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【バラヌの記録帳】
【バラヌの記録帳1】地獄の始まり
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王都に『闇の女王』が降臨してからすでに8年。
世界は様変わりした。
今の世界はまさに地獄だ。
これから、この地に住む全ての者達――人族、エルフ、龍族、ドワーフ、獣人――の存命を賭けた最後の戦いが始まる。
だから、その前に、この8年間のことを記録しておこうと思う。
それが『闇の女王』復活に関わったパドの弟であり、アル様と共に旅をした僕の責任だと思うから。
もう、王都の崩壊を目撃した者は僕しか生き残っていないのだから。
---------------
最初に僕のことを書いておこう。
僕の名前はバラヌ。
人族の父とエルフの母との間に生まれたハーフである。
幼い頃の僕は、魔力を持たない魔無子とよばれ蔑まれていた。
そんな僕を、エインゼルの森林から連れ出してくれたのは、腹違いの兄パドと、当時王位継承権を争っていた人族の王女アル様。
様々な経緯を経て――その辺りを記録する時間はなさそうだ――僕はテオデルス信教に出家するため王都に出向いた。
『闇の女王』が出現したのは、その時だった。
他人事のように書いたが、『闇の女王』の復活には僕の兄が大きく関わっている。
『闇の女王』の元になった『闇の卵』は兄の母の胎内に植え付けられていたらしい。
兄は母親を救うために王家の解呪法を頼り、しかし結果それは『闇の女王』の復活という最悪の事態を招く。
『闇の女王』が復活したときの衝撃で、王都は崩壊した。
多くの人が死に、怪我をし、泣いた。
僕が助かったのはほんの偶然でしかない。
当時の僕は5歳。
もはやわけもわからず泣くことしかできなかった僕の前に、アル様が現れた。
「皆は、お兄ちゃんはどうなったんですか?」
そう尋ねる僕に、アル様は事実を淡々と語った。
アル様の部下だった、レイクさんは『闇の女王』降臨の余波から、アル様を庇って亡くなった。
もう一人の部下、キラーリアさんは、『闇の女王』が生み出した『闇』に挑み殺された。
その時、アル様は教えてくれなかったけれど、『闇』に殺された者は『闇』になる。キラーリアさんも例外ではなかったはずだ。きっと、『闇』と化したキラーリアさんを、アル様は倒したのだ。
そして、兄とそのガールフレンドのリラは行方不明になったそうだ。
死体すら残さず消えてしまったという。
もっとも、死体が見つからないだけの可能性が高いと、その時は判断したが。
共に王都にやってきた龍族のピッケは行方不明。エルフのルアレさんもだ。
要するに。
僕らの味方はみんな死んだか行方不明になってしまったということだ。
「私はこれよりエインゼルの森林に向かう。この事態、解決するには龍族の手助けが必要だ。バラヌ、お前はどうする?」
僕はアル様に着いていくことにした。
他に、どうしょうもなかったから。
---------------
旅は過酷を極めた。
ただでさえ、エインゼルの森林までは徒歩で50日はかかる。
当時5歳の僕にとって、踏破するには長すぎる距離だ。
途中、なんどか乗合馬車を利用したりもしたが。
最大の問題は世界に跋扈するようになっていた『闇』と『闇の獣』だ。
『闇の女王』は多数の『闇』と『闇の獣』を生み出した。
それだけならばまだしも、『闇』や『闇の獣』に殺された者は『闇』となり、殺された動物は『闇の獣』となった。
以前、僕が旅立つ前にエインゼルの森林に現れた『闇』に殺されたエルフ達は『闇』となることはなかった。
『闇』となるのは人族だけなのか、それとも『闇の女王』が生み出した『闇』にそのような特殊能力があるのか。
当時は不明だったが今ならば分かる。答えは後者だ。
今、この世界が地獄なのは、単に『闇の女王』や『闇』、『闇の獣』が跋扈しているからだけではない。
それらに殺された者達が『闇』へ変化するからなのだ。
考えてみてほしい。
昨日まで共に暮らし戦った者が、『闇』に殺された途端、『闇』となって襲ってくるのだ。
倒しても倒してもきりがないだけでなく、瞬間前までの味方が即座に敵に変わってしまう。
精神的にも肉体的にも、僕らを追い詰めるには十分な現象。
これを地獄絵図とよばずしてなんといえばいいのか。
記述の順番が前後した。
いずれにせよ、僕とアル様がエインゼルの森林――厳密にはその四方に広がる『死の砂漠』付近の街にたどり着いたのは、王都を出て60日が経過したときだった。
僕は、そこでとても意外な人物と出会うことになる。
---------------
時間がない。持って回った書き方はやめよう。
僕が出会ったのは、父と1人の少年、そしてふもふもしたモンスターだった。
僕は父――名前はバズという――と会うのは初めてだった。
何しろ、エルフの母は妊娠中にエインゼルの森林に1人戻っていたから。
父と共にいた少年はジラ。
