絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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ep262 五日後に伯爵と面会決定

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「……さて、タネズ様。前置きが長くなりましたが貴方様をお呼び立てしたのは他でもありません。コスモディアポーションの件です」

 若干お父さんの雰囲気、パパモスフィアを漂わせていたアーサー氏が、一気に仕事モードに切り替わる。

「この数日私はデイライト伯爵閣下と何度も面会を重ね、やっとコスモディアポーションを試してくださる運びとなりました」

 うおおお。
 まじか、やっとか。
 これで一歩前進するな。
 アーサーさん、ずいぶん骨を折ってくれたみたいだ。頭が下がる。

「ありがとうございます、アーサーさん」

「やると決めた以上、当然のことです。さて、日程ですが五日後にお時間を頂けることになりました。この日に私、シルビア殿、タネズ様の三人で伯爵邸に赴きディクレシア姫にコスモディアポーションを使用します。その結果次第で、伯爵閣下は後ろ盾になっても良いとお言葉をもらっています」

「結果次第、ですか」

 条件付きなのは仕方ないか。でも失敗することなんて無いと思うんだよなあ。

「結果次第では我々の首が飛びますな、物理的に」

 ハハハ……と乾いた笑いのラークさん。

 シルビアとアルフィンも愛想笑いを浮かべるが緊張した様子だ。

 物理的に飛んじゃうのか。それは勘弁してほしい。

「そしたら怖いんでベステルタ連れてきますね」

 万が一。万が一のことがあって向こうで兵たちに囲まれてもベスえもん連れていけばなんとかしてくれるだろう。
 そんなことしたら教会も大変なことになるだろうから……そしたらジオス教徒を連れて絶時の森に避難だな。大人数でプテュエラ航空での空輸はできないから、徒歩で移動することになるけど、仕方ない。亜人と僕と傭兵たちで護衛すればきっと何とかなるはず。そんなことにならないのが一番だけどね。

「ふむ。であれば飛ぶのは私とラークの首だけか」

「ハハハ、ギルマス。そこは最高責任者として全責任を取ってください」

「構わんぞ。今からラーク・ジャックナイフを次期ギルドマスターとして任命してやろう」

「職権乱用ですよ!」

 ギルマスはくつくつと笑い、ラークさんがガチで慌てている。こいつはひどいブラックユーモアだぜ。

(……なんかアーサーさん、ちょっと雰囲気柔らかくなった? 伯爵の件で一区切りついたから気が楽になったのかもしれない)

 地元の大物政治家相手に何日も粘り強く交渉した訳だからその心労は察するに余りある。僕ならたぶん固まって何もできない。

 それだけ規模の大きい事業ってことだよな。なかなか想像できないよ。

(待てよ? 規模が大きいと言えば新しいギルド作るとか言ってたよな。あの件はどうなったんだろう)

 あれだよね、商業ギルドだけだと手一杯になりそうだからって文脈だったはず。

「分かりました。五日後に向けて準備しておきます。そう言えば、新たなコスモディアポーションに関して新しいギルドを作ると言ってたと思うんですけど、どうなりましたか?」

「ああ、その件ですか。目下調整中です。何しろ『薬師』たちは用心深い者が多いので」

 薬師?
 初めて聞くワードだな。

「薬師っていう職業があるんですか?」

「……」

「あぁ、ケイは薬師を知らないのね」

「あー、ちょっとギルドマスターの立場だと言いづらいだろうからボクから言うよ。薬師っていうのは正式な職業じゃない、『グレーな商売』って感じかなぁ。怪しい、という点で見たらご主人様にぴったりかもね」

 アルフィンが小馬鹿にした様子で言ってきたので、頰を軽くつまむ。ぷにぷにだな。

「グレーな商売?」

 なんとも微妙な問題そうだ。

「そうだよ。世の中のポーションはアセンブラ教会が牛耳って独占してるじゃん? でもポーションってのは基本的に高いから、買えない人もいるんだよね。そういう人たちに向けて安価に処方する薬を作って売ったりしてるのが薬師だよ。似たような人たちに『治癒師』っていうのもいるね。彼らは人の体調を専門に見る人たちだ」

 はー、なるほどね。確かにそういう需要はあるのか。
 薬師が薬剤師で、治癒師が医者って感じ?
 ……こう考えるとポーションっていうのがいかに歪なのか分かる。それぞれの専門家をすっ飛ばして、結果だけを創出するまさに魔法のポーションだもん。
 コスモディアポーション事業はなんとかその人たちの知見も加えていきたいものだけれど。

