98 / 287
本当の霧魔法をお見せしますよ
しおりを挟む
冒険者ギルドでシャールちゃんに魔道具について確認した。ダンジョンでドロップするみたいだけど難易度が高いみたいだ。そこで初心者講習を勧められたのでお言葉に甘えることにしたけど、パーティ名どうするか決めていなかった。シャールがパーティに登録する情報をベステルタに訊いたんだけど。
「ん、もしかしてわたしに言ってるのかしら」
ベステルタはどうやらギルド内を眺めていたようで全然聞いていなかった。まあ言葉分からないし、仕方ないか……。
「そうだよ。名前と戦闘方法とか教えて欲しいんだって」
「ケイに任すわ」
そう言ってまたきょろきょろとギルド内を眺め出した。同じ部屋にたくさんの種族がいるのが珍しいのかな。そんなこと言ったら君こそ相当目立っているよ。超エスニック美女だからね。しかもライダースーツとグラサンだし。フェロモン半端ないし。
「ごめんねシャールさん、彼女とても遠くから来た獣人なんだ。言葉が僕にしか分からないんだよ」
もちろん亜人だということは隠してる。
「な、なるほど。だから魔道具が必要なんですね。それにしてもすごい美人だなあ……」
ほえー、と気の抜けた声でベステルタを見つめる。君にも彼女の良さが分かるかね。よしよし飴ちゃんあげるからね。
「……はっ、す、すみません。うっかりしていました」
「いいよいいよ気にしないで」
あわあわするシャールちゃん。いつまでも見ていられるよ。
「そ、それでお連れ様の名前を伺ってもいいですか?」
「彼女の名はベステルタ。とにかく身体能力が高くて素手で戦うよ。気配にも敏感で斥候もできると思う」
「す、素手ですか。すさまじいですね。分かりました、登録しておきます」
(ベステルタさんって言うんだってよ)
(美しいお名前だな……ぜひご一緒したい)
(バカ、鼻であしらわれるだけだぜ。見ろよあの悠然としつつ、圧倒的暴力がにじみ出る佇まい。ただもんじゃねえぜ)
(で、隣にいる男はなんだ? 従者か?)
(分からん。ペットじゃないか?)
(あの男の人、顔に特徴無いけど何か生理的に受け付けないわ)
(しっ、聞こえるぞ)
聞こえているよ。お前らマジで覚えておけよ。
ああ……昔ラーメン屋でバイトしていた時のことを思い出す。店のトイレで着替えていたら「今日種巣と仕事かよ!」と同僚に言われたんだ。はー、凹むんだが。
「ケイさんも念のため氏名と……あ、魔法は何を使えるということにしておきますか? あとスキル等は開示しますか?」
「スキルの開示は無しで」
スキルの開示なんてやばすぎてできないからね。
あと、そうだった。前シャールちゃんと話した時に「前衛できて魔法数種扱えるのは目立ちすぎるから止めた方がいい」って忠告されていたんだ。ふむ。それなら決めてある。結構悩んだけどね。
「殲風魔法」は使いやすくて想像もしやすい。汎用性もあるだろう。初期の威力は他と比べて低そうだけど、プテュエラみたいに極めたら恐ろしいことになる。
「賢樹魔法」は周りに植物が無いと能力を最大限発揮できない。その代わり一定の条件下では無類の強さを誇る。一人でスカウト、タンク、アタッカー、何でもできるからね。
「地毒魔法」もいいなと思っていた。扱いが難しいけど、土という特性上、汎用性が期待できる。防御にも攻撃にも使えそうだ。さらに毒という唯一無二の特性にポテンシャルをびんびん感じる。
「練喚攻」は基本的にばれないから併用する方向で。これが無いと僕は一気に弱くなるからね。
それで悩んだ結果、出した答えがこれだ。
「種巣啓、29歳です。駆け出しのJランクですが霧魔法が使えます、ってことでお願いします」
千霧魔法を選んだ。だってロマン感じるし。霧魔法って聞いたことないし。あと発展途中でサンドリアと一緒に技を極めていけるというのが良い。
もちろん、実用性も考えた。僕は基本的に戦斧でスッと行ってドガァンが基本だから、霧によるノータイム目潰しはかなり良いコンボになる。
むふふ、霧と戦斧組み合わせたやつは僕が初めてだろー。燃えるぜ。
「ぎゃはははははは! 29歳で最弱Jランクのおっさんかよ! しかも役立たずの霧魔法とか笑っちまうぜ! ひゃはははは」
「おいおいおい、止めてやれよ、おっさんも必死なんだよ、ぷくふふふ」
「なあおっさん、冒険者舐めてんのか? デイライトの冒険者は完全実力主義だ。おとなしく田舎で死んどけよ」
……は?
