半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

帰ってきました

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「お母さんっ!」
「……キ、キアラ……!?」
 
 奴隷商人たちから逃げ出して、まる一日ほど経った昼。
 
 わたしは、クロとセラを連れて、お母さんのいる家にようやく帰って来ることができた。
 町から村の近くまで乗り合い馬車も出ているようだったが、お金もなかったし、なによりセラを見た町の人が嫌そうに顔をしかめたので、走って帰ることにしたのだ。

 セラがびっくりしていたが、セラをおんぶして山道を走るくらい、わたしにはなんでもなかった。ただ、少し距離があったので、途中で一晩野宿することになってしまった。セラをおぶっていると、さすがに無茶な走り方はできないので、どうしてもスピードは遅くなる。
 
 そしてようやく見慣れた小さな家が見えてきて、わたしはノックもせず、勢いよくドアを開けた。少しでも早く会いたいと思っていた母は、割れたガラスが散らばる部屋の中で、ベッドに腰掛けてうなだれていた。
 
 あまり食事を摂っていなかったのか、たった一日離れていただけのはずなのに、なんだかやつれているように見えた。
 
 そんな母が、わたしのもとへ駆けてきて、ガバッとわたしを抱きしめた。
 
「キアラ、キアラ。本当にキアラなの? 一体どうやって……!」
 
 母が涙を流しながら、わたしの体のあちこちを触って無事を確かめている。わたしはにへっと笑って、母に抱きついた。
 
「心配かけてごめんなさい。あんなやつらはぶっ飛ばしてきたから大丈夫よ。わたしを奴隷にしようとしていた奴隷商人だったみたいだけど、捕まってた人たちを逃がして通報もしてきたから、もう大丈夫だと思うわ」
「……な、なんてこと……。でも、本当に無事で良かったわ、キアラ……」
 
 母はそう言って、再びわたしを優しく抱きしめた。
 その時、クロがわたしの肩から顔を出し、母に自分の存在を主張した。
 
「まぁ、クロ。あなた、やっぱりキアラと一緒にいたのね! ふふ。もしかして、キアラを守ろうとしてくれたのかしら?」
 
 クロを撫でながら母は冗談のようにそう言ったが、実は、全くその通りだった。クロが一緒に来て色々と助けてくれていなければ、わたしは今ここにいなかっただろう。
 
 ……無事に帰って来られたし、後でちゃんと、クロに話を聞かなくちゃね。

 クロを撫でていた母が、ふとセラの存在に気づいて顔を上げる。
 
「あら? キアラ、この子は?」
「あ、えっとね、セラっていうの。奴隷商人のところに捕まっていたんだけど、友達になったのよ。行くところがないって言うから、一緒に連れてきたの」
「まぁ、そう……」
 
 母に見つめられて、セラはビクッと肩をすくませた。不安そうに瞳を揺らしている。そんなセラに、母はにっこりと笑いかけた。
 
「いらっしゃい、セラ。良く来たわね。こんなところだけれど、幸い、今は食べ物がたくさんあるの。すぐに用意するわ。服も、キアラのものでよければ貸してあげましょうね」
 
 セラの服はあちこち汚れたり破れたりしていて、ボロボロだった。わたしの服だって別にたいしたものではないけれど、着替えないよりはいいだろう。
 
「えっ、でも、あの……い、いいんですか……?」
 
 戸惑うようにおろおろするセラに、母はクスクスと笑う。
 
「子供が遠慮なんてしなくていいのよ。大変だったわね。狭い家だけど、好きなだけここにいるといいわ」
 
 母の言葉に、セラが目を潤ませる。ぐっと涙を堪えるように下を向くと、小さな声で「ありがとうございます」と言った。わたしはその横で、にこにことそんなセラを見ていた。
 
 ……ほらね。お母さんは優しいって言ったでしょう?

 母の優しい笑顔を見ていると、ふとその頬が赤くなっていることに気がついた。

「あれっ? お母さん、怪我をしてるの!?」
「え? ああ、少しね。大した事ないから、大丈夫よ」
「でも、よく見たら、血があちこちについてるわ。それに、ほっぺたはすごく痛そうよ」

 よく見たら、母はあちこち傷だらけだった。すでに血は固まっているので、わたしが気絶してしまったあと、あいつらからやられたに違いない。それなのに、今まで全く手当をしていなかったようだ。たぶんそれどころじゃないくらい、母に心配をかけてしまっていたのだろう。
 
「……あ、あの、よかったら、わたしに治させてもらえませんか?」
「え?」
「あっ、そうか。お母さん、セラはね、治癒魔法が使えるのよ!」

 わたしがそう言うと、母は驚いたように目を瞬いた。
 
「まあ、そうなの? じゃあ、お願いしてもいいかしら」
「はい、任せてください!」
 
 セラが手をかざすと、優しい光が母を包んだ。すると、母の傷はみるみるうちに治っていった。

「まぁ、すごい! 少しも痛くなくなったわ。ありがとう、セラ」
 
 母からとびきりの笑顔を向けられて、セラも照れくさそうに微笑んだ。
 
「さあ、まずは、二人とも体を洗っていらっしゃい。その間に、着替えや食事を用意しておくわ」
 
 
 
 
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