やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと

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本編

地獄スタート

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アランに会うという試練の前に、お母様の部屋へ来た。

「レオ…その格好どうしたの?」

「あ、変でしょうか?」

「いいえ。とっても似合ってるわ!
……ただ、それはレオの意思でやった事?無理矢理じゃない?」

お母様の心配が、とても嬉しい。
前の時間軸で、俺はずっと亡くなったお母様が恋しかった。

「お母様…そんなんじゃないんです。純粋に、これから変わろうと思って。」

「そう、なら良かった。」

お母様は百合の様に微笑む。

アランに冷たく突き放され、クラスメイトから虐められ、先生にも見捨てられ、王太子には冷笑された毎日。
そんな夜には、よくこんな風に微笑んだお母様が夢に出てきた。俺をずっと抱きしめてくれた。
そして処刑される前日の馬車の中での夢でも、何を言ってるか何も分からないけど何かを必死に俺に伝えようとしていた。

……何だったんだろうか。

「レオ?そろそろ時間なんじゃない?」

「あ、そうですね。もういきます。


……お母様、またここに来てもいいですか?」

お母様はまた百合のようにふんわりと笑って「いいにきまってるじゃない」と言った。

俺は顔を背けて部屋を出た。
泣きそうだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



太陽が燦々と輝く青空。豪華なセッティングに咲き乱れる花々。

そして目の前には死亡フラグ。


地獄スタートだ。



「レオベルト様、来てくれて本当に嬉しい!僕、レオベルト様に会いたくてずっとそわそわしてたんだ~!」

愛らしい笑顔に庇護欲のそそる愛嬌。
流石社交界の天使だな。
しかし、こんな文句の付けようがないこの状況も俺にとっては冷や汗案件だ。

「ありがとうございます、アラン様。」

「もう!敬語はなし。そうでしょ?」

そんなの無理だ。友達になれる訳がないのにその上タメ口なんて……

「こちらの方が慣れていて…どうかお許し下さい。」

「え、あ、頭下げないで!僕はただ仲良くなりたいなってそう思ってるだけだから!ゆっくりでいいし、ね!」

あわあわしてながらも顔を赤らめているアラン。
こんな表情を見ることも、前の時間軸ではありえない事だったな。

「…アラン様はとてもお優しいんですね。」

「へ、?あ、ありがとう…っ

と、とりあえず中に入って?」

「はい。」

複雑な心境のまま、アランに連れられテラスへと着いた。


テーブルの上には色とりどりのフルーツやケーキ、甘く鼻をくすぐる香りの紅茶。
どれもこれも恐ろしい程に手が込んでいる。

しかし、もっと恐ろしいのは…

「…すごい、全部俺の好きなものばかりですね。そして…………社交界では見ない斬新なスイーツもありますし。」

完璧と言っても差し支えないほど、俺の好みのスイーツばかり。

そして……斬新なスイーツ、つまり俺とお母様だけのこの世界には無い秘密のスイーツがある。俺が無意識に前世の事を思い出して、記憶を頼りにお母様に教えた『クレープ』。
お母様も食べたいな、って笑ってくれた、そんな優しい記憶のスイーツ。

作った記録も、作ってくれた人もいないのに。

物証も証人もなにもない。ただの子供が空想上のスイーツを母に語っただけ。

それだけなのにどうして?
どうして完璧に作れているんだ?

「見たことない?どうして?レオベルト様好きでしょ?

『クレープ』。」


ぞわりと鳥肌が立つ。


なんだ…?この不気味な感じは。
だめだ、なんだかアランがアランのようじゃない様に思える。


アランは一体何を知ってるって言うんだ?

「レオベルト様の為に、僕い~っぱいお勉強したんだぁ。」

「お、べんきょう…ですか?」

「うん!レオベルトの事をもっともっと知って、レオベルトに僕と一緒にいたら1番楽しいって思って欲しいから!」

意味が分からない。そんな理由で調べられる様なものじゃないはずだ。

「……クレープをご存知とは驚きました。」

「ふふ、驚いてくれて嬉しい!僕って凄いでしょ?!これからもレオベルト様の為だけらに沢山頑張るね!

……だから、だからね!そうやって壁を作らずに、ずっとずぅっと僕を傍に置くのがいいと思うんだぁ…。
だってだって、こうやってレオベルト様の事1番に考えて1番好きで、1番理解できるのは僕だけなんだもん!」

クレープを知っている理由も答えやしない。それにやたら『1番』を強調して、俺に交流を強制してくる。

…今回のアランは何か違和感を感じる。


アランの澄み切った青い目はこんなに濁ったものだっただろうか?


「アラン様…お気持ちは嬉しいのですが……」

「…な、なに……断るの?」

「あ、えっと……そういう訳では……」

「…っやだやだやだやだやだ!!!」

「あ、アラン様?」

急に怒り出したアランに、俺はもう訳が分からなかった。
少なくとも、前の時間軸のアランはこんな感じではなくて、穏やかで落ち着いた印象。こんなに情緒不安定ではなかったはずなのだが…。、

まだ5歳だからか……?

「僕の何がダメ?全部直すよ…!レオベルト様の好みになってみせるから!レオベルト様の為に何だってしてみせる!それでレオベルト様が僕の事を少しでも見てくれるなら…

だから僕を突き放さないで…僕の事を見てよ…っ!!!」

あんなに酷い前の時間軸の俺と一緒にしてしまって申し訳ないが、泣き叫ぶアランはまるで前の時間軸の俺のようだった。

アランはきっと幼いが故に、友達が欲しくて癇癪を起こしているんだろう。

「アラン様。俺の為にそんなに無理しなくていいんですよ。」

仲良くしましょうとは、やっぱり言えなかった。

だけど、なんだか前の時間軸の俺と重ねてしまって、変な同情が生まれてしまった。

俺は泣いているアランの背中をさすった。

大声で泣きじゃくっていたが、暫くしてアランはようやく落ち着いてきたようだ。

「ご、ごめんなさい。取り乱しちゃって……!」

「いえ、お気になさらず。」

そういうと、アランは顔を赤くしてもじもじした。

「あの……えっとこれからも僕と仲良くしてくれる……??」

俺は言葉に詰まった。

関わりたくない。無干渉でいたい。、

この感情を言えたらどんなに楽だろうか。

そんな事言えるわけがないだろうと、自分で自分に失笑する。

「……はい。」

俺はにこやかに笑った。
吊りそうになる口角を叱責し、引きつりそうになる表情を必死に隠した。

「ほんと!?!ほんとにほんと!?
嬉しい……っ!レオベルト様だぁいすきっ!」

アランは目を輝かせて抱きついてきた。

気持ち悪さで目の前が霞んでくる。

幾度となく迫り来る吐き気を飲み込んで、俺はお茶会の中盤戦へと駒を進めた。
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