138 / 287
統治者
しおりを挟む
その後、ジャンゴさんが駄々をこねた。ニステルが僕のところへ来ることになったからだ。
「ニステル! お前がいなくなったら私の商会は誰が守るのだ!」
けっこうな剣幕で詰め寄るジャンゴさん。
まあ、気持ちは分かる。ニステルを失うのはものすごい損失だってことだ。
「ジャンゴ、もうアタシがいなくてもアタシの育てた連中ならお前の商会を立派に守り切れるよ」
「し、しかしだな」
苦笑気味のニステルに対して、しどろもどろになるジャンゴさん。
「あんたには感謝してる。集落を出て右も左も分からない馬鹿なアタシに、最低限の教養や読み書きを教えてくれた。闘技場のオーナーと掛け合ってくれたのも、あんただけだった。闘うことしか能の無いアタシが、ここまでやってこれたのもあんたのおかげさね。アタシはもう家族と絶縁しているけど、ジャンゴ、あんたのことは兄みたいに思っていたよ。だからあんたには笑って見送って欲しいんだ」
「ニ、ニステル……」
ニステルの言葉を聞いたジャンゴさんが、ブワッと涙を流して泣き始めた。ニステルが彼を抱き締める。
「ニステル……私もお前を妹のように思っていた。強く気高い王虎族の女。男色で野心の強い私を周囲が疎む中、お前だけは普通に接してくれた。それどころか私の才覚を認めてくれた。私はな、ニステル。お前に憧れていたんだ。私は弱い。大事なものを守れない。だから小細工で立ち回るしかなかった。だから、全てを腕っぷしで解決するお前に嫉妬し……憧れていた。お前が私の才覚を認めてくれた時、決心したのだ。この誇り高い女に認められたのだ。私はもっとやれるはずだ、と。嬉しかった……嬉しかったのだ……ニステル……」
巨漢のぶよぶよ男と歴戦の女用心棒。ジャンゴさん、昔何かあったのかな。
ジャンゴさんがおいおい泣く姿は、そりゃ絵面的にはひどいけど、みっともなくは見えなかった。長年一緒にいたはずの身内が突然いなくなる、その悲しさは何だかよく分かる。二人はしばらく抱き合っていた。
……
「それではタネズ殿、ニステルは明日にでもそちらに伺わせますので」
「ありがとうございます」
ジャンゴさんと僕はがっちり握手を交わす。ニステルのこともあり、心の壁が一枚減ったような気分だ。それにこの人、なりふり構わずニステルから僕の事助けようとしてくれたしね。その恩は今後返していこう。ちなみにニステルは荷造りと引継ぎのために席を外している。彼女を慕う者は多く、きちんと別れを言わないとどこまでも追っかけてくるらしい。こわ。
ちなみにニステルとバステンについてもしっかり話し合った。二人とも奴隷待遇で迎えることになった。バステンは元々奴隷だったから分かるけど、まさかニステルまで奴隷でいいとは思わなかった。それもジャンゴさんから頼まれるなんて。
「本当に奴隷待遇でいいんですか?」
「もちろんです。というよりも本人がそれを望んでいます。タネズ様を主と認めた以上、明確に自分が下であることを示したいのでしょう」
ああ、なるほど。彼女なりのけじめなのかな。でも、それだけでまた奴隷に戻るもんなのかな。彼女はせっかくチャンピオンになって解放奴隷になったのにさ。
僕がもやもやしているとジャンゴさんが苦笑する。
「ふふ。その顔は納得されていませんね。白状すると、当商会としての打算もあります」
ジャンゴさんが下顎の肉をぶるりと震わせて悪い顔をする。
「打算ですか?」
「はい。タネズ様は、あのニステルに勝利できるほどの実力の持ち主。しかもその実力はほとんど知られていません。さらに商業ギルドと唯ならぬ関係をお持ちですね? 何でも非常に希少な素材を独占しているとか。冒険者としての強さに加え、デイライトを牛耳る商業ギルドへのコネ。他にもスラムの住人が貴方を神のように崇めている、との情報が入っております」
げっ。思ったより調べられていた。もしかして他の商人にも知られていたりするのかな。
「ご安心を。この情報は当商会によって秘匿しております」
不安が顔に出ていたのか、ジャンゴさんが安心させるように言ってきた。ほっ、よかった。
でも、なんで打算に繋がるんだ?
