乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子

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恋がしたい

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「え、うん。もちろん」

 私はジェイドの質問に、できるだけ丁寧に答えていった。概要を読み込んだだけでストーリーの流れなどは知らないこと、登場人物たち五人の情報はある程度わかること、ヒロインの選択によって、結末はハッピーエンドにもバッドエンドにもなること。

「その物語は、ヒロインが魔法学園に行くことによって始まるんだよね? それなら、なんとか魔法学園に行かずに済む方法を考えた方がいいんじゃないかな。そうすれば、少なくともバッドエンドにはならずに済むよ」
「うーん。私は光魔法を使えることで男爵家の養女になったから、学園に行かないっていうのは難しいんじゃないかな。……それに、不安ではあるけど、少し楽しみでもあるの。前世では病弱で、恋なんてしたこともなかったけど、もし私がヒロインなら……登場人物の誰かと、素敵な恋愛ができるかもしれないじゃない?」
「……」

 恋をしてみたいなんて言うのは少し照れくさくてうつむいていたら、ジェイドはまた黙り込んでしまったようで、返事がない。呆れられてしまったのかな。

「な、なーんて……」
「アリスは」

 言葉がかぶってしまい、ふと視線を合わせる。
 思いがけず真剣な表情のジェイドと目が合った。

「アリスは、その登場人物の誰かと、恋がしたいってこと? 相手はその中の誰かじゃないと、絶対に駄目なの?」

 射抜くようなジェイドの眼差しに、少しひるんでしまう。彼のこんな顔は、初めて見た気がする。

「そ、そういうわけじゃないけど……登場人物たちは、事前情報ではみんな素敵な人ばかりだったし、彼らならみんな男爵が認める高位貴族だもの。それにストーリー上の関わりがあるはずだから、仲良くなれる機会も多いんじゃないかなって」

 ジェイドを連れてきてもらう条件として、私は必ず男爵が望むような高位貴族と結婚しなければならないのだ。攻略対象の誰かとハッピーエンドを迎えることができれば問題ないはずだと思っていたけれど、もし私がヒロインでなかったら、大変なことになってしまうかもしれない。

 私だって、一度くらいは恋をしてみたい。前世では、一度も経験しないまま死んでしまった。
 漫画ゲームのように、ときめきに溢れた恋じゃなくてもいい。攻略対象たちのように素敵な人じゃなくてもいい。でも、お互いを想い合える人と恋をして、結婚したい。
 それなのに、もし学園で高位貴族の誰かと恋人になれなかったら、きっと将来は、男爵が選んだ人と結婚することになるだろう。もしかしたら、乱暴な人や、男爵みたいな嫌な人と結婚させられてしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。

「……そっか。でも、本当にここがアリスの言う物語の世界なのかはまだ確証がないんだよね? 悩むのは、それがはっきりしてからでもいいんじゃないかな」
「そうだけど……どうやって確かめるの?」

 ジェイドはにっこりと、綺麗な笑みを浮かべた。

「僕が確かめてきてあげる。アリスが言う登場人物たちが、実際に存在するのかを」

 ……そっか! まだ学園に入学していないとはいえ、ここが本当に物語の世界なら、私と歳の近い攻略対象たちは、すでに存在しているはずよね。私だけじゃなくて攻略対象たちもこの世界に存在するなら、ここが「恋する魔法学園のアリス」の世界だと、もっとはっきり認識できる。

「でも、そんなことできるの? 登場人物たちは公爵子息や、王子様までいるのよ。嗅ぎまわったりしたら、怪しまれるんじゃ……」
「大丈夫。多少時間はかかるかもしれないけど、上手くやるよ。そういう伝手もあるし」

 ……どういう伝手!? ジェイドってば、いつの間に私の知らない人脈を作っていたのかしら。
 でも、自信満々の彼の様子からして、きっと心配はいらないのだろう。

「ありがとう、ジェイド! じゃあ、お願いしてもいい?」
「もちろん。じゃあ、それぞれの登場人物の情報を、知っている限り詳細に教えて? アリスが知っている情報と、状況や境遇が異なる場合もあるかもしれないから、調べておくよ」



 
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