絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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ep276 クレイジーサイコ姉妹

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(……めっちゃよかった)

 ふつーに感動してしまった。
 耳に残るメロディだし、歌声はピカイチだもん。
 それになんか風吹いてなかった? 魔法か、あれ?
 なんにせよ、この世界におけるライブとしては相当上澄みなんじゃないか。

(ていうか、ウィンティのやってることがかなり最先端な気がする)

 他の吟遊詩人を見たこと無いので何とも言えないけど。こんなアーティストがゴロゴロいても困る。 

 というわけでウィンティの即席公演は大成功で、いい感じにお開きになった。

 観客たちからしきりに褒め言葉をもらったあと、ぼーっと歌の余韻に浸るウィンティに声を掛ける。

「お疲れウィンティ。すごくいい歌だった」

「当然だよ、僕だからね」

 返ってきたのは自信に満ちあふれた言葉。アーティストのメンタリティってすごいよなあ。

「今の曲は全部君が考えたのかい?」

「そんなの当たり前じゃないか。もちろん、旋律も歌詞もこのぼくが考えて創り出した唯一無二のものさ」

 やや憮然とした表情になる。

「ごめんごめん、あまりにもすごかったからさ。ちなみに、どういう時に思いつくの?」

「うーん、やっぱり刺激的な体験をした時かな。生きていることを実感できるような、ヒリヒリした緊張感の中に、黄金の旋律は隠れているんだ。
 その怪物の尻尾を掴んで、引っ張り出すのがぼくの役目。
 もし極上の非日常を味わえるなら、悪魔にだって魂を売るよ」

 ほほう。

 言質は取りましたよ。

「ウィンティ、このあと空いてる?」

「うん。このあとは特に予定ないよ。食堂でもう一曲歌おうかなーって思ってたくらい」

「分かった。じゃあちょっと付き合ってほしい所あるから、少し待っててくれる?」

「ん? いいよ~。じゃあ適当にそこら辺ぶらついてるね~」

 よしよし。

 そしたら先に用事を片付けちゃうか。

「カリン、今いいかい?」

「はい、使徒様。貴方様のカリンはここにおりますよ」

 と呼ぶと、近くで二人の女性と話していたカリンは最近めっきり綺麗になった顔を、喜びに綻ばせながら近づいてくる。二人の女性は僕を見て、顔を伏せた。顔がキモかったのだろうか。申し訳無い。

「カリン、そちらの人たちは?」

「この者らは神官見習いとして働いている姉妹です。二人とも、至高にして清らかなる使徒様にご挨拶なさい」

「「はい、カリン様」」

 やや硬い声ながら、しっかりと返事をする見習い神官姉妹。

「至高にして、いとお優しい使徒様。私はサティと申します。十七歳です」

「至尊にして、いと慈悲深き使徒様。わたしはレティです。同じく十七歳です」

 その大仰な挨拶にはもうツッコむまい。

 二人とも素朴で清貧な雰囲気ながら、神に仕えるものとしての美しさを感じるたたずまいだ。セラミナがもっと大人しくなって、凛とした感じだろうか。表情の変化に乏しいのは、つらい生活を経験したせいか、それとも元からなのか。あと微妙にジト目だ。

(ていうか目のハイライト落ちてるな……)

