絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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ep264 全部出せっ(アルコール)

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 しばらくして彼女はドルガン親方を連れて戻ってきた。立派な髭をしごいている。

「おう、ケイ。久しぶりじゃな、元気か?」

「元気ですよ。ドルガンさんもイカしたお髭だね」

「じゃろう? ドワーフにとって髭は命よ……そう言えばお前さんが勧めてくれたスラムの人足たちだが、役に立っとるぞ。怠けずよく働くから助かっとる」

「そりゃよかった」

 世間話をして応接室に通してもらう。受付のお姉さんにお茶を淹れてもらい、本題に入る。

「さて、ケイ。今日はどうした? すまんがちょうど立て込んでおっての。納期が近い案件がいくつかあるんじゃ。手短に話してもらえるか」

 ずぞぞ、と豪快に茶を啜ったあといかめしい顔で腕を組んだ。頑固な職人そのものって感じで迫力がある。仕事にプライドを持って取り組んでいる人の佇まいだ。しかしその後ろで受付お姉さんがドルガンさんをガン見して立っている。この前みたいに、なんか変なこと言わないように見張ってるんだろうな。

(こりゃお酒の差し入れは不要だったかな?)

 ドワーフはお酒好きっていう印象だけで突っ走ってしまったかもしれない。さすがに仕事中にお酒渡すのは服務規程的にありえないか。こういうとこがズレてるって言われてるのかもね。

「頼んでいた家について確認したいことがあって、差し入れでお酒を持ってんだけど、忙しかったみたいだね。ごめんなさい。出直すよ」

「わしらに酒じゃと!? バカを言うな!」

 彼は怒ったように立ち上がる。
 やっべ、やっぱり仕事中に酒は不味かったか……。いくらドワーフでもTPOわきまえるよね。これは僕が悪い。セラミナを置いてきたのは正解だったよ。さて、土下座するか。

「大変もうしわけ……」

「酒の匂いなどせんぞ! どこにあるんじゃ!」

「え、えっと魔法の鞄に」

「ああっ、そう言えばお前さんの鞄は魔法の鞄じゃったか。そういうことなら納得だわい。ほら、はよ出さんか」

「えっ、怒ってないの?」

「なんで怒るんじゃ? わしらのために酒を持ってきてくれたのだろう? 感謝こそすれ、怒るなどありえん。そんなやうはハンマーの錆にしてやるわい」

 ……あぁ、そうなのね。

 やっぱりドワーフはドワーフだったよ。まあ怒ってないみたいでよかったけど。

「っと、その前に頼んでいた家の進捗を聞きたいんだ」

「ああ、お前さんが依頼したあのトンチキ豪邸か。いやはや、最初はわけわからん依頼だと思っていたのじゃが、やってみたらなかなか面白くてな。若手たちも自分の発想を自由に試せると言って喜んでおるわ」

「……僕の家を実験台にされると困っちゃうんだけど?」

「心配するな。仕事はきっちりやっておるわ。内装は最低限でいいという話じゃったしな。もうほとんどできとるぞい。もし追加注文があるなら、今の段階で言っておけ」

 おっと、危なかったな。ギリギリセーフか。今日来てよかったよ。

「そしたら一つ追加注文したいな。一人住人が増えることになってさ。部屋を増やしてほしい」

「部屋は多めに作ってあるからたぶん足りるぞ?」

「あ、そうなんだ。そしたら……大きな壺を用意できるかな? 彼女、壺の中で暮らしたいみたいなんだ」

「……壺? 壺の中で暮らすのか? 鑑賞したいのではなく?」

「うん。ひんやりした壺にぴったり身体を収めて、寝るのが好きなんだって」

「……ふぅ。依頼人の要望じゃからな。もちろん対応するが、そんな注文受けたのは初めてじゃわい……まあ、あんな家造るくらいだしな。あんま驚かなくなったわい。壺はどのくらいの大きさにするんじゃ?」

 そう言ってドルガンさんは採寸用のでっかい「ものさし」みたいのを持ってきた。なにに使うんだ、と思ったけど獣人の中には熊人族みたいな規格外の横幅を持つ種族もいるから、彼らに合わせて家を造る必要があったりする。そういう時に使うらしい。

