絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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ep280 亜音速ピッチング練習

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 ほんの少し時を遡る。

『ベステルタ、今いいかい?』

『あら、ケイ。どうしたの? 今日もう用無しなのかと思ったわ』

『ヴュッ……』

 亜人通信でベスたんを呼ぶとチクリと小言を言われてしまい、変な声が出る。

『あはは、何よその声。冗談よ。どうしたの?』

『うん、実はね……』

 僕はゴッバオン砦攻略蹂躙のプランをベステルタに話した。彼女は大喜びして内容に賛成してくれた。基本的に派手好きだからな、彼女は。

ーーー

 そして今。

「うっひょーーーっ! 回せ回せ~!」

「よしきた! ぐるぐるだぞ!」

「あはは! やっちゃいなさい!」

「はははは! すごいや! まるで神話の世界だ! こんなの見たことない! ひらめきがどんどん湧いてくるよ!」

 僕とベステルタが歓声を上げ、ウィンティは狂気的に笑い、取り憑かれたようにアイデア帳かなんかに文字を書き殴っていた。片腕で器用なこった。

「ふふふ、見てろ!」

 プテュエラが翼をひと振りした。

 ゴキ……メキ……ブチブチ……

 ──ズッガボォォォン!

 次の瞬間、砦の副塔が──根本から、まるごと

 ──ずおおおおおぉぉっ!!!

 風が唸りを上げ、塔の基部から砂埃と瓦礫が噴き出す。地中の根のように絡みついていた石材が、一瞬にして解かれ、圧縮された空気が柱のように塔を押し上げたのだ。

 十数メートルの巨塔がふわふわと宙を舞う。

「……は?」

「なんだありゃあ……」 

「うそだろ……」

 その光景を地上から見ていた盗賊たちは、あんぐりと見上げ呆然とする。

「風よ!」

 プテュエラがさらに翼を振る。

 殲風は容易く副塔を掴み取り、まるで玩具のコマのように回転させた。

 ゴォォォォォォ!!!
 ギュルるるるるるるるるっっっっ!!!

「はっはっは! ケイ、楽しいなこれ!」

 テンション爆上げのプっさん。

 そして砦の回転数が一気に跳ね上がる。

 石が火花を散らし、鉄骨がきりきりと悲鳴を上げながら遠心力で弾け飛ぶ。塔の内部からは盗賊たちの悲鳴が次々に飛び出した。

「うわああああっ!!」

「た、助け──!」

「ぼぎゃあっ!」

「足ぎゃ折れちゃぁぁっ!」

 まるで虫かごを無邪気に揺さぶる人間と、籠の中の虫たちのようだ。

 回転の勢いに放り出された盗賊たちは、空中で木の葉のように舞い上がり、手足をあり得ない方向に曲げながらも、地面に叩きつけられそうになる。

「プテュエラ」

「うむ!」

 プテュエラの周囲に展開されていた風の網が、彼らをひとり残らず包み込む。柔らかい空気の膜が受け止め、落下の衝撃を吸収した。

 どさどさっ!

 そして風の網は乱雑に盗賊たち地面に放り出した。折れた手足をぞんざいに扱われ、悲鳴を上げる。

 彼らの他に金品や財宝も一緒に放り出されたのだが、ちゃんと最後まで風がエスコートして一箇所にまとめられた。真逆の扱いだ。

「よし、この塔はこんなもんかな? プテュエラ、手はず通りやっちゃって」

「心得た」

 風が静まりかけた、その瞬間。

 プテュエラは翼を大きく広げ、渦を呼んだ。

 空に浮かぶ無数の瓦礫が、ざざざざざッと音を立てて集まり始める。

 「まとめて、押し潰す!」

 彼女が両翼を広げ、折り畳むような動作をする。

 ──滅気メキョッッ!

 本能的な恐怖を抱かせる異音が鳴った。

 轟音とともに風圧が爆ぜ、塔の残骸が拳大から岩塊大まで一気に圧縮されていく。
 破片が互いにぶつかり、火花を散らしながら沈み込み、石と鉄が軋む音が空を裂く。

 ギュオオオオッ!!!