 レイポ目というか、暗い目をしている。

 同年齢の姉妹ということだが、サティの方が微妙に大人っぽく、レティの方が子供っぽい。

「多くの候補者の中から選りすぐった素質の持ち主で、必ずやジオス教の未来のため、使徒様のために役立つ者と存じます」

「有り難きお言葉、感謝いたします。カリンお姉様」
 
「わたしたち姉妹は、カリン様と、使徒様にお救い頂きました。この身体はジオス様と使徒様のものです。いかようにも、使い潰してください」

 抑揚のあまり無い声色と対照的に、爛々と輝くサティとレティの瞳。

 思わずたじろいでしまうものだった。

 選りすぐった素質の意味がわかったかも。
 これ、狂信系っすわ。カリン、同類を選んだな……。

「二人とも、よくご挨拶できましたね。あとで飴をあげましょう」

「わーい」

「わーい。お姉様、好き」

 ……いや、もしかして天然なのか? わからん。

 まあいいや。先にこっちの用事を済ませよう。
 
「カリン、これ」

「ええと、これは?」

「君に日頃の感謝を込めてプレゼントしようと思って。買っておいたんだ」

 僕は彼女に『糸と布の基礎学 著:王都織物研究会主席 ハロルド・メンデル』を手渡す。

「こ、これは……」

 カリンはカッと目を見開き、二人の姉妹は「「おお~っ」」と驚きの声をあげる。

「日頃からお世話になってるからね。何かカリンの役に立つ物をあげたくて。気に入るといいんだけど」

「そ、そのような、か、カリンは使徒様にお仕えして当然なのです。使徒様をお支えするのが、存在意義なのです。だから、このような、お優しき、お優しきことなど、う、ぅう、え、え……」

「え?」

「……えーん」

 泣いてしまった。
 さっきまで『信仰篤き神官です!』って雰囲気だったのに、子供みたいに泣いてしまっている。ぽろぽろ涙をこぼし、うぐ、ひぐっ、としゃっくりしまくっている。

「使徒様がお姉様を泣かせてしまいました」

「使徒様がカリン様を泣かせました」

 サティ&レティは何を考えているかわからない顔で言いつつ、カリンの涙を拭いたり背中を擦ってあげていた。

「カリンごめ」

「使徒様、今は触れないでください」

「カリンお姉様がもっと泣いてしまいます」

 パシッ。
 まさかの手で払い除けられた。
 うせやろ? 

「ご、ごめん」

「しばしお待ちを。お姉様を落ち着かせます」

「使徒様はそこで立っていてください」

 わーお、ぞんざい。
 
 突っ立っている間、彼女たちのやりとりを見て分かったことがある。

「お姉様、鼻水が垂れてます。拭いて差し上げます」「お可哀想に。背中を擦って差し上げます」「レティ、どさくさに紛れて涙を舐めてはいけません」「サティもお胸を触ってはいけません」「すみません、つい本能的に」「今日もお美しいカリンお姉様。私たちがついております」「泣いているお姉様も大好きです」「一生お世話します」

 ……これジオス狂信者でも、使徒狂信者でもない。

 カリン狂信者クレイジーカリンレズや……。

「……すみません。落ち着きました」

 しばらく鼻水ずびずばびぇん、涙えぐひっくしていたカリンだったが、やっと落ち着いたようだ。

「そっか。よかったよ。ごめんね、いきなり渡さずにもっと頃合いを見計らうべきだった」

「いえ、いえ。私の心持ちが悪いのです。いつでもどこでも、使徒様の空よりも広く海よりも深い御心に応じられるようにしなければいけなかったのです……この本は、カリンの家宝にします。使徒様、ありがとうございます。カリンは幸せです」

 本当に幸せそうに、彼女は本を抱きしめた。なんて晴れやかな表情だろうか。守りたいこの笑顔。隣で「お姉様を守護りたい……」「守護ったお姉様をひたすら甘やかしたい……」ってハイライト落ち目でブツブツ言ってる姉妹がいなければもっとよかったんだが。

「使徒様、実はカリンからもお渡ししたいものがございます。プレゼント、という訳では無いのですが」

 すると懐を何やらまさぐると、じゃらりと金属音のする布袋を取り出した。ちなみに布袋はカリンの体温でほどよく暖まっており、ほんのり汗で湿っている最高の一品だった。

「これは?」

「この中に、ジオス神に祈るための『アミュレット』が入っております。ゴドーさんにお願いして作ってもらいました」

 袋の中身を改めると、『Λ』を象ったアミュレットが十個近く入っており、簡素ながらキラキラと光を反射して綺麗だった。

「もともとは信徒たちに渡そうと思っていたのですが、使徒様のお話を聞き考えを改めました」

「というと?」

「はい。使徒様はこれより悪逆の徒を滅しに赴かれるとのこと。であれば、そこには虐げられ傷つき、信仰に絶望した人々がいるかもしれません。そんな人たちこのアミュレットを渡してほしいのです。もしまた神を信じたいのであれば、きっとこの『Λ』の御印が、貴方の心に何人《なんぴと》にも、侵されられぬ教会を造るだろうと」

