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3章 引退を考える今日この頃
41.9割だと思え
しおりを挟む俺はビールを飲み直しながらルナに尚輝くんの事を簡単に教えてあげた。
年齢、性別、どんなデートをして、どんな話をしたのか、名前や学生だって事とかは伏せて軽く話した。あとゲイだってのもな。
ルナは大人しく聞いていた。
「ふーん、聞いてる限り普通だな。それで良くあんな長時間一緒にいられるな。退屈じゃないの?」
「退屈には感じないかな、本当良い子でさ、実は辞めようか悩んだのはその子の影響もあるんだ」
「はぁ!?やっぱりそいつのせいかよ!!」
大人しくしていたルナがまた声を荒げて食い付いた。うわ、言わなきゃ良かった!
「なぁハッキリ言ってくれよ!伊吹はそいつの事好きなのか?」
「好きって、客だぞ?俺は仕事の時は割り切ってるって……」
「?」
あれ?そうだよな?
俺はプロフィールにも載せてるけど、客とは割り切ったデートをしているんだよな?
でも尚輝くんにはどうだ?他の客にはしないような事をちょっと多めにしてたりしないか?
それは何でだ?
言葉に詰まった俺の顔を不思議そうに見て来るルナ。
な、何て言えばいいんだ!!
「あ、俺……」
「うわー、好きなのかよ。また裏切り~」
「待て!好きは好きでも客としてだ!でも他の客とは違うって言うか……」
きっと何を言っても言い訳にしか聞こえないだろう。それでも俺は自分でも良く分からない感情に、これ以上ルナの前でボロが出ないように必死になっていた。
ルナはグラスに入ったハイボールを飲み干して、俺を睨みながら言った。
「客の言う事は9割は嘘だと思え。コレ伊吹に教わったんだけど?」
「……そうだな。確かに言ったな」
俺がこの仕事を始める前に店長から一番初めに教わった事だ。
ルナに言ったかは覚えてなかったけど、合わせる事にした。じゃないとうるせぇからな。
「それでもそいつの事好きなの?」
「好き……じゃない。土曜の男もただの客だ」
そうだよ。尚輝くんも金払って俺の時間を買ってるんだ。良い子だとか思ってるけど、本当は嘘ばかり言ってる子かも。名前も、年齢も、俺の事を好きだって言うのも全て嘘かもしれない。
そう思わなきゃこの仕事はこなして行けないんだ。だから俺は割り切って楽しむをモットーにやって来た。
でもさ、何でかな……
尚輝くんの事を嘘つきだなんて思いたくねぇよ。
俺が何も言えずに俯いてると、ルナがまた隣に来て俺の肩に腕を回して引き寄せた。
そして頭をコツンと当てて優しく頭をポンポンとされた。
「そうだよ伊吹、客の言う事を間に受けちゃダメだよ。俺、伊吹が傷付くの見たくないよ」
「ルナ……」
「伊吹は今まで通りの伊吹でいてくれよ。客に本気になんてなるな」
「ってねぇよ。本気になんてなるかよっ」
「それでこそ伊吹だ♡」
俺が顔を上げると、キツネ顔は微笑みながら俺のデコにキスをして来やがった。
こいつ調子に乗りやがって……
こういうウザいスキンシップはたまにされて来て、その度に怒って来たけど今は怒る気になれなかった。
ルナが本来の俺を思い出させてくれたからだ。
尚輝くんが現れてから自分のこれからの事を考えたり、出勤を減らしたりと今までの俺らしくなかったかなって。
真っ当な仕事を探すのは良い事だけど、それはもう少し先でもいいかなって思えた。
俺が嫌がらないのを良い事にルナが今度は口にキスをして来ようとしたからさすがに避けた。
油断すると変な懐き方しやがる。
「伊吹、好きだぜ♡」
「おう、俺も」
適当に返すとルナはキャハハと細い目を更に細めて楽しそうに笑った。
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