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ep234 奇襲
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夜の帳が静かに落ち始める頃。
ゼフとナリャの斥候組は、丘陵地帯の岩陰に身を潜めながら、目下に広がる盗賊の拠点を睨み据えていた。
廃村を元に、簡易的ながら要塞化した拠点。
納屋の地下に盗賊どもは潜んでいるという話だったが、彼らはすべて地上に出てていた。
焚き火を囲んで行われている蛮行はまさに、獣に落ちた外道たちの宴だった。
「へへっ、見ろよこの面! 涙ぐんでるぜぇ。興奮すんだろぉ?」
「オイ、こいつダンナがいるらしいぜ。なあ、奥さんよォ。もう二度と帰れねえけどなぁっ!」
「かーっ、この酒サイコー! この間襲った村、しこたま溜めやがってよお!」
「ひひひ、悲鳴あげさせた方が締まるってなぁ!」
「肉ウメェ! 肉ウメェ! 女ウメェ!」
「なァバゼロ、こいつら喋んなくなってきたぜ。次、耳でも削いでやるか?」
「おいおい、穴が足りねぇんだけど? 補充よろしくぅ~!」
「今夜は盛大にいこうぜぇ! 村ごと燃やして、火事見ながらヤるのも風流ってモンよ!」
「やっぱ百姓女はたまんねえな。ケツがデカくて泣きながら啼く声が最高だわ!」
「おいそこのババア、顔しかめてんじゃねえよ。お前も肉穴には変わりねえだろぉが!」
「ふっざけんな! てめぇの亭主が助けに来るとでも思ってんのかよ、あぁ!? ぶっ殺すぞゴラァ!」
「クハハッ、村人どもにゃあ贅沢な死に方だよなァ。火炙りで煙と一緒に天国へ送ってやるよォ!」
焚き火の明かりがちらちらと揺れ、酔いと熱気と欲望が入り混じる声が、夜風に乗って漏れ聞こえてくる。
粗末な天幕が三張り。囲むようにして並ぶ木箱や寝藁の山。
その中心に、盗賊たちおよそ十二名が集い、酒に酔い、肉を食らい、女を嬲っていた。その周囲には羨ましそうな気配を漂わせながら、八人ほどの見張りが立っている。
「……くそっ」
ゼフの低く噛み殺した声。
火のそばでは、拉致されたミンスク村の女たち数人が押し倒され、痣や泥まみれの身体を揺すられていた。
すすり泣く声、力なく垂れる手足、悔しさと屈辱を滲ませた目、虚ろに絶望した表情。
それを囲んで笑い声を上げる盗賊たちの顔は、どれも獣のように醜悪だった。
「まだ、だよ。ここで突っ込んだって、意味ない」
ナリャがゼフの肩を押さえる。
銀灰の髪が月明かりに浮かび、涼やかな目元に、ひりつくような静けさが宿っていた。
「……あそこ、見て」
ナリャが顎で示したのは、中央の丸太椅子。
ふんぞり返るようにして座る大男の肩には、三人の女が絡みついていた。その隣には血みどろの斬殺死体が横たわっている。
「あ~ん、バゼロォ。はやくチンケな村なんて焼き滅ぼして、あたしたちだけの王国つくっちゃお~よぉ」
「ねー、あたい金貨あったらもーっとサービスしちゃうのにぃ。バゼロちゃんに、ぜーんぶ、あげるねぇっ」
「惨めな村人たちの悲鳴と血しぶきが見たいなぁ~。あたし、そういうの見ながらナカ出しされるの、大好きなんだぁ……」
下品な嬌声に、大男──『獣皮のバゼロ』が汚らしく笑う。
「ケッ、はしたねぇ雌ブタどもが。だがよ、悪くねぇ。悪くねぇぜぇ……ハッハッハ。この馬鹿、命令聞かねえで村に火ぃ点けたからぶっ殺してやったけどよぉ……」
バゼロはぴくぴくと痙攣する死体を興味なさげに見やる。凄まじい膂力で脳天から胸骨まで唐竹割りにされており、脳漿やら髄液やらが飛び散っていた。
「でもゴミ百姓のクソ村はやっぱ燃やすに限るぜえ! スカッとすんだよなぁ。朝起きて搾りたてのリンゴジュース飲むよりスッキリするぜぇ~っ!」
「やーん、バゼロったら健康志向~っ!」
「ガハハ! 健康じゃねえと略奪殺人にも身が入らねえってもんよ!」
「ちげえねえや!」
「グフフフフッ!」