うっわ、めっちゃ嘲笑されたんだが。何でだよ千霧魔法良いだろうが。
ぶはははははははは! と数人の冒険者が笑いまくっている。顔が赤いから酒が入っているのだろうか。これだけ笑われるとムカついてくるな。
ふむ、でもいいこと聞いた。完全実力主義ね。
「け、ケイさん。霧魔法はちょっと……」
シャールちゃんが言いにくそうにして顔を寄せてくる。うっほ、ごっつええ香り。いかんいかん。冷静になれ。ハルクリフトさんの顔を思い出せ。おえっ。
「何か問題あるんですか?」
「霧魔法は確かにれっきとした魔法ですが、冒険者間では水魔法の下位互換で、攻撃にも防御にも使えない無意味な魔法だと思われています。転じて、その、『役立たず』の隠語として使われることがあるのでお止めになった方がいいかと」
「そっか。ありがとう」
はー、なるほどね。理由は分かった。理解もできた。納得はしてないけどね。
霧魔法がそんな扱い受けているとはなあ。サンドリアには聞かせられないな。きっと悲しい顔をする。そんなことになったらラミアルカがこの街を毒の海で満たすだろうね。
「それでも霧魔法で登録をお願いします」
「おーい、おっさん聞こえてましたかー? 耳穴オークのクソでもつまってるんですかぁー?」
「ぶっとばされてえのか?」
「決闘申し込んじゃうよーん?」
さっきからずっと笑っていたやつらだ。顔の下卑っぷりがすごい。どうしたらこんなに悪そうな造形になるんだろう。ていうか僕より年上に見えるけど、もしかして下なのか? そしてみんなスキンヘッドだ。つるつるつるりん。つるりんぱ。まるでゆでダコみたいに……。いかん、笑えてきた。
「ぷっ」
「てめえ今頭見て笑ったな?」
「おいおいてめえしんだわおいおい」
「殺す」
「そこの受付嬢、決闘の準備しろよ。そいつぶっ殺すわ……。」
あ、矛先がシャールちゃんに……。
「お、お待ちください。話し合えば」
「うるっせえ! ブチ犯すぞ! 早くしろ!」
「う、うぅ」
目に涙を溜めて震えるシャールちゃん。それでもそこから動こうとしない。惚れた。
「女性に乱暴な言葉遣いなんて品性が知れますよ?」
やんわりと指摘する。僕は紳士だからな。相手にも忠告をしてあげなくては。
「うるせえクソの役にも立たない霧野郎が。いいぜ、準備なんていらねえ。この場でぶっ殺してやる」
「駆け出し雑魚Jランクが。Fランクの俺たちに楯突くなんて身の程を教えてやるよ」
目が血走ってる。完全にいっちゃってんな。
「ふむふむ。いけませんな。お若い方は血気盛んでいかん」
「何言ってんだ気持ちわりい」
ちょっと言ってみたかっただけだよ。
「ははは、かかってこいよハゲ! 髪の毛なんて捨ててかかってこい!」
くいっくいっ、と手で招く。やば、乗ってきた。
「死ね!」
ゆでだこスキンヘッドが剣を構えて突っ込んでくる。
…………
……
「え? おそ」
突進の進路に肘を置く。
「ぼぐわぁっ!」
つるりんヘッドが僕のエルボートラップに突っ込んでそのまま脇に吹っ飛んでいく。フェイさんが肘をうまく使っていたから真似してみた。最小限の動きでいい威力。でも顔面にめり込んで嫌な感触がした。まずは一人。
男の動きに合わせてカウンターで肘を置いていたんだが、めっちゃ遅くてびびった。なにこれ。どうなってんの? わざと?こんなに遅いとマスキュラスが腕にとまってバカにしてくるよ。
「おっ、喧嘩だ!」
「FランクがJ吹き飛ばしたのか? 大人げないな」
違うよ。逆だよ。
にしても冒険者たちは落ち着いているな。このくらい日常茶飯事ってことか。
「お、おい、今のやられたって確かFランクのスターヘッズだったよな?」
「あ、ああ。素行は悪いが実力は確かだったはずだ」
スターヘッズってもっとどうにかならなかったの?