 圧縮されていく塊は、内部の摩擦でどんどん温度を上げ、やがて赤みを帯びた光を放ち始めた。

「……もう少しいけるか」

 さらに圧力を高める。

 ぐぐぐぐ、と唸りを上げる風。
 最後の一押しで、塊が金属音を響かせながら丸みを帯び、真紅の輝きを放つ。

 ボンッ!!!

 圧力が弾けるように抜け、そこに浮かんでいたのは直径一メートルほどの赤熱した石球。
 表面はわずかに波打ち、内部の熱がまだ逃げきれず、橙の光を脈打たせている。

 それが十数個ほど静かに地面に並んでいる。

(さっきまでそびえ立っていた塔が、アチアチ火の玉ボールになっちゃった……)

 いったいどれだけの圧力をかければこの大きさまで潰せるのだろう。恐ろしい。

 プテュエラはふぅっと息を吐いた。

「こんなものか。いい練習になったな」

 晴れやかな表情で笑う。スッキリした笑顔で上機嫌だ。

「う、うそだゴッバオン砦が」

「俺達の……叫喚党の象徴が……」

「なんだよこれえっ! なんだよこれえっ!」

「かみさま……」

 地呆然とするもの、錯乱するもの、神に祈るものなど、と地上で多種多様な表情の盗賊たちが這いつくばっていた。

「ベス、次はお前の番だ」

「うふふ。分かったわ。この球を投げて、あの副塔を破壊すればいいのよね?」

 ベステルタは残った副塔を指差す。

「うん。お願い。その前にプテュエラ、あそこから人を運び出しておいてくれる? 財宝も分かる範囲で」

「うむ」

 プテュエラが指揮棒を振るように翼を動かすと、片方の副塔から鼠のように恐怖で震えている盗賊たちが、風によってポンポンと放り出された。彼らは無様な声をあげて、地面に叩きつけられた。同じく金品なども運び出されてく。

「あるじくん! 次はいったい何が始まるんだい?」

 ウィンティはワクワクが止まらない様子で言った。

「まあ見てなって」

 きっとウィンティのインスピ想起には寄与できるはずだ。

「……うむ、これでよし」

「ありがとうプテュエラ。ベステルタ、出番だよ」

「分かったわ。うふふ、腕が鳴るわね」

 ぐるぐると楽しそうに肩を回すベステルタ。

(どうやって投げるんだろう? 両手でスローインみたいな感じかな?)

 あの廃材火の玉アチアチボール、プテュエラが風でめちゃくちゃに圧縮して赤熱してるくらいだから、相当重量があるはずだ。

「よいしょっと」

 むんず。

 じゅっ!

 メリめきょっ!

 そんな僕の考えなど無視して、彼女は豪快に片手で掴んだ。高温で焼けるような音がするが、彼女はまったく意に介さない。指がめり込んでいる。握力が狂ってるな。あんなんで手コキされてるかと思うと、王ヒュンが止まらない。

「あら、案外軽いわね」

 軽く小言を言って、そのまま綿あめでも持ち上げるかのように、容易く投球フォームに入る。
 そんなことないだろ、と思ってアチアチボールを軽く蹴ってみるが、まったく動かなかった。ですよね。

「じゃあいくわよ~……噴ッッッ!」

 勇ましすぎる掛け声とともに、メジャーリーガ一、一万人分の強肩から超質量の球体が射出される。

 ──轟破ッ!!

 とんでもない音ともに風が弾けた。
 プテュエラがかっ飛ばした時に近い音がした。

(ってことは、亜音速ですか? いやまさか)

 凄まじい音と衝撃波が襲うが、どうやらプテュエラが風で守ってくれたようで被害は無い。ただウィンティは、その迫力で尻もちをついているけど。

 ギュィンッッッ!!!

 赤熱した石球は異常な回転を伴い空気を切り裂きながら、唸り声のような爆音を残して弾道を描く。
 風圧が壁のように襲いかかり、地面の砂礫が一斉に浮き上がる。

 練喚功で強化した動体視力でさえ、一瞬の軌道しか見てなかった。

 次の瞬間、世界が砕け散る。

 ドゴァアアアアアアアアアアアアアアン!!!

