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事件録5-4
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「戻ったぞ、何かわかったのか。」
「塚本先輩、平端さん。今、サイバー犯罪対策課から、連絡がありまして。中山のことを騒ぎ立てていた掲示板ページが一部見つかりまして、IPアドレスを辿れるようになりました。」
刑事の報告によると、中山の件で騒ぎ立てていた掲示板はいくつもあるらしく、まだ一部しか見つからなかったが、IPアドレスを辿れるようになったことで、どこから書き込んでいるかを特定できるようになったと言う。
ほとんどの誹謗中傷は事件現場から遠く離れた県外で、平端の想定する通り、面白おかしく騒ぎ立てていると思われる人間のものと推測されたが、一部、県内でしかも何度も書き込みされていることがわかったという。
「ただ、サイバー課もここからプロバイダを辿って書き込みがされたパソコンを割り出すため、まだ時間がかかるらしく、もう少し待ってほしいと言ってました。」
「そうか…、これで一歩また前進できるな。」
「先輩、それじゃ足りません。」
「何でだ、パソコンが特定できれば、その持ち主は重要参考人として引っ張ってこれるだろ。」
「IPアドレスから辿れるのは、あくまでもそのパソコンから書き込まれた、という事実のみです。例えば、自分が書いたんじゃなく、別の人間が家にいる時に勝手に書き込んだ、って簡単に言い逃れされますよ。実際、その可能性も考えられるわけですし。」
塚本は、痛いところを突かれ、じゃあ何があれば足りるんだ、と平端に問う。
「特定されたパソコンで、確かにそいつが書いた、という決定的な証拠です。SNSなんかは、アカウントがあるので言い逃れは難しいですが、今回は匿名掲示板です。もう一つ、何かないと…」
平端は、うーんと唸りながら、その何かはどこにあるだろうかと思案する。
(加藤さんは、初めこそ警戒する住民が多かったけど、長い時間かけて受け入れてもらえるように支援したと言ってた‥。今では、中山を見かけて挨拶をしてくれる若者もいたって…。)
そこまで考えが至った時、ひらめきと言うには弱々しいが、ちょっと確認したい、と中山が住んでいたアパートの住人は何人で、どこに住んでいるか、と担当刑事に聞いた。
「そうですね、階それぞれ部屋数は5部屋。一階は50代男性単身世帯が2世帯、核家族世帯が2世帯。2階は真ん中の部屋が中山の住む部屋で、他は30代女性単身世帯が1世帯、夫婦2人世帯が1世帯。3階は核家族世帯のみで4世帯でした。」
「ふーん…、加藤さんが、今では中山を見かけたら挨拶してくれる若い人もいたって話してたけど、子どもとかかなぁ。」
「子どもを連れた親子も、加藤さんから中山を見かけたら挨拶のみでいいから声をかけてやってほしい、何かあったときは自分が出て対応するから、と説得を繰り返されたと言ってましたね。2階の女性なんかは、加藤さんの話に快く応じたらしくて、罪を償って反省した人を責める権利はないと思っていると話したと言ってました。」
「なるほどな…」
「あ、でも」
報告していた刑事は何かを思い出したかのように、補足を加えた。
「その女性がちらっと漏らしてたんですが、それを一度交際相手に話したら、火がついたように怒り始めて、自分の住むアパートに移れ、と何度も説得されたと言ってましたね。女性は今住んでいるアパートの利便性がいいらしく、何とか怒りを収めさせて、以降はその話はしないようにした、と…」
「女性の交際相手?どこに住んでるかは聞いた?」
「あ、いや…、そこまでは踏み込みませんでした。もともと、中山のアパートでの様子や加藤さんの説得に対してどう思っていたかを聞くことが主目的でしたので…」