えーと、Fランクというと上から六番目か。中堅に足がかかるくらいか? ただFランクの響き自体があまりよくなくて強そうに思えない。
「ケイ、こいつらどうしたの?」
ベステルタが路肩の石でも見るように言った。
「うーん、僕が29歳で最下位のJランクだから絡んできたんだよ。あと霧魔法をバカにしてきた」
「ふぅん? 人間って年齢でお互いを差別するの? よくわからないわ。でも霧魔法をバカにするのは腹立つわね。サンドリアがかわいそうよ」
ベステルタも同じ気持ちのようだ。よかった。
彼女はノリノリでふっ飛んだつるりんFランクを踏み潰して言う。
「ぐえぇ」
「よくもわたしの仲間と契約者をバカにしたわね。地獄を見せてあげる。かかってきなさい、愚かな人間ども」
僕の真似だろうか、手をくいっくいっとして挑発する。こっちの方が様になっているな。ただし、すごく悪者っぽい。それでも楽しくて仕方ないのか口角をひくひくさせている。
「このアマァ!」
「全員でやっちまえ!」
残りのつるりんヘッドたちが一斉にかかってくる。
「ケイ、わたしが二人殺るわ」
殺らないでね?
「ほとほどにね……。シャールさん、見ていてください。本物の霧魔法をお見せしますよ」
「は、はあ」
僕がシャールちゃんにドヤっている間に、二人のつるりんがベステルタに襲いかかる。
「ふんっ」
「ごぶぇっ」
下から抉り込むような亜人拳。
まあボディブローなんだけど、威力が酷い。男の体がくの字になって1メートルは浮いたな。そのままドサリと落ち、白目向いて痙攣。二人目。
「よっと」
「かっ」
あっけにとられる残りのハゲ。
その場で華麗なベステルターン。
からの、恐ろしく速いバックハンド手刀。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。
綺麗に顎を掠めて脳を揺らし膝をガクガクさせて崩れ落ちた。鋭過ぎて男の顎が削げ落ちたんじゃないかと思った。三人目。
いやー、年末の格闘技イベント出場して欲しいわ。
さて、本物の霧魔法を見せるぜ。
『濃霧!』
「うわっ、何だ! 前が見えねえ!」
最後のつるつる男の顔に霧がまとわりついた。頭のつるつるだけ覆わずに強調させてやる。
「くそっ、どこだ!」
ふふふ。フェイさんとの実践を通して習得した霧魔法『濃霧』だぜ。ほとんどノータイムで発動可能。魔力消費もほとんど無い。ふむ、なんか手応えある。戦うたびに何か掴めそうな気がするな。習熟度みたいのがあるのかな? 千霧魔法、本当に極めてみようかな。
男は手で霧を払おうとするが掻き消せない。私の霧は特別製よ。
近距離戦でこの隙は致命的でしょ? お分かり頂けたろうか。
「これはサンドリアの分!」
「ぶべっ」
ベステルタ仕込みのスパルタキックでKO。うーん、スカッとした。四人目。しゅーりょー。
「Jランクとその連れがツーリンたちをぶっ飛ばしたぞ!」
ツーリンっていうのか。あともう少しでツルリンじゃん。ひどい名前だな。
「やるじゃねえか! がはは」
お、おお? 何か好意的に迎えられた。バシバシと背中叩かれて一杯飲めや、とエールを奢ってくれる。ごくごく、麦茶だこれ。嘘です。エールです。
「ぶっ飛ばしちゃったんだけどいいんですか?」
今更ながら不安になって近くのドワーフっぽい冒険者に訊いた。
「かまうこたねえよ。よくあることだぜ。ツーリンたちは腕は悪かねえが、頭打ちでよ。新入りに絡んで憂さ晴らしたんだよ。良い薬になってんじゃねえか?」
ツーリン、名前も素行もろくでもないやつだな。ぶっ飛ばしてよかった。
あと僕はまだおっさんじゃない。後期お兄さんだ。頭のつるぴかディスクに刻んでおけ。
「殺したらさすがに衛兵来るけど、それも同意済みの決闘なら問題ないよー」
ちっこいハーフリング冒険者が付け足す。人の命軽いなー。それだけ冒険者は実力主義か。その分自由なんだろうね。いいね。自由最高。
「け、ケイさん、係員は呼びましたので続きをしましょう」
シャールちゃんも案外慣れてた。ささっと回収係の人たちがやって来て、ツーリンたちを「派手にやられたな」「油断するからだ」と言いながら介抱していた。うーん、ここら辺の感性が違いすぎるな。