外道たちの会話が宴を狂気に彩る。
酒盃を放ると、バゼロは火のそばに縛りつけられた村の女たちを見やる。
目の焦点も合わないその女たちは、恐怖に凍りついた顔で身を震わせていた。
「……なぁお前ら、もっと部下たちを喜ばせろや……俺はよぉ……仲間を大切にするバゼロ様なんだよ。部下の生活も守れないで何が頭領だよ。なぁ、お前もそう思うだろ? ゴミ百姓の肉穴ちゃんよぉ」
「ゆ、許してください……も、もう、おまんこ、閉じなくて……力入らないんです……」
「お、お尻の穴がぁ……すーすーするよぅ……いたい……」
「いやぁ、もういやぁ……」
女たちのすすり泣く懇願がバゼロに届く。
「何? もう限界? そうかぁ、穴が壊れちまったのかぁ……」
口元をいやらしく歪めたバゼロが、親指を立てて、ぐいと下に向ける。
「……なら、増やせばいいだけだろォが。ボケが! へっ、肉穴なんざ何個あっても困らねぇよなぁ!」
バゼロは短剣を取り出し、近くにいた村娘の腹に突き立てようとする。
「ひ、ひぃっ」
「別によぉ、俺たちは肉穴ならなんでもいいんだぜ? ヘソでも、目でも、耳でもよぉ……。その柔らかそうな土手っ腹に二つくらい新しい肉穴こさえてやろうか? てめえの臓腑でしごいてやってもいいんだぜ?」
「ひ、ひいいいいっ」
「や、やりますうぅ! おまんこ締めますっ!」
「こ、殺さないで……」
「ぐひゃひゃ! あーっ、最っ高だぜ! ゴミカスどもの絶望の表情! 食後の冷や菓子よりスウィートだぜえ!」
「ひょーっ、さすがお頭っ!」
どっと沸く盗賊ども。
哀れな村娘たちは両手両足、口と両穴を懸命に動かして殺されないように必死に腰を振る。
それを聞いて、ゼフの喉がひくりと動いた。拳が震え、このまま駆け出していってしまいそうになる。
「……殺す」
「ゼフ」
ナリャの声が遮る。
だが、ナリャの頬も青ざめていた。
彼女の拳は膝の上でぎゅっと握り込まれている。
「……あいつがバゼロ。間違いない。あの規模なら、私たちだけじゃ敵わない」
「チッ……くそが。あんな奴らに好き勝手やられて……ッ」
「……行こう。報告して、全員で殺す」
ゼフは奥歯を噛み締め、ひとつ頷いた。
二人は闇に溶けるように身を引き、拠点から離れていった。
その背には、怒りと決意。そして、静かな殺意が燃えていた。
「……戻ったか。どうだった」
村外れの小屋、見取り図を囲む簡素な作戦室。
バステンとルーナが佇む中、ゼフとナリャが足早に戻ってきた。額には薄く汗、眼差しには怒気が滲んでいた。
「拠点は尋問した通り廃村で確定、焚き火と天幕三つ。地下にいるって話だったけど、全員が地上でバカ騒ぎしてる。見張りは立ってるがほぼ機能してない。あと、情報以外に三人、愛人のような女いた。戦力にはならなそうだ。……連中、酔って拐った女たちに……その、酷いことを」
言いづらそうにするゼフを、ナリャが代わって言葉でなぞる。
「村の女たちは犯されてる。火のそばで見せしめのように。笑ってた。……それだけじゃない」
ナリャは唇を噛み、声を落とした。
「『村を焼こう』『金貨が欲しい』『もっと肉穴を増やせ』……そう言ってた。今すぐ殺しに行きたい」
その場の空気が凍りつく。
「……ッふざけるなぁっ!!」
真っ先に吠えたのは直情的なドガルだった。
隣で歯噛みするマグ、握り拳をぶるぶる震わせるティナ、険しい目をするパウロ。
彼らの顔には、憤怒と嫌悪が露わになっていた。
「人を、村を、女を……そこまで踏みにじじりおって、生かして返さんぞ、あのクソども……ッ!」
セリンも、いつになく目を見開いていた。
彼女の隣で、ナリャがうなずく。
「私たちの村も……焼かれたから。分かるよ。何もできないまま、全部奪われて……っ。絶対、許せない」
その言葉に、ゼフが頷く。
だがその瞬間。
「……全員、黙れ」
場を鎮めるように、バステンが静かに声を発した。
その声音は抑制されていたが、有無を言わせないものだった。
