絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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ep279 ゴッバオン砦

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「えっ、じゃあぼくのために叫喚党を根絶やしにしてくれるってこと?」

 プテュエラ航空エコノミークラスの座席で、今回の目的を今更ながらウィンティに説明した。

「そうだよ。この亜人、プテュエラの翼ならすぐ行けることが分かったからね」

「……っはー。確かに。この速度ならさもありなん、か」

 ウィンティはやっと慣れてきた様子で高速で過ぎ去っていく眼下の大地をしげしげと見る。

 プカプカと浮いている自分の状態に最初は結構ビビっていたが、そこは非日常に餓えている吟遊詩人。持ち前の適応力で乗り越えたようだった。今は初めて無重力に触れる宇宙飛行士のように楽しんでいる。

「うん。できるならさっさとやっちゃったほうがいいでしょ?」

「なるほどね~。そういう訳か。あるじくんは仕事が早いね~」

「でしょ? よく言われる」

 嘘です。初めて言われました。めっちゃ嬉しい。仕事できる人みたい。

「いや~あるじくん。ぼくの目が節穴だったよ。出発のときにあんなこと言ってごめんね。君はぼくが出会ってきた中でもとびきり面白い人だよ~。これからもよろしくね」

 リュートを鳴らそうとするが、今は僕の鞄ににしまってあることに気づき、代わりにパチンと指を鳴らした。

「まったく調子がいいな」

「調子の良さとノリで生きてるからね~。こういう性格なんだよ。あるじくん、どんどんぼくに非日常を体験させてね。そしたら、好きになっちゃうかもよ~」

 きゅぴん、とキューティクルウィンク。

 おっふ。
 
 こ、こいつ。自分の魅力を分かってやがる。ムカつくけど、かわいさが勝つ。

「はぁ。わかったわかった。善処するからゴッバオン砦が近くなったら教えてくれる?」

 内心の同様を悟られないように、なるべく表情に出さないようにする。

「任せてよ~! あいつら根絶やしにできるなら、さすがのぼくもギルド職員みたいにちゃんと働くよ~!」

 やる気満々のウィンティ。

 嬉しそうな口調だけど、目が完全に据わってる。
 かなり追い回されたって言ってたからな。喉も潰されたし、見かけ以上に恨みが深いんだろう。

「とりあえず方角はこのままでいい?」

「うん、このままでいいよ~! しばらくすると廃村がポツポツと見えてくるから、その先にある四つ叉川を越えてしばらくすると、ゴッバオン砦だよ。趣味の悪い髑髏の旗が掲げられてるらしいからすぐ分かるよ~」

 ウィンティの情報をプテュエラに伝え、そこから体感二十分ほど飛んだ。

 途中、正規軍らしき部隊の行軍が見えた。方角的にはクリソプレーズ王国の軍隊っぽくておそらくゴッバオン砦に向かっている。
 遠目で見た感じ、士気は高いんだけどなんかこう、なよってしているというか、あんま強い感じがしなかった。弱兵と言われてる所以が分かったよ。なんにせよ、彼らが到着する前に終わらせよう。


 約二十分後。

「あっ、あれだよ~あるじくん! ゴッバオン砦!」

 ウィンティが指差す薄暗い夜空の向こうから、そこそこ大きめの砦が姿を現す。

 薄い月明かりに照らされ、山肌にへばりつくように築かれたその砦は、まるで岩そのものが牙をむいたようだった。

 砦は大小三つの大きな監視塔で構成されていて、遠目から見るとまるでネオアームストロングなちんちんみたいだ。

 主塔が15m、副塔二つが10mくらいだろうか。

 崩れかけた外壁は何度も修繕の跡があり、ところどころ金属板や木材で補強されている。廃砦を転用したにしては異様に整った造りに見える。

 門は厚い鉄格子と鋲打ちの木扉で二重に閉ざされ、周囲にはかなりボロくはあるが投石機と旋回弩が並んでいる。憶測だけどレスバトール王国払い下げ品かな?