えっと、続きってなんだっけ。ああ、そうか。パーティー名か。どうすっかな。
「ん、もしかしてわたしに言ってるのかしら」
ベステルタはどうやらギルド内を眺めていたようで全然聞いていなかった。まあ言葉分からないし、仕方ないか……。
「そうだよ。名前と戦闘方法とか教えて欲しいんだって」
「ケイに任すわ」
そう言ってまたきょろきょろとギルド内を眺め出した。同じ部屋にたくさんの種族がいるのが珍しいのかな。そんなこと言ったら君こそ相当目立っているよ。超エスニック美女だからね。しかもライダースーツとグラサンだし。フェロモン半端ないし。
「ごめんねシャールさん、彼女とても遠くから来た獣人なんだ。言葉が僕にしか分からないんだよ」
もちろん亜人だということは隠してる。
「な、なるほど。だから魔道具が必要なんですね。それにしてもすごい美人だなあ……」
ほえー、と気の抜けた声でベステルタを見つめる。君にも彼女の良さが分かるかね。よしよし飴ちゃんあげるからね。
「……はっ、す、すみません。うっかりしていました」
「いいよいいよ気にしないで」
あわあわするシャールちゃん。いつまでも見ていられるよ。
「そ、それでお連れ様の名前を伺ってもいいですか?」
「彼女の名はベステルタ。とにかく身体能力が高くて素手で戦うよ。気配にも敏感で斥候もできると思う」
「す、素手ですか。すさまじいですね。分かりました、登録しておきます」
(ベステルタさんって言うんだってよ)
(美しいお名前だな……ぜひご一緒したい)
(バカ、鼻であしらわれるだけだぜ。見ろよあの悠然としつつ、圧倒的暴力がにじみ出る佇まい。ただもんじゃねえぜ)
(で、隣にいる男はなんだ? 従者か?)
(分からん。ペットじゃないか?)
(あの男の人、顔に特徴無いけど何か生理的に受け付けないわ)
(しっ、聞こえるぞ)
聞こえているよ。お前らマジで覚えておけよ。
ああ……昔ラーメン屋でバイトしていた時のことを思い出す。店のトイレで着替えていたら「今日種巣と仕事かよ!」と同僚に言われたんだ。はー、凹むんだが。
「ケイさんも念のため氏名と……あ、魔法は何を使えるということにしておきますか? あとスキル等は開示しますか?」
「スキルの開示は無しで」
スキルの開示なんてやばすぎてできないからね。
あと、そうだった。前シャールちゃんと話した時に「前衛できて魔法数種扱えるのは目立ちすぎるから止めた方がいい」って忠告されていたんだ。ふむ。それなら決めてある。結構悩んだけどね。
「殲風魔法」は使いやすくて想像もしやすい。汎用性もあるだろう。初期の威力は他と比べて低そうだけど、プテュエラみたいに極めたら恐ろしいことになる。
「賢樹魔法」は周りに植物が無いと能力を最大限発揮できない。その代わり一定の条件下では無類の強さを誇る。一人でスカウト、タンク、アタッカー、何でもできるからね。
「地毒魔法」もいいなと思っていた。扱いが難しいけど、土という特性上、汎用性が期待できる。防御にも攻撃にも使えそうだ。さらに毒という唯一無二の特性にポテンシャルをびんびん感じる。
「練喚攻」は基本的にばれないから併用する方向で。これが無いと僕は一気に弱くなるからね。
それで悩んだ結果、出した答えがこれだ。
「種巣啓、29歳です。駆け出しのJランクですが霧魔法が使えます、ってことでお願いします」
千霧魔法を選んだ。だってロマン感じるし。霧魔法って聞いたことないし。あと発展途中でサンドリアと一緒に技を極めていけるというのが良い。
もちろん、実用性も考えた。僕は基本的に戦斧でスッと行ってドガァンが基本だから、霧によるノータイム目潰しはかなり良いコンボになる。
むふふ、霧と戦斧組み合わせたやつは僕が初めてだろー。燃えるぜ。
「ぎゃはははははは! 29歳で最弱Jランクのおっさんかよ! しかも役立たずの霧魔法とか笑っちまうぜ! ひゃはははは」
「おいおいおい、止めてやれよ、おっさんも必死なんだよ、ぷくふふふ」
「なあおっさん、冒険者舐めてんのか? デイライトの冒険者は完全実力主義だ。おとなしく田舎で死んどけよ」
……は?
