【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino

文字の大きさ
40 / 72
3章 引退を考える今日この頃

39.体力の限界

しおりを挟む

「その反応は寝たのか」

「寝てねぇよ!!」


 ルナがニヤニヤしながら勘付く。
 多分ルナの言う寝たってのはセックスしたかしてないかって意味だから俺は嘘はついてねぇ。

 俺がテーブルに吹き出したビールを拭いてると、ルナは楽しそうに笑いながら俺に近付いて来る。まるで猫のように床を這って来る。


「絶対寝たでしょ~♪あの伊吹が枕するとかどんな奴~?聞かせて聞かせて~♪」

「だから寝てないって!もー茶化すな!」

「だって~、気になるんだもん♡」


 俺の隣まで来てピトッと体をくっ付けて甘えてくる。ルナ狙いの客ならコロッとやられていただろうな。だがしかし!俺はこんな誘惑には屈しない!相手がルナだからな!てか寝てねぇし!!


「それ以上聞くなら追い出すぞ

「!!」


 俺が千太郎と呼ぶと、ルナはピクッと反応した。
 ルナの本名は千太郎だ。本人はって付くのを嫌がっている。だからワザと呼んだんだ。


「あー、ハイハイ。もう辞めますよ~」

「ルナ良い子♪お前はどうなの?順調?」

「まぁそれなりかな~?てか最近客付き悪くてさ~」

「あ、ルナも?」

「伊吹もなんだ~、やっぱり長くやってると飽きられるのかね~。最近若い子入ったから女性客はみんなそっちに流れちゃうんだよなぁ」


 つまみのポテトチップスをつまみながらルナは言った。
 やっぱりそろそろ安定した仕事を探すべきか。収入が無くなる前に手を打たないとな。


「ルナ、これまだ店長とかには言わないで欲しいんだけどさ」

「なぁに?」


 何を思ったのか俺は、ルナにこのバイトを辞めようとしてる事を話そうと思った。
 酒が入ったからか、同業だからかは分からない。
 少なくともルナは一番俺に近い立場の男だ。だからかルナに相談するのも有りかと思ってしまった。

 サラサラの綺麗な髪を細い指で耳に掛けて微笑みながら俺を見て来るルナに、俺はビールをちびちび飲みながら話し始めた。


「俺さ、辞めようと思ってんだよね。そろそろ潮時かなって。まともな昼職探して安定した生活しようと思ってるんだ」

「!!!!」


 ルナは想像以上に驚いた顔をして固まった。
 普段は切れ長の細めの目を大きく見開いているその顔が面白くて俺が笑うと、ルナはキッと睨んで見て来た。
 怖っ!!こいつたまに怖ぇ顔するよなぁ!!


「いつ辞めるんだ?」

「そこまでは決めてない。とりあえず仕事探してそれからかな」

「土曜の客か」

「は?」

「伊吹!!」

「なっ何だよっ!?」


 訳の分からない事を言い出したかと思ったら、ルナは俺が持ってた缶を取り上げてテーブルに置いた。そして俺に振り返り、ガバッと抱き付いて来た。
 いきなり何だぁ!?酔っ払ってんのか!?

 俺は油断してそのまま床に押し倒されてしまった。
 やべ!ルナとは身長や体格はそんな変わらねぇのに、力で負けるなんてなんたる屈辱!
 でもルナは客じゃねぇ!ここは俺も男を見せるぜ!!


「痛ぇなぁ!お前良い加減に……お!?」


 ルナの体を押し返そうと力を込めるけど、ヒョロい筈のルナはびくともしない。
 ええー!?こいつって普段はヘラヘラヒョロヒョロしてんのにぃ!?


「伊吹は客には本気にならないと思ってたのにまるで裏切られた気分だ」

「ひぃ!!お前目が怖ぇから!!」


 また訳の分からない事を言いながら吊り目でキッと睨んで来るキツネ野郎。
 あーもうマジ何なの!?
 こうなったら接客モードで乗り切るか!


「あ、あのさ、ルナ?重いから離れてくれない?俺、ルナとは仲の良い友達でいたいんだよ。だからさ、こんな乱暴な事は辞めてよ?ね?お願い」

「へー、伊吹って興味ない客にはそんな風になるんだぁ♪その顔でそんな風に言われたら躊躇しちゃうだろうね~♪」


 ニカァッと笑って俺の両腕を掴んでそのまま頭の上に組まされる。
 まるで効いてねぇじゃねぇか!
 どうする俺!?キツネの交わし方なんて知らねぇよ!!

 てかよぉ、俺って元々体力ねぇし、こんなに長い時間格闘みてぇな事出来ねぇんだよ。歳のせいかめちゃくちゃ疲れるんだわ。
 言うてもルナはまだ23歳だろ?若いよ。2個しか違わないけど、全然若さが違うんだって。

 おじさんこのままキツネに食われるんかなぁ?


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

処理中です...