半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第二章

画策

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「セラ! 大丈夫!?」
「キアラ様!」

 控え室でトーアと一緒にいたセラに駆け寄り、ギュッと抱きつく。

「遅くなってごめんね! あの場を収拾するのに、ちょっと時間がかかっちゃったの。でも安心してね、セラにひどいことを言った人たちは、絶対あのままにはしておかないから!」
「キアラ様……。ありがとうございます。でも、わたしはもう大丈夫ですよ」
「セラ……?」

 顔をよく見てみると、先ほどとは違って、ずいぶんと顔色が良くなっていた。トーアがうまく慰めてくれたみたい。本当によかった。

 ……でも。

「セラが許しても、わたしは許さないわ。あの人たちは、法律を犯しているという意識が、まるでなかったもの。ああいう人たちを放っておいたら、他の獣人族たちが困ることになるわ。お父様に伝えて、ちゃんと罰を受けてもらうつもりよ」

 それで、しっかり反省してほしい。

「あ……確かに、そうですよね。ごめんなさい、わたし、大丈夫だなんて軽々しく言ってしまって」
「いいのよ! セラのそういう優しいところ、わたしは大好きだもの。だから、ややこしいことは、偉い人に任せればいいのよ。わたしのお父様とかにね!」

 フフッと笑うと、セラもクスクスと笑った。

「はい。ありがとうございます、キアラ様。わたし、明日の聖火点灯式、精一杯務めますので、見ていてくださいね」
「もちろん。楽しみにしているわ」





◇◇◇◇◇


 ガシャーン!

「アアアアアッ! なんなの! どうしてあの獣人族じゃなくて、私の参列が取り消されるのよッ!」

 つい先ほどもたらされた知らせに、イレーヌが癇癪を起こし、部屋の中のものを投げては壊している。

 あまりにも早い通達だった。まさか、あの獣人族が、皇女の友人だったとは。

 暴れだしたいのはこちらだと、ロマロは顔をしかめた。
 神官として生きるしかなかった人生だから、彼はその中で出来るだけ楽で穏やかに、楽しく生きたかった。そのためには、ある程度の出世が不可欠だ。
    
 だから、ライバルを蹴落とし、時には陥れ、寄付金の横領や賄賂を駆使して、若くして司祭の地位を得た。それ以上ともなると、管轄する範囲が増えて面倒だし、不正が発覚する可能性も高くなる。だから彼は、それからは担当する地域を自分の居心地が良いように整えていくことに腐心した。長い年月を重ね、果たしてロマロは、理想に近い環境を手に入れていた。

 彼は、小さな世界の支配者であれることに満足していた。
 皆が教会と自分を敬うよう、聖女たちに定期的に奉仕活動を行わせたし、汚らわしい獣混じりは家畜のごとき扱いで充分だと、周囲の者たちに自身の考えを植え付けたのも彼だった。それが、こんな形で仇になるとは。

 イレーヌは努力家で、優秀だった。
 その根源が大きすぎる承認欲求からだとしても、彼女は能力を伸ばすために疲労困憊になるまで力を使っていたし、そのおかげで評判もよかった。ただ、獣人族を嫌悪する感情もまた、大きく育ちすぎた。ロマロが植え付けるまでもなく、彼女もまた、元々その気質だったのだろう。

 ロマロと違い、まだ幼いと言える年齢の彼女は、なぜ獣混じりが人間族と同じ扱いを受けるのか理解できなかったし、周囲の環境から、世の中もそれでまかり通っていると思い込んでいた。獣人族差別禁止法なんてものは、上辺を取り繕うための、形だけの法律なのだと。

「信じられないわ。この私を排除して、あの獣人族に聖火を点灯させるなんて……!」

 聖火とは、聖女や聖人のみが、研鑽の末に灯せるようになる炎。
 何を焼くことも傷つけることもなく、温もりと癒しのみを与える聖火。
 その光の大きさや清らかさは、個人によって異なるという。そのため、建国祭で聖火を灯すのは、帝国認定聖女と決まっている。

 イレーヌは聖火を灯せるようになったものの、帝国認定聖女にはなれなかった。明日の式典にも、許されたのは参列のみ。聖火を灯すのがどんな聖女なのかと思い見に来てみれば、まさか以前追い出した獣人族だったとは。

 ロマロはこの件で、司祭として重大な瑕疵ができてしまった。もう、今までのような生活は望めないだろう。過去に自分が行ってきたように、監督不行き届きとしてこの失態をあげつらわれ、まもなく地位を追われることになるはずだ。ロマロにとって、それは耐え難いことだった。

 そしてロマロは、分別のつかない、目の前の愚かな少女を憎々しく思った。彼女のせいでこんなことになったのだと。そして、思い付いた。

 ――どうせなら、もっと大変なことを起こさせて、全てを狂ってしまった彼女のせいにすれば、自分は巻き込まれた哀れな被害者になれるのではないか?

「聖女イレーヌ様。全くもってその通りです。間違いは、正さなければならないと思いませんか?」
「え……?」

 ロマロは真っ黒な内心を隠し、好好爺のごとく微笑んだ。

「やはり、聖火を灯すべきは、あなただということですよ。イレーヌ様」
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