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第二章
過去の因縁
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セラとトーアを探してホールを歩く。途中で何度か声をかけられそうになりながらも、丁重に断りながら歩いていると、やっとセラの姿を見つけた。すぐそばにトーアの姿も見えたので、二人は一緒にいたようだ。
「セ……」
「どうしてあなたが、ここにいるのって訊いているのよ!」
声をかけようとしたけれど、それはセラのそばにいた女性の怒鳴り声に掻き消されてしまった。
一体何事だろうとよく見てみれば、怒鳴られていたのは、なんとセラのようだった。セラの顔は青ざめていて、手が小刻みに震えている。
状況がよくわからないけれど、このまま放っておくわけにはいかない。セラのところへ行こうとした瞬間、トーアに先を越されてしまった。
「この方は、帝国認定聖女ですよ。ここにいることは、何もおかしなことではありません。そもそも、いきなり怒鳴り付けるなんて、無礼極まりない行いです。どなたかは存じ上げませんが、私はあなたの方が、この場所に相応しくないと思いますが」
「……っ、なんですって!? 私は聖女なのよ! 明日の式典にも、参列を許可されているの。私こそが、聖火を点灯させるのに相応しいのに! それなのに、何? そこにいる偽者聖女なんかが帝国認定聖女だなんて、冗談でしょ!?」
……何を言っているの、この人?
反射的に思わず出しかけた手を、ノアに止められる。
「落ち着いて。気持ちはわかるけど、冷静にならないとダメだ」
ノアを見上げると、彼も不快感を隠さない目で、怒鳴る女性を見据えていた。
……そうよね。怒りに任せて行動しちゃダメ。わたしは皇女なのだから、毅然と対応しなきゃ。
「冗談では全くありませんが。むしろなぜあなたがそこまでおっしゃるのか、理解に苦しみますね。何を根拠にそのようなことを?」
「だって、そいつは獣人族じゃない! 獣人族が帝国認定聖女だなんて、おかしいわ!」
ざわりとどよめきが起こった。獣人族に対して明らかな差別的発言をした彼女に、戸惑いや批判的な視線が多数向けられているが、彼女は激昂していて、全く気づいていない様子だ。
「何を言っているのですか? 獣人族だというだけで彼女を貶める発言をするなんて、正気とは思えない。獣人族差別禁止法が施行されてから久しいというのに、よりによってこの皇城で、陛下が定めておられる法を犯すおつもりですか?」
「なっ……!? そ、そんな法律は形だけで……!」
「イ、イレーヌ様! 何をしてらっしゃるのですか!?」
騒ぎに気づいてやってきたのか、聖女の付き人らしき初老の男性が、突然中に割って入った。彼は、彼女の発言がまずいものであるとわかっているようだ。
「ここでそのような発言をしてはなりません。言ったでしょう、聖女であるあなたは常に注目を集めているのだから、言動には気をつけるようにと!」
「でも、聖火の点灯をするのが、下等な獣混じりだなんて……!」
「イレーヌ様!!」
老人が大声を出したことに驚いたのか、彼女は目を瞬かせながら、ようやく口を閉じた。
「皆様。お騒がせして、誠に申し訳ございません。イレーヌ様は少し気が動転しておられるようですから、これで失礼させて頂きます」
「待ちなさい」
このまま行かせてしまっては、一連の無礼に目を瞑ることになってしまう。そんなことは許さないわ!
「この場を騒がせたことよりも、謝らなければならない相手がいるのではなくて?」
「こ、これは、皇女殿下……!」
わたしは、頬を押さえて悔しそうな顔をしている女性に、ちらりと視線を向けた。
「そこにいる女性のことですけれど。帝国において明確に定められている法を軽んじ、帝国認定聖女を無為に貶めたことを、なかったことのように振る舞うのは、皇女であるわたくしが許しません」
「も、申し訳ございません! そのようなつもりは……イレーヌ様、早くこちらの聖女様に謝罪を!」
「どうして私が……っ! 嫌よ! 私は間違ってないわ! 放して!!」
イレーヌと呼ばれた彼女は、老人の手を振り払い、そのまま逃げるように去っていってしまった。
「いや、ははは……申し訳ございません。イレーヌ様は我が教会が誇る優秀な聖女なのですが、少々世情に疎いところがありまして……帝国認定聖女様には、私が代わってお詫び致しましょう」
たぶんこの人も、普段から獣人族を差別している人なのだろう。渋々謝罪しているのが、わたしにはわかった。ここが皇城で、皇女のわたしの前だから、しおらしく振る舞っているに過ぎないのだ。
「……セラ、大丈夫?」
「……っ」
トーアが心配そうに声をかけるけれど、セラはショックを受けたせいか、動けないようだ。まだ顔色が悪い。
「あのようにひどい言葉で侮辱されたのですから、彼女の心痛は計り知れません。……セラ、あなたはゆっくり休んでください。トーア、セラを頼んでもいいかしら?」
「お任せください、皇女殿下」
トーアがセラに寄り添うようにしてこの場を去った後。
わたしは、老人に向かって毅然と言い放った。
「帝国法に背き、我が帝国が誇る帝国認定聖女を貶めたのですから、先ほどの彼女には、然るべき対応をさせて頂きます。覚えておいてくださいね」
「セ……」
「どうしてあなたが、ここにいるのって訊いているのよ!」
声をかけようとしたけれど、それはセラのそばにいた女性の怒鳴り声に掻き消されてしまった。
一体何事だろうとよく見てみれば、怒鳴られていたのは、なんとセラのようだった。セラの顔は青ざめていて、手が小刻みに震えている。
状況がよくわからないけれど、このまま放っておくわけにはいかない。セラのところへ行こうとした瞬間、トーアに先を越されてしまった。
「この方は、帝国認定聖女ですよ。ここにいることは、何もおかしなことではありません。そもそも、いきなり怒鳴り付けるなんて、無礼極まりない行いです。どなたかは存じ上げませんが、私はあなたの方が、この場所に相応しくないと思いますが」
「……っ、なんですって!? 私は聖女なのよ! 明日の式典にも、参列を許可されているの。私こそが、聖火を点灯させるのに相応しいのに! それなのに、何? そこにいる偽者聖女なんかが帝国認定聖女だなんて、冗談でしょ!?」
……何を言っているの、この人?