 壁面のあちこちには見張り台が突き出し、交代の見張りがランプを手にうろついていた。

 そして何より目を引くのは、砦の随所にはためく黒地に白い髑髏の旗。
 髑髏の眼窩には赤い宝石がはめ込まれ、灯りを受けて怪しく輝いている……そんなデザインだ。

(センス無いなあ)

 というのが率直な感想だ。悪趣味な意匠っすね。なんかこう、サービスエリアで売ってる金ドラゴンキーホルダーとか、家庭科の授業で使うドラゴン裁縫箱みたいなくすぐったさを覚える。

 でも、その配置。
 見張り台の死角の少なさ、通路の屈曲具合。一見雑然と見えて、全てが計算された配置のように見える。

(おそらく軍人の手による設計なんだろうな)

 素人目に見ても分かる、盗賊団ではあり得ないほどの、練度の高い防衛線。
 
 たぶん叫喚党を実質的に掌握しているらしい幹部、レスバトール王国軍人の仕業だろう。

 黒煙がゆらゆらと砦の煙突から上がり、遠くからでもかすかに油と血の匂いが漂ってくる。
 粗末な小屋が並び、そこでは下っ端盗賊たちが焚き火を囲み、笑いながら粗末な肉を焼いている。

「……この砦を正面から落とすのは、容易ではないね~」

 と笑って呟くウィンティからも、さすがに緊張の色が感じられる。

 ──大盗賊団《叫喚党》。

 大勢のの盗賊が巣食う、死と混沌の巣窟。
 いま、風を裂いて降り立つ僕たちの前に、その暗黒が牙を剥いていた。


「で、どうするの? あるじくん。一筋縄では行かなそうだよ?」

「もちろん、正面から叩き潰すよ」

「……そんなこと可能なの? あの砦見えるでしょ? そりゃあ正規軍のそれに比べれば粗末なもんだけど、盗賊団が持っていい代物じゃないよ~。個人が正面から落とすなんて無理無理。それこそ英雄詩編ヒーローバイブルに出てくるような伝説の勇者じゃないとさ~」

「はっはっは」

 そりゃもちろん個人でどうこうしようなんて思ってない。僕は英雄でもないし伝説の勇者でもない。だから前口上だってしないし、 美しい押韻や頭韻で活躍を修飾したりしない。

「ウィンティ。あの砦には人質とかいるかな?」

「うん。それなりにいると思うよ。百人はいないと思うけど」

「財宝は?」

「そりゃあるだろうね~。弱者から巻き上げて強者に媚びへつらって手に入れた、薄汚い金品が砦の腹の中にはたんまり詰まってるだろうさ」

 よし、なら人質優先だな。
 
「うっし。んじゃあやりますか。プテュエラ、人質がいるみたいなんだけど場所とか分かる?」

「うむ、ちょっと待て……。ふむ。あそこの小屋に集められているな。ああ、どうやら盗賊たちの慰み者になっているようだ」

 プテュエラが見下ろす方向には頑丈そうな石造りの建物があった。なるほど、あそこか。

「中の様子を風に乗せて送ろうか?」

「……一応お願い。ウィンティ、これから中の様子が聞こえるようになるけど驚かないようにね」

「えっ?」

「うむ。では送るぞ」

 すると、風が耳元をなぞり、
 次の瞬間――鼓膜を刺すような阿鼻叫喚が流れ込んできた。

「おい、動くなっつってんだろ!」
「やめて……お願い、ちゃんと動くから、乱暴しないで……あぐっ!」
「うるせぇ! 痛めつけた方がよく締まるんだよ!」

 鈍い打撃音。
 続いて、甲高い悲鳴。

「た、助けて……! 子どもだけは……!」
「お母さん! お母さん! たすけて!」
「へっ、ガキはガキで売りもんになるんだよ、安心しな!」
「だがまあ、後ろの穴くらいは味見しとくかあ?」
「おう、ちっせえうちにちゃんとほぐしておけば最高のケツ穴になるからな」
「やめて……子供だけは……私がやります、やりますから!」
「ははっ、見ろよ、こいつ顔真っ青だぜ!」
「クリソプレーズのババアは豚のクソでも食ってろ! おらぁっ!」
「おぶぅ!」
「お、お母さんっ……あ、い、いやだああああ! おしりにへんなものいれないでええええ! ぎゃっ!」
「ガキぃッ! 黙ってろ!」

 怒号と泣き声が混ざり、笑いが渦を巻く。
 その中で、金属の鎖が引きずられる音や、木箱を蹴り飛ばす乾いた音が響いた。

「あ、あたしのおまんこ、さ、裂けちゃった、あ、あはは……おしりと一緒……あは……もう戻らない……」
「やめてよぉ、ちんちんしゃぶらないでぇ……」
「いっぎぃっ! そ、そんなところに穴開けないでええええっ!」
「つ、次は豚ですか? は、はい。お任せください。何でもします。だからどうか、命だけは」
「豚は死ね!」
「ピギィっ! やめて、ぶたないで……ぶひ……ブヒ……」