なるほど、そりゃそうか、と平端は返し、ただ、足りないピースがそこにあるような気がしていた。
(交際相手は、女性を引っ越させたかった。でも、その女性はアパートから離れたくないってのもあっただろうけど、中山に対する警戒心は薄かった。交際相手はどう思ったか…、女性をそのままにしておくことへの懸念、そして、危険人物と思われる人物が住んでいると言う警戒心…)
平端は、塚本さん!と声を上げた。
「……お前の突拍子のない声には慣れる気がしねぇよ。何だ。」
「中山の住んでたアパート行きましょう、女性のところへ!」
「…サイバー課はパソコンの特定まで時間がかかるんだったな?」
そう聞く塚本に、刑事はこくりと頷く。
「女性の交際相手のことが気になります、行きましょう!」
「わーかった、わかったよ。おい、何かわかったら連絡くれよ。」
担当刑事はわかりました、と返事をし、平端を追う塚本を見送ると、不思議そうに呟く。
「…なぁ、平端さんって塚本先輩のこと怖いとか思わないのかな。」
「さぁ。うちの署の七不思議の一つだし。俺らもできる限りのことしようぜ。」
刑事たちは、雑談もそこそこに自分たちの業務に戻っていった。
一方で平端と塚本は、2度目となる中山のアパートの捜査に入っていた。2階に上がると、女性の部屋は中山の部屋から一つ挟んだ隣の、階段近くだった。インターホンを押すと、女性が対応し、警察だと告げると玄関前で2人を迎えた。
「何度もすみません、前にも違う捜査官が来たかと思うんですが。」
「いえ、大丈夫ですよ。事件解決のために必要であれば、何でも協力させてもらいます。」
「ありがとうございます。少し気になる話がありまして。えーと…」
「あ、中川です。中川智恵と言います。」
「中川さん、以前来た捜査官に、交際相手に中山の話をしたところ、怒り出して交際相手のところに引っ越してくるよう説得されたとお話しされましたね?」
「ええ、話しました。今まで見たことないくらい怒り始めたのでビックリしちゃって。何とか収めましたけど、それ以降は話さないようにしてました。」
「では、それ以後はお二人の中でその話題はしなくなったってことでしょうか?」
「あーそれが……」
女性は、困ったような顔をして、ふぅとため息をついた。
「彼が、中山さんが起こした事件の残酷さ、って言うんですかね、とにかく、中山さんがいかに悪い人かってネットから調べた情報を引き出しては私に話すようになって。それに反論すると、彼が怒るので今は聞き流すようにしてますが、とにかくあいつは危険なやつだ、の一点張りで。確かに、過去に中山さんは酷いことをしたかもしれませんけど、私から見たら、今の中山さんはごく普通の人でした。一度反論した時に、彼は『家族が殺されても同じことが言えるのか』って詰め寄ってきて…。最近は、私からしたら彼の方が危険な人に見えてくるくらいで。」
「そうでしたか…」
そこまで話した時、塚本の携帯に着信が入り、席を外した。平端はそのまま、中川に質問を続ける。
「ところで、その交際相手の方は、どこにお住まいなんでしょうか?このアパートからは遠いんですか?」
「いえ、ここから数軒先の別のアパートに住んでますよ。ここから立ち退いたからって、中山さんはこのアパートに住んでるわけですから、彼が言う危険さはそこまで変わらないと思ってましたし、私的にはこのアパート気に入ってるので、彼が自分のアパートに来いって言われても、のらりくらりと誤魔化してました。」
「ここから近いところに…」
「平端、連絡があった。すぐ移動するぞ。」
塚本が、2人の会話を遮るように入ってきた。平端は、聴取に応じた女性にお礼を述べ、すぐ車に戻った。
「連絡って、サイバー課ですか?」
「ああ、ここから数軒先のアパートだ。うちのが何人か聞き込みに行ったろ。」
「……もしかして、行き先って、30代男性の家ですか。」
塚本は驚いて目を見開いた。