「薬師はどんな薬作ってるの?」

「軟膏とかの外用薬が主だね。経口摂取の類はアセンブラのクソどもに禁止されちゃってるのさ。神聖なるアセンブラポーションを想起させるってことで」

「そうなると、いろいろ作る薬も制限されそうだね。薬師たちはさぞやきもきしていそうだ」

「そりゃそうさ。彼らは薬狂いだからね。自分たちのアイデアや発想を極限まで活かして、人のために薬を作りたいのに長年それを妨げられてるんだから、アセンブラへの鬱憤も憎しみもかなりのものだよ。大方お義父様のことだから、薬師ギルドの創設と経口摂取薬の解禁を餌に、商業ギルドの実質的奴隷ギルドになるように交渉中なんじゃないかな?」

 アルフィンは「当たりでしょ?」と得意げな顔でアーサーさんを見たが、彼は「フン」と鼻を鳴らすだけだった。

「でもさ。外用薬だけでもアセンブラと競合になるよね?」

「その通り。過去幾度となく薬師ギルド創設の動きはあったけど、ことごとくアセンブラ教会と冒険者ギルドに潰されてきたのさ」

「冒険者ギルド?」

 えっ、なんでそこで冒険者ギルドが絡んでくるんだ?

「それについては私が説明します。デイライトには『六大ギルド』というものが存在します。傭兵ギルド、商業ギルド、料理ギルド、建鍛けんかギルド、冒険者ギルド、そしてアセンブラ教会です。
 新しくギルドを設立するためにはこれらギルドから過半数の支持を得なければなりません。そして料理ギルドと鍛冶ギルドは昔から中立の立場を守り、冒険者ギルドとアセンブラ教会は結託しています」

「ちなみに傭兵ギルドと商業ギルドも結託してわっるぅいことしてるよ、あだっ!」

 ぶっちゃけたアルフィンの頭にアーサーの拳骨が落ちる。

 二つほど気になるギルド? がある

「建鍛ギルドって聞き慣れないギルドですね。腕っぷし強そうなギルド名ですねど」

「鍛冶ギルドと建築ギルドが統合したギルドですな。現ギルドマスターのアルガットが、どちらの分野に対しても非常に高い専門性を持っているため、統合されました。かつて建築ギルドでは人員の老年化が進んだため、知見のあるアルガットが兼任することになったのです。その名残りです」

「ちなみにギルドメンバーはクセの強い職人かつ、肉体労働者なのでケンカっ早いです」

 なるほどね。
 老年化は由々しき問題だ。そのアルガットって人がいてよかったね。

 となると傭兵&商業VS冒険者&教会VSダークライwith料理&建鍛の構図か。

 勢力が完全に三分割されてるのね。

 だから教会の競合になるギルドを設立しようとすると、結託してる冒険者ギルドが一緒に反対して可決できないと。にしても傭兵ギルドと商業ギルドってあんまり繋がりなさそうに見えるけど、裏じゃ繋がってるのか。大人の世界こえぇ。

 ん? でもちょっと待って。

「そもそも、アセンブラ教会ってギルドなの?」

「ギルドではありません」

 アーサーさんが苦虫を噛み潰したような表情をする。

「さすがにご主人様のシワなし脳みそでも分かるかぁ~。アセンブラ教会はその昔、デイライトの政治に食い込むために無理やり自分たちを『ギルド相当組織』としてねじ込んだらしいよ。反対した組織にはポーションの使用を禁ずるとかいろんなあくどいことしてね」

 と、アルフィン。

 うっわ……。ほんと教会のくせにめちゃくちゃやってんなあいつら。

 にしてもいろんな組織が入り乱れてるから、僕のシワなし脳みそでは一旦整理しないとついていけなくなりそうだ。

「えーっと、じゃあこういうこと?
 商業ギルドとしては新しいギルド、コスモディアポーションを中心とした新機軸の薬師ギルドを作りたい。
 でもアセンブラ教会と冒険者ギルドが結託しているため薬師ギルドを作るのが難しい」

「その通りですな」

「となると……商業ギルドとしては、鍛冶ギルドと料理ギルドを味方につけようとしてるのかな?」

「おっ、ご主人様シワが一、二本くらい増えたのかな? えらいえらい。よしよししてあげるね~」

 ぺちぺち、と頭頂部を優しく叩かれる。オメー、それ僕が薄毛だったら絶許右ストレート飛んでたからな。

「ご推察の通りです。我々は今、二つのギルドに対し水面下で交渉を行なっております」

 すげー。そうなんだ。
 のほほんと暮らしてるデイライトの生活の中で、そんな権力闘争が繰り広げられていたのね。

「ちなみに、うまくいってます?」

「目下難航中です」

 ラークさんが苦笑する。

「ってーと、お金では解決できない問題ですか?」

 何となく商業ギルドって一番お金持ってそうだし、札束ビンタでどうにかなりそうな気もするけど。

「金で解決できればいいのですが、両ギルドとも拘りの強い偏屈なものが多く集まるギルドです。その親玉が金だけで動くわけがありません。彼らが要求しているのは金銭と希少素材です。希少素材を用意できるなら検討する、と」