 ……なるほど。
 
 つまりは異郷のアセンブラ教徒を、ジオス教徒にしてしまおうってことかな。まだまだジオス教徒は少ないからね。チャンスがあればなるべくものにするべきだ。まあ、カリン本人はこんな打算的で汚れた考えはなく、本心からどうにかしたいって思っているに違いない。

「分かった、カリン。もし向こうでそういう人がいたら渡すことにするよ」

「ありがとうございます、使徒様。貴方様から迸る浄火の炎が、ジオス教徒の未来を明るく照らしますように」

 カリンが流麗な仕草で祈り、二人の姉妹もそれに続いた。

 別れる前に彼女たちに、従業員たちに買った本を渡してもらうように頼んだ。そこそこ重かったのだが、サティ&レティが「お姉様にこんな重いものは持たせられません」と言って、足と腕をプルプルさせながら運んでいった。

 うん、あとは……バステンたちかな。
 喧騒から外れたところで、壁に寄りかかって本をパラパラとめくるバステンがいたので、声を掛ける。

「バステン、今ちょっといいかい?」

「……」

「バステン?」

「……ん? お、おお。もちろんだ。すまん、夢中になってて反応が遅れちまった」

 パタリと本を閉じる。
 それだけ夢中になってくれたのならこっちとしても嬉しいな。

「お気に召したようでよかったよ。それで明日の予定を聞いておきたいんだけど、何かする予定ある?」

「明日か。ニステル姐さんからの提案で、新入り奴隷たちと親睦を深めるために飯でも食いに行ったらどうだって話になってな。そうするつもりだ」

 お、ニステルの提案か。
 早速副団長っぽいことしてるな。
 そう言えばジャンゴさんのとこで、後進の面倒見たりしてたらしいし、けっこう責任感強いのかもな。

「いいね。是非そうしてくれ。でもポルトンは脚が悪いから難しいんじゃない?」

「ああ。俺もそう思ったんだが、ロッコが『荷車に乗せてやれば一緒に行ける! 俺が牽くから問題ない! 仲間なんだからな!』って言ってな」

 ロッコの仲間想いぶりがすごい。
 なんかこういう真っ直ぐ熱い人は周りにいなかったから貴重だ。

「いい奴だねロッコ。ポルトンも喜びそうだ」

「おう。ポルトン感激して咽び泣いてたぜ。あいつもちょっと気色悪いところあるが、根は真面目なやつだよ。
 で、せっかく荷車持っていくなら各々の買い物も済ませちまおうってことになってな。いろいろ団に必要なものとか、個人の備品なんかを買い込むつもりだ」

 そういうことを自発的にやってくれるのは助かるね。

「あと、あいつはどうも勃起が止まらないようでなあ……。ちょろっと聞いたが、長年の不能が旦那のおかげで治ったんだろ? このままじゃ団の士気にも影響出るから、明日みんなと飯食った帰りゼフと一緒に娼館に連れて行ってやろうと思ってな」

 そんなにひどいのか。ポルトンは何年も糖尿病で不能だったのが、いきなり根っこから回復して滾りまくってんだろうな。これはちょっと予想外だ。

「ゼフって……ええと、二人の幼馴染とのファーストいちゃこらセックスが上手くいかなかったやつだっけ?」

「そうだ。ほら、さっきロッコに絡んでたやつがいたろ? あいつだ」

「あ、あの二刀流のやつか」

 てことは部下同僚上司で風俗にいくわけか。
 
 アットホームすぎるだろ。

 僕は嫌だけど、本当に仲良いならアリなのか?