「……感情で戦えば、被害は増える。相手は残虐だが、数がいる。酔っていても、侮れば痛い目を見る。落ち着け。怒りは剣の柄にだけ宿すんだ。心は常に一定に保て」
次に言葉を継いだのは、ルーナだった。
凛とした声に、全員の視線が向く。
「女に夢中ということは、それだけ隙があるということです。目の前で起きていることを、正確に捉えなさい。感情で目的を見失ってはいけません」
ルーナの眼差しは、ナリャとゼフに向けられた。
「わか……った」
「副団長の言う通りだね。ごめんなさい」
ゼフとナリャは恥ずかしそうに目を伏せる。
「……さて。状況は把握した」
バステンが声を張る。
全員の視線が再び集まる。
「これから掃討に入る。だが、俺とルーナ、ニステルは危うい場面以外では手を出さない。お前たちだけでやってみろ」
その言葉にゼフを始め、ナリャ、セリンなどの若年組は緊張感で身が引き締まった。
「敵は二十。頭領含め、酔いと狂気に溺れたゴミだ。しかも夜中に何も考えず焚き火なんてしているド間抜けだ。
だがゴミはゴミでも、血の味を知っているゴミだ。油断せずにいくぞ。これから作戦を伝える。心は熱く、頭は冷静に。剣の柄に怒りを灯せ。いいな?」
全員が首肯して、武器を持つ手に力がこもる。血と斬撃に踊る夜が始まる。
------
黒い帳が森を包み込み、焚き火の熱気と下卑た笑い声だけが宙を撫でる。
その外周。
見張りを命じられた盗賊たちは、火の輪から遠く離れた闇の中で、気の抜けた声を漏らしていた。
「はぁ……いいよなぁ、頭領たちは。あんな女三人も囲ってよォ……。俺も腰にあんなの巻きてえわ」
「しかも片っぽは村長の孫だろ? 今頃また腰振ってやがんのかね……へっ、こちとら冷えっ冷えだっつーの……なぁ?」
返事はなかった。
「なぁ、おい。どうし、た」
男が怪訝そうに振り返る、その瞬間。
ギュン!
という風切り音とともに、彼の喉元に黒影が突き刺さる。
「がっ」
呻きも途中で止まり、喉を押さえて倒れるその視界に、もう一人の見張りの姿が映った。
その背には既に一本の矢が深く突き刺さっていた。
木陰から放たれたのはロスカの矢。
普段のギャンブル狂いからは想像もできないほど、体の動きは研ぎ澄まされた刃のように洗練され、正規兵仕込みの美しい動作で弦を引き絞る。
必中の矢は雑談していた盗賊の後頭部に吸い込まれ、即死。
二人。静かに葬られる。
そのすぐ横、セリンとナリャが姿勢を低く保ちながら距離を詰める。
「……セリン、いける?」
「もちろん」
パスン!
合図とともに、二本の矢が風を裂いた。
ナリャの矢は心臓を、セリンの矢は喉笛を。
どちらも一直線に急所へ沈み、前のめりに笑っていた盗賊の側頭部と、しゃがみ込んで小便していた別の男の背中に深く突き刺さった。
ふたりの矢筋には、まるで軍楽隊のような呼吸と緊張感があった。
これで四人。速やかに排除。
続いて、ゼフ、パウロ、ティナの三名が疾走する影の如く潜り込む。
「はっ……はっ……はっ」
ゼフは緊張で荒い息を抑えながら、後ろ姿の盗賊に忍び寄り。
口を塞ぎ、短剣を下腹部から喉元まで貫く。
鮮血とともに、くぐもった音だけが闇に沈んだ。
(これが……人を殺す感覚かよ)
手に残る嫌な感触を忘れるように首をする。今はやるべきことが他にある。
「……ほい、あばよ」
「ングッ!?」
パウロは腕力任せではなく、冷静に首の関節を見極めて後頭部に槍を突き立てた。
骨が軋む音がしただけで、男は崩れ落ちる。
「フーッ……平常心、平常心。論理的に私が失敗することなんてありえない。大丈夫、大丈夫……」
ティナは静かに短剣を抜く。
そして盗賊の背後から滑り込むように接近し、口を塞ぐと、
最小限の力で『スーーッ』っと喉元を横に薙ぐ。
温かい飛沫が頬を濡らしても、彼女は眉一つ動かさない。
あっという間に七人。
そこで見張りをサボっていた最後の一人が、なにかに気づいたように身を起こす。
「……あれ、なんか静かじゃね?」
シュッ――!