うっわ、めっちゃ嘲笑されたんだが。何でだよ千霧魔法良いだろうが。
ぶはははははははは! と数人の冒険者が笑いまくっている。顔が赤いから酒が入っているのだろうか。これだけ笑われるとムカついてくるな。
ふむ、でもいいこと聞いた。完全実力主義ね。
「け、ケイさん。霧魔法はちょっと……」
シャールちゃんが言いにくそうにして顔を寄せてくる。うっほ、ごっつええ香り。いかんいかん。冷静になれ。ハルクリフトさんの顔を思い出せ。おえっ。
「何か問題あるんですか?」
「霧魔法は確かにれっきとした魔法ですが、冒険者間では水魔法の下位互換で、攻撃にも防御にも使えない無意味な魔法だと思われています。転じて、その、『役立たず』の隠語として使われることがあるのでお止めになった方がいいかと」
「そっか。ありがとう」
はー、なるほどね。理由は分かった。理解もできた。納得はしてないけどね。
霧魔法がそんな扱い受けているとはなあ。サンドリアには聞かせられないな。きっと悲しい顔をする。そんなことになったらラミアルカがこの街を毒の海で満たすだろうね。
「それでも霧魔法で登録をお願いします」
「おーい、おっさん聞こえてましたかー? 耳穴オークのクソでもつまってるんですかぁー?」
「ぶっとばされてえのか?」
「決闘申し込んじゃうよーん?」
さっきからずっと笑っていたやつらだ。顔の下卑っぷりがすごい。どうしたらこんなに悪そうな造形になるんだろう。ていうか僕より年上に見えるけど、もしかして下なのか? そしてみんなスキンヘッドだ。つるつるつるりん。つるりんぱ。まるでゆでダコみたいに……。いかん、笑えてきた。
「ぷっ」
「てめえ今頭見て笑ったな?」
「おいおいてめえしんだわおいおい」
「殺す」
「そこの受付嬢、決闘の準備しろよ。そいつぶっ殺すわ……。」
あ、矛先がシャールちゃんに……。
「お、お待ちください。話し合えば」
「うるっせえ! ブチ犯すぞ! 早くしろ!」
「う、うぅ」
目に涙を溜めて震えるシャールちゃん。それでもそこから動こうとしない。惚れた。
「女性に乱暴な言葉遣いなんて品性が知れますよ?」
やんわりと指摘する。僕は紳士だからな。相手にも忠告をしてあげなくては。
「うるせえクソの役にも立たない霧野郎が。いいぜ、準備なんていらねえ。この場でぶっ殺してやる」
「駆け出し雑魚Jランクが。Fランクの俺たちに楯突くなんて身の程を教えてやるよ」
目が血走ってる。完全にいっちゃってんな。
「ふむふむ。いけませんな。お若い方は血気盛んでいかん」
「何言ってんだ気持ちわりい」
ちょっと言ってみたかっただけだよ。
「ははは、かかってこいよハゲ! 髪の毛なんて捨ててかかってこい!」
くいっくいっ、と手で招く。やば、乗ってきた。
「死ね!」
ゆでだこスキンヘッドが剣を構えて突っ込んでくる。
…………
……
「え? おそ」
突進の進路に肘を置く。
「ぼぐわぁっ!」
つるりんヘッドが僕のエルボートラップに突っ込んでそのまま脇に吹っ飛んでいく。フェイさんが肘をうまく使っていたから真似してみた。最小限の動きでいい威力。でも顔面にめり込んで嫌な感触がした。まずは一人。
男の動きに合わせてカウンターで肘を置いていたんだが、めっちゃ遅くてびびった。なにこれ。どうなってんの? わざと?こんなに遅いとマスキュラスが腕にとまってバカにしてくるよ。
「おっ、喧嘩だ!」
「FランクがJ吹き飛ばしたのか? 大人げないな」
違うよ。逆だよ。
にしても冒険者たちは落ち着いているな。このくらい日常茶飯事ってことか。
「お、おい、今のやられたって確かFランクのスターヘッズだったよな?」
「あ、ああ。素行は悪いが実力は確かだったはずだ」
スターヘッズってもっとどうにかならなかったの?