「うおっ!」

「うわああっ! すごいっ! 破壊だ! 圧倒的破壊の自由律詩だぁっ!」

 石球が副塔の中腹に命中した瞬間、空気が震えた。
 金属の軋みと岩盤の砕ける音が混ざり合い、塔全体がわずかに浮き上がったように見える。
 上層部からは衝撃波が抜け、瓦礫と火花が噴き上がる。
 それらは赤と橙の閃光を撒き散らしながら、夜空の中で花火のように散った。

 しかし塔が崩れ落ちることはなかった。

 その圧倒的スピードと回転力のせいで、倒壊させることなくしてしまったのだ。

「あははっ! 楽しいっ! どんどんいくわよ!」

 ベステルタは腕を軽く振り払う。筋肉がうねり、空気が唸る。
 余波で近くの木々がばきばきと倒れ、建物の屋根瓦が吹き飛んだ。

 ──破朱バシュッッッ!

 轟音とともに、次の石球が弾け飛ぶ。
 空気を破く甲高い悲鳴のような風切り音。
 直径二メートルの赤熱球が一直線に走り、副塔の外壁をまるで紙のように貫く。

 ドシュウゥゥゥゥゥン!!!

 貫通孔の縁が赤く焼け、溶けた石が垂れていく。
 壁の向こう側では、鉄骨と石が焦げたチーズのようにねっとりと伸び、ゆっくり垂れて落ちていった。
 塔の中から盗賊たちの悲鳴が混ざるが、もはや誰にも止められない。

「ほぉら、溶けてしまいなさい!」

 ベステルタは両肩をぐるりと回し、まるで野球のピッチングマシンのような勢いで連投を始めた。
 ひと投げごとに地面が揺れ、音の壁が砦を包む。
 空中を奔る石球は赤い流星のように尾を引き、連続して塔の壁を穿っていく。

 ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 衝撃のたびに塔の外壁が膨らみ、石灰質の壁が泡立つように崩れる。
 内部から噴き出す粉塵と熱風、焦げた岩の匂い。

(建物がこんなふうになるとこ、見たことないよ)

 やがて副塔の外壁はスイスチーズのように穴だらけになり、全体が赤黒く染まっていった。

「あははっ! これで、おしまいっ!」

 豪快に笑うベステルタの声を合図に、最後の一投が放たれる。
 石球は矢のように直進し、塔の中心を貫いて心臓部の支柱を粉砕。

 ゴゴゴ……ギギギギ……!

 焼けた石壁がゆっくりと溶解しながら沈む。
 上層がわずかに傾き、重力の均衡が崩れると──

 ズドォォォォォォォン……!!

 塔は自重に耐え切れず、ゆっくりと、しかし確実に崩れ落ちた。

 ベステルタは投球姿勢のまま息を吐き、笑う。

「ふふ、やっぱり当たると気持ちいいわねぇ……ケイも投げてみる?」

「無茶言うなよ」

 僕は強化されたとは言え、人外じゃないんだぞ。

 熱を無視したとしても……練喚功フルパワー両手投げで数十メートル飛べば良い方だろう。いや、十分やばいけど。

「うふふ、気分がいいわ。じゃあ、残りの塔もやっちゃいましょうか?」

「……おい、ベステルタ。はしゃぎすぎだ。あんなものが遠くの街や森に着弾したらどうする。生態系に影響が出るぞ」

「そ、そうね。ごめんなさい」

 プっさんが少し低い声で注意した。見ると、先ほど投げたばかりの赤熱ボールたちがプテュエラの横でふわふわと浮いている。相変わらず高速回転しているが。

「まったく、私が減速させて回収したからいいものの……」

 ブツブツ小言を言うプテュエラの側で縮こまるベステルタ。かわいいね。


 その後、主塔の方もベステルタのピッチング練習によって、見事穴開きチーズタワーと化した。もうこの地にゴッバオン砦なんてものは無い。あるのは瓦礫の山と、恐怖でビクつく数百人の盗賊と、死人のような表情で諦観する数十人の人質たちだ。

