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3章 恋人失格
27.懐かしい待ち合わせ場所
しおりを挟むその日も俺は学校を休んだ。
とてもじゃないけど、勉強に集中出来る状態じゃなかったからだ。それと、大我くんが学校へ向かって歩いていたから、顔を合わせた時の事を考えると気が重くなったからだ。
俺は家に帰る事もせずに当てもなく電車に乗っていた。
時間は10時になろうとしていた。
伊吹さんはそろそろ出掛ける時間かな。
今日も朝から仕事だって言ってたから、準備を終えて家を出る頃だと思う。
その事を考えたらまた涙が出そうになった。
本当は伊吹さんが他のお客さんと会うのも嫌なんだ。それなのに、俺はハッキリ言えずに「頑張って下さい」って送り出すだけ。
自分の気持ちを言ったら嫌われてしまうんじゃないかと常に考えてしまう自分が嫌だ。
もっと素直に言いたい事が言えたらもっと周りとも上手くやれるのに。
大切な人達を傷付けずに済んだのに。
俺はどうしていつもこうなんだろう。
ふと我に返って駅の名前を見て電車を降りる。この駅は伊吹さんとのデートの待ち合わせをしていたコンビニがある駅だ。
毎週土曜日は朝早くに起きてワクワクしてこの駅まで来たっけ。
初めて会う日の前の日はほとんど眠れなかったな。それでも伊吹さんに嫌な思いをさせたくなくて前から立ててたデートプランを完璧にこなそうとしたっけ。
電車を降りて約束のコンビニの前まで来てそれらしい人を探してみるけど、大分早く到着したからいる筈もなくて、ずっと立って待っていたな。
約束の時間が近付くにつれて緊張が増して行った。同時に不安も大きかったかな。
ネットで調べて知ったものだったし、気になる人とお金を払ってデートが出来るなんて夢のような話、もしかしたら詐欺とかもあるんじゃないか。そうだったとしたらきっと俺は泣き寝入りするんだろうな。
そんな事を考えていたっけ。
「あの~、尚輝、くん?俺、伊吹だけど」
伊吹さんに一番初めに掛けられた言葉を今でも良く覚えている。
振り向いてその姿を見て本当に驚いたんだ。サイトにあった顔写真の人がそのままそこに立っていたから。いや、写真で見るより柔らかくて綺麗に見えた。とにかく俺の理想の人が笑顔で俺に声を掛けてくれた事に驚きと焦りで今までにないぐらい緊張が高まったんだ。
伊吹さんとの出会いを思い出してそのコンビニの前に立ってみる。来るはずもない人を待つかのように、自然と、何をするでもなく。
俺は伊吹さんと一日デートをして、この人が運命の人だと思えたから本気でお付き合いをしたくて俺の事も好きになってもらおうと決意した。
もちろん、伊吹さんは仕事だから俺とデートをしてくれてるし、俺を気分良くさせるような事を言うんだと言うのは頭にあった。
だけど、俺は伊吹さんと話す度に好きという気持ちが大きくなり、手に入れたいという気持ちも膨らんだ。
平日は学校があるから、土曜日にアプローチをしよう。そう決めて週に一度の楽しみになって、勉強もいつもより捗っていた。さすがに大金が動くから日曜日までは予約を入れられなかったけど、土曜日のデートの後は日曜日も予約したくて仕方なくなった。
今こうして立ってみると、懐かしい気持ちになるな。
伊吹さんに会ったばかりの頃は今のような悩みなんかなくて、ただ伊吹さんに好かれようと前向きな事だけを考えられたのに。
かと言ってあの頃に戻りたいかと言われたらそうでもない。高嶺の花だった伊吹さんと両想いになれただけでも奇跡なのに、キャストと客の関係に戻ってしまうなんて考えただけで悲しくなるよ。
そうか、俺は伊吹さんを大切にしなきゃいけないな。
大我くんの事も大切にしたいけど、まずは伊吹さんだ。元々不器用な俺にはどちらも手に入れるなんて無理な事だったんだ。
自分なりに考えて出した答えだけど、これが合っているのかは分からない。
答えが分かるのは多分大分先の事になりそうだ。
それでも俺はこれ以上自分の気持ちを内に隠したままは辞めようと思った。
これからは本当に大切なものを失わないように、俺なりに向き合おうと思った。
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