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「アリス。もしかして、口に合わなかった?」
ジェイドが気づかわしげにかけてくれた声で、我に返る。
そうだ。せっかくジェイドがお茶を淹れてくれたのに、私ったら、ぼーっとして。毎日勉強ばかりしているから、ちょっと気分が落ち込んでしまっていたのかもしれない。
「う、ううん。とってもおいしいわ。ありがとうジェイド」
ジェイドは、私の従者としてそばにいてくれることになった。家族同然の存在なのに上下関係ができてしまったようで、最初は悲しかったけれど、少しずつ慣れてきた。人目がある時以外は、言葉遣いを普通にしてくれているからというのもあるかもしれない。
初めはあまりおいしくなかった紅茶も、ジェイドは今ではすごく上手に淹れることができる。私たちにあまり優しくない人々に囲まれながらも、ジェイドは自身の努力で様々な技術を身に着けていっているようだ。元々平民育ちの割には粗野な印象のなかった彼だが、身のこなしや言葉遣いが洗練され、すっかり貴族の従者が板についてきた。私と違って家庭教師に教わっているわけじゃないはずだから、元々のスペックが高いのかもしれない。
「じゃあ、何か他に気にかかることでもあるの? 元気がないように見えるよ」
「そ、そんなこと……」
ジェイドがジトっとした目を向けてくる。すっかり心配性の従者になってしまったみたい。
「……実は、ちょっと心配なことがあるんだけど、でもこれは、今心配しても仕方がないことを、つい不安に思っちゃうだけというか……」
「それでも、良かったら話してみて。何か僕にもできることがあるかもしれないし」
話すって言っても、それはつまり、私に前世の記憶があることから話さないといけないわけで。いきなり「実はここは乙女ゲームの世界で、私はヒロインなの!」なんて言ったら、頭がおかしくなったと思われてしまうのではないだろうか。いくらジェイドでも、信じてくれるはずがない。
ここはごまかすしかないか、とジェイドの方を見ると、思ったより近くに彼の顔があった。
「ジェ、ジェイド?」
「アリス、ごまかそうと思ってるでしょう」
「うぇっ!?」
ばれてる!?
一体どうして、と口をパクパクさせていると、ジェイドがさらに顔を寄せてきた。近い近い。その無駄にいい顔をそんなに見せつけないで!
「アリス、僕に隠し事はなしだよ。僕たち、今はもうたった二人の家族じゃないか」
そう言われて、私はぐっと言葉に詰まった。今は男爵家の養女となっているので書類上の家族は彼らなのだが、お互いに家族の情は全く持っていない。それに対して、私とジェイドは血も繋がっていないし、書類上でさえ家族ではないのに、母と三人で暮らしていた頃から、私たちは家族だった。母が亡くなってしまった今は、確かにジェイドだけが私の家族だ。
「でも、その……言っても信じてもらえないような話っていうか……」
「信じるよ。アリスが僕に嘘を吐く理由なんてないじゃないか」
真っ直ぐにこちらを見つめるジェイドの真剣な眼差しに、私はおずおずと頷いた。
そして私は、ここへ来て熱を出したことで、前世の記憶を取り戻したことを伝えた。
乙女ゲームについて説明するのが難しかったので、ここがヒロインがどの選択肢を選ぶかによって結末が変わる物語の世界であり、私がその物語のヒロインと、容姿も名前も状況も同じであることを説明した。
「本当にここがその物語の世界で、私がヒロインなのだとしたら、私はちゃんとハッピーエンドを迎えることができるのか、もしバッドエンドになってしまったらどうなるんだろうって、不安になっちゃって……」
「……」
ジェイドは難しい顔をして黙り込んでしまった。私にとっては紛れもない事実であるとはいえ、到底信じられないような話であることはわかっているので、それも仕方がないことだと思う。おかしな顔をされなかっただけ良かったと、私はホッとした。