セリンがすかさず矢を放つが、額の汗が目に入り、わずかに狙いが逸れた。
「ぎっ――!」
(しまった!)
矢は右肩を抉り、盗賊は悲鳴を上げかける。
ここで声を出されたら作戦の成功度が大きく下がってしまう。ナリャの頭は一瞬真っ白になる。
「誰か! おい、襲……っ」
ゴキィッ!
闇の中から一歩、ゆっくりと現れたのはニステルだった。
その手は、盗賊の首を鷲掴みにし、まるで小枝でも折るようにひねり潰す。
「お静かに願うよ」
バキリ、と骨が砕ける音。
男は白目を剥き、そのまま動かなくなった。
そしてナリャの方を向いてパチリと片目を閉じてみせる。
(ニステルさん……ありがとう!)
見張り八人。
誰一人、音を上げずに処理が完了した。
仲間たちが静かに集合する。
マグ、ドガル、マグが今か今かと合図を待っている。
残り十二人。こいつらはほぼ固まっているため、これまでのようにはいかない。
(斉射の後、突撃)
バステンが仲間たちに、手で合図を送る。
ロスカ、ナリャ、セリンが矢を放ったと同時に。
マグ、ドガル、ベラが目配せをし深呼吸をして、丹田に気合を込めて咆哮する。
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
「おりゃああああああっ!」
「がぁぁぉぉぁぁぁぁぁっ!!」
三人の前衛が雄叫びをあげて突進した。
ゼフとナリャの斥候組は、丘陵地帯の岩陰に身を潜めながら、目下に広がる盗賊の拠点を睨み据えていた。
廃村を元に、簡易的ながら要塞化した拠点。
納屋の地下に盗賊どもは潜んでいるという話だったが、彼らはすべて地上に出てていた。
焚き火を囲んで行われている蛮行はまさに、獣に落ちた外道たちの宴だった。
「へへっ、見ろよこの面! 涙ぐんでるぜぇ。興奮すんだろぉ?」
「オイ、こいつダンナがいるらしいぜ。なあ、奥さんよォ。もう二度と帰れねえけどなぁっ!」
「かーっ、この酒サイコー! この間襲った村、しこたま溜めやがってよお!」
「ひひひ、悲鳴あげさせた方が締まるってなぁ!」
「肉ウメェ! 肉ウメェ! 女ウメェ!」
「なァバゼロ、こいつら喋んなくなってきたぜ。次、耳でも削いでやるか?」
「おいおい、穴が足りねぇんだけど? 補充よろしくぅ~!」
「今夜は盛大にいこうぜぇ! 村ごと燃やして、火事見ながらヤるのも風流ってモンよ!」
「やっぱ百姓女はたまんねえな。ケツがデカくて泣きながら啼く声が最高だわ!」
「おいそこのババア、顔しかめてんじゃねえよ。お前も肉穴には変わりねえだろぉが!」
「ふっざけんな! てめぇの亭主が助けに来るとでも思ってんのかよ、あぁ!? ぶっ殺すぞゴラァ!」
「クハハッ、村人どもにゃあ贅沢な死に方だよなァ。火炙りで煙と一緒に天国へ送ってやるよォ!」
焚き火の明かりがちらちらと揺れ、酔いと熱気と欲望が入り混じる声が、夜風に乗って漏れ聞こえてくる。
粗末な天幕が三張り。囲むようにして並ぶ木箱や寝藁の山。
その中心に、盗賊たちおよそ十二名が集い、酒に酔い、肉を食らい、女を嬲っていた。その周囲には羨ましそうな気配を漂わせながら、八人ほどの見張りが立っている。
「……くそっ」
ゼフの低く噛み殺した声。
火のそばでは、拉致されたミンスク村の女たち数人が押し倒され、痣や泥まみれの身体を揺すられていた。
すすり泣く声、力なく垂れる手足、悔しさと屈辱を滲ませた目、虚ろに絶望した表情。
それを囲んで笑い声を上げる盗賊たちの顔は、どれも獣のように醜悪だった。
「まだ、だよ。ここで突っ込んだって、意味ない」
ナリャがゼフの肩を押さえる。
銀灰の髪が月明かりに浮かび、涼やかな目元に、ひりつくような静けさが宿っていた。
