神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第二章 光と闇

2.八の頭を持つ狂犬

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 僕らは『闇の女王』間近へと迫っていた。

 デウスは言った。
『闇の女王』とは『闇の世界』と『この世界』をつなぐ架け橋なのだと。
 ルシフたちデネブは本来『闇の世界』から出ることはできない。
 だが、『闇の女王』はその原則を超越させる。
 巨大な人型に見えるが、あれは通路なのだ。

 だが。

「お母さん……」

 僕は『闇の女王』の顔を見て、呟く。
 漆黒に彩られた闇の女王の顔の造形は、間違いなく僕――パドの母親を模したものだった。

 一体、これは何の冗談なんだ。
 いや、考えるな。
 どうせルシフあたりの嫌がらせだ。

 それに考えている余裕なんてない。
 元王都――『闇の女王』に近づくにつれ、『闇』や『闇の龍』の数が増えている。
 龍族達の数は減り、当初100体はいた龍族も、もはや20体ほど。

「行け、パド、リラ」

 僕らの横を飛び続ける龍族の長が言う。

 僕らはこれから『闇の女王』に飛び込む。
 闇の女王の口こそが、『闇の世界』への入り口。
 かつてルシフに呼ばれたときとは違い、精神だけでなく肉体ごと『闇の世界』へと向かうことができる。
 体ごと闇の世界に入れば、ルシフと正面から対峙することもできる。

 だが、今、『闇の女王』の口は閉じている。

 ――こじ開けるしかないか。

 僕はアル様の大剣を構え、『闇の女王』の口に向けて構える。

 だが。
 次の瞬間『闇の女王』が自ら口を開きだした。

「歓迎しているのかしら?」
「もしくは、何かが出てくるか、だ」

 出てくるとして何が?
 ルシフ自身がこちらの世界に具現化されるのか?

 だが、違った。
 そこから顔を出したのはドーベルマンのような漆黒の犬顔。
 しかも、それが8個。

 最初は大型の『闇の獣』かと思った。
 犬の姿をした『闇の獣』もいたから。

 だが違う。

 現れたのは8つの犬の首を持つ巨大な化け物だった。
 化け物は宙に浮いたまま、こちらを睨む。
 明らかに敵意を見せている。

「なんだ、あれ!?」

 叫ぶ僕に、龍の長が答える。

「わからん。8年の間にもあのような物があらわたことはない。だが……」

 全てを言い切ることはできなかった。
 化け物の8つの首それぞれから『闇の炎』とでも呼ぶべき漆黒の炎が吹き出した。
『闇の炎』が荒れ狂い、龍族と僕らを巻き込む。

「うぉぉぉぉぉ」

 龍族の長が吠える。

「パド、結界をっ!!」

 リラが叫ぶ。

「だけどっ」

 結界魔法を使えば、僕とリラくらいなら護れる。
 だけど、龍族は?
 それに、結界魔法を使うと、僕はしばらく意識を失ってしまう。
 なにより、結界魔法でこの炎は防げるのか!?

 躊躇する僕。
 僕龍の長が庇うかのように僕とリラの前に進み出る。

「急げ、パド、我の体力を持ってしても長くはもたん」

 くそっ。
 くそ、くそ、くそっ

 僕は結界魔法を発動する。
 僕とリラを結界が包んだその時、辺りを『闇の炎』が支配した。
 僕は必死に結界魔法を維持する。
 龍の長は苦しげに身をよじらせると、眼下の森に向かって落下していく。
 長だけではない、残っていた龍族も全てが森へと落下していく。

 同時に、化け物の『闇の炎』は『闇』や『闇の龍』をも滅ぼしてしまうらしい。
『闇の炎』が消えたとき、空に残っていたのは8つの首を持つ化け物と、リラと、リラの背に乗る僕だけだった。

 ---------------

 日の沈みかけた空。
 僕とリラは8つの犬の首を持つ化け物とにらみ合っていた。
『闇の女王』には負けるが、この化け物もデカイ。一つ一つの首が、全長10メートルはあるのではないか。

 化け物の顔達が笑う。

「ははははっ、これが世界、これが空、これが生ある者達の住まう場所か。なかなかに心地よいぞっ!!」

 同時に8つの口が叫ぶ。

「あいつ、言葉が分かるの!?」
「みたいだね」

 驚くリラに、僕は端的に答える。

「といっても、とても話し合いで事を収められる状況じゃないけど」

 僕は言って化け物を睨む。
 敵も味方もお構いなく焼き払う化け物と、和平なんてできるわけがない。

「その通りだ、神託の子どもよ」

 化け物が言う。

「我はこの世界を滅ぼさんと欲す存在もの
「お前は『闇』じゃないな」
「さよう。我はデネブ。全てを生み出せし存在より、世界を滅ぼすことを目的として生まれた者」

 ――全てを生み出せし存在。

 それは僕らが知っている神様ではないだろう。
 もっと上の存在。
 そして、おそらくそれこそがこの戦いの――

 僕が推測に頭を巡らせる中、リラが叫ぶ。

「なんでよ!? どうして世界を滅ぼそうとなんてするのよ!?」
「そのように作られたからだ」

 化け物はそう吠える。

「無駄だよ、リラ、話の通じる相手じゃない」

 僕の推測通りならば、コイツは――こいつらは僕らと相容れることはない。
 なぜなら、その存在の成り立ち自体が、僕らと争うために作られているのだから。

 それに、これ以上時間稼ぎの会話を続けるつもりもない。
 化け物『闇の炎』を連続して吐かないのは、それが不可能だからだろう。
 だが、一定時間経てば可能になるのかもしれない。
 それが、1分後か、1時間後か、1日後かはわからないが。

 だが、この巨体相手にどう戦う?
 巨大な敵相手ならば、弱点を責めるべきだろう。

 だが、弱点といっても……

 生物ならば、たとえば目などが弱点だろう。
 しかし、やつに8つも顔があるのだ。
 16個もある目の1つを潰してもどうにかなるとは思えない。

 8つの首を1つずつ相手にはしていられない。
 ならば、狙いはやはり……

「リラっ」

 僕はリラに作戦を言う。

「無茶よ、パド」
「知ってるっ!! でも、少しくらい無茶をしないと倒せないし、報いれない」

 龍族はついに長を含めて全滅した。
 龍族だけじゃない。
 この8年でどれだけの人たちが死んだか。
 それを考えたら、自分の命をかけるくらい、どうってことはない。

「わかったっ。でも、死んじゃいやだよ」
「ああ、まだ大物も残っているしね、こんな前哨戦で死んでたまるか」

 僕は『闇の女王』を睨み言う。
 未だ出てこないルシフと僕は対峙しなければならない。その為には、この犬の化け物を倒して生き残らなければ。

「それじゃあ、行くわよっ!! パド」

 リラは叫び、さらに空高くへと僕を運ぶのだった。
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