半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第二章

トーアとセラ

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「セラ。お茶を淹れてもらったから、よかったらどうぞ。落ち着くと思うよ」
「……ありがとう、ございます。トーアさん」

 イレーヌさんは、わたしが昔所属していた教会の、聖女仲間だった子だ。人一倍優秀で、いつも明るくて自分に自信があって、わたしにも優しくしてくれていた。

 ……わたしが、獣人族だって知られるまでは。

『獣人族だったなんて。近寄らないで、汚らわしい!』

 彼女に向けられた鋭い言葉の刃は、まだわたしの心に傷を残していたらしい。キアラ様に救われて、ここでたくさんの人に優しくされて、もう平気になったと思っていたのに。

 わたし、まだ全然平気じゃなかったみたい。体が震えて、喉に物が詰まったみたいになって、イレーヌさんに何も、言うことができなかった……。

「セラ。なんだか知り合いみたいだったけど、あの人と、以前何かあったの?」

 トーアさんの眼差しは、わたしへの心配と労りが溢れていた。わたしが不安な時、トーアさんはいつもこうしてそばにいて、わたしを心配して、話を聞いてくれるのだ。

「……はい。昔、獣人族だと隠して教会にいたことがあって……」

 わたしは、これまでのことをかいつまんで説明した。
 集落で居場所がなく、親に教会へ売られたこと。そこで聖女仲間たちと仲良くなったけど、獣人族だとバレて追い出されたこと。奴隷になっていたところを、キアラ様に救われたこと……。

 今まで、キアラ様以外は誰にも話したことはなかったのに。心が弱っているせいかな。なんだか、彼に聞いてほしいと思ったのだ。彼ならきっと、どんな話も優しく受け止めてくれるだろうという信頼が、わたしの中にはすでにある。

「イレーヌさんは、当時、わたしなんかよりずっと優秀な聖女でした。わたしが帝国認定聖女になれたのは、運良くキアラ様と仲良くなれたからで……」

 イレーヌさんの言う通り、わたしよりも彼女の方が、聖火を点灯させるのに相応しいのではないだろうか。

 トーアさんは、相槌を打ちながら、黙って聞いてくれたけれど、やがて納得したように頷いた。

「なるほど。辛い時代の知り合いと会ったせいで、少し昔のセラに戻っちゃっているんだね」
「……昔の、わたしですか?」
「うん。最近の君はいつも笑顔で、穏やかに見えたけど、初めて会った時はそうじゃなかったよね。君は何かに怯えるように、ずっとオドオドしていた。それに、キアラ様が攫われた皇后陛下を助けに僕らを置いて行ってしまった時は、不安がって、ずっと泣いてばかりいたでしょ?」
「……っ」
 
 恥ずかしいけれど、その通りだった。
 昔のわたしは、キアラ様がいなくなったら、捨てられたらどうしようって、いつも不安だった。そんなわけないって思っても、こびりついて取れない汚れみたいに、わたしの心から離れてくれないのだ。

「さっきの話を聞くと、そうなってしまうのも当然だと今はわかるけど、あの時僕は君のことを、とても心が弱い人なんだろうなと思ったんだ。でも、ここで再会した時の君は、しっかりと前を向いて、自分の足で立っていて、すごく驚いたんだ。努力を惜しまず、いつもキアラ様のためにひたむきだった。そんな君を、すごいと思ったし、尊敬したんだよ。あんなに弱かった君が、成長しようと頑張ってるんだもの。僕も負けていられないって思ったよ」

 トーアさんはそう言って、自分の胸をトンと叩いた。

「だから、僕はすごく頑張った。そして、夢だった魔道具師になれたし、勲章をもらえるような魔道具だって作り出せた。これは間違いなくキアラ様が僕を気にかけてくれたおかげだけど、僕が頑張ったからでもあると思ってるよ。そう思わない?」

 彼はちょっと得意気にそう言ったけれど、本当に伝えたいことは、別にあるとわかった。

「だから、セラが帝国認定聖女になれたのも、当然セラの努力があってこそだよ。帝国認定聖女は、癒しの力の強さとか、これまでの功績とか、普段の行動から見える心根とか、そういうことを全て勘案して決められるんだ。キアラ様といくら仲が良くたって、それだけでなれるものじゃない。明日の聖火を点灯するのに相応しいのは、間違いなく君だよ」

 彼が向けてくれる、真っ直ぐで温かい感情は、わたしの心を優しく包み込むように癒してくれた。

 トーアさんは、思っていたよりもずっと、わたしのことをよく見てくれていたらしい。
 わたしにとっての彼は、キアラ様の側近仲間であり、とても優しい人だった。唯一身分が一緒だから、そばにいるとホッとできる、そんな存在だった。それが、なんだか少しだけ変化したような気がした。

「ありがとうございます。トーアさん」
「ううん。それに、君の耳やしっぽはとても可愛いんだから、何も気にすることはないよ」
「えっ!?」

 これまで蔑まれてきた獣人族の特徴を、突然褒められて困惑する。

「あれ? 言ってなかったっけ。僕は初めて会った時から、ずっとそう思ってるよ。ふわふわしてて、思わず触りたくなるような、すごく可愛い特徴だよね。セラは耳やしっぽも含めてこんなに可愛いんだから、獣人族がどうとか言う人たちのことなんか、気にすることないよ!」
「~~~っ!」

 確かに、初めて会った時も、素敵だと言ってくれていたと思う。
 でもそれは、お世辞というか、同情で言ってくれただけだと思っていたのに。トーアさんには、わたしの耳としっぽが、本当に魅力的に見えているらしい。彼のキラキラした目を見て、今初めて実感した。

「あ、ありがとう、ございます……」

 嬉しさと温かさで、胸がいっぱいになった。

 なんとなく手持ち無沙汰になって、トーアさんが用意してくれたお茶に、ようやく口をつけた。
 もう冷めてしまっていたけれど、心を落ち着けることはできた。
 いつの間にか、もう震えは治まっていた。
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