「……あそこ、見て」
ナリャが顎で示したのは、中央の丸太椅子。
ふんぞり返るようにして座る大男の肩には、三人の女が絡みついていた。その隣には血みどろの斬殺死体が横たわっている。
「あ~ん、バゼロォ。はやくチンケな村なんて焼き滅ぼして、あたしたちだけの王国つくっちゃお~よぉ」
「ねー、あたい金貨あったらもーっとサービスしちゃうのにぃ。バゼロちゃんに、ぜーんぶ、あげるねぇっ」
「惨めな村人たちの悲鳴と血しぶきが見たいなぁ~。あたし、そういうの見ながらナカ出しされるの、大好きなんだぁ……」
下品な嬌声に、大男──『獣皮のバゼロ』が汚らしく笑う。
「ケッ、はしたねぇ雌ブタどもが。だがよ、悪くねぇ。悪くねぇぜぇ……ハッハッハ。この馬鹿、命令聞かねえで村に火ぃ点けたからぶっ殺してやったけどよぉ……」
バゼロはぴくぴくと痙攣する死体を興味なさげに見やる。凄まじい膂力で脳天から胸骨まで唐竹割りにされており、脳漿やら髄液やらが飛び散っていた。
「でもゴミ百姓のクソ村はやっぱ燃やすに限るぜえ! スカッとすんだよなぁ。朝起きて搾りたてのリンゴジュース飲むよりスッキリするぜぇ~っ!」
「やーん、バゼロったら健康志向~っ!」
「ガハハ! 健康じゃねえと略奪殺人にも身が入らねえってもんよ!」
「ちげえねえや!」
「グフフフフッ!」
外道たちの会話が宴を狂気に彩る。
酒盃を放ると、バゼロは火のそばに縛りつけられた村の女たちを見やる。
目の焦点も合わないその女たちは、恐怖に凍りついた顔で身を震わせていた。
「……なぁお前ら、もっと部下たちを喜ばせろや……俺はよぉ……仲間を大切にするバゼロ様なんだよ。部下の生活も守れないで何が頭領だよ。なぁ、お前もそう思うだろ? ゴミ百姓の肉穴ちゃんよぉ」
「ゆ、許してください……も、もう、おまんこ、閉じなくて……力入らないんです……」
「お、お尻の穴がぁ……すーすーするよぅ……いたい……」
「いやぁ、もういやぁ……」
女たちのすすり泣く懇願がバゼロに届く。
「何? もう限界? そうかぁ、穴が壊れちまったのかぁ……」
口元をいやらしく歪めたバゼロが、親指を立てて、ぐいと下に向ける。
「……なら、増やせばいいだけだろォが。ボケが! へっ、肉穴なんざ何個あっても困らねぇよなぁ!」
バゼロは短剣を取り出し、近くにいた村娘の腹に突き立てようとする。
「ひ、ひぃっ」
「別によぉ、俺たちは肉穴ならなんでもいいんだぜ? ヘソでも、目でも、耳でもよぉ……。その柔らかそうな土手っ腹に二つくらい新しい肉穴こさえてやろうか? てめえの臓腑でしごいてやってもいいんだぜ?」
「ひ、ひいいいいっ」
「や、やりますうぅ! おまんこ締めますっ!」
「こ、殺さないで……」
「ぐひゃひゃ! あーっ、最っ高だぜ! ゴミカスどもの絶望の表情! 食後の冷や菓子よりスウィートだぜえ!」
「ひょーっ、さすがお頭っ!」
どっと沸く盗賊ども。
哀れな村娘たちは両手両足、口と両穴を懸命に動かして殺されないように必死に腰を振る。
それを聞いて、ゼフの喉がひくりと動いた。拳が震え、このまま駆け出していってしまいそうになる。
「……殺す」
「ゼフ」
ナリャの声が遮る。
だが、ナリャの頬も青ざめていた。
彼女の拳は膝の上でぎゅっと握り込まれている。
「……あいつがバゼロ。間違いない。あの規模なら、私たちだけじゃ敵わない」
「チッ……くそが。あんな奴らに好き勝手やられて……ッ」
「……行こう。報告して、全員で殺す」
ゼフは奥歯を噛み締め、ひとつ頷いた。
二人は闇に溶けるように身を引き、拠点から離れていった。