 そんなことを考えながら、僕は鞄から適当にお金を取り出してバステンに押し付けると、彼はニヤリと笑った。

「これは軍資金として見ていいか?」

「飲み食いと買い物の、ね。娼館は……まあ一応団の円滑な交流のためだし、仕方ないか。そっちは建て替えておいてくれ。あとで僕が出す」

「さすが旦那だぜ! そうこなくちゃな」

 ウキウキして、懐にお金を納める。

「あとでルーナにも確認するから無駄遣いしちゃだめだよ」

「……そんなことしないぞ」

 あからさまにテンションが下がった。
 やっぱお金のことはルーナ絡ませておくのが大事だな。別にバステンが横領するとかは考えてないけど。

「あとウィンティなんだけど、このあとちょっと連れていきたいところがあるから、もしかしたら明日の予定に間に合わないかもしれない」

「了解だ。皆には伝えておく。……早速ヤリにいくのか?」

「ちげーよ」

 傍からはそう見えるのか?
 まあ見えなくもないか。気をつけよう。

(うん、いったんこんなとこかな)
 
 そしたら行きますか。

『プテュエラ、準備できてるかい?』

『いつでもいいぞ。ケイの上空で待機している』

『ありがとう、合図したら透明化して降りてきてくれる?』

『心得た』

 さて、ウィンティウィンティ……あ、いた。木陰で一人ゆったりとリュートを鳴らしている。めちゃくちゃ絵になるな。遠巻きに何人か見てるし。くううぅ、羨ましい。僕がやったら職質か通報されるかの二択だと思う。

「ウィンティ、お待たせ。そしたら行こうか?」

「も~待ちくたびれちゃったよ~あるじくん。天才吟遊詩人のぼくの時間は貴重なんだよ? これでつまんないことだったら許さないからね~」

 ムスッとむくれるウィンティ。
 近くで見るとほんとに顔が整ってる。シンプルに顔が強い。まつ毛も長いし、お目目パッチリで、肌なんて陶磁器みたいに綺麗だ。なのに隻腕っていう隠しようもない不穏な断絶が、彼女の妖しさを引き立てている。

 人目から離れた場所まで彼女を連れ立って歩く。

「ねえ、どこ行くの? もう飽きてきちゃったんだけど」

「大丈夫、きっと楽しいよ」

「ほんとかなぁ~? ぼくは飽き性だし、見切りつけるのも早いからね~。ちゃあんと、楽しませないとだめだよ。まぁ契約通りしばらくはお世話されてあげるけどね~」

 ややこっちを小馬鹿にするような表情で、口角をあげる。

 ほほう、メスガキ成分ですか。
 悪くないですね。

「分かった分かった。じゃあもう行くとしようか、クリソプレーズ王国に」

「……はぁ? あるじくん、頭の調律狂った? ここからどんだけあると思ってんだよ。はぁ~あ、ホラを聞くためにぼくの貴重な時間が無駄になっちゃったよ。はぁ~この御主人様は外れかぁ~。ねぇ、もう帰っていい?」

 心底幻滅した様子で立ち上がり、片手でパンパンと膝の汚れを払う。

 その手を僕は掴んだ。

「なに? 離してくれる? ぼくはつまんない男が気軽に触れるほど、気やすい女じゃないんだよ~?」 

「ウィンティ、本当の意味で風を感じたことある?」

「……え?」

 僕は手を挙げて合図する。

 すると、不可視の超存在が突風を伴っています舞い降りた。

『殲滅の風鷲プテュエラ、参上』

 半透明の輪郭だけ、その姿を表出させる。

 ノリノリで口上を垂れるプテュエラ。

 うっ、うっかりダークアクションのことを忘れてた。

 さて、気を取り直して。

 プテュエラの威容を見て、完全に固まっているウィンティの肩に手を置く。

「空、飛ぼうか?」
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