半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

文字の大きさ
63 / 171
第一章

過去編 サーシャ⑤

 私は特に何も口に出すことがないまま、皇城を追い出された。
 決して居心地が良い場所ではなかったのでそれは良かったのだが、皇太后の言葉は延々と私の心を締めつけていた。
 
 ……ディオは、本当に皇帝なのかしら?
 
 だとしたら、この先もずっと一緒にいたいという彼の言葉は、嘘だったのだろうか。
 恋人で終わるつもりはない、とは言われたけれど、私たちははっきりと将来のことを約束したわけではない。

 もしかしたら、彼は血筋のしっかりした皇后を別に置いて、私のことは側妃か愛人にするつもりなのかもしれない。
 
 嫌な考えが次々と頭を巡る。ディオはそんな人ではないと思うのに、彼は仕事の話を一度もしてくれたことがないから、私は彼のプライベートな面しか知らないのだ。もしかしたらディオは皇帝としての別の顔を持っていて、その彼は私を愛人とすることも良しとするかもしれない。
 
 ……でも、私にはそんなこと、耐えられそうにないわ。
 
 愛する人が他の女性といる姿を、ずっとそばで見ているなんて辛すぎる。でも、それならば私はディオと別れたいのだろうか。もう、彼がいない生活なんて考えられないくらい、彼のことが好きなのに。
 
「……一人で考えていても仕方ないわ。ディオに、ちゃんと確認してみないと……」
 
 そう声に出してみるけれど、私の胸には、暗雲のように立ちこめる黒い不安が渦を巻いていた。
 
 
 ◆
 
 次にディオが姿を見せたのは、それから二週間後だった。
 その間に、私の胸にはすっかりと、落ちない染みのように疑念が巣食ってしまっていた。
 
「サーシャ! やっと会いに来られたよ。久しぶり、会いたかった!」
「ディオ……」
 
 彼は先触れ通りの時間に私の部屋へ現れると、普段と何も変わらない様子で私を抱きしめて、頬に軽くキスをしてくれた。いつもなら幸せで胸がいっぱいになるはずなのに、今日はまるで穴が空いているかのように、私の胸から幸せがすり抜けていく。
 
「サーシャ? どうかした?」
「ディオ。私、あなたに訊きたいことが……」
 
 言いかけて、言葉に詰まった。
 あなたは皇帝なのかと訊いて、そうだと言われたらどうしよう。彼の口から私を側妃にするつもりだなんて言われたら、きっと泣いてしまうと思う。
 
 そんなことをして、もし、彼に面倒だと思われたら。
 もしかしたら、今ここで、この恋が終わってしまうかもしれない。
 
 ……そんなの嫌!
 
 元々、彼のことは彼が話してくれるまで待とうと思っていたのだ。
 なら、わざわざ今核心に触れて、すぐにこの曖昧で幸せな関係を終わらせる必要はないはずだ。
 
 少しでも長く、ディオといたい。
 
 私はその思いから、彼の正体と二人の未来について、これ以上考えるのを止めた。この夢のような幸せに、少しでも長く浸っていたい。
 
「その、今日の夕食は何を作るか、まだ決められなくて……。あなたの希望を訊きたいなって」
「なんだ、そんなこと? サーシャの作る料理は全部美味しいから、何だって嬉しいのに」
 
 なんとか笑顔を作り、そう誤魔化して、私は結論から逃げた。
 けれど、逃げ続けることさえ許されないのだと、私はすぐ知ることになった。
 
 
 ◆
 
「サーシャさん。あのお方が再びあなたをお呼びです」
「……はい……」
 
 私は皇太后から再び呼び出しを受けた。行きたくはないが、私の身分を考えれば、断ることなどできるはずもない。
 
 しかし、まだディオの口から彼の正体について聞けていない。彼からきちんと話してくれるまで、私は皇太后から何と言われようとも、別れるつもりはなかった。
 
 ひどい言葉で罵られることを覚悟して赴いた皇城で待っていたのは、気味が悪いほど綺麗な笑みを浮かべた皇太后だった。
 
「今日は、あなたにいいものをお見せしようと思って呼んだのよ。こちらへいらして」
 
 皇太后に連れられて向かった先で、私は信じられないものを見た。
 
「……ディオ……?」
 
 いつもの過度な装飾のないラフな服ではなく、仕立てのいい豪奢な服を着て、悠然とお茶の席についている、彼の姿だった。

 周囲に大勢の使用人を侍らせて、慣れた様子でティーカップを口に運んでいる。その姿の、なんと自然なことだろう。
 
 見たことのない彼の姿に肩が震えた。皇城の庭園であんなふうに振る舞える人は、きっと一人しかいない。
 
 ……ああ。やっぱり、彼は皇帝だったんだわ。
 
 こんな形で知りたくはなかった。きちんと彼の意思で話してくれるのを待っていたかった。けれど、私をここへ連れてきた女性は、それを許してくれなかったらしい。
 
「あの二人、とてもお似合いでしょう? 彼女が息子の婚約者なのよ」
「……婚約者?」
 
 ディオにばかり目が向いてしまっていたが、確かに、彼は一人ではなかった。
 眩しくきらめく豊かな金色の髪を持つ、美しい竜人族の女性が、彼の隣で幸せそうに微笑んでいた。
感想 19

