絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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ep233 第一村人(盗賊)発見

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 ミンスク村からほど近い森。
 陽差しは高く、木立の隙間から漏れる光が地面に濃い影を刻んでいた。

「ふわぁ~……」

 その濃い茂みの中で、一人の薄汚い格好をした盗賊があくびをしながら、村の監視をしている。

「暇だ……早く代わりの見張りこねえかなぁ……拉致った女ども犯したいぜ……」

 時折石ころを投げながら暇をつぶしている様子には、一切緊張感というものを伺えない。
 まるで自分がこれから襲われるかもしれない、なんて思っていないかのようだ。

(バカめ……見張りってのは、まず自分が見られてるって疑えよ)

 ゼフはうつ伏せに伏せたまま、手近な葉を指先で払いながら隣に囁く。

「……一人だな、ナリャ。やれるか?」

「余裕に決まってるじゃん。見ててよね」

 そう言いながら、ナリャは小枝をくわえたまま、視線を茂みの先に向けた。

 ぽつんと座る盗賊の見張りは、片肘を膝にのせて、面倒くさそうに頬杖をついている。小石を投げ、蟻の列に命中させるのが今の『仕事』らしい。

(俺は俺の仕事をするまでだ)

 ゼフは獣のように腰を落とし、低姿勢のまま音を立てずに影へ滑り込む。ナリャも一拍遅れて追従する。

 盗賊が何かを感じ取ったのか、ぴくりと耳を動かし、肩を振るわせた。

「……ん? 誰かい──」

 声が出るより早く、背後からゼフが飛び出して口を押さえた。同時に、ナリャの蹴りが盗賊の股間を蹴りあげる。彼女はぶちゅり、と腐った果物を潰したような嫌な感触をブーツ越しに感じたあと、プルーンの持ち主は白目を剥いて気絶する。ゼフは自分の股間がキュッと縮むのを感じた。

 崩れ落ちる盗賊の体を、彼は音を立てずに受け止める。

「よし。完璧だね」

「……躊躇無いな」

「当たり前でしょ」

 二人が小声で言い合っていると、背後の茂みが音も無くわずかに揺れた。

「心配になって来てみたけど……杞憂だったようだねェ」

 振り返れば、そこにいたのは、二人よりもはるかに体躯の大きいニステルだった。腕を組んだまま無言で近づいてくるが、足音も気配もまったく感じさせなかった。ただし、組まれた腕に乗った巨乳がぼよんぼよん揺れてゼフの視線を誘導しているが。

「……嘘でしょ。この距離までぜんぜん気配を読めなかった」

 ナリャが驚愕する。ゼフも、頷きつつ尊敬の眼差しで見つめた。

「……さすがニステルさん。なんでそんなに静かに動けるんだ……?」

「強ェからさ」

 有無を言わせない断言に、ゼフは益々瞳をキラキラさせる。強い剣士に憧れる彼にとって、ニステルは最も身近で最も強い剣士だった。ただ、ニステルが純粋な剣士ではないことを、彼はまだ知らない。ナリャはそれを複雑そうに横目で見た。

「さァてと。さっさと尋問しちまうかね。おら、起きろ」

 泡を吹いて失神している盗賊の頰をはたくが、一向に起きる気配は無い。

「起きないね」

「ナリャがやりすぎたんじゃねえか?」

「そ、そんなことないもん。片玉しか潰してないし」

「片玉潰れりゃ起きねぇよ……」

「仕方ないじゃん、手加減なんかできないよ。水でもぶっかける?」

「んー……めんどいねェ……周囲に人影は無いし、やっちまうか」

 二人が振り返る間もなく、ニステルは片膝をつき、倒れた盗賊の手をぐいと掴み小指を──まるで小枝でも折るように容赦なく『パキン』と。

 乾いた音が森に響いた。

「っ!? ぎゃああああああああああああっ!!!???」

 盗賊の全身が跳ねるように反応し、泡を吹いた口元が痙攣する。そのまま、両目を見開き、目の前に立つニステルを見上げて絶望の色に染まった。

「おはよう。ようやく起きたねェ」

 ニステルはにっこりと笑って言った。

 盗賊の絶叫が落ち着き、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をこちらに向けた。

「お、お前ら……なんなんだよぉ……」

「それはこっちの台詞だよ」

 ゼフがしゃがみ込み、目の高さで睨みを利かせる。

 “パキン。”

 ニステルの左手が動いた。盗賊の中指が、乾いた音を立てて曲がる方向を変える。

「ひぎゃあああああああっ!!」

「言い淀みは禁止だよ」

 ニステルは冷静な声で言いながら、まだ手を離さない。

「アジトの場所。正確に。人数も」

「い、い゛い゛い゛い゛っ!! ここから北東のは、廃村っ、納屋の地下ァ! 二十人! 俺含めて二十人だっ! 見張りが八! それ以外は地下にいる!」

 ナリャが満足げに頷く。

「二十人か……結構いるな。まあでも想定内か」

「ふむふむ、納屋の地下……ね。ありがと。じゃあ次」

 ゼフが口を開く。

「お頭の名前と、武装、特徴」

「お、お頭はバザロ……お、大きい斧持ってて、顔が、ええと、獣みたいで、毛皮の……」

 ポキン。

「ぎいいいぃいぃいっっ!!!? な、なな、なんでだよぉっっ!? 答えただろおおおおっ!?」

「“ええと”って言ったからだよ」

 ナリャが優しく告げる。

「嘘よりも、曖昧な言葉のほうが信用できないの」

「……ひいっ、わかった、わかったよお……」

 盗賊の顔は涙と涎でぐしゃぐしゃだ。

「最後だ」

 ゼフがとどめの質問をぶつける。

「人質の女たち、何人いる? どこにいる? 何された?」

「ご、五人! 家の中、縛ってるだけで、ほ、本当に俺は何もしてねえ! 誰にも手ぇ出してねえ!! 誓う、誓うよおお!!」

「俺は、ね。じゃあお仲間が手を出してるかもしれないんだ?」

「う、ううっ、そ、それはそうかもしれねえけどよぉ……っ。そ、それ以上、お、折らないでくれっ! 元に戻んなくなっちまうっ!」

 その言葉に、ナリャとゼフが目配せする。
 ニステルは指を折る手をようやく緩めた。

 盗賊は肩を震わせながら、その場に崩れ落ちる。
 ズボンの股間はすでに湿っていた。

「……ふう。完了。いい仕事だったね、ナリャ」

「えへへ! うまくできたと思う!」

 ナリャは尊敬するニステルに褒められて、顔を綻ばせる。

「ニステルさん。次は俺に折らせてください!」

「フン。まァ、次やってみな」

「はい!」

 三人が満足気に笑い合う。
 だがその笑みは、盗賊にとっては地獄の使者に見えただろう。


 ゼフとナリャが情報をまとめ始めたのを横目に、ニステルはしゃがみ込み、顔を覗き込む。
 盗賊の男は、びくっと肩を震わせた。

「ちなみに、ちょっと興味があってね」

 ニステルは、にこりと笑う。
 その笑みに、血が滲んでいるような錯覚すらある。

「お前ら、今までどんだけの村を襲ったァ?」

「ひ、ひっ……! ま、また折るつもりだろ……」

「折らないよォ。ほんとに。ただ訊いてるだけ。言ってみな」

「……ご、五ヶ所……く、くらいだ……っ」

「へえ~、なるほどね……じゃあ、焼いた村はあるのかァ?」

「に、二か所くらいは、火を……つけて……」

