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1章 大切な人
12.同じ気持ち
しおりを挟む俺は二度目の伊吹さんの部屋の中、緊張してどこにいたらいいのか分からず、リビングに入ってすぐの所で立っていたら呆れたような顔をされた。
「またそんなとこに突っ立って~、尚輝くんて自分ちでもそうなの?」
「違いますっここは伊吹さんの部屋なので……」
伊吹さんの部屋は綺麗に片付いていて、置いてある物とかも大人っぽい物が多くて、綺麗な伊吹さんのイメージと合っていると思った。
部屋の大きさも広くて、家賃も高そうだけど、それだけ伊吹さんは今の仕事で稼いでいると言う事なんだろう。
ぼんやりそんな事を考えていると、伊吹さんは俺の手を引いて部屋の中まで連れてってくれた。
伊吹さんに手を握られただけでもドキドキしてしまうのに、本当に伊吹さんと出来るのか不安だ。
「何か酔い冷めたから飲み直すか~。尚輝くん何飲むー?」
途中で俺の手をパッと離してキッチンへ向かう伊吹さん。俺はどうしたらいいのか分からず伊吹さんの後を付いていく事にした。
冷蔵庫を開けたから中がチラッと見えたけど、俺は驚いた。
冷蔵庫の中はビールとミネラルウォーターしか無かったんだ。
冷蔵庫の中身が水分だけしか無いなんて、この人の食生活はどうなっているんだろう。
「珈琲より紅茶が好きなんだっけ?今お湯沸かすから待ってて♪」
「珈琲も好きですよ」
「確かに、喫茶店とかで飲んでるよね。そんじゃ今日は珈琲淹れたげる♪新しいの買ったんだ~」
キッチンにあったカプセル式のコーヒーメーカーをいじって準備をしながら伊吹さんは冷蔵庫から出した缶ビールを開けてそのまま飲み始めた。
勝手なイメージでグラスを使うのかと思っていたけど、ここは男らしいんだな。
「はい出来た~♪砂糖ミルクはー?」
「あ、ブラックで」
「そんじゃソファ行こうぜ♪」
右手に缶ビール、左手にマグカップを持ってリビングのソファへ向かう伊吹さん。
俺はまた後を追って、少し距離を空けて隣に座る。
「ふい~、今日もお疲れ~」
「お疲れ様です」
「まだ緊張してんの?」
「はい……」
「そっか」
ビールをゴクゴク飲む伊吹さんは今何を考えているんだろう?一度は帰ろうとしたのに、やっぱり部屋に寄って行くと言った俺、それなのにいざ入ると緊張して伊吹さんの後を付いてばかり……
愛想尽かされたかな。
こんなつまらない恋人じゃ嫌だとか思ってるのかな。
俺が勝手に思い込んで落ち込んでいると、伊吹さんは缶をテーブルに置いて、俺の手を握って来た。
「あのさ、緊張してるのは尚輝くんだけじゃないから。酒に頼らないとダメなぐらい俺も緊張してるんだからな」
「伊吹さん……」
ボソボソと喋る伊吹さんを見ると、少し頬を赤く染めて恥ずかしそうにしていた。
そうだったのか!伊吹さんも緊張していたのか!
俺はてっきり慣れてるのかと思っていたけど、伊吹さんも俺といて緊張してくれていたなんて……可愛い過ぎて抱き締めたくなったけど、握られた伊吹さんの手をもう片方の手でギューっと握って我慢した。
そんな俺を見て、困ったように笑った。
「ほら、一応年上だし、俺がリードしなきゃかなって。でも尚輝くん帰りたがるし、一緒にいたいって思ってるのは俺だけなのかなって……」
「そんな事ありません!勘違いさせてすみませんでした!俺も一緒にいたいと思ってます。だけど、伊吹さんは男との経験は無いですよね?」
「無いけど、ダメなの?」
「ダメじゃないです。初めてだからこそ、不安なんです。もし仮に今俺が伊吹さんを抱き締めたら嫌がられるんじゃないかって、怖いんです」
好きだと言っていた手前あまりこう言う事は言いたくなかった。
自信ないのに口説いてるんじゃないとか言われたら言い返せないからだ。
でも今の俺は伊吹さんとの急展開に、心の内を明かさずにはいられなかった。
保険を掛けるようで卑怯だと思われるかもしれないけど、そうでもしなきゃ伊吹さんに手を出せそうにもないんだ。
伊吹さんは俺の言葉を聞いた後、優しく笑って俺と距離を詰めて寄り添って来た。
い、伊吹さんがこんなに近くに!
俺は心臓の音が聞かれてしまうんじゃないかと焦ったけど、嬉しくてそのまま動かずにいた。
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