 その言葉だけで、拘りの強い職人集団なんだなと感じる。

 お金はもちろん大切だけど、それだけじゃないんだろうなと。

 自分たちのスキルを極限まで高めて、職人としての高みを目指したいんだろうなあ。

 ミゲルやゴドーさん、ドゴンさんからもそんな気配を感じたし。

 僕にはできないことだから、とても尊敬する。

「でしたら……僕が確保したフレイムベアを使ってください。十頭狩ってきたんだし、二頭ずつくらい渡しても構いませんよ」

「し、正気ですか!? 無傷のフレイムベアですよ!?」

 急にラークさんがバンと机を叩いたので、ビクッとしてしまった。やめなよ、反動で髪の毛が落ちるぞ。

「僕はいつでも正気ですよ。なんなら譲っちゃってください。僕の取り分は無くてもいいです」

「……なんと剛毅な」

 恐ろしいものでも見るかのように、ラークさんはたじろぐ。僕から殺意の波動でも漏れているのだろうか。瞬獄◯しちゃうぞ。

「タネズ様……よろしいので? 無傷のフレイムベアが合計で四頭ともなると、貴族でも躊躇う金額になります」

 念押しをしてくる。そんなこと言われるとちょっと揺らいでくるけど、まあいいっしょ。

「いいですよ。ここが手札の切りどころでしょう。それにここで投資しておけば、巡り巡ってさらなる利益を僕たちブラタネリ商会にもたらしてくれると信じています」

 資産をただ持っているだけなのはもったいない。
 回していかないとな。お金に働いてもらわないと。

「ケイ……ありがとう」

 すると横からシルビアがそっと手を握ってくれた。とても信頼を感じる握り方だ。利益に対する主語を「僕」じゃなくて「ブラタネリ商会」って言ったのがよかったのかもしれない。こちらも握り返すと、彼女は柔らかく微笑んだ。

「承知いたしました。無傷のフレイムベアが四頭ともなれば、両ギルドにも大きく出ることが可能です」

 アーサーさんはスッ立ち上がると、深いお辞儀をした。ラークさんもそれに続く。

「タネズ様のご英断に報えるよう尽力させていただきます」

「いえいえ。持ちつ持たれつです。商業ギルドのことは信頼していますので」

「その信頼に応えなければなりませんな」

 おっかない顔をしてアーサーさんはメモ用紙を取り出し、そこにサラサラと綺麗な筆致で何かを書いた。そして机の上にあったベルを一度『リン』と鳴らす。

「ギルドマスター、何か御用でしょうか」

 即座に部屋の外から壮年のギルド職員が入ってくる。佇まいも口調も落ち着いていて、ベテランみを感じるぞ。

「うむ。これをロイ課長に。フレイムベアを四頭確保しておくよう、伝えてくれ」

「はい…………むっ」

 ベテラン職員は渡されたメモ用紙に目を通すと、かなり驚いたあと一瞬僕をじっと見た。

「よろしく頼む」

「承知いたしました」

 彼は僕たちに一礼し、早足で去っていった。

「それではタネズ様、よろしくお願いいたします。また五日後に」

 話が終わりそうになったので、慌てて引き止める。

「あっ、すみません。別件で確認というか許可を貰いたいことが」

「……別件、ですか」

 アーサーさんの顔が険しくなり、ラークさんの表情がげんなりとしたものになる。そんな顔すんなよ。

「そんなやばいことじゃないと思うんで大丈夫です」

「ケイの大丈夫って信用できないのよねえ」

「ご主人様は感覚ズレまくってるからねえ」

「そんなことないよ。擁護しろよ」

「使徒様が行うことはすべてジオス教徒への福音です!」

「あぁぁぁ! カリンちゃーん!」

 仲間に背後から撃たれる。ひでえ連中だ。カリンだけだよ無条件肯定してくれるのは。

「して、どのような案件でしょうか?」

「実は爆薬の工房を持ちたくて。可能ですか?」

「ば、爆薬ですか」

 ラークさんはシャイバードが豆鉄砲食らったような顔をした。

「ふむ……爆薬」

 ギルマスも顎を撫でて思案している。

「え、ケイ。爆薬って、どっからそんな話が出てきたの?」

「へぇ、ちょっと斜め上の提案だったなぁ~」

 彼女たちも意外そうな様子だ。

「タネズ様詳しくお聞きしても?」

「はい。実は僕が運営、というか出資している傭兵団がありまして……」

 

 というわけで、ティナのことを話した。

「なるほど、自前の工房を建設したいと」

「はい。基本は工房街区に構えなきゃいけないっていうのは分かってるんですけど、僕の場合は亜人の力を借りて地下深くの、何かあっても被害が絶対に出ないところに建設可能です。どうですかね?」

「ふぅむ……」

 アーサーさんは顎を撫で、しばし目を閉じた後に言った。

「私では即断できませぬ」

 と即断した。
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