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3章 恋人失格
31.心からの言葉
しおりを挟む俺が話をしている間、伊吹さんはずっと黙って聞いていてくれた。時々相槌を打ちながら、優しく笑って隣にいてくれた。
「昔から自分の思っている事が言葉にして言えずにいて、ずっとそんな自分を変えたいと思って生きて来ました。相手の顔色を伺って、空気を悪くしないように上手くやり過ごす。そんな日々でしたが、伊吹さんと大我くんに出会って自分を変えたいと言う思いが強くなったんです」
「うん」
「でも20年間それで来てしまったのですぐに適用する事が出来ませんでした。自分が我慢すれば、相手を怒らせないようにと、そんな事ばかり考えて二人には良い谷岡尚輝ばかりを見せて来ました」
「そうだね、尚輝くんは良い子だよね」
「俺は良い子なんかじゃないんです。本当はわがままで自己中な男なんです。きっと本当の俺を知ったら伊吹さんに嫌われてしまいます……だから、隠して来ました」
ここで伊吹さんは「ふふ」と笑ってベッドに寝転がりだした。まるで面白い話を聞いているかのような反応に、俺はまた心を閉ざしかけた。
「わがままで自己中ってタイガーよりも?だとしたらキツいかもな~」
「俺、大我くんはわがままで自己中だなんて思いません。言いたい事や思ってる事を真っ直ぐに口に出して言える強い人だと思ってます。大我くんは俺の憧れなんです」
「タイガーみたいになりたいと?」
「……はい」
「なってみれば?尚輝くんも言いたい事や思ってる事をなーんにも考えずに言葉にしてみなよ。そうしたら憧れになれるんだろ?」
「そんな簡単に言いますけど、俺にはとても勇気のいる事なんですよ」
「分かってるよ。でもさ、尚輝くんが俺を落とそうと思って毎週土曜を独占してたじゃん?アレも結構勇気いると思うぜ?てか普通の20歳じゃ出来ないからね?」
「あれは……」
確かに、今思えばあれは俺の人生の中で最大のわがままだったのかもしれない。
普通に考えて、他にも伊吹さんとデート出来るのが土曜しか無い人だっていたかもしれないのに、そもそも伊吹さんを長時間拘束する事になるのに、疲れてしまうんじゃないかとかあの時は考えもしなかった。
ただ自分の欲を満たす為だけに、毎週土曜日に予約を入れて、その時を待ち侘びていたんだ。
伊吹さんに図星を突かれたようで何も言えずにいると、ゴロンと転がって来た伊吹さんに腰の辺りをギュッと抱き締められた。
可愛いな……
「あれ結構インパクト凄かったんだぜ?丸一日予約入れる人はいるけど、本当に何ヶ月かに一度とかだし、職場でも土曜の男って噂になったりでさ~」
「伊吹さんの気持ちも考えずにすみませんでした……」
「何で謝るの?結局俺を落とせたんだから間違ってなかったって事でしょ?尚輝くんの独占があったから俺はこんなにも愛おしい気持ちになれるんだと思うよ」
本当に伊吹さんは俺の欲しい言葉をくれるな。
俺の身勝手な行動をさも良い事のように言ってくれるなんて。
俺の腰にしがみ付く伊吹さんの頭を自然と撫でていた。それに対して伊吹さんは気持ち良さそうに目を閉じて笑った。
俺もこんな風に好きに振る舞えたら少しは変われるかな。
また大我くんとも笑って話せる日が来るのかな。
もしその時が来るのであれば俺は心からの言葉で話し掛けたいな。きっと大我くんならどんな俺でも笑ってくれると思うから。
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