 逃れようのない恐怖の坩堝。
 人質たちにとって、そこはまさに地獄だった。
 そんな彼らを蹂躙する盗賊たちの声の端々に、恐怖と快楽がねじれ合った異様な温度があった。

「……もう……やだ……」
「へっ、まだ夜は長ぇぞ!」
「おいっ、膣穴もっと締め上げろっ!」
「ぐぼっ! ……は、はい。もっとおまんこ締めます……うぐっ」
「ゆるゆるなんだよ、これだからクリソプレーズの女はいけねえ」
「平和ボケして雌穴まで緩んでやがる」

 ギャハハハ、と下卑た笑い声ガこだまする。

 パチン。
 不意に、風がぷつりと途切れた。
 プテュエラが打ち切ったのだ。

 代わりに、心臓の鼓動だけが耳の奥に残った。

「あるじくん、今のって?」

 僕は頷き、息を整えた。

「うん、今現在進行形で行われてること」

「あちゃ~、酷い有様だねぇ。奴らにはきちんと地獄を見せないとね」

 ウィンティは怒りを見せてはいたが、口調や態度は冷静そのものだった。
 きっとこういうことはたくさんけいけんしてきたんだろうな。

 でも、僕はそうではないのでそれなりにダメージ受けてるよ。

(やっぱりこういうのって、あるよなぁ……)

 酷い有様だ。
 バステンたちが討伐した盗賊ってのもこんな感じだったのだろうか。
 一応クソ雑魚メンタルでやらせてもらってるので、割と精神にキテる。空中にいるから分からないかもしれないけど、脚がプルプルしてるもん。

(人が人を虐げる光景って、こんなにも醜くてしんどいもんなんだね)

 ……うん。よし。落ち着いた。

 こんなものは、世界にない方が絶対にいいな。

 はやく、根絶してしまおう。

「プテュエラ、相談なんだけど」

 僕はゴッバオン砦をぶっ潰す計画を立て始めた。

ーーー

 ゴッバオン砦の奥――薄汚れた石壁の一角に、ひときわ静かな部屋があった。
 蝋燭の火が頼りなく揺れ、机の上には半分ほど空いた酒瓶と、粗末な木製のコップが置かれている。

 その前で、リーガンは額を押さえていた。
 彼はレスバトール王国所属の軍人。かつては誇り高く、仲間からも信頼の厚い男だった。そしてなによりも有能な男だった。
 だが今、その肩章も軍服もなく、髑髏の刺繍が縫い込まれた盗賊団幹部の上着を身にまとっている。それは下っ端たちから見たら憧れの衣装だったが、彼からしてみれば屈辱と怒り、後悔の象徴だった。

 先ほど繰り広げられた会話を思い出す。

『よう、リーガン! 収容してる女どもだがな、何人かぶっ壊しちまった! ガハハ! また適当に補充しといてくれや!』

『……お頭、あれは大事な商品なんだから傷つけられちまうと困りますぜ』

『うるせぇ!』

『……っぐはッ!』

『てめえよぉ、誰に口聞いてやがる? 千人規模の大盗賊団、叫喚党の大頭目ゴッバオン様だぞぉ!? おらぁっ!』

『っガハッ!』

『拾ってやって、副頭目にしてやった恩を忘れやがって! てめえは大人しく言うこと聞いてりゃいいんだよ! 分かったな!?』
 
『くっ……分かったよお頭……』

『ぺっ! 分かりゃいいんだよ、分かりゃな。あ~次は気分治しにガキでもぶっ壊してみっかなぁ! 一桁のガキの膣肉をよぉ、親の前でこじ開けると、いい声で鳴くんだわ……たまんねえよなぁ! グワッハッハァッ!』

『ぐ……』


「あの野郎、本気でぶん殴りやがって……」

 天井からは二日前の雨漏りの音。
 外からは、叫喚党の連中の下卑た笑いと、呻き声が絶え間なく響いていた。
 彼はその音に耳を塞ぐように、酒をあおる。

「何が大盗賊団だ。ここまで大きくしたのは俺のおかげだろうが……」

 ゴッバオンは図体がデカくてと腕力が強いだけの能無しだ。大規模な組織を作り上げる能力などない。

 ぐびり、と酒を煽る。

「とはいっても、こんな盗賊団、大きくしたところで無辜の民を傷つけるだけだがな……いったい何人の人々が傷ついたんだ……俺の、俺のせいで……」

 酒を飲む手は止まらない。
 もとより正義感の強いリーガンにとって、国のためとは言え隣国の無辜の民を虐げる今の仕事は、拷問に等しいようなものだった。

「つまり俺は、大罪人ってわけだ……はは……」

 リーガンは捕らえたクリソプレーズの母子たちの顔を思い出す。

「……俺にも、同じくらいの……妻と子がいるのに……」

 酒が喉を通るたび、内臓の底が焼けるように痛んだ。
 罪悪感とともに、胃がきしむ。
 彼女たちの絶望。
 母娘の日常を引き裂いたのは、他ならぬリーガンの手だ。

「クソッ、家族さえ人質に取られていなけりゃこんな仕事……!」

 ダンッ! と机に拳を打ち付ける。打ち付けたところは、もう何度も同じことを繰り返したせいで軽くヒビが入っており、拳も擦り切れて血が滲んでいる。

「アイリス、リーア、元気にしているだろうか……お前たちが無事なら……それだけで、それだけで……」

 故郷の妻子の顔を思う。
 何よりも愛している妻と、かけがえのない娘。
 決して失ってはいけない者たち。
 彼女たちの顔はぐにゃぐにゃと変形し、絶望の表情へ移り変わっていく。

「う、うわぁぉぁぁぁっ!
やめろ、やめてくれえぇっ! アイリス、リーア! うわぁぁぁっ!」

 錯乱し髪の毛を掻きむしる。

「間違ってる……こんなことは、間違ってる……」

 掠れた声が、湿った石壁に吸い込まれていく。

 人質たちに恐怖を植え付けるよう命じたのは、自分だった。
 軍からの指示であり、士気維持のための演出でもある――そう言い訳をしながらも、
 泣き叫ぶ子どもの顔がまぶたに焼きついて離れなかった。

「……俺は、地獄に落ちるだろうな」

 安酒を一気に飲み干し、甘くも苦い痺れに酔う。

 コップを置き、顔を両手で覆う。
 指の隙間から覗く目は、深い憔悴の色を帯びていた。

 彼の背後、壁際には、封蝋のされた小包がひとつ置かれている。
 レスバトール王国から届いたものだ。
 中身を開けなくても分かっていた――次の命令書だ。

 家族を人質に取られた彼には、従う以外の選択肢はない。
 拒めば、妻と娘の首が城門に晒される。

 リーガンは震える手で酒瓶を掴み、直接口をつけた。
 舌の上を焼くアルコールの痛みが、かろうじて彼を現実につなぎ止めている。

 外では、また誰かの悲鳴が上がった。
 それを聞きながら、リーガンは唇を噛み、声にならない祈りを洩らした。

「……壊してくれ……」

 血を吐くように言葉を絞り出す。

 それは神に向けた言葉ではない。
 
「もう、なんでもいい……この地獄を……悪夢を……誰でもいい、ぶっ壊してくれ……」

 もう何度も呟いたかわからない、呪詛のような祈りのような、切実な言葉。いつものようにそれは壁の染みに吸い込まれて消えた──はずだった。

 ──ドゴォォォォン!

 重低音が砦を震わせ、床の石が微かに波打った。

 空気が押し出され、蝋燭の炎が全部いっせいに震えては消え、また戻る。誰もが一瞬、時を止められたように固まった。

 そんな中リーガンただ一人は、さっと反射的に防御態勢を取り、こんな状況でも手入れを欠かさなかった剣を手に取る。

「な、なんだ!?」 

「敵襲! 敵襲!」

「武器を持てぇ!」

 声が連鎖し、盗賊たちは慌ただしく右往左往し始めた。
 裸で上半身を晒した奴、まだ酒を手放さずに目を血走らせる奴、甲高い笑い声で何かを叫ぶ奴。
 泥だらけの足で廊下を駆け回り、木桶がひっくり返り、酒が石畳に広がって銀色に光る。砦の中は一瞬で雑踏と喧騒の坩堝となった。

 リーガンはよろめきながら扉の外へと出た。足が震えている。酒のせいか、罪のせいか、それとも砦全体を揺るがす音のせいか──理由は分からない。ただ、外に出たときに目にした光景は、彼の胸を一瞬で凍らせた。
 
 あの巨大なゴッバオン砦の塔が。

 宙に浮いてしていた。
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