「……質問がいくつかあるんだけど、いい?」
ジェイドが気づかわしげにかけてくれた声で、我に返る。
そうだ。せっかくジェイドがお茶を淹れてくれたのに、私ったら、ぼーっとして。毎日勉強ばかりしているから、ちょっと気分が落ち込んでしまっていたのかもしれない。
「う、ううん。とってもおいしいわ。ありがとうジェイド」
ジェイドは、私の従者としてそばにいてくれることになった。家族同然の存在なのに上下関係ができてしまったようで、最初は悲しかったけれど、少しずつ慣れてきた。人目がある時以外は、言葉遣いを普通にしてくれているからというのもあるかもしれない。
初めはあまりおいしくなかった紅茶も、ジェイドは今ではすごく上手に淹れることができる。私たちにあまり優しくない人々に囲まれながらも、ジェイドは自身の努力で様々な技術を身に着けていっているようだ。元々平民育ちの割には粗野な印象のなかった彼だが、身のこなしや言葉遣いが洗練され、すっかり貴族の従者が板についてきた。私と違って家庭教師に教わっているわけじゃないはずだから、元々のスペックが高いのかもしれない。
「じゃあ、何か他に気にかかることでもあるの? 元気がないように見えるよ」
「そ、そんなこと……」
ジェイドがジトっとした目を向けてくる。すっかり心配性の従者になってしまったみたい。
「……実は、ちょっと心配なことがあるんだけど、でもこれは、今心配しても仕方がないことを、つい不安に思っちゃうだけというか……」
「それでも、良かったら話してみて。何か僕にもできることがあるかもしれないし」
話すって言っても、それはつまり、私に前世の記憶があることから話さないといけないわけで。いきなり「実はここは乙女ゲームの世界で、私はヒロインなの!」なんて言ったら、頭がおかしくなったと思われてしまうのではないだろうか。いくらジェイドでも、信じてくれるはずがない。
ここはごまかすしかないか、とジェイドの方を見ると、思ったより近くに彼の顔があった。
「ジェ、ジェイド?」
「アリス、ごまかそうと思ってるでしょう」
「うぇっ!?」
ばれてる!?
一体どうして、と口をパクパクさせていると、ジェイドがさらに顔を寄せてきた。近い近い。その無駄にいい顔をそんなに見せつけないで!
「アリス、僕に隠し事はなしだよ。僕たち、今はもうたった二人の家族じゃないか」
そう言われて、私はぐっと言葉に詰まった。今は男爵家の養女となっているので書類上の家族は彼らなのだが、お互いに家族の情は全く持っていない。それに対して、私とジェイドは血も繋がっていないし、書類上でさえ家族ではないのに、母と三人で暮らしていた頃から、私たちは家族だった。母が亡くなってしまった今は、確かにジェイドだけが私の家族だ。
「でも、その……言っても信じてもらえないような話っていうか……」
「信じるよ。アリスが僕に嘘を吐く理由なんてないじゃないか」
真っ直ぐにこちらを見つめるジェイドの真剣な眼差しに、私はおずおずと頷いた。
そして私は、ここへ来て熱を出したことで、前世の記憶を取り戻したことを伝えた。
乙女ゲームについて説明するのが難しかったので、ここがヒロインがどの選択肢を選ぶかによって結末が変わる物語の世界であり、私がその物語のヒロインと、容姿も名前も状況も同じであることを説明した。
「本当にここがその物語の世界で、私がヒロインなのだとしたら、私はちゃんとハッピーエンドを迎えることができるのか、もしバッドエンドになってしまったらどうなるんだろうって、不安になっちゃって……」
「……」
ジェイドは難しい顔をして黙り込んでしまった。私にとっては紛れもない事実であるとはいえ、到底信じられないような話であることはわかっているので、それも仕方がないことだと思う。おかしな顔をされなかっただけ良かったと、私はホッとした。
「……質問がいくつかあるんだけど、いい?」
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