反射的に思わず出しかけた手を、ノアに止められる。
「落ち着いて。気持ちはわかるけど、冷静にならないとダメだ」
ノアを見上げると、彼も不快感を隠さない目で、怒鳴る女性を見据えていた。
……そうよね。怒りに任せて行動しちゃダメ。わたしは皇女なのだから、毅然と対応しなきゃ。
「冗談では全くありませんが。むしろなぜあなたがそこまでおっしゃるのか、理解に苦しみますね。何を根拠にそのようなことを?」
「だって、そいつは獣人族じゃない! 獣人族が帝国認定聖女だなんて、おかしいわ!」
ざわりとどよめきが起こった。獣人族に対して明らかな差別的発言をした彼女に、戸惑いや批判的な視線が多数向けられているが、彼女は激昂していて、全く気づいていない様子だ。
「何を言っているのですか? 獣人族だというだけで彼女を貶める発言をするなんて、正気とは思えない。獣人族差別禁止法が施行されてから久しいというのに、よりによってこの皇城で、陛下が定めておられる法を犯すおつもりですか?」
「なっ……!? そ、そんな法律は形だけで……!」
「イ、イレーヌ様! 何をしてらっしゃるのですか!?」
騒ぎに気づいてやってきたのか、聖女の付き人らしき初老の男性が、突然中に割って入った。彼は、彼女の発言がまずいものであるとわかっているようだ。
「ここでそのような発言をしてはなりません。言ったでしょう、聖女であるあなたは常に注目を集めているのだから、言動には気をつけるようにと!」
「でも、聖火の点灯をするのが、下等な獣混じりだなんて……!」
「イレーヌ様!!」
老人が大声を出したことに驚いたのか、彼女は目を瞬かせながら、ようやく口を閉じた。
「皆様。お騒がせして、誠に申し訳ございません。イレーヌ様は少し気が動転しておられるようですから、これで失礼させて頂きます」
「待ちなさい」
このまま行かせてしまっては、一連の無礼に目を瞑ることになってしまう。そんなことは許さないわ!
「この場を騒がせたことよりも、謝らなければならない相手がいるのではなくて?」
「こ、これは、皇女殿下……!」
わたしは、頬を押さえて悔しそうな顔をしている女性に、ちらりと視線を向けた。
「そこにいる女性のことですけれど。帝国において明確に定められている法を軽んじ、帝国認定聖女を無為に貶めたことを、なかったことのように振る舞うのは、皇女であるわたくしが許しません」
「も、申し訳ございません! そのようなつもりは……イレーヌ様、早くこちらの聖女様に謝罪を!」
「どうして私が……っ! 嫌よ! 私は間違ってないわ! 放して!!」
イレーヌと呼ばれた彼女は、老人の手を振り払い、そのまま逃げるように去っていってしまった。
「いや、ははは……申し訳ございません。イレーヌ様は我が教会が誇る優秀な聖女なのですが、少々世情に疎いところがありまして……帝国認定聖女様には、私が代わってお詫び致しましょう」
たぶんこの人も、普段から獣人族を差別している人なのだろう。渋々謝罪しているのが、わたしにはわかった。ここが皇城で、皇女のわたしの前だから、しおらしく振る舞っているに過ぎないのだ。
「……セラ、大丈夫?」
「……っ」
トーアが心配そうに声をかけるけれど、セラはショックを受けたせいか、動けないようだ。まだ顔色が悪い。
「あのようにひどい言葉で侮辱されたのですから、彼女の心痛は計り知れません。……セラ、あなたはゆっくり休んでください。トーア、セラを頼んでもいいかしら?」
「お任せください、皇女殿下」
トーアがセラに寄り添うようにしてこの場を去った後。
わたしは、老人に向かって毅然と言い放った。
「帝国法に背き、我が帝国が誇る帝国認定聖女を貶めたのですから、先ほどの彼女には、然るべき対応をさせて頂きます。覚えておいてくださいね」
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