そして、ふもふもしたモンスターはカルディというらしい。
会ったことがないのに、なぜ父だと分かったかといえば、アル様と父に面識があったからだ。
なんでも、アル様はかつて兄を訪ねて父の住む村――ラクルス村というらしい――を訪れたことがあったという。
僕らは互いに情報交換をした。
父達にとって、僕らの話はかなり衝撃だった様子だ。
それはそうだろう。
王都の崩壊とか、目の前の女性が王女だとか、『闇の女王』降臨だとか、話が大きすぎる。
もっとも、父にとっては僕が息子だという事実が一番衝撃だったようだが。
どうやら、父は僕の母を妊娠させたという認識すら持ってなかったらしい。
僕らの話を信じてもらうのに一苦労した。
実際、この時点では父やジラは僕らの話をどこまで信用していたのか分からない。
一方、父の話もまた僕らにとっては衝撃的で、かつ信じがたいものだった。
目の前でふもふも浮かんでいるモンスター――カルディは神だというのだ。
厳密には神の1人が堕とされた姿だと。
まるで意味が分からなかった。
短期間とはいえ、テオデルス信教の教えを受けた僕としては、なかなか受け入れられることじゃない。
いや、テオデルス信教の教えを別としても、目の前の小さなモンスターが元神様だと言われて、誰が信用するだろうか。
とにかく、お互いの話に半信半疑のまま、僕らはそれぞれの目的を話した。
父達がラクルス村からでて、エインゼルの森林を目指したのは、カルディがこの世界に大きな『闇』が降臨したと認識したかららしい。
父達も、かつて『闇』の一体を見ており――それを撃退したのは兄らしいのだが――もしも本当に『巨大な闇』が降臨したというならば、それに対抗できる龍族と話をしようとここまでやってきたという。
もっとも、死の砂漠を越えるには案内人が必要で、案内人を見つけることができずにすこの町に30日ほど足止めされていたという。
話を総合するに、カルディの感じた『巨大な闇』とは『闇の女王』のことなのだろう。
互いの話の真偽を内心で疑いつつも、自分たちの目的が本質的に同じだと理解した僕らは、案内人無しで死の砂漠を越える。
アル様は一度死の砂漠を踏破しているので、いわば彼女が案内人の代わりを務めた。
僕やジラにとって、砂漠の旅は過酷ではあったが、その描写をしている暇はない。
いずれにせよ、それから6日後、僕らは僕の故郷であるエインゼルの森林へとたどり着いたのだった。
世界は様変わりした。
今の世界はまさに地獄だ。
これから、この地に住む全ての者達――人族、エルフ、龍族、ドワーフ、獣人――の存命を賭けた最後の戦いが始まる。
だから、その前に、この8年間のことを記録しておこうと思う。
それが『闇の女王』復活に関わったパドの弟であり、アル様と共に旅をした僕の責任だと思うから。
もう、王都の崩壊を目撃した者は僕しか生き残っていないのだから。
---------------
最初に僕のことを書いておこう。
僕の名前はバラヌ。
人族の父とエルフの母との間に生まれたハーフである。
幼い頃の僕は、魔力を持たない魔無子とよばれ蔑まれていた。
そんな僕を、エインゼルの森林から連れ出してくれたのは、腹違いの兄パドと、当時王位継承権を争っていた人族の王女アル様。
様々な経緯を経て――その辺りを記録する時間はなさそうだ――僕はテオデルス信教に出家するため王都に出向いた。
『闇の女王』が出現したのは、その時だった。
他人事のように書いたが、『闇の女王』の復活には僕の兄が大きく関わっている。
『闇の女王』の元になった『闇の卵』は兄の母の胎内に植え付けられていたらしい。
兄は母親を救うために王家の解呪法を頼り、しかし結果それは『闇の女王』の復活という最悪の事態を招く。
『闇の女王』が復活したときの衝撃で、王都は崩壊した。
多くの人が死に、怪我をし、泣いた。
僕が助かったのはほんの偶然でしかない。
当時の僕は5歳。
もはやわけもわからず泣くことしかできなかった僕の前に、アル様が現れた。
「皆は、お兄ちゃんはどうなったんですか?」
そう尋ねる僕に、アル様は事実を淡々と語った。
アル様の部下だった、レイクさんは『闇の女王』降臨の余波から、アル様を庇って亡くなった。
もう一人の部下、キラーリアさんは、『闇の女王』が生み出した『闇』に挑み殺された。
その時、アル様は教えてくれなかったけれど、『闇』に殺された者は『闇』になる。キラーリアさんも例外ではなかったはずだ。きっと、『闇』と化したキラーリアさんを、アル様は倒したのだ。
そして、兄とそのガールフレンドのリラは行方不明になったそうだ。
死体すら残さず消えてしまったという。
もっとも、死体が見つからないだけの可能性が高いと、その時は判断したが。
共に王都にやってきた龍族のピッケは行方不明。エルフのルアレさんもだ。
要するに。
僕らの味方はみんな死んだか行方不明になってしまったということだ。
「私はこれよりエインゼルの森林に向かう。この事態、解決するには龍族の手助けが必要だ。バラヌ、お前はどうする?」