 その言葉を聞いた瞬間、ナリャとゼフの目が鋭くなった。

「……その中に、カンダ村ってとこ、入ってる?」

「は、え……?」

 盗賊は面食らったように瞬きをした。

「カンダ村。南の外れにあった、小さな村。お前らの仲間が火を点けたって話、聞いたことない?」

「い、いや……知らねえ……!」

「ふぅん?」

 ナリャはすっと、短剣を抜いた。
 刃先を盗賊の小指にちょんと立て、わざとゆっくりと重みをかける。

 ちくり。

 じわっ……と滲む鮮血。

「いッ!? ほ、ほんとだっ……! 知らねえんだよっ……! 俺、そのとき居なかったし、聞いてねえんだよぉっ!!」

 ナリャは静かに目を細め、口元を歪めて言った。

「……ふん。どうやら本当みたいだね」

 ゼフが肩を竦めながら吐き捨てる。

「ちっ、つまんねえな。膾切りにしてやれるかと思ったのによ」

「な、なぁ……もう全部話したよ……、か、解放して」

 ──ゴッ!

「っっっいっぎゃああああぁがぼぉっっっ!!」

 いい終わらない内に、ニステルの鞘が迷いなく盗賊の指を横から叩き潰した。

「約束通り、“折らない”でおいたよォ。ま、潰したけどね」

「がぼっ……あが……っ!!」

 盗賊は泡を吹きながら目を剥き、地面に倒れて気絶した。
 痙攣がぴくぴくと残り、完全に意識を手放したらしい。

 ニステルは鞘を肩に担ぎながら、小さく鼻を鳴らした。

「焼いたってだけで、もう死刑確定だよ。焼くのが一番たちが悪いからねェ」

 ナリャは鋭い目つきのまま、肩をすくめた。

「ゼフ、次は膾切りにできるといいね」

「おう。絶対許さねぇよ、あいつら……。すんません、ニステルさん。なんか気を使わせたみたいで」

 ゼフはぺこり、とニステルに頭を下げる。彼女が気を回して『仇』であるかどうか、確認してくれたのだ。

「ただの気まぐれさァ……。んじゃ、ふんじばって村に戻るとすっかね」

 そう言って彼女は名も無き指折れ盗賊の脚に荒縄を括り付け、そのまま引きずるようにして走り去る。

 後頭部を地面にしたたか打ちつけ、覚醒した盗賊が悲鳴を上げる。咄嗟に頭を守ろうと手を組むが、折れた指に激痛が走り、うまく組むことができない。さらに悲鳴を上げ、それが何度も何度も続いた。

「……俺たちはさ、幸運だったよな」

「うん。ほんとにね。チンケなスリ師で終わって、よかった」

 自分たちも何か間違えたらああなっていたかもしれない。その前に、やや乱暴な方法ではあるが道を矯正してくれたフェイたちスラムの面々には感謝しか無い。

 彼らは現在の境遇を噛み締めながら、ニステルの後に続いた。


 ミンスク村の手前、小高い丘の陰から、ニステルたちは姿を現す。
 引きずられた盗賊の身体はぐったりとしていて、手足は縄で縛られている。口には猿轡が噛まされ、指は数本が不自然に曲がっていた。