「何でわかった。また霊の思念ってやつか?」
「……いえ、着いたら話します。」
平端は、自分の予感が正しければ、また悲しい事件になるな、と心の中でため息をつき、塚本が聞いた住所へ急行した。
「塚本先輩、平端さん。今、サイバー犯罪対策課から、連絡がありまして。中山のことを騒ぎ立てていた掲示板ページが一部見つかりまして、IPアドレスを辿れるようになりました。」
刑事の報告によると、中山の件で騒ぎ立てていた掲示板はいくつもあるらしく、まだ一部しか見つからなかったが、IPアドレスを辿れるようになったことで、どこから書き込んでいるかを特定できるようになったと言う。
ほとんどの誹謗中傷は事件現場から遠く離れた県外で、平端の想定する通り、面白おかしく騒ぎ立てていると思われる人間のものと推測されたが、一部、県内でしかも何度も書き込みされていることがわかったという。
「ただ、サイバー課もここからプロバイダを辿って書き込みがされたパソコンを割り出すため、まだ時間がかかるらしく、もう少し待ってほしいと言ってました。」
「そうか…、これで一歩また前進できるな。」
「先輩、それじゃ足りません。」
「何でだ、パソコンが特定できれば、その持ち主は重要参考人として引っ張ってこれるだろ。」
「IPアドレスから辿れるのは、あくまでもそのパソコンから書き込まれた、という事実のみです。例えば、自分が書いたんじゃなく、別の人間が家にいる時に勝手に書き込んだ、って簡単に言い逃れされますよ。実際、その可能性も考えられるわけですし。」
塚本は、痛いところを突かれ、じゃあ何があれば足りるんだ、と平端に問う。
「特定されたパソコンで、確かにそいつが書いた、という決定的な証拠です。SNSなんかは、アカウントがあるので言い逃れは難しいですが、今回は匿名掲示板です。もう一つ、何かないと…」
平端は、うーんと唸りながら、その何かはどこにあるだろうかと思案する。
(加藤さんは、初めこそ警戒する住民が多かったけど、長い時間かけて受け入れてもらえるように支援したと言ってた‥。今では、中山を見かけて挨拶をしてくれる若者もいたって…。)
そこまで考えが至った時、ひらめきと言うには弱々しいが、ちょっと確認したい、と中山が住んでいたアパートの住人は何人で、どこに住んでいるか、と担当刑事に聞いた。
「そうですね、階それぞれ部屋数は5部屋。一階は50代男性単身世帯が2世帯、核家族世帯が2世帯。2階は真ん中の部屋が中山の住む部屋で、他は30代女性単身世帯が1世帯、夫婦2人世帯が1世帯。3階は核家族世帯のみで4世帯でした。」
「ふーん…、加藤さんが、今では中山を見かけたら挨拶してくれる若い人もいたって話してたけど、子どもとかかなぁ。」
「子どもを連れた親子も、加藤さんから中山を見かけたら挨拶のみでいいから声をかけてやってほしい、何かあったときは自分が出て対応するから、と説得を繰り返されたと言ってましたね。2階の女性なんかは、加藤さんの話に快く応じたらしくて、罪を償って反省した人を責める権利はないと思っていると話したと言ってました。」
「なるほどな…」
「あ、でも」
報告していた刑事は何かを思い出したかのように、補足を加えた。
「その女性がちらっと漏らしてたんですが、それを一度交際相手に話したら、火がついたように怒り始めて、自分の住むアパートに移れ、と何度も説得されたと言ってましたね。女性は今住んでいるアパートの利便性がいいらしく、何とか怒りを収めさせて、以降はその話はしないようにした、と…」
「女性の交際相手?どこに住んでるかは聞いた?」
「あ、いや…、そこまでは踏み込みませんでした。もともと、中山のアパートでの様子や加藤さんの説得に対してどう思っていたかを聞くことが主目的でしたので…」
なるほど、そりゃそうか、と平端は返し、ただ、足りないピースがそこにあるような気がしていた。