僕はアル様に着いていくことにした。
他に、どうしょうもなかったから。
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旅は過酷を極めた。
ただでさえ、エインゼルの森林までは徒歩で50日はかかる。
当時5歳の僕にとって、踏破するには長すぎる距離だ。
途中、なんどか乗合馬車を利用したりもしたが。
最大の問題は世界に跋扈するようになっていた『闇』と『闇の獣』だ。
『闇の女王』は多数の『闇』と『闇の獣』を生み出した。
それだけならばまだしも、『闇』や『闇の獣』に殺された者は『闇』となり、殺された動物は『闇の獣』となった。
以前、僕が旅立つ前にエインゼルの森林に現れた『闇』に殺されたエルフ達は『闇』となることはなかった。
『闇』となるのは人族だけなのか、それとも『闇の女王』が生み出した『闇』にそのような特殊能力があるのか。
当時は不明だったが今ならば分かる。答えは後者だ。
今、この世界が地獄なのは、単に『闇の女王』や『闇』、『闇の獣』が跋扈しているからだけではない。
それらに殺された者達が『闇』へ変化するからなのだ。
考えてみてほしい。
昨日まで共に暮らし戦った者が、『闇』に殺された途端、『闇』となって襲ってくるのだ。
倒しても倒してもきりがないだけでなく、瞬間前までの味方が即座に敵に変わってしまう。
精神的にも肉体的にも、僕らを追い詰めるには十分な現象。
これを地獄絵図とよばずしてなんといえばいいのか。
記述の順番が前後した。
いずれにせよ、僕とアル様がエインゼルの森林――厳密にはその四方に広がる『死の砂漠』付近の街にたどり着いたのは、王都を出て60日が経過したときだった。
僕は、そこでとても意外な人物と出会うことになる。
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時間がない。持って回った書き方はやめよう。
僕が出会ったのは、父と1人の少年、そしてふもふもしたモンスターだった。
僕は父――名前はバズという――と会うのは初めてだった。
何しろ、エルフの母は妊娠中にエインゼルの森林に1人戻っていたから。
父と共にいた少年はジラ。
そして、ふもふもしたモンスターはカルディというらしい。
会ったことがないのに、なぜ父だと分かったかといえば、アル様と父に面識があったからだ。
なんでも、アル様はかつて兄を訪ねて父の住む村――ラクルス村というらしい――を訪れたことがあったという。
僕らは互いに情報交換をした。
父達にとって、僕らの話はかなり衝撃だった様子だ。
それはそうだろう。
王都の崩壊とか、目の前の女性が王女だとか、『闇の女王』降臨だとか、話が大きすぎる。
もっとも、父にとっては僕が息子だという事実が一番衝撃だったようだが。
どうやら、父は僕の母を妊娠させたという認識すら持ってなかったらしい。
僕らの話を信じてもらうのに一苦労した。
実際、この時点では父やジラは僕らの話をどこまで信用していたのか分からない。
一方、父の話もまた僕らにとっては衝撃的で、かつ信じがたいものだった。
目の前でふもふも浮かんでいるモンスター――カルディは神だというのだ。
厳密には神の1人が堕とされた姿だと。
まるで意味が分からなかった。
短期間とはいえ、テオデルス信教の教えを受けた僕としては、なかなか受け入れられることじゃない。
いや、テオデルス信教の教えを別としても、目の前の小さなモンスターが元神様だと言われて、誰が信用するだろうか。
とにかく、お互いの話に半信半疑のまま、僕らはそれぞれの目的を話した。
父達がラクルス村からでて、エインゼルの森林を目指したのは、カルディがこの世界に大きな『闇』が降臨したと認識したかららしい。
父達も、かつて『闇』の一体を見ており――それを撃退したのは兄らしいのだが――もしも本当に『巨大な闇』が降臨したというならば、それに対抗できる龍族と話をしようとここまでやってきたという。
もっとも、死の砂漠を越えるには案内人が必要で、案内人を見つけることができずにすこの町に30日ほど足止めされていたという。
話を総合するに、カルディの感じた『巨大な闇』とは『闇の女王』のことなのだろう。
互いの話の真偽を内心で疑いつつも、自分たちの目的が本質的に同じだと理解した僕らは、案内人無しで死の砂漠を越える。
アル様は一度死の砂漠を踏破しているので、いわば彼女が案内人の代わりを務めた。
僕やジラにとって、砂漠の旅は過酷ではあったが、その描写をしている暇はない。
いずれにせよ、それから6日後、僕らは僕の故郷であるエインゼルの森林へとたどり着いたのだった。
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---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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