 とりあえずトリスの蛸壺ルームに関しては三種類のサイズを作ってもらって、それぞれ試すことになった。

 壺はドルガンさんの専門外のため、知り合いの業者を呼んできてくれた。爬虫類っぽい見た目の獣人だった。

「こ、こんなに予算を貰えるのか?」

「足りないかな? 大切な人に贈るものだからちゃんとしたものを造りたいんだ」

「足りる足りる! これだけあればすごい壺が造れるぞ! 任せてくれ!」

 興奮した様子の爬虫類陶芸ニキ。

 陶芸家っぽい作務衣を来て、前掛けに泥やら土がたくさんついている。なんか種族的優位性あるのかな? と思ったら、手のひらに鱗がびっしりついていてつるつるだったので、そういうのを活かすのかも知れないな。
 
「じゃあ頼める? 一応、人が住むものだから今までとは勝手が違うと思うけど」

「問題ない! 俺に任せてくれ! 最高の壺を作ってみせる!」

 予算を提示したらめちゃくちゃやる気出してくれた。まあこの分なら大丈夫だろう。彼はもう造り始めたいらしく、特に予算の交渉もせず急ぎ足で帰っていった。そんな適当な感じでいいのかな。まあ職人らしいや。

「あいつの親父は儂の知り合いでな。跡を継いだんだが、腕は確かだから大丈夫じゃ」

「ドルガンさんがそう言うなら問題なさそうだね」

「うむ。壺のことはこっちで調整しておくから問題ないぞ」

 すると彼は妙にそわそわしてこっちをチラチラし始めた。まるで恋する女学生だ。勘弁願いたい。理由は分かってるのでさっさと片付けよう。

「そしたらお酒を出すね」

「ッシャ!」

 ドルガンさんはやたらと若々しいガッツポーズを披露する。

「そしたらどこに出そうか。広いところがいいんだけど」

「む? 瓶の酒を買ってきてくれたんじゃろう? ここで飲むから問題ないぞ」

 髭面ドワーフのきょとん顔。うーん、なかなかげんなりする。ていうか仕事中に当たり前のように飲もうとするなよ。文化が違うからあんまツッコめないけどさぁ。

「樽ごと買ってきたんだよね」

「た、樽じゃと……?」

 彼の表情がクワッと力んだ。こわい。

「うん、だからここに出すには大きすぎるかな」

「か、かまわん! ここに出せ! 早く出せ!」

 身を乗り出して「出せっ出せっ!」と言ってくるヒゲモジャのドワーフ。トラウマになりそう。精神がガリガリ削られる。

「儂に全部出せっ……ぐぉっ!」

 ゴィンッ!

 とその頭をお姉さんが、笑顔で無骨な工具で後ろからぶん殴った。ドルガン親方はそのまま床に突っ伏して動かない。

「タネズ様、失礼しました。お酒の差し入れ、どうもありがとうございます」

「あ、はい」

「申し訳ありませんが、指定したところに下ろしていただきたく……ご足労願えますか?」

「分かりました……ドルガンさん、あのままでいいんですか?」

「問題ありません」

 受付お姉さんは応接室に当たり横たわるドルガンを汚物を見る眼差しで一瞥した。これぱっと見、密室殺人現場みたいだよ。

「今さらですけど、お酒の差し入れ迷惑じゃなかったですか?」

「いえいえ。本当に有り難いです。作業員たちの側に置いておけばあいつらのやる気も出ますので」

 気になって作業が疎かになったりしないのかな……。まあプロだから大丈夫か。大丈夫なのか?

