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8章
これはあげられないっ
しおりを挟む小学校に上がったばかりの頃、俺は一人で遊ぶ事がほとんどだった。母ちゃんが父ちゃんと結婚した時に、今の家を建てて引っ越したんだけど、その頃は母ちゃんも若くて、良く友達を呼んでたんだ。母ちゃんの友達の子供はまだ赤ん坊とかで、俺が最年長だった。そんで次に類。だから母ちゃんの友達が来た時はいつも類と遊んでたんだ。
「たかや~♪あそぼ~♪」
「おう!」
まだ保育園に通っていた類は俺よりも小さくて目がクリクリしてて可愛いかった。一歳しか違わなかったけど、年下だからって俺は良いお兄さんになろうとしていたんだ。
「たかや~♪それなぁに?」
「これはビスケット。母ちゃんから貰ったんだ」
「いいなぁ♪ぼくにもちょうだい?」
「いいぜ♪一緒に食おう♪」
いつもニコニコ笑って俺の後を付いてくる類が可愛いと思っていた。
だから類が俺のおやつを欲しがったら分けてあげたりした。その度に類がキャッキャ喜ぶから俺も嬉しくなった。
そんなやり取りが何度も続いたある日、俺が小2で、類が1年になりたてだったか、いつものように一緒に遊んで時だった。
「たかや~♪それなぁに?」
「これな、ブラックキングって言ってめちゃくちゃ強い奴なんだ!」
当時流行っていたヒーロー物の悪役が俺は好きで、この時持っていたブラックキングのソフビ人形を類に自慢しようとしていたんだ。俺の母ちゃんが厳しかったから普段欲しがっても絶対買ってもらえなかったんだけど、仕事で中々会えない父ちゃんが内緒で買って来てくれた物だった。
この時の俺の宝物だった。
「あ、知ってる~♪ジャスティスマンのやつでしょ?ブラックキングの方がかっこいいよね~」
「そうだぜ♪ブラックキング最強~!」
「いいなぁ♪ねぇたかや~?」
「んー?」
「それ、ぼくにちょうだい♪」
「え?」
ニコニコいつもの可愛い笑顔で類がいつものセリフを言った。さすがにこれはあげられないからなんて言おうか迷っていたら、類がブラックキングのソフビ人形に手を伸ばして来たから、咄嗟に取られないように上へ上げてしまった。
「たかや?」
「わ、悪いけど、これはあげられないっ」
「なんで?たかやはなんでもくれるよ?」
「だけど、これは……」
「たかやいじわるするの?ぼくにいじわるするの?」
「違うっそうじゃないっ!」
ここで近くで談笑していた母ちゃんが俺達の異変に気付いて俺に言った。
「貴哉、何してるんだ?」
「か、母ちゃんっ」
母ちゃんはまるで俺が類をいじめてるのを叱るように低い声で言った。俺は母ちゃんに怒られるのが怖くて思ってる事が言えなかったんだ。
ここで類が何も知らない大人達に更に火を点けた。
「うわーん!たかやがいじわるするー!」
「どうしたどうしたー?るいたん、泣かない泣かない」
「貴哉!お兄ちゃんなんだから泣かすんじゃないよ!」
「だって、俺悪くねぇもん!」
類の母ちゃんが泣き出す類に駆け寄っていい子いい子して、俺の母ちゃんは俺を叱った。
俺は悪くないっ!だって、これは父ちゃんに貰った宝物なんだっ!ただ俺はそれを守るのに精一杯で、理由を話すのを忘れていた。
「ぼくそれがほしいの!でもたかやがくれないのっ!」
「貴哉~、ごめんね?それ大事な物なんでしょ?」
「うんっ!」
「はぁ、少しぐらい貸してやりなって。仲良く出来ないならそれ取り上げるよ!」
「っ……わ、分かったよっ!」
母ちゃんに脅されて俺はそっとブラックキングのソフビ人形を類に手渡した。
ソフビ人形が手に入った類はまたいつものようにニコニコ笑顔になって、大人達を安心させていた。
どうして俺が怒られたんだ?
ただ大切な物を守っただけなのに。
悔しくて俺は黙って自分の部屋に篭ってしまった。でもそれが悪かったんだ。
類達が帰った後、ブラックキングのソフビ人形を取り返そうと探したけど、どこにも見当たらない。
母ちゃんに聞いたら知らないと言う。もしかしたら類が持って行っちゃったのかもって。
あいつ、俺の宝物まで取ったって言うのか?
俺は母ちゃんに泣いて父ちゃんに貰った大切な物だって訴えた。さすがに母ちゃんは怒る事はなく、次に来る時に返すように言うと言ってたけど、もうブラックキングが返って来る事はなかった。
この日から俺は類が来るって分かったら避けるように外へ遊びに出掛けていた。
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