神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第四部 少年少女と王侯貴族達 第三章 王位継承戦

8.手のひらの上で

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 激痛。
 痛みを超えて熱さすら感じるほどの。

 自分の右肩を見てパニックになりそうになる。
『闇の火炎球』によって、僕の右肩から先が吹き飛んでいた。
 文字通り、腕がなくなっていたのだ。

 一拍遅れて、腕が吹き飛んだ僕の右肩からどす黒い血液が噴き出す。

 状況を理解し、そして僕は悲鳴を上げる。

「ぎ、ぎやぁぁぁぁっ!!」

 手首から先がない左腕で右肩を押さえる。
 たまらず床に転がる僕。

「パドっ!!」

 リラの声がする。
 あれ、でもなんで、声がこんなに遠く感じるんだろう。

 ダメだ、立たなくちゃ。
 立たなくちゃ……

 でも……

 なんだろう、傷口が熱い。でも、体全体が寒い。

 ああ、そうか、一気に血を流したから。
 ダメだな、僕、こりゃあ、死んじゃうわ。

 やたらと冷静にそんなことを考える。

 遠くから、リラが何度も何度も僕を呼ぶ声がする。
 その声がどんどん小さくなっていって……

 ……ああ、この感覚、僕は知っている。
 死ぬ時の感覚だ。

 また、あのお姉さん神様の世界に行くのかな……

 ---------------

 だけど。
 次に僕に話しかけてきたのはガングロ神様ではなかったし、たどり着いたのも白い世界ではなかった。

 漆黒の世界。そして、僕の横に立つのは稔の姿をしたルシフ。

『やあ、パドお兄ちゃん。ずいぶん辛そうだね。左手をなくして、今度は右腕を無くして、今どんな気分?』

 ニヤニヤと笑いながら問いかけてくるルシフ。

 僕は……死んだのか?

『いいや、死ぬ寸前さ』

 そっか。
 精神世界のはずなのに、やたらと体が重いのも死ぬ寸前だからかな。
 この世界でも立ち上がることができず、僕は横たわったままだ。

『今は時間を止めているけど、時間を動かしたらすぐに死んじゃうだろうね』

 一体、何の用だよ?

『決まっているじゃないか。ボクがお兄ちゃんの前に姿を見せるのは、お兄ちゃんを助けるためだよ』

 どの口が言うのか。いや、この世界では口から声を出しているわけじゃないけど。

『ボクはね、ずーっと考えていたんだ。どうしたら、お兄ちゃんがボクと契約してくれるのかなって』

 絶対にしないよっ!!

『最初はさ、追い詰めれば契約してくれるだろうって思ったんだ。実際、獣人に襲われたときやラクルス村ではそれで上手く行った』

 それは僕が何も知らない馬鹿だったからだ。

『そう、そのまま欺されていればいいのにね。あの女――アラブシ・カ・ミランテの登場で僕の計画は台無しだよ。まったく、余計な知恵を付けさせやがって』

 だから、お師匠様を殺したのか?

『まあね。彼女は自爆したわけだけど、そうでなくても殺すつもりだったよ』

 コイツはっ!!

『その後は、リラちゃんに契約を迫ったけど、まあ、彼女も頑固でね。なかなか上手く行かない』

 やっぱり、コイツはリラにも手を出しかけていたのか。
 それで、リラの代わりにリリィを。

『いや、リリアン・ブルテはたんなる伏線だよ。魔力の無い彼女のなれの果てと戦ったから、まさか、今回みたいな攻撃は来ないってお兄ちゃんを油断させられたでしょ?』

 テミアール王妃には魔力があったってことか。まあ、教皇の娘だから素養はあってもおかしくないか。
 うん? でもそれなら……

 だったら、異端審問官の方はどうなんだよ?
 お師匠様の小屋を襲った3体の闇は異端審問官のなれの果てだったはずなのに、魔法なんて使ってこなかったぞ。

『あははっ、やっぱり信じていたんだね、あのブラフ』

 なに?

『アルに与えた大剣で人を斬ったら『闇』になるってやつさ』

 まさか。

『そ、あれは大嘘。今回、アルが参戦してくるとウザいからさ』

 また、僕はコイツに欺されたのか。
 欺されたまま、アル殿下に伝えて、結局アル殿下は大剣を使うのを避けるようになってしまった。
 その結果がさっきの戦いだ。
 僕はリラの援護を受けつつも、1人で飛び出していき、このザマだ。

『さあ、お兄ちゃん、今度こそボクと契約しようよ。契約したらその怪我を治してあげる。このまま死にたくはないだろう?』

 断るっ!! お前とはもう絶対に契約しない。

『お師匠様の言いつけを護るの? 感心だねぇ。いままではそれで上手く行ったもんね。でも今回はそうはいかないよ』

 だろうね。
 確かにもう僕は助からないかもしれない。
 でも、それでも家族の命を犠牲にしたり、『闇』になって世界を滅ぼしたりするよりマシだ。

『そう。でも、お兄ちゃんがこのまま死んじゃったら、きっとリラちゃんも殺されちゃうよ。もちろん、アルやレイクや王様達もね』

 それはっ。

『ようするに、ここまで瀕死の状態だったら、もうボクと契約する以外にお兄ちゃんに道はないよねってこと』

 ああ、そうか。
 ルシフの目的がようやく分かった。
 全てはこのためだったんだ。

 僕はもう普通の状況じゃ契約なんてしない。
 だけど、自分が死ぬ寸前だったら? しかも、自分が死んだらリラも殺される状況だったら?
 確かに、心引かれる。いや、心残りがありすぎる。このまま死にたくはない。

『さあ、どうする? 誰か1人の犠牲で皆助かるよ。お兄ちゃんは誰を犠牲にするのかな? 前世のお父さん、お母さん、稔くん、それとも、今のお父さんかお母さん? あ、家族っていうなら、バラヌくんもいるね』

 ニヤニヤ笑いながら僕に迫るルシフ。

 全てはルシフの手のひらの上だったのか?

 エルフの里が襲われたのも、王位継承戦で争ったのも……いや、それ以前に、お師匠様の小屋やラクルス村が襲われたのも、みんなみんな、コイツの手のひらの上。
 全ては僕を追い詰めるために。

 もしかすると、リラのお父さんが殺されたことすら、コイツが獣人の誰かに入れ知恵でもしたんじゃないかと思えてくる。

『いや、だから、それは考えすぎだってば。人間っていうのはホント、他人に責任を押しつけるのが好きだよね』

 それはお前みたいなヤツがいるからだ。

『照れるな、そこまで評価されると』

 褒めてないよ。

『ま、そんなことはどうでもいいや。さあ、お兄ちゃん、今度こそ契約しようよ。もう、お兄ちゃんを助けられるのは、ボクだけだよ』

 契約か。
 そうだね。

 そして、僕は結論を口にした。
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