あなたにおすすめの小説

異世界で食堂を開いて十七年、常連だった子どもたちが騎士団長と宰相補佐と聖女になって迎えに来ました

他力本願寺
ファンタジー
〜元看護師の女将は、王弟殿下に人生ごと大切にされます〜 医師の夫に「看護師なんて医師の指示がなければ何もできない」と自信を奪われた元看護師の私。 異世界で食堂を開いて十七年、温かいご飯を出していただけなのに、昔の常連が騎士団長・宰相補佐・聖女になって王宮から迎えに来た。 食べられない王太子を助けてほしいらしい。しかも昔の常連だった王弟殿下まで、「今度は私があなたの人生を守りたい」と言い出して――? ※毎日2話更新 ■詳細あらすじ 前世の私は、元看護師だった。 けれど医師の夫と結婚してから、仕事も誇りも友人も、少しずつ失っていった。 「看護師なんて、医師の指示がなければ何もできない」 そう言われ続け、自分の価値が分からなくなった私は、夫との決別を決めた日に命を落とす。 そして目覚めたのは、魔法と魔物のいる異世界だった。 二度目の人生で望んだのは、誰かのために自分をすり減らさないこと。 私は王都近郊の宿場町で、小さな食堂《灯火食堂》を開いた。 温かいスープ。 柔らかいパン。 体調に合わせた食事。 手を洗いなさい、急いで食べなくていい、今日はもう休みなさい。 私にできたのは、そのくらいだった。 それから十七年。 昔の常連たちが、騎士団長、宰相補佐、聖女、魔術師団長、大商会長になって迎えに来た。 食べられなくなった王太子を助けてほしいという。 さらに、かつて身分を隠して店に通っていた王弟殿下まで現れて―― 「あなたを王宮のものにしたいのではありません。あなたがあなたの人生を選べるよう、今度は私が守りたい」 いやいや、私はただの食堂の女将なのですが? これは、前世で軽んじられた元看護師が、異世界の台所から人と国を癒やし、今度こそ自分の人生を選び直す物語。

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」 ◇◇◇◇  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。 ※作品の無断転載、AI学習など一切を固くお断りいたします。(Do not reupload / use my writing for any purposes, including for AI)

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!

楠ノ木雫
恋愛
 朝目が覚めたら、自分の隣に知らない男が寝ていた。  テレシアは、男爵令嬢でありつつも騎士団員の道を選び日々精進していた。 「お前との婚約は破棄だ」  ある日王城で開かれたガーデンパーティーの警備中婚約者に婚約破棄を言い出された。テレシアは承諾したが、それを目撃していた先輩方が見かねて城下町に連れていきお酒を奢った。そのせいでテレシアはべろんべろんに酔っ払い、次の日ベッドに一糸まとわぬ姿の自分と知らない男性が横たわっていた。朝の鍛錬の時間が迫っていたため眠っていた男性を放置して鍛錬場に向かったのだが、ちらりと見えた男性の服の一枚。それ、もしかして超エリート騎士団である近衛騎士団の制服では……!? ※他の投稿サイトにも掲載しています。 ※この作品は短編を新たに作り直しました。設定などが変わっている部分があります。(旧題:無慈悲な悪魔の騎士団長に迫られて困ってます!〜下っ端騎士団員(男爵令嬢)クビの危機!〜)

婚約破棄され生贄にされた身代わり令嬢、隣国の冷徹皇帝に執着溺愛される〜実は世界最強の聖女なので、今さら戻れと言われても困ります〜

葉山 乃愛
恋愛
「お前のような無能は、我が家の恥だ。  人食い皇帝への生贄にでもなってこい」 伯爵令嬢シエラは、実の父に殴られ、 婚約者の第一王子から婚約破棄を突きつけられた。 異母妹に「聖女」の座を奪われ、ボロボロの馬車で隣国へ売られたシエラ。 雨の中、絶望と共に死を覚悟した彼女を待っていたのは、 恐ろしい怪物などではなく―― 「黒狼皇帝」と恐れられるゼノスからの、狂おしいほどに熱い抱擁だった。 「十年間、一日たりとも忘れたことはない。  ……今度こそ、二度と離さないぞ」 冷徹なはずの皇帝が、シエラにだけ見せる甘すぎる執着と、狂気的な独占欲。 極上のドレス、魔法のスープ、そして注がれる終わりのない愛。 一方、シエラという「真の聖女」を捨てた母国は、 彼女が国境を越えた瞬間に、国を護っていた結界が完全崩壊。 未曾有の天災に襲われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「……私の居場所は、もうここ(陛下のお膝)にあります。  滅びゆく国など、存じ上げませんわ」 自分を愛してくれる人のため、シエラは無自覚に最強の力を開花させていく! 不遇な令嬢が世界を救い、ゴミを掃き散らす 大逆転溺愛シンデレラストーリー、開幕!