神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第一章 反撃ののろし

5.世界も生死も乗り越えて

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 5種族の代表者との会談を終え、僕らはバラヌとジラに案内されてエインゼルの森林を歩いていた。どうやらエルフの里から離れ、龍族の住む地にほど近い場所に向かっているようだ。

 歩きながら、リラがぼそりと言う。

「みんな、協力してくれるかしら」
「どうかな。確かにいまさら戻ってきて何をと言われたらそれまでだし」

『闇の女王』を――いや、その中にいる元凶を倒すためには是非とも5種族の、特に龍族の協力が欲しい。
 だが。

「もし、協力してもらえないなら、僕らだけでやろう」

 僕はリラに言う。
 勝算は低くなるけれども、何もせずにいれば事態は悪化する一方なのだ。

 そんな僕に、ジラが尋ねる。

「一つ聞きたいんだけどさ、パド」
「何?」
「その『僕ら』には俺とバラヌは入っているのか?」
「……それは……」

 一瞬口ごもる僕。すぐに後悔する。なんで即頷かなかったのかと。

「ま、そうだよな。俺もバラヌも魔力がないもんな」

 ジラは少し寂しそうに言う。

「そういう意味じゃないよ」

 慌てて否定する僕だが、ジラは続ける。

「いいよ、気にすんな。俺達だって8年前とは違う。自分にできることとできないことの区別は付くさ」

 確かに、『闇の女王』どころか『闇』への浄化の力すらない2人を頼ろうとは思っていなかった部分はある。
 だが、それにしてももっとマシな反応をするべきだったと思う。

「そんな顔をしないで、兄さん。僕もジラと同じ気持ちだ。自分の力を理解して、できることを精一杯やる。それが一番大切なんだ。
 ラミサル様やアル様、それ以外にも死んだいろんな人達から、僕はそれを習った。
 兄さんは『闇』を倒す力がある。僕やジラはここで水くみや料理や病気の人を世話することしかできないけど、でもそれはできるんだからやらなくちゃいけない」

 バラヌの言葉にはとても重みがあった。
 僕の友人や弟は8年間で一体どれだけの経験を積んだのだろうか。

 そんな僕の後ろで、リラがポツリとつぶやいた。

「パドってつくづく弟に抜かされるのが得意ね……」

 いや、そんな特技を持った覚えはないんがなぁ。

 ---------------

 小さな小屋の前にたどり着き、バラヌが言う。

「ここだよ」

 僕に渡したい物があるといわれてやってきたのだけど、結局一体何なのだろうか?
 バラヌに促され、僕らは小屋の中に入る。

 すると中には見知った顔がいた。

「お待ちしていました」

 そう言ったのはルアレさん。デゴルアの姿ではなくエルフの姿だ。

「お久しぶりですね。パドくん、リラさん」

 どうやら、ルアレさんはここの見張り役らしい。
 小屋の中央におかれた物を見て、すぐに理解する。

「これは……」
「アル様の剣ね」

 アル様が使っていた剣。
 ルシフから授かったという、『闇』をも切り裂く大剣だ。

「あの日、アル様が亡くなる前に僕が預かった。
 といっても、僕には持てないから他の人に頼んでここまで運んだんだけど」
「そっか。でもなんでバラヌに?」
「いつか、使える人が来るまでって」

 アル様の大剣。
 僕も1度持たせてもらったことがあるけれど、ものすごい重さだった。
 キラーリアさんですら使いこなせないほどだ。もともとキラーリアさんはスピード系の剣士だしね。
 200倍チートの僕でも、左手を失った状態では武器に使うのは難しいだろうなと思った。

「使える人なんているのか?」

 その僕の質問に答えたのはジラだった。

「あの王女様は言っていたよ。いつかお前パドが帰ってきたら使わせろってな」

 そういうことか。

 アル様は僕が両手を失ったことを知っていたはずだ。
 結果として今は腕が元に戻っているけれど。
 それでも、この大剣を使えるとしたら僕しかいないと思っていたのか。

 僕は両手でアル様の大剣の柄を握る。
 両手にずっしりとくるが、それでも持ち上げられた。

 ジラが感嘆の声を上げる。

「やっぱ、パドって凄いんだなぁ。俺には未だに引きずることもできないのに」

 バラヌが僕に尋ねる。

「どう? 兄さん使えそう?」
「うーん」

 問われ、僕は大剣を振り回してみる。
 それなりの重さだが、僕の力なら振るうことはできそうだ。
 だが、問題は。

「この剣、僕の背丈より長いんだよなぁ」

 アル様が斜めに背負って、ようやく地面につかなかった位の長さがある。
 僕が背負えば当然地面を引きずりそうだ。というかそもそも形的に背負うのが無理だ。

「それにさ、『闇の女王』に挑むときはリラに乗っていくつもりだから」

 僕の体重だけでも大変なのに、この重さだとリラがつらいだろう。
 だが、ルアレさんがあっさり言う。

「そのことなら心配はいりません」
「どういうこと?」

 僕の質問に答えたのはジラだった。

「この8年間、ドワーフと人族の間で、魔導具の研究が進んでいてな。収納系のアイテムもあるんだよ」

 元々、ドワーフと人族は、少なくとも他種族と比べれば交流があった。
 だが、この8年、もはや種族差に意味がない状態になり、しかも、カルディという神々のチート知識を持つ者もいた。
 その結果、様々な魔導具が開発されるに至った。