「おおむねジャンゴさんの言う通りですけど、それと打算に何の関係が?」
「タネズ様……。貴方はご自分のことになると無自覚なのですね」
え、なんか「やれやれ」みたいな顔されたんだけど。
「先ほども申しましたが、個人として破格の強さを持ち、大きな金の動きに食い込める人脈も持っている。さらに多くの人の心を掴んでいる。タネズ様、貴方は人の上に立つ者になると、私は踏んでおります」
確信めいた表情で話すジャンゴさん。
「いや、そんなことは」
「いいえ。貴方はお優しい方です。死にかけのバステンを助け、貴方を殺そうとしたニステルや失態を犯した私を許す心の広さを持ち合わせています。おそらく、貴方は貴方の意志に関係なく、周りが放っておかないでしょう」
ジャンゴさんに静かに諭される。ええ……、僕って周りから見てそんな風に見えていたの? 分からん。そう言えば自分を客観視することなんてあまりなかったよ。無意識のうちに避けていたから。
「でも、僕は本当に弱い人間なんです。そんな担ぎ上げられるような人物じゃありません」
「そうですね。人はとても弱い。だからこそ、救いを求め、無意識のうちに強い者の庇護下に加わろうとします。しかし強い者は、弱い者の気持ちが分かりません。だから結局何も変わらないのです。タネズ様、貴方は弱い者たちの弱さを知っています。そして私は弱さを知る強者の弱さを支える人物になりたいのです」
……んん? なんか話がおかしな方向に流れているような。
「タネズ様、いくらニステルの願いと言えど、彼女の存在は強力です。いるだけで牽制になります。それをみすみす手放すような真似を、商人がするとお思いですか?」
やっぱそうだよね。ニステルやばいもん。フレイムベアに単騎で勝てる奴なんていないだろ。リトル亜人だよ。きっとジャンゴさんとの間で契約しているだろうし、それを持ち出せば彼女をジャンゴさんのところに縛り付けるのも可能なはずだ。
「彼女は投資です。当商会からの贈り物です。未来の……統治者への」
ぐっと身体を乗り出して澄み切った瞳で僕を見つめる。
統治者? 何を言っているんだ? 僕、性職者なんだけど。
「ははは。ジャンゴさん。そんなわけありませんよ。僕が統治者なんて。あり得ないです」
「そうですね。あり得ないかもしれません。しかし、タネズ様は条件を満たしているように思えます。仮に統治者にならずとも貴方は有力なお方です。有力者に取り入る重要性はタネズ様もご存じのはずでは?」
う。ま、まぁ、そうだけど。
「私が勝手に思ってやったことです。上手くいかなくても責任を取れ、と言うつもりは毛頭ございません。ただ、当商会はタネズ様を全力で支援する、その意志表明だと思ってくだされば幸いです」
そう言って深々礼をするジャンゴさん。
う、うーん。確かにジャンゴさんは商人として海千山千っぽいし、味方になってくれるのは有難い。責任取れ、と言ってくることも無いみたいだし。
それなら、いいのかな? 僕も、ニステルを預かる身としては彼と仲良くしていきたいし。
「統治者とかはよく分からないですが……個人的にジャンゴさんとは仲良くしていきたいと思っていますよ」
「タネズ様……ありがとうございます」
彼は柔和に微笑んだ。
あ、今イケメン時代の面影見えたかもしれない。
そんなやり取りの後、僕たちはさらに契約を詰めた。亜人のことも話して、理解を得ることができた。シュレアやサンドリアを見られてしまったし、話さない訳にはいかないでしょ。かなりびっくりしていたけどね。
亜人の存在、ジオスの使徒であること、僕の使命。
それらについて、かいつまんで話すと感極まったように顎の肉をぶるぶる震わせていた。
「やはり私の目に狂いはありませんでした……」
そう言って跪こうとするのをマジで止めさせた。これ以上狂信者は増やしたくない。
ちなみにジオス教徒への改宗は現状厳しいらしい。
デイライトやソルレオン王国ではアセンブラ教であることが有利に働くし、逆にアセンブラ教で無いと目の敵にされるようだ。まあ、商人なんかはそこら辺の影響もろに受けそうだもんな。念のためアセンブラ教への信仰心について訊いてみたが、まったく持っていないようだった。
「あくまでも商売でうまくやっていくために、表面上信仰しているだけでございます」
憎々し気に吐き捨てる。うわぁ、苦労してそうだな。あいつら暴利貪ってそうだしね。
そして「改宗できず申し訳ございません」と悔しそうにつぶやくジャンゴさん。でも、彼のようにアセンブラ教の協力者がいることは、こっちにとってもメリットになる。アセンブラ教の動きは知っておきたいからね。そう言うと、少しほっとしたようだった。
最後にそこら辺のことを話して、契約魔法で誓いを立てる。この秘密を漏らした場合、彼は財産を僕に譲渡した上で命を絶つ、という内容だ。ちょっとやりすぎな気もしたけど「改宗しないまま信用して頂くにはこれくらいの覚悟をお見せする必要がございます」と言って、譲らなかった。
ニステルとバステンに関しては、明日にでもこっちに寄越してくれるらしい。ニステルさんはともかく、バステンさんはそんな急にこっちに来て大丈夫か心配したんだけど、どうやら本人の回復力が凄いのとジャンゴさんの方でポーションをじゃぶじゃぶ与えたらしい。報告に来たおっさん奴隷曰く「ぴんぴんしております」とのこと。あと、「ご主人様の元に馳せ参じなくては!」と今にも飛び出しそうな勢いらしい。これはやばい。一日置いて、ちょっと冷静になってもらおう。
あとニステルは闘奴時代から人望があり、たまに彼女を訪ねてくる者もいたそうだ。もしかしたらこっちに来るかもしれないとのこと。まあ、ニステルが信用した人間なら大丈夫だろう。
最後に、新たな奴隷を仕入れたら連絡するようにジャンゴさんに言い、握手して商会を後にした。
ふぃー。だいぶいろいろあったな……。かなり濃い時間を過ごした。お昼も結構過ぎちゃったね。軽くご飯食べて、ゴドーさんのところに行かないとな。
『ケ、ケイ。あたし、役に立てたかな?』
もやぁ、とうっすらと霧が発生した。それが僕に近付いてくる。
ぎゅっと見えない手が僕の腕を掴み、チャンネル越しにサンドリアが訊いてきた。不安そうな声だ。
サンドリアの存在にはずいぶん助けられているから、不安に思うことなんてないのにな。
『うん。サンドリアがいてくれて助かったよ。あと、もっと自信もって大丈夫だよ? いつもありがとうね』
『ふ、ふひゅ。そ、そっか。よかったぁ』
変な笑い声が、微かにマダム・ジャンゴ奴隷商会前に漂った。
「ニステル! お前がいなくなったら私の商会は誰