ師匠と最初に出会ったのはその時だった。

 リラはブシカ師匠に弟子入りし、僕は村に帰った。
 お母さんやジラ達とも打ち解けられた。
 だが、1ヶ月後の月始祭で全てが変わってしまった。

『闇』の襲来。ルシフとの契約。村の崩壊。お母さんの心も壊れてしまった。
 僕はラクルス村から追放されて、ブシカ師匠の弟子になった。

 3ヶ月、ブシカ師匠に色々教えてもらっていたら、今度は異端審問官に襲われ、その後は王女様が現れるわ、教皇が現れるわ、『闇』が再び襲ってくるわ、もう大変で。

 お師匠様を失った僕とリラは、アル様とともにエルフの里へ旅だった。
 1ヶ月弱の旅の後、エルフの里にたどり着いたのはいいけど、そこで待っていたのはまさかの異母弟バラヌと3度目の『闇』の襲来。龍族の力も借りて、『闇』は撃退できた。

 ルアレさんも加わり、ピッケの口の中に入ってお空の旅。ある意味一番死ぬかと思った。
 で、その後はベゼロニアでの大立ち回り。

 ---------------

 ……うん、なんつーか、改めて考えてみると我ながら波瀾万丈すぎるだろ、この半年間に起きた出来事。
 もう、盗賊に襲われたとか、スライムと戦ったとかいう話が些細なことに感じられてくるくらいだ。

 そんな僕の横顔をのぞき込みながら、リラが尋ねてくる。

「ねえ、パド、あなた無理していない?」
「無理なんてしてないよ」
「本当に?」
「……やっぱり、ちょっと無理しているかな」

 ここまでずっと気を張り続けてきた。
 何度も何度も失敗したけど、それでも頑張ってきたつもりだ。

 だけど、正直疲れた。
 心も体も、ほんの少し気を抜いたら倒れそうだ。

 今でも自分が殺したリリィや盗賊達のことを夢に見る。
 稔の顔をしたルシフの邪悪な笑顔。恐ろしい『闇』との戦い。
 はっきりいって、悪夢だと思いたいくらいだ。

 本当はもうクタクタだ。
 アベックニクスに襲われたあの日から、心のすみっこで何度も、『全部投げ出しちゃえば楽になるんじゃないか』と考えていた。

 お母さんのことも、アル様たちのことも、『闇』のことも、何もかも忘れて、リラと2人でどこか人里離れた場所に逃げだしてしまいたい。

 いや、いっそ舌でも噛み切ってあの白い世界に旅立ってしまった方が何倍も楽なんじゃないか。
 僕のせいで世界が滅びるというのなら、僕のせいで『闇』が襲ってくるというのなら、どうせ、一度は死んだ命なんだからそれが一番いいじゃないか。
 本当はそんな自暴自棄な考えが、どうしても心のどこかにくすぶっていた。
 リラやバラヌに向って偉そうに説教したくせにと情けなく思うけど。

 だいたい、僕が王女様の即位の手伝いをするとかいい冗談だ。僕は普通の村人として、家族みんなで幸せになりたかっただけだ。
 前世の世界で稔や両親と幸せになれなかった分、この世界でお父さんやお母さん、それにジラ達と仲良く暮らせればそれで満足だった。

 もちろん、お母さんに幸せになってもらうためにはアル様に即位してもらう必要がある。リラやバラヌとも一緒に幸せになりたい。

 だけど。
 もっと根本的な部分で思ってしまう。

 僕は一体何様のつもりなのだろう。王位相続問題だの、500年前の真実だの、5種族の和解だの、とてもじゃないけど僕の手に余る。
 僕はそんな大した人間じゃない。
 ただ、ちょっと馬鹿力をもっているだけの子どもだ。

 ――僕は本当に、ここにいていいのだろうか。

「ふぅ」

 椅子に座り、大きくため息1つ。

 そんな僕を、リラは両腕で抱擁した。

「ま、あんまり気にしても仕方がないわね。ここまで来たら、なるようになるでしょ」
「……リラ」
「何があっても、私はパドを大切に思うから」

 そうだ。
 半年間の思い出の中で、リラと会えた事実は間違いなく僕の宝物だ。
 他のことが悪夢だとしても、このことだけは夢にしたくない。

「ありがとう」

 僕はリラの胸に顔をうずめる。
 流した涙は見られなかったと思いたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...