 受付お姉さんが案内してくれたのは、前も来たことがあるでっかい倉庫みたいなところだった。そこにはいくつか建設中の家が立ち並んでいて、なかなかに壮観だった。当たり前だけど、家っていうのは決まった土地の上に建てるもんだと思うが、ここは異世界。僕のように持ち運びできる家というのにも需要があるんだろう。

「えっさ、ほいさ!」

「えっさぁ、ほいさぁっ!」

「どっせえええぃっ!」

「っシャオラっ!」

 そこではむさ苦しいドワーフたちや、熊人族、その他屈強な獣人たちが筋肉と汗にまみれて作業している。ムワッと香る雄臭スメルに思わずえづきそうになる。

「少々お待ちを」

 受付お姉さんがカツカツと現場の方までヒール音を奏でながら向かい、応援団のように背中に手を当てる。すぅっと息を吸い込んだあと、信じられなくらいの大声で叫んだ。

「聞けえええぇぇぇぇぃいいい!!! おめぇらァァァァァァ!!!」

「ひぇっ」

 野太いガナリ超えが倉庫いっぱいに響き渡る。反射的に耳を押さえてしまった。

「姐さん!」

「お疲れさまです!」

「うっす! うっす!」

 すると彼女よりずっと大きいはずの強面獣人やドワーフが、ピタッと作業を止めて軍隊ばりの速度で僕たちの前に整列した。

「オメェら! 
 こちらは太客のタネズ様だ、ご挨拶しな!」

「「「ううぅっっっす! あしゃしゃーーーーーすっ!!!」」」

「あっ……どもっす」

 目がパキパキにキマった大工さんたちが、僕めがけて挨拶をぶっこんでくる。

 めちゃこわい。はやく退散しよう。

「タネズ様がおめぇらのために酒の差し入れを持ってきてくださった! オラァ! お礼を言えっ!」

「「「うおおおおっ、ありやーーーー!!すっ!!!」」」

 ぶっとい歓声が物理的圧力を伴って僕を叩く。唾が飛んできてそうな勢いだ。

「お仕事お疲れ様です。これは僕からのほんの気持ちです」

 そう言って魔法の鞄から十樽の酒樽を取り出した。

 ドスン! ッドゥンッ! 

 立て続けに積み上がっていく酒樽の山に、大工たちの目がぎらりと光る。
 
 怒号と共に、空気が震えた。

「じゅ、十樽だとぉ!? なんてこった、祭りか!?!?」

「ぎゃはははっ! タネズ様ぁ! オレたち一生ついていきやすぜぇ!!」

「やべぇ……やべぇなこれ……! こいつは現場が燃えるぞぉぉぉ!!!」

 誰かが天を仰いで吠えると、仲間たちも次々に続いた。

「「「ウォォォォーーーーッッッ!!!!」」」

 槌を掲げて跳ねる者、酒樽に抱きついて頬ずりする者、地団駄を踏んで喜びを爆発させる者。

 建築途中の家が崩れんばかりの熱狂が広がり、場の士気は一気に最高潮へ。

(……こんなにやる気出してくれるなら、まあいっか)


 ドルガンさんのとこで、家の進捗確認とお酒の差し入れは終わった。ほんまむさむさした空間だった。外の空気とセラミナのニコニコ笑顔が心に染みる。

 僕たちは本日最後の訪問先、マダムジャンゴの店の前に来ていた。

「……」

 セラミナが複雑そうな、物憂げな表情でお店を見上げている。やっぱり連れてこないほうがよかっただろうか。

「セラミナ、大丈夫?」

「あっ、すみません。ぜんぜん大丈夫です」

「なんか辛そうな顔をしていたからさ」

「そうでしたか? 私は大丈夫です。ただ、人生って何が起こるか分からないなあって考えちゃったんです」

 そっちか。
 まあそうだよね。
 尽くしていた貴族に捨てられて、ボロボロになりながらもなんとかデイライトにたどり着いて……。今は元気に食堂の看板娘だ。

「私たちは、幸運でした。ご主人さまに拾ってもらえて、シルビア様やカリン様には気を遣っていただいていますし、奴隷仲間は皆さん優しいです。スラムの皆さんも気さくで……。あの場所は奴隷だからって差別されることはありません。飯炊き女とか蔑まれることもありません。こんな私でも誇りを持って、毎日楽しく働けてます」

 そんな風に思ってくれてたのか。
 
 あかん、涙出そう。

「だから……これから購入する新しい奴隷さんたちにも、同じような気持ちになってほしいなって、思ったんです」

 セラミナはぎこちなく笑って、僕の手を握った。


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