半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

セラ④

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 確かに、これまで生きてきて、良かったなと思えることなんてあまりなかった。神殿にいた時は優しくされたこともあったけれど、隠し事をしているせいでいつもどこか緊張していた。そして獣人族だと知られると、やっぱり全部なくなってしまった。
 
 獣人族のわたしに優しくしてくれる人なんて、きっとこれから先も現れないに決まっている。だって、家族でさえそうじゃなかったんだから。
 
 治癒魔法が使えると知られてからは、便利な道具みたいに扱われるようになった。しばらくは売らずに手元で使うのも悪くない、と笑いながら言われたのだ。
 こんな人たちのために力を使うのはすごく嫌だったけれど、わたしには、他に選択肢がなかった。自ら死ぬ勇気さえなかったのだ。
 
 ……このままずっと、この人たちのいいように使われながら、友達もできずに暮らしていくのかな。
 
 そうしてわたしがほとんど諦めかけていた時、ふわふわした真っ赤な髪の、わたしと同じくらいの年の女の子がアジトへやってきた。
 というより、出口を探していたみたいだから、わたしみたいに無理矢理連れて来られたのかもしれない。でも、なぜか奴隷の首輪はしていなかった。
 
 彼女は、牢の中にいるわたしたちを助けたいと言い出した。誰かと会話するみたいに話しているが、そばにはプーニャ一匹しかいない。まさか、あの黒いプーニャと会話しているわけじゃないだろう。
 
 後からやってきた男たちによると、女の子は彼らの仲間を倒してここへやってきたらしい。
すごい。わたしと同じくらいの体格なのに、どうやってそんなことができたのだろう。
 
 ただ呆然と彼らが口論しているのを聞いていると、急にわたしのいる牢へ誰かが入ってきた。そして、グイッと強く腕を取られる。
 
「おい、仕事だ。来い!」
「きゃあっ! や、やめてください……!」
 
 あの子が倒した男を治療させようということらしく、仕事だと言われた。でも、あまりに強く引っ張られたので、わたしは思わず抵抗してしまった。
 
「大人しく言うことを聞け!」
「きゃあっ!!」
 
 すると、怒った男の人に頬を殴られた。
 わたしはドタッと地面に倒れた。
 
「ちょっと、なんてことするのよ!?」
「あぁん? コイツが大人しく言うことをきかねぇからこうなるんだよ。悪いのはコイツだろ?」
 
 ……そうよ、抵抗なんかしちゃいけなかったのに。全部、わたしが悪いんだわ。
 
「それに、コイツは獣人族だ。俺ら人間族に何されたって文句は言えない、下等な存在なんだよ」
 
 いつも言われている言葉だから、もう特に何とも思わなかった。でも、赤髪の女の子はそうじゃなかったらしい。驚いたように目を見開いて、言葉もないというように、口をパクパクさせている。
 
 ……どうしてそんな顔をするのかしら? この人が言ったことは、当たり前のことなのに。
 
「やめなさいよ、このバカたれー!!」
 
 わたしを連れて行こうとした男が、女の子に殴られて吹っ飛んでいった。大きな体が、信じられないくらい遠くまで飛んで、最後は壁に激突した。
 
 今度はわたしが目を見開く番だった。一体何が起こったのか、まるで理解できない。
 
「獣人族かどうかなんて関係あるか! 弱い者いじめをするんじゃないっ!!」
 
 すごい力だ。見た目は普通の……ううん、すごく可愛い人間族の女の子なのに、わたしなんかより、よっぽど獣人族らしかった。もしかしたら、獣人族の大人たちよりもすごいかもしれない。
 
 ……でも、わたしが殴られたことで、どうして彼女が怒るんだろう。どうして心配そうにわたしを見て、「大丈夫?」って聞いてくるの? ……わたしが獣人だってわかってるはずなのに、どうして?
 
 その後、彼女はアジトにいる全ての奴隷商人たちをやっつけると、全ての人たちを牢から出し、首輪からも解放してくれた。信じられない気持ちのまま、事態だけが劇的に変化していった。
 
「あれ? あなたは行かないの?」
 
 他の奴隷だった人たちは解放されて喜んでいたが、わたしはきっとどこへ行っても、同じような扱いをされるのだ。他の人たちのように、希望は持てなかった。

 帰る場所がないと言うと、赤髪の女の子は少し迷うそぶりを見せたあと、にこりと笑ってこう言った。
 
「じゃあ、わたしの家に来ない? 貧乏だしお家もボロボロで狭いけど、わたしのお母さんはとっても優しいから、あなたにも優しくしてくれると思うわ」
 
 わたしはしばらく、言われたことの意味が理解出来なかった。思えば、彼女は初めから変わっていた。獣人族のわたしのために怒ったり、優しい言葉をかけてくれたりした。わたしを見て顔をしかめたことだって、一度もない。
 
 でも、でも……まさか、ほんとうに?
 
 彼女はわたしが獣人族でも気にしないと、友達になってほしいと言う。
 こんなに素敵なことが、わたしに起こっていいのだろうか。今日起こったことは、全部夢なんじゃないのかな。
 
 わたしは涙が止まらなくなった。泣いたのは、ずいぶん久しぶりだった。

 なんとか一緒に行きたいと返すと、彼女は嬉しそうに笑った。
 
「やった! これからよろしくね。わたし、キアラっていうの。あなたは?」
「わたしは、セラです。よろしくお願いします、キアラさん」

 これが、わたしの一生を変える、彼女との運命の出会いだった。
 
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