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3章 引退を考える今日この頃
40.ルナの特別
しおりを挟む何が気に食わないのか分からないし、何で突然こんな事されてんのかも分からない。
ルナは前からベタベタするのが好きな奴だったけど、こんな風に乱暴にされるのは初めてだった。
あ、本名呼んだのがマズかったのか?
確かに自分の名前を嫌ってるのにワザと言ったのは悪かったよ。でもそんな怒るかね?
てか親から貰った名前なんだからそんな嫌うなよ。くそー、俺にもっと体力があったら逆に説教してやるのになぁ。
もうこの状況に諦めて来ていて、ぼんやり意味のない事を考えてると、ルナの腕の力が緩んであっさり解放された。
そして俺を睨むのも辞めて何故か頭を撫でられた。
謎は深まるばかり!!
「伊吹さ、辞めないでよ」
「え?あ、店の事?」
ルナは俺に跨ったままだったけど、上半身を起こして体勢を整えながら確認すると、コクンと頷いた。
なんだよ、その事かよ。
「伊吹がいなくなったら、俺やだ」
「俺がいなくなったらって、直接一緒に働いてる訳じゃないし、仕事では関わりないじゃん。むしろ俺の客がルナに流れるかもだから喜ぶとこじゃね?」
「伊吹のお古なんていらねぇよ!俺は伊吹がいたからここまでやって来れたんだ!伊吹がいないなら俺も辞める!」
「はぁ?別にお前が辞めても俺には関係ないからいいけど……とりあえず落ち着けよ」
俺がいたからここまでやって来れたって言ったな?
俺ルナに何かしてやったっけ?むしろうるせぇって酷い扱いしかしてない気もするけど?
「ルナ、何で俺にこだわるんだ?俺らって頻繁に会う訳でもないし、特別親しい訳でもなくね?」
「伊吹は覚えてないかもしれないけど、上京してから初めて優しくしてくれた男なんだ!だから、俺にとって伊吹は特別なんだよっ」
ルナの言う事に開いた口が塞がらない。
俺、そんな優しい事言ったっけ?
自分で言うのもなんだけど、客以外に媚び売るような事は言わねぇぞ。
そんな俺がいるなら自分で会ってみたいもんだ。
「ルナと初めて話したのは覚えてるよ。事務所だろ?あの時の俺は始めて1ヶ月とかで、送迎頼んでた頃だ。事務所で待機してたらルナが来て、店長と面接を始めたんだ」
「その時だよ、優しい言葉をくれたのは」
うーん、そう言われてもなぁ。
てか思い出さなきゃダメー?別にそんな大事な事でもなくない?
あの時の事を思い出すとしたら、ルナは今よりも派手で、アクセサリーを付けられる所全てにジャラジャラ付けた柄の悪い若者だったって事ぐらいだぞ?今は無くなったけど、顔面にピアス付けてるの見た時は引いたなー。
正直さ、ルナとは同僚ってだけで昔から仲の良い友達って訳でもないし、これからもすげぇ仲良くしたいって間柄でもない。
んでもこのままだとルナの性格上面倒くせぇしなぁ。絶対思い出すまで帰らない!とか言い出しかねない。
そんな事になったらせっかくのオフが台無しだ!
「ルナ、俺はこう思うんだ。出会いも大切だけど、もっと大切なのは今なんじゃないか?だからお互い過去は振り返らずに前を向いて行こうじゃねぇか♪」
「うるせぇよ、昔の漫画のキザなセリフみてぇな事言って誤魔化してんじゃねぇよ」
「クソ生意気!!」
「はぁ、もう思い出さなくてもいいよ。でも、伊吹は特別ってのは本当だから。だから伊吹が辞めるなら俺も辞める。店長に言うわ」
「おい!約束が違うじゃねぇか!店長に話すなって言っただろ!」
「それは伊吹が辞めるって事だろ~?俺自身が辞めるのは言うなって言われてないし~?」
「ああ!?待て!それはそうだけど、ルナが辞めるってなったら絶対店長が騒ぐぞ?そんで俺に連絡が来るだろ!」
「だろうな。俺伊吹の事大好きだもんな♡」
テーブルに肘を付いて片手に顎を乗せてニッコリ笑うルナ。
そうなったら俺も辞めるのかって絶対聞かれるじゃん。しらばっくれればいいけど、店長がうるさくなるのは嫌だ!電話で済めばいいけど、最悪家まで押し掛けて来そうだ!
「ルナ、頼むから辞めるなら大人しく辞めてってくんね?俺を巻き込まないでくれ」
「じゃあさ、土曜の客の事教えてよ。そしたら騒いだりしないから」
「ん?まだ気になってんのかよ」
尚輝くんの事か。別に詳しく教えなければいいだけで、どんな感じなのかぐらいなら話してもいいけど。
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