その背には、怒りと決意。そして、静かな殺意が燃えていた。
「……戻ったか。どうだった」
村外れの小屋、見取り図を囲む簡素な作戦室。
バステンとルーナが佇む中、ゼフとナリャが足早に戻ってきた。額には薄く汗、眼差しには怒気が滲んでいた。
「拠点は尋問した通り廃村で確定、焚き火と天幕三つ。地下にいるって話だったけど、全員が地上でバカ騒ぎしてる。見張りは立ってるがほぼ機能してない。あと、情報以外に三人、愛人のような女いた。戦力にはならなそうだ。……連中、酔って拐った女たちに……その、酷いことを」
言いづらそうにするゼフを、ナリャが代わって言葉でなぞる。
「村の女たちは犯されてる。火のそばで見せしめのように。笑ってた。……それだけじゃない」
ナリャは唇を噛み、声を落とした。
「『村を焼こう』『金貨が欲しい』『もっと肉穴を増やせ』……そう言ってた。今すぐ殺しに行きたい」
その場の空気が凍りつく。
「……ッふざけるなぁっ!!」
真っ先に吠えたのは直情的なドガルだった。
隣で歯噛みするマグ、握り拳をぶるぶる震わせるティナ、険しい目をするパウロ。
彼らの顔には、憤怒と嫌悪が露わになっていた。
「人を、村を、女を……そこまで踏みにじじりおって、生かして返さんぞ、あのクソども……ッ!」
セリンも、いつになく目を見開いていた。
彼女の隣で、ナリャがうなずく。
「私たちの村も……焼かれたから。分かるよ。何もできないまま、全部奪われて……っ。絶対、許せない」
その言葉に、ゼフが頷く。
だがその瞬間。
「……全員、黙れ」
場を鎮めるように、バステンが静かに声を発した。
その声音は抑制されていたが、有無を言わせないものだった。
「……感情で戦えば、被害は増える。相手は残虐だが、数がいる。酔っていても、侮れば痛い目を見る。落ち着け。怒りは剣の柄にだけ宿すんだ。心は常に一定に保て」
次に言葉を継いだのは、ルーナだった。
凛とした声に、全員の視線が向く。
「女に夢中ということは、それだけ隙があるということです。目の前で起きていることを、正確に捉えなさい。感情で目的を見失ってはいけません」
ルーナの眼差しは、ナリャとゼフに向けられた。
「わか……った」
「副団長の言う通りだね。ごめんなさい」
ゼフとナリャは恥ずかしそうに目を伏せる。
「……さて。状況は把握した」
バステンが声を張る。
全員の視線が再び集まる。
「これから掃討に入る。だが、俺とルーナ、ニステルは危うい場面以外では手を出さない。お前たちだけでやってみろ」
その言葉にゼフを始め、ナリャ、セリンなどの若年組は緊張感で身が引き締まった。
「敵は二十。頭領含め、酔いと狂気に溺れたゴミだ。しかも夜中に何も考えず焚き火なんてしているド間抜けだ。
だがゴミはゴミでも、血の味を知っているゴミだ。油断せずにいくぞ。これから作戦を伝える。心は熱く、頭は冷静に。剣の柄に怒りを灯せ。いいな?」
全員が首肯して、武器を持つ手に力がこもる。血と斬撃に踊る夜が始まる。
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黒い帳が森を包み込み、焚き火の熱気と下卑た笑い声だけが宙を撫でる。
その外周。
見張りを命じられた盗賊たちは、火の輪から遠く離れた闇の中で、気の抜けた声を漏らしていた。
「はぁ……いいよなぁ、頭領たちは。あんな女三人も囲ってよォ……。俺も腰にあんなの巻きてえわ」
「しかも片っぽは村長の孫だろ? 今頃また腰振ってやがんのかね……へっ、こちとら冷えっ冷えだっつーの……なぁ?」
返事はなかった。
「なぁ、おい。どうし、た」
男が怪訝そうに振り返る、その瞬間。
ギュン!