 丘の下では、すでにバステンが村に入っており、十数名の村人たちを前に情報を集めていた。
 彼らの顔は皆、疲れと不安、そして怒りに染まっている。

「連れてきたよ。だいぶ静かになっちまったけどねェ」

 ニステルがからかうように言って、縄を引いて盗賊を引きずり出す。
 それを見た村人の一人が、血相を変えて叫んだ。

「あっ……! そいつだ!! そいつ、俺の妻を連れ去った奴らの一人だッ!!」

「おらの娘もだ! 髪引っ張って連れてった、間違いねえ!」

 声に釣られて他の村人たちも一斉に叫び出す。

「返せ……あの子を返せぇっ!」

「人の家を燃やしやがって……っ!」

「丹精込めた畑をよくも荒らしたな……!」

「殺せ! こんなやつ殺せ!!」

 盗賊は顔面蒼白になり、怯えきった目でバステンの方へ身を捩る。
 何か言おうとするが、猿轡のせいで口からは泡混じりの呻きしか漏れない。

 ニステルは鼻を引くつかせる。
 焦げた家屋の匂いが漂っている。

「うン……? 家を焼かれた村人がいるのかい?」

「そのようだ姐さん。おそらく命令を無視した馬鹿の独断だろう。畑も荒らしていった。余計なことをしてくれたよ。こりゃ皆殺しじゃ納得してくれないかもな……」

 バステンがぼやく。

「『賢者の一手より、愚者の暴走の方が読みにくい』とはよく言ったもんだ」

「はっはァ。気張りなバステン。あんたの仕事だろ?」

「分かってるよ姐さん」

 小さな村で畑と家はまさに生命線だ。これを害されると、大人しい村人というのは怒りの猛獣と化す。

 怒号と悲鳴が渦巻く中、村長と思しき老いた男がバステンの前に進み出て、手を合わせて懇願した。

「傭兵さんお願いじゃ……! どうか、どうか早く助けてやってくれ……! 皆が、孫が……奴らの手に……!」

 バステンはその願いを真正面から受け止めながらも、声を荒げることなく、しかし厳然とした口調で答えた。

「……お気持ちは分かります。しかし、まだ動けません。奴らの全容が見えていない」

「な、なんでだ!? 今すぐ助けに!」

「おらたちを見捨てるのか!?」

 悲痛と怒りの声が上がる。
 その迫力は若いゼフ、ナリャ、セリンにとって思わずたじろいでしまうものだった。

 しかしバステンは極めて冷静に返答する。

「見せしめや虐殺が目的なら、もう殺しているはずです。ですが今も生きている可能性が高い。まだ向こうの情報が揃っていません。こちらも闇雲に突撃して危険を冒すことはできない。このあと偵察を繰り返し、万全を期した後、屠ります」

 バステンは村人たちを一瞥し、落ち着いた声で続けた。

「耐えてください。夜まで待ちます。必ず、奴らは皆殺しにします。それが、貴方たちのためでもある」

 村人たちは、その言葉に思わず息を呑んだ。バステンの有無を言わせぬ迫力に二の句が継げなくなったのだ。しかし同時に、安心感も覚えていた。
 
「……分かった。夜まで待とう……」

 覚悟を決めた表情で、村長は顔を上げる。

「皆、傭兵さんたちの言う通りじゃ。苦しいだろうが、ここは我慢、耐えるんじゃ。耐えて耐えて……やつらを皆殺しにしてもらおう」

 村長の一声に、村民たちは慟哭の声を上げる。

「村長……っくそぉっ!」

「うぅ……妻よ、娘よ。すまない、もう少しだけ耐えてくれ……」

 しかし反対するものはいない。それだけこの村長の信頼は厚いのだろう。それでも妻や娘を奪われ、畑を荒らされ、家を焼かれた村人たちの怒りはとてつもない。

「……傭兵さん、追加で依頼がある。可能な限りでいい。やつらの内、誰かを生け捕りにしてくれないかのう。見せしめにしたい」

「報酬は?」

「生け捕りにした者につき、これだけだそう」

 村長の提示した額は相場からやや低いものだったが、

「それに加え、終わったあとに宴を催す。そこで精一杯歓待させてもらおうかの……。戦いのあとは『昂る』というでな」

 村長の瞳は怒りに燃えながらも、冷静な色を帯びていた。

 確かに今夜が初陣の男どもは、滾ってしまうかもしれない。その発散先を用意してくれるのは士気を保つ上でもありがたい申し出だった。

「……確実にできるとは言えないが、よろしいか?」

「構わぬ。ミンスク村ではまだ死者は出ていないが、奴らが焼いた他の村に親戚兄弟姉妹がいたという者もおる。ここで皆の怒りを発散させてやらないと、村の今後にも関わる……」

「でしょうな」

 怒りに叫ぶ村人たち。
 この怒りをうまくコントロールしなければ、その矛先は村長に向き、無能の謗りを受けるかもしれない。

「善処しましょう。既に捉えた盗賊をいたぶるのは構いませんが、必ず生かしておくように。一人は傭兵ギルドに突き出す必要があるので」

「あいわかった。周知させよう」

 そして二人は己の仕事を果たすべく、その場を別れる。

 静寂の中に、復讐への炎が、確かに灯された。
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