「あるじくん、これからどうするの~?」

「そりゃまあ、後始末だね」

「そっか~! あいつらを苦痛と絶望に溺れさせて、人間の尊厳を奪った上で殺っちゃうってことだね~!」

 なんでそうなる。

 でもウィンティはヤル気マンマンだ。
 この子はサイコパスみもあるんだけど、義憤によって立つ精神も持ってるから行動原理がよくわからん。

(だけど、ここで彼女の望みをなるべく叶えてあげることは大事だな)

 ウィンティは気分屋だし、非日常に餓えているからネジも外れている。
 だからこそ、僕のところにいれば得だよ、やりたいことできるし、見たい景色を見れるよってことを理解してもらわないと。
 ……申し訳ないが、叫喚党くんたちには生贄になってもらおう。いや、申し訳無くないか。身から出た錆だもんね。

「そ、そうなるのかな? でも顔出しはあんましたくないんだよね」

「じゃあ帽子とか仮面で変装したらどうかな?」

「仮面なんて普通は持ってないよ」

「え? そうなの? 僕は有名人だからね~。常備してるよ~」

 ほら、と懐から仮面舞踏会ちっくな仮面を取り出した。いいなそれ、便利そうだ。

 僕もそういうのあればな……あっ。

「そうだ! あれを被ろう!」

 僕は魔法の鞄から、あのほろ苦い思い出を取り出す。シャールちゃんの紅おパンツだ。

 滑らかで純白の生地は肌によく馴染む。そしてほんのり彼女のかぐわしいかほり。

「うん、これならバレへんバレへん」

「うわぁ……あるじくん、それはキモいね……」

 軽蔑とドン引きの表情が僕に突き刺さる。ゾクゾクするわ。

 ただおパンツ仮面を付けても、どういう設定でいくかだよな。ふつーの冒険者として接するか? いやそれじゃただの変態の冒険者だ。おまわりさんに通報されて終わりだ。

 それになんとかウィンティに非日常成分を供給しまくって、僕のところにいるメリットを感じてほしい。そしてこう、あわよくば吟遊詩人に叡智というものを教え込みたい。

「いまだかつてこんなに気持ち悪い人は見たことないよ。でも、これはこれで面白いな~」

 と、ウィンティがドン引きしながらも、興味深そうに僕を見ている。 

 その様子が僕に閃きを与えた。

 ピコーン!

(夜闇に紛れて悪を誅する正義の仮面……この設定で行こう!)

 んんっと咳払いをする。

「それはなにより。じゃあ、ウィンティ。行こうか」

「え、ぼくも行くの? 面倒くさいな~」

「僕はこれから秘密結社パンツァーフォースの第零次席パンツマン・ザ・マスターケイノーとして盗賊に罰を与え、虐げられし人々を助けに行ってくる。君にはその一番助手の第一次席『風の旋律フェザーミューズ』として来てほしい」

 何もかも今考えた。こういうのはノリだ。

 二人いれば印象もバラつきそうだからね。

「秘密結社……第一次席!」

 ウィンティは目を輝かせて言葉をかみしめる。うん、琴線に触れたようだ。

「風の旋律フェザーミューズか。なんか面白そうだね~! 乗った!」

 案の定ウィンティはノッてきた。この子、面白いことや非日常的なことをちらつかせておけば速攻で食いついてくるな。

 よし、やる気出てきた。
 このあとのプランも思いついてきたぞ。
 とりあえず、このあとラミアルカとトリスカイデイカを呼んでおこう。

「ウィンティ、高笑いしたことは?」

「う~ん、無いかな?」

「ふむ。では今から慣れておけ、我が筆頭助手フェザーミューズ。これは、我らの始まりの序章の夜明けなのだぁっ! フハハハハハハ!」

「……! 分かったよ、マスター! ふはははは!」

 僕たちはシュバババッ、と駆けていく。

 これが後に語られることになる『グレートケイノー』と『フェザーミューズ』の誕生秘話だったとか、そうではないとか。
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