えーと、Fランクというと上から六番目か。中堅に足がかかるくらいか? ただFランクの響き自体があまりよくなくて強そうに思えない。
「ケイ、こいつらどうしたの?」
ベステルタが路肩の石でも見るように言った。
「うーん、僕が29歳で最下位のJランクだから絡んできたんだよ。あと霧魔法をバカにしてきた」
「ふぅん? 人間って年齢でお互いを差別するの? よくわからないわ。でも霧魔法をバカにするのは腹立つわね。サンドリアがかわいそうよ」
ベステルタも同じ気持ちのようだ。よかった。
彼女はノリノリでふっ飛んだつるりんFランクを踏み潰して言う。
「ぐえぇ」
「よくもわたしの仲間と契約者をバカにしたわね。地獄を見せてあげる。かかってきなさい、愚かな人間ども」
僕の真似だろうか、手をくいっくいっとして挑発する。こっちの方が様になっているな。ただし、すごく悪者っぽい。それでも楽しくて仕方ないのか口角をひくひくさせている。
「このアマァ!」
「全員でやっちまえ!」
残りのつるりんヘッドたちが一斉にかかってくる。
「ケイ、わたしが二人殺るわ」
殺らないでね?
「ほとほどにね……。シャールさん、見ていてください。本物の霧魔法をお見せしますよ」
「は、はあ」
僕がシャールちゃんにドヤっている間に、二人のつるりんがベステルタに襲いかかる。
「ふんっ」
「ごぶぇっ」
下から抉り込むような亜人拳。
まあボディブローなんだけど、威力が酷い。男の体がくの字になって1メートルは浮いたな。そのままドサリと落ち、白目向いて痙攣。二人目。
「よっと」
「かっ」
あっけにとられる残りのハゲ。
その場で華麗なベステルターン。
からの、恐ろしく速いバックハンド手刀。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。
綺麗に顎を掠めて脳を揺らし膝をガクガクさせて崩れ落ちた。鋭過ぎて男の顎が削げ落ちたんじゃないかと思った。三人目。
いやー、年末の格闘技イベント出場して欲しいわ。
さて、本物の霧魔法を見せるぜ。
『濃霧!』
「うわっ、何だ! 前が見えねえ!」
最後のつるつる男の顔に霧がまとわりついた。頭のつるつるだけ覆わずに強調させてやる。
「くそっ、どこだ!」
ふふふ。フェイさんとの実践を通して習得した霧魔法『濃霧』だぜ。ほとんどノータイムで発動可能。魔力消費もほとんど無い。ふむ、なんか手応えある。戦うたびに何か掴めそうな気がするな。習熟度みたいのがあるのかな? 千霧魔法、本当に極めてみようかな。
男は手で霧を払おうとするが掻き消せない。私の霧は特別製よ。
近距離戦でこの隙は致命的でしょ? お分かり頂けたろうか。
「これはサンドリアの分!」
「ぶべっ」
ベステルタ仕込みのスパルタキックでKO。うーん、スカッとした。四人目。しゅーりょー。
「Jランクとその連れがツーリンたちをぶっ飛ばしたぞ!」
ツーリンっていうのか。あともう少しでツルリンじゃん。ひどい名前だな。
「やるじゃねえか! がはは」
お、おお? 何か好意的に迎えられた。バシバシと背中叩かれて一杯飲めや、とエールを奢ってくれる。ごくごく、麦茶だこれ。嘘です。エールです。
「ぶっ飛ばしちゃったんだけどいいんですか?」
今更ながら不安になって近くのドワーフっぽい冒険者に訊いた。
「かまうこたねえよ。よくあることだぜ。ツーリンたちは腕は悪かねえが、頭打ちでよ。新入りに絡んで憂さ晴らしたんだよ。良い薬になってんじゃねえか?」
ツーリン、名前も素行もろくでもないやつだな。ぶっ飛ばしてよかった。
あと僕はまだおっさんじゃない。後期お兄さんだ。頭のつるぴかディスクに刻んでおけ。
「殺したらさすがに衛兵来るけど、それも同意済みの決闘なら問題ないよー」
ちっこいハーフリング冒険者が付け足す。人の命軽いなー。それだけ冒険者は実力主義か。その分自由なんだろうね。いいね。自由最高。
「け、ケイさん、係員は呼びましたので続きをしましょう」
シャールちゃんも案外慣れてた。ささっと回収係の人たちがやって来て、ツーリンたちを「派手にやられたな」「油断するからだ」と言いながら介抱していた。うーん、ここら辺の感性が違いすぎるな。
えっと、続きってなんだっけ。ああ、そうか。パーティー名か。どうすっかな。
29
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる