半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

過去編 サーシャ④

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 ディオとの関係は順調に深まっていった。
 これからしばらく来られなくなると言っていたのは本当だったらしく、仕事が忙しくなって大変な様子ではあったが、彼は時間を見つけては私に会いに来てくれた。
 
 ディオはいつも優しかった。
 自分の方が疲れているような顔をしているくせに私を気遣うものだから、公園のベンチで膝枕をしてあげたこともあった。
 
 会えない日は使いの人に頼んでまで、彼は毎日のように私の好物であるケーキを届けてこようとした。贅沢すぎるし太ってしまうから月に一度でいいと、私は彼を説得するはめになった。
 
 プレゼントをくれることも多かった。
 ドレスや宝石を大量に買おうとするので、使う機会がないことを説明し、洋服とちょっとしたアクセサリーにとどめてもらうのに一苦労したこともあった。
 
 初めてキスをした時は、腰が抜けるかと思うほど幸せだった。ディオも同じように幸せそうな顔をしていて、二人で顔を見合わせて微笑み合った。
 彼がいるだけで、毎日が大切で特別なものになり、私はとても幸せだった。
 
 ーーけれどそんな幸せも、長くは続かなかった。
 
 
 
「あなたがサーシャさんですね?」
「……はい、そうですが……?」
 
 ある日突然、皇室の使いだという人たちが現れて、ある高貴なお方がお呼びなので皇城へ一緒に来てほしいと言った。
 
 何かの間違いではないかと尋ねたが、間違いなくあなたをお呼びですと強く言われて、仕方なく彼らについて行くことになった。
 
 帝都に住んではいるが、皇城へ来たことは一度もなかった。私が住んでいるのは地価の安い、最も庶民的なエリアだったので、これからも行くことなんてないと思っていたのに。
 
 馬車に乗せられたまま城門を通り過ぎ、ようやく下ろされた場所の豪華さに私は身を固くした。
 仕事帰りにここへ連れてこられたので、私はいつもの普段着だった。そんな自分が場違いであると強く感じてしまい、萎縮してしまう。
 
 そんな中連れてこられたのは、美しい庭園だった。
 
 そこでは、二人の侍女を従えた豪奢な装いの女性が、優雅にお茶を飲んでいた。
 ここでこうしているということは、彼女はきっと皇族なのだろう。竜人族の証である六本の角と、尖った赤い爪がやけに印象的な人だった。 
 
「皇太后陛下。件の者を連れて参りました」
「ええ。ご苦労様」
「……っ!?」
 
 ……こ、皇太后陛下!?
 
 それはつまり、現在の皇帝の母親ということだ。そんな年齢になどとても見えないのは、恐らく彼女が竜人族だからだろう。竜人族は長寿なぶん、見た目の変化も緩やかだと聞く。 
 
 私を呼び出したのは彼女のようだが、自己紹介も挨拶もなく、まるで物を見るように私を観察し、やがて顔をしかめた。
 
「……まぁ、なんてみすぼらしい。本当にあなたが、ディオルグの囲い花なの?」
 
 ……ディオルグ? 囲い花?
  
「あの、何のことでしょうか……?」
「まぁ。誰の許しを得て話しているの? これだから、礼儀を知らない平民は嫌なのです。いいこと、平民の女。あなたなんかが、ディオルグの伴侶になれるはずがないの。そんなこと、言われなくてもおわかりにならないのかしら?」
 
 ……この方は、何を言っているの? ディオルグって……まさか、ディオのこと?
 
 皇太后の言うディオルグとは、恐らく彼女の息子である皇帝のことだろう。皇帝は確か、ディオルグという名前だったはずだから。
 
 つまり、ディオがその皇帝なのだと、この方は言っているのだろう。
 
 でも、そんなはずはない。あの気さくで優しい彼が皇帝だなんて考えたこともないし、皇帝があんなに気安く街を出歩けるはずがないではないか。
 
 そう思うのに、私の中でなぜか妙に納得してしまう部分があることに、背筋が震えた。
 
 ディオと交際を重ねていく間に、家名や仕事を尋ねなかったわけではない。むしろ、ずっと気になっていたことだ。彼が普段どんな立場で、どんな仕事をしているのか。
 
 けれど、彼はいつも答えをはぐらかしていた。「そのうち話すから、もう少しだけ待っていてほしい」とか、「君といる時に仕事の話はしたくないんだ」などと言って困ったような顔をするので、彼が自分から話してくれるのを待とうと思っていたのだ。

 何か今は言えない理由があるのだと思ったし、彼がどんな立場の人でも、私が彼を愛していることは変わらないのだから、それでもいいと思っていた。
 
 ……でも、彼が実は皇帝なんだとしたら?
 
 思わず体から血の気が引く。
 いち貴族が平民を伴侶にするのと、皇帝がそうするのでは訳が違う。
 貴族は家門の繁栄のためにより良い縁を結ぼうとするが、皇帝は国の繁栄ためにより良い縁を結ばなければならないのだ。
 もしディオが皇帝だったなら、私がずっと彼の隣になんていられるはずがない。だって、皇帝の伴侶とは、帝国の皇后になる人のことなのだから。
 
 私は震える手をギュッと握った。きっと顔は青ざめていたに違いない。
 
 皇太后はそんな私をどう思ったのか、興味をなくしたように冷めた目を私へ向けた。
 
「さぁ、もう帰りなさい。自分がどうすべきか、あなたにも理解できたでしょうから」
 
 
 
 
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