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4章
おまけ2-4※一条紘夢
しおりを挟む※紘夢side
ホテルの食事は冷めてしまったけど、とても美味しかった。冷めているのにこの味はなかなか出せないだろう。ホテルの備品やルームサービスにも手を抜かない、何事にも細かくて厳しい父さんらしさが出ていた。
そして食べ進めながら話も進む。
「紘夢の中学最後の誕生パーティーの日、お前に裏切られた時は怒りしかなかった。跡を継がないなんてそんな素振り一度も見せた事がないのに、いきなりそれも大勢の大事な客の前で言うからな。俺は本当にお前を信頼していたし、期待していたんだ」
「はい。それは良く分かっていました」
「情け無い話だがお前が家を出て行った後、追い出さなければ良かったと何度も後悔したんだよ。お前から戻りたいと言わせる為にいろいろやってもみたが全て無駄だったよ」
心当たりはたくさんある。と言うか父さんがいろいろしていたのは先月芽依から聞いたから知っていたけど、父さんからの嫌がらせの始まりは、俺を今の別宅に追いやった事。家を出るのは構わなかった。むしろ好きにやれるからありがたかった。だけど人が住むには不便過ぎるボロボロのあの別宅。何十年も放置されて手入れのされていない屋敷だったんだ。
そして次に使用人だ。本宅にいる使用人はある程度の学歴が無いと採用されない。尚且つ家事や運転技術など、細かい資格が必要になる事もある。それが俺に割り当てられたのはそこら辺にいるようなまだ大学を卒業もしていないような若者だ。俺が未成年だから一応同居する人間を配置したんだろうけど、初めて的羽と会った時は父さんは面白い事をするなと思ったよ。
他にも思い当たる節はたくさんある。だけど俺は一切帰りたいとは思わなかった。やっと手に入れた自由だから。やっと復讐する事が出来たんだから。
「お前の情報も今の使用人から逐一聞いていたんだ。紘夢が戻りたいと言っていないか、まだかまだかと待ち侘びていた。だが俺はお前を甘く見ていたようだ」
「…………」
「使用人と言えば、的羽泰志。あいつは面白い奴だな。使用人の癖に俺に説教をして来たぞ」
「的羽が!?何て言われたんです!?」
楽しそうに的羽の話をする父さんに驚いて聞く。
あの常識知らずな的羽ならやりかねないけど、まさか雇い主の大元である父さんに説教しただと?俺は凄く興味があった。
「お前が学校で好き放題やってそのツケが回った時か、ほら髪を黒く染め直した事があっただろう?その時の定期報告で、いつもは質問なんかして来なかったのが、その時ばかりはこう聞かれたんだ。どうして息子さんを許してあげないんですかって。詳しい事情を知らないから気になって聞いて来たんだろうけど、俺は普通に他人の家の事情に口を挟むなと軽く叱ったんだ。そしたら……はは!」
「何て答えたんですか?」
喋ってる途中で思い出して笑い出す父さんに俺は早く続きが聞きたくてせがむように訊ねる。
父さんはとても楽しそうに教えてくれた。
「じゃあ今だけ坊ちゃんの兄貴になりますって」
「兄貴ぃ!?」
「そして形だけ家族になった後、堂々と口を挟んで来たよ。一条家が立派なのは知ってます。だけど俺から見たら坊ちゃんはただの高校生だ。ただの高校生が悪さして親の気を引いてるだけなのに、何でそんなに厳しくするんだって、一般人の的羽らしい言葉だった」
「的羽がそんな事を……それで、父さんは何て返したんですか?」
「的羽にはお前を家族にするつもりはないと言って電話は切ったよ。でもその後どうにも的羽の言葉が忘れられなくてな。もしかしたら、俺が深く考え過ぎていたのかも知れない。紘夢が幼いながらに人とは違う特別な子なんだと思い込んでいただけなのかもって。確かに言われてみればそうだと思ったよ」
その後も父さんは楽しそうに食事を取りながらワインを飲んでいた。
的羽が父さんにそんな風に言っていてくれたなんて。あいつは金の為に俺の言う事を聞いてやりたくもない事をやっているんだと思っていた。俺の事なんて何とも思わずにあの家にいるんだとばかり思っていた。
ふと的羽が毎日家にいる事を思い出した。そうだ、あいつは大学生なのに、自分の家じゃないのに、必ずあの家にいた。どこかへふらっといなくなる事はあっても、夜には帰って来たし、呼べばすぐに来てくれた。もしかしたら的羽は俺を一人にしないようにしていたのか?
「何だよあいつ……ちゃんと使用人やってんじゃん……」
「そうみたいだな。俺も敢えて何も出来ない素人を選んだんだが、どうやらそれがお前の為になったらしい。悔しいが、親の俺よりも紘夢の事を分かっていたよ。今までちゃんと見てやれなくてすまなかった。親として失格だ」
父さんが俺に謝った。
俺はそんな父さんを見て素直になろうと思った。
「そんな事ありません。悪いのは全部俺です。あの時俺が父さんを困らせるような事をしなければ、父さんにも母さんにも芽依にも会社にも迷惑を掛ける事は無かった。ただ俺は自分の夢を奪われた事に執着したが為に、こんな大事になるような事を……本当に申し訳ありませんでした!」
途中で俺はその場に立ち上がって痛む腰に鞭を打ち父さんに頭を下げる。
これが俺にとって人生二度目の大きな謝罪だった。
「顔をあげなさい紘夢。謝るのは俺の方だ。やっぱりそれが原因だったのか。まだ小さかったお前から世界地図の本を取り上げた事だろう?あれがお前にとってここまで大切な物だとは思わなかったよ。本当に、何て謝ったらいいか……ここは父親として謝らせてくれ。ごめんな紘夢」
「父さんっ」
顔を上げると、そこには今まで見た事のない優しい笑顔の父さんがいた。
この時俺は初めて父さんと本当の親子になれた気がした。
ずっとお互いがすれ違っていたのにも気付かずにいて、やっと噛み合った瞬間だった。
あ、何だこれ、凄く暖かい……
俺の目からポロポロと流れ落ちる涙。階段から落ちて痛くても泣かなかったのに、父さんと和解出来て泣くなんて。
俺、父さんの事好きなんじゃん。
「はは、何泣いてるんだ。それとそろそろ前のように話してくれないか?他人行儀でちょっと嫌だぞ」
「うう、だって、父さんと仲直り出来て嬉しくてっ」
「そうか。俺も紘夢と仲直り出来て嬉しいぞ」
その後俺と父さんは日付が変わってもずっと話していた。ここからは二人共笑顔が絶えなかった。
今までのすれ違っていた時間と、離れていた時間を埋めるように、お互いの話をして、時には友達のように笑い合った。
いつかは父さんとは話し合うつもりだったけど、まさかこんな風な結果になるなんて予想外過ぎて、俺は本当に脳がやられたのかと思うぐらいだった。
いや、少し前から知っていたんだ。
どんなに先を読むのが得意でも、正確な人の気持ちや未来までは読めない事を。
だから人って面白いんだ。
俺は今日、この日の出来事を一生の宝物にしようと思う。
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