(交際相手は、女性を引っ越させたかった。でも、その女性はアパートから離れたくないってのもあっただろうけど、中山に対する警戒心は薄かった。交際相手はどう思ったか…、女性をそのままにしておくことへの懸念、そして、危険人物と思われる人物が住んでいると言う警戒心…)
平端は、塚本さん!と声を上げた。
「……お前の突拍子のない声には慣れる気がしねぇよ。何だ。」
「中山の住んでたアパート行きましょう、女性のところへ!」
「…サイバー課はパソコンの特定まで時間がかかるんだったな?」
そう聞く塚本に、刑事はこくりと頷く。
「女性の交際相手のことが気になります、行きましょう!」
「わーかった、わかったよ。おい、何かわかったら連絡くれよ。」
担当刑事はわかりました、と返事をし、平端を追う塚本を見送ると、不思議そうに呟く。
「…なぁ、平端さんって塚本先輩のこと怖いとか思わないのかな。」
「さぁ。うちの署の七不思議の一つだし。俺らもできる限りのことしようぜ。」
刑事たちは、雑談もそこそこに自分たちの業務に戻っていった。
一方で平端と塚本は、2度目となる中山のアパートの捜査に入っていた。2階に上がると、女性の部屋は中山の部屋から一つ挟んだ隣の、階段近くだった。インターホンを押すと、女性が対応し、警察だと告げると玄関前で2人を迎えた。
「何度もすみません、前にも違う捜査官が来たかと思うんですが。」
「いえ、大丈夫ですよ。事件解決のために必要であれば、何でも協力させてもらいます。」
「ありがとうございます。少し気になる話がありまして。えーと…」
「あ、中川です。中川智恵と言います。」
「中川さん、以前来た捜査官に、交際相手に中山の話をしたところ、怒り出して交際相手のところに引っ越してくるよう説得されたとお話しされましたね?」
「ええ、話しました。今まで見たことないくらい怒り始めたのでビックリしちゃって。何とか収めましたけど、それ以降は話さないようにしてました。」
「では、それ以後はお二人の中でその話題はしなくなったってことでしょうか?」
「あーそれが……」
女性は、困ったような顔をして、ふぅとため息をついた。
「彼が、中山さんが起こした事件の残酷さ、って言うんですかね、とにかく、中山さんがいかに悪い人かってネットから調べた情報を引き出しては私に話すようになって。それに反論すると、彼が怒るので今は聞き流すようにしてますが、とにかくあいつは危険なやつだ、の一点張りで。確かに、過去に中山さんは酷いことをしたかもしれませんけど、私から見たら、今の中山さんはごく普通の人でした。一度反論した時に、彼は『家族が殺されても同じことが言えるのか』って詰め寄ってきて…。最近は、私からしたら彼の方が危険な人に見えてくるくらいで。」
「そうでしたか…」
そこまで話した時、塚本の携帯に着信が入り、席を外した。平端はそのまま、中川に質問を続ける。
「ところで、その交際相手の方は、どこにお住まいなんでしょうか?このアパートからは遠いんですか?」
「いえ、ここから数軒先の別のアパートに住んでますよ。ここから立ち退いたからって、中山さんはこのアパートに住んでるわけですから、彼が言う危険さはそこまで変わらないと思ってましたし、私的にはこのアパート気に入ってるので、彼が自分のアパートに来いって言われても、のらりくらりと誤魔化してました。」
「ここから近いところに…」
「平端、連絡があった。すぐ移動するぞ。」
塚本が、2人の会話を遮るように入ってきた。平端は、聴取に応じた女性にお礼を述べ、すぐ車に戻った。
「連絡って、サイバー課ですか?」
「ああ、ここから数軒先のアパートだ。うちのが何人か聞き込みに行ったろ。」
「……もしかして、行き先って、30代男性の家ですか。」
塚本は驚いて目を見開いた。
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