 特に優先されたのは『闇』から逃げるための道具。
『闇』を倒すことは難しいが、移動のためのアイテムはいくつも発明されたという。

「その中の一つに、荷物を持ち運ぶアイテムもありましてね」

 ルアレさんがそう言って懐から小さな布袋を取り出す。

「そこに剣を置いていただけますか?」

 僕は頷いて大剣を床に置く。
 ルアレさんは布袋の口を大剣に向けて言った。

「『回収《コレクト》』」

 次の瞬間、大剣が光り出し、布袋の中へ吸い込まれてしまった。

「うわぁ」

 驚く僕に、ルアレさんが説明する。
 とっさに逃げるときのために、道具を小さく軽くまとめるための魔導具らしい。
『回収《コレクト》』の呪文でアイテムを収納し、『排出《ディス》』の呪文で収納したアイテムを取り出す。
 一つの袋に対して、予め決めた一つのアイテムしか対応しないが、重さも大きさも関係なく運ぶことができるらしい。

 ルアレさんがここにいたのは、不届き者から大剣を護るためというよりは、いざという時大剣を回収して逃げるためといったところか。

 剣を回収した布袋を、僕に投げよこすルアレさん。

「その剣はあなたのものです。アル殿がそのためにバラヌに託したのですから」
「ありがとうございます」

 僕はそう言って頭を下げた。

 ほんの少しだけど、希望が見えた気がする。

(ありがとうございます。アル様)

 僕は心の中でそう思った。
 元々ルシフが与えた剣だというのは、この際関係ない。
 アル様が僕に……いずれ僕が戻ってくると信じて、残してくれた剣なのだ。
 有り難く使うべきだ。

 ---------------

 ひとまず、人族や獣人達の集落に戻ることにした僕ら。
 するとふもふもモンスター――カルディがすっとんで来た。

「ジラ、バラヌ、ゆうたん、ちょっと来て」

 何やら凄い慌てている。
 ジラとバラヌが尋ねる。

「どうしたんだ、カルディ?」
「まさか、お父さんに何かあったの!?」

 勢い込む2人に、カルディは戸惑った様子。

「え、うん、そうだけど、その……」
「ああ、もういい。直接行って確かめる」

 バラヌはそう言って病人達のいる小屋へと駆け出す。
 僕ら3人と1匹も後を追う。

 ――お父さん。
 ――まさか、薬のせいでよけいに調子が悪くなって……

 そんな嫌な予感が僕を襲う。

 だが。

「よ、パド、バラヌ、ジラ、リラ」

 たどり着いた場所で、お父さんは無茶苦茶元気そうにしていた。

「……え、えーっと?」

 思わず戸惑いの声を上げる僕。
 ジラがふもふも浮かぶカルディを掴んで尋ねる。

「カルディ、これはどういうことだ?」
「いや、だから、お父さんが回復したって報告に」
「紛らわしいんだよっ!!」

 ジラはそう言ってカルディを地面に投げ捨てた。

「あーん、ジラってば酷い。暴力反対っ!!」

 なにやらふもふも騒いでいるが、僕とバラヌはそれどころじゃない。

「お父さん、治ったの?」
「よかったぁ」

 泣きそうになりながら言う、僕とバラヌ。

「おう。パドからもらった薬がバッチリ効いたぞ」

 抗生物質か。
 でも、あれはそこまで強力な薬じゃないはず。
 稔としても、どんな症状に使うかも分からないのに強すぎる薬は出せなかったはずだ。

 そんなことを考えていると、後ろからふもふも飛んできたカルディが解説する。

「どうやらね、ここのウィルスに対して、抗生物質がものすごく効果的だったみたいで。半日で全快しちゃったみたい」

 ウィルスにとっても、抗生物質は未知の薬で、耐性が無かったのだろうという。

「パド、もし可能なら、他の患者達にも薬を分けてもらえないか?」

 お父さんに言われ、僕とリラは慌てて頷いたのだった。

 ---------------

 薬はちょうど全員が2回飲むくらいの量があった。
 それで、ほとんどの人達は回復し、そうでなくても回復に向かっている。

(稔、ありがとう)

 僕は心の中で別世界の弟にお礼を言う。

 アル様も、稔も、僕に力を貸してくれた。
 リラも、ジラも、バラヌも、カルディも力を貸してくれようとしている。

 ならば、僕のするべきことは?
 決まっている。この世界を救うことだ。
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