【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino

文字の大きさ
37 / 72
3章 引退を考える今日この頃

36.将来の事

しおりを挟む

 俺は尚輝くんが大人しくしてるのを良い事に、顔をベタベタと触っていると、その手を掴まれて止められた。
 あ、やり過ぎたか。尚輝くんは少し不機嫌そうに俺を見た。


「伊吹さん、あまり触られると困ります」

「ごめん!肌綺麗だなぁってつい」

「ただ隣にいるだけでもギリギリなのに、それ以上誘惑しないで下さい」

「誘惑?顔を触るのが?」

「そうですよ。俺、今伊吹さんにエロい事したいのめちゃくちゃ我慢してます」

「エロッ!?嘘!?」

「嘘じゃありませんよ。好きな人とこうしてたらそう思うのは当然でしょ?」

「そうだけど……へー、尚輝くんもエロい事考えたりするんだ~」


 真面目だからそういうのには奥手って言うか、尚輝くんがエロい事を考えてるとは思わなかった。
 いや、男だし考えるのは当たり前か。
 

「じゃあ例えばエロい事って何?尚輝くんは何を我慢してるの?」

「…………」

「おーい?尚輝くん?」


 俺の質問に固まる尚輝くん。
 ちょっと気になったんだ。俺はゲイに出会った事がないから、男相手にそう言う感情が湧くのがイマイチ分からないんだ。
 客のおっさんで体の関係を求めて来る人ならいたけど、それは趣味とかそういうのだろ?金を払うとか言ってたし、尚輝くんの感情はそれとは違うと思うんだ。

 多分、俺が女の子に対して抱く感情と同じやつだと思う。
 それならどこまで男である俺としたいと思って、どこまで出来るのか知りたかった。


「俺は伊吹さんを抱き締めたいです。そしてキスをしたいと思ってます」

「……普通だ」


 思わず声に出しちまった。
 それなら男が女に対する感情と変わらない。
 俺のポロっと出た言葉に尚輝くんは微笑んで、体ごとこっちを向いて言葉を続けた。


「普通ですよ。俺は伊吹さんの時間をお金で買ってますけど、それ以外は全て普通に20歳の男として伊吹さんの事が好きなんです。だから、こうして同じベッドにいると手を出したくなります」

「手を出す……」


 俺が少し身構えると、困ったように笑った。
 そして優しい笑顔になって、真っ直ぐに俺を見て言った。


「今は手を出しませんよ。ちゃんと伊吹さんも俺の事を好きになってくれるまで、その時まで楽しみに取っておくんです♪だから添い寝が今の俺の精一杯のワガママです。叶えてくれてありがとうございます」

「尚輝くん……君って子はぁ~!良い子過ぎる!!」


 本当にどっかの青いうるさい20歳の男とは大違いだ!あいつなら添い寝なんかしたら間違いなく襲ってくるな!

 あ!また俺は他の客の事を!
 俺は首を振って嫌な思い出を振り払い、目の前の尚輝くんに向き直って、心からの笑顔を浮かべる。


「こんなおじさんと過ごしてくれて、俺の方こそありがと♪尚輝くんといると楽しいよ。なんか若返った気持ちになる」

「おじさんて……伊吹さんはお兄さんです!あの、伊吹さんは年齢を気にされてますか?」

「え?別に気にしてないけど……あ、そりゃ尚輝くんみたいに若い子と話す時は気にするよ?話しててやっぱ若いなぁって思う事あるし」

「例えばどんな時でしょうか?」

「多いのは、やりたい事とかが多いなって思うかな。ほら、俺なんてただのフリーターだから趣味もなければやりたい事もないからさ~。いろいろやりたい事があって、楽しそうにしてるの見るといいなぁって思うかな」

「伊吹さんから見てそんな風に思われていたんですね。俺は何もない方ですよ?周りはバイトとかサークルとかでもっと忙しそうにしてます。俺はしても勉強ばかりなので、伊吹さんの想像の大学生とか違いますよ」

「勉強好きなんだ?」

「普通ですね。卒業したら父の会社を継ぐ予定なので多少は頑張らないとって思ってます」

「うへ!?尚輝くんって社長になんの!?」

「まぁいずればなるでしょうね。一人息子なので。でもいきなりはなりませんよ?まずは父の会社で一から学んでゆくゆくはって感じですかね」

「ちなみに何の会社やってんの?」

「大手玩具メーカーです。子供向けから大人向けまで幅広く展開していて、父はいつも忙しそうにしています」

「すげぇね!それを継ぐんだ~」

「息子の俺から見ても父は凄いと思います。父は社交的で、明るい性格なのですが、俺はこの通り人付き合いが苦手なので、そこも勉強しなくてはいけません。意外と一番の難問だったりもします」


 困ったように笑う尚輝くんの話を聞いて改めてしっかりしてんなぁって思った。
 俺とは違ってちゃんと将来の事を考えて勉強してんだな。


「大丈夫だよ。尚輝くんなら立派な社長になれるよ。俺で良ければ対人スキル磨くのに使ってよ♪接客は得意な方だからさ♪」

「嬉しいです♪伊吹さんと話すのは楽しくて、普段は出ないような言葉も出てくるのでとても勉強になります♪」

「そんじゃこれからもよろしくって事で♪」

「はい♪よろしくお願いします♪」


 その後も俺と尚輝くんはベッドの上で寝転がりながらお互いの話をして過ごした。
 まるでとても仲の良い友達のように。
 俺にもいたなこんな友達が。時間を忘れて語り合ったり、馬鹿騒ぎしたり、時には真面目な話したり。

 久しぶりに味わった懐かしいこの楽しい時間をくれた尚輝くんに、逆に俺がありがとうと言いたい気分だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

処理中です...