という風切り音とともに、彼の喉元に黒影が突き刺さる。
「がっ」
呻きも途中で止まり、喉を押さえて倒れるその視界に、もう一人の見張りの姿が映った。
その背には既に一本の矢が深く突き刺さっていた。
木陰から放たれたのはロスカの矢。
普段のギャンブル狂いからは想像もできないほど、体の動きは研ぎ澄まされた刃のように洗練され、正規兵仕込みの美しい動作で弦を引き絞る。
必中の矢は雑談していた盗賊の後頭部に吸い込まれ、即死。
二人。静かに葬られる。
そのすぐ横、セリンとナリャが姿勢を低く保ちながら距離を詰める。
「……セリン、いける?」
「もちろん」
パスン!
合図とともに、二本の矢が風を裂いた。
ナリャの矢は心臓を、セリンの矢は喉笛を。
どちらも一直線に急所へ沈み、前のめりに笑っていた盗賊の側頭部と、しゃがみ込んで小便していた別の男の背中に深く突き刺さった。
ふたりの矢筋には、まるで軍楽隊のような呼吸と緊張感があった。
これで四人。速やかに排除。
続いて、ゼフ、パウロ、ティナの三名が疾走する影の如く潜り込む。
「はっ……はっ……はっ」
ゼフは緊張で荒い息を抑えながら、後ろ姿の盗賊に忍び寄り。
口を塞ぎ、短剣を下腹部から喉元まで貫く。
鮮血とともに、くぐもった音だけが闇に沈んだ。
(これが……人を殺す感覚かよ)
手に残る嫌な感触を忘れるように首をする。今はやるべきことが他にある。
「……ほい、あばよ」
「ングッ!?」
パウロは腕力任せではなく、冷静に首の関節を見極めて後頭部に槍を突き立てた。
骨が軋む音がしただけで、男は崩れ落ちる。
「フーッ……平常心、平常心。論理的に私が失敗することなんてありえない。大丈夫、大丈夫……」
ティナは静かに短剣を抜く。
そして盗賊の背後から滑り込むように接近し、口を塞ぐと、
最小限の力で『スーーッ』っと喉元を横に薙ぐ。
温かい飛沫が頬を濡らしても、彼女は眉一つ動かさない。
あっという間に七人。
そこで見張りをサボっていた最後の一人が、なにかに気づいたように身を起こす。
「……あれ、なんか静かじゃね?」
シュッ――!
セリンがすかさず矢を放つが、額の汗が目に入り、わずかに狙いが逸れた。
「ぎっ――!」
(しまった!)
矢は右肩を抉り、盗賊は悲鳴を上げかける。
ここで声を出されたら作戦の成功度が大きく下がってしまう。ナリャの頭は一瞬真っ白になる。
「誰か! おい、襲……っ」
ゴキィッ!
闇の中から一歩、ゆっくりと現れたのはニステルだった。
その手は、盗賊の首を鷲掴みにし、まるで小枝でも折るようにひねり潰す。
「お静かに願うよ」
バキリ、と骨が砕ける音。
男は白目を剥き、そのまま動かなくなった。
そしてナリャの方を向いてパチリと片目を閉じてみせる。
(ニステルさん……ありがとう!)
見張り八人。
誰一人、音を上げずに処理が完了した。
仲間たちが静かに集合する。
マグ、ドガル、マグが今か今かと合図を待っている。
残り十二人。こいつらはほぼ固まっているため、これまでのようにはいかない。
(斉射の後、突撃)
バステンが仲間たちに、手で合図を送る。
ロスカ、ナリャ、セリンが矢を放ったと同時に。
マグ、ドガル、ベラが目配せをし深呼吸をして、丹田に気合を込めて咆哮する。
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
「おりゃああああああっ!」
「がぁぁぉぉぁぁぁぁぁっ!!」
三人の前衛が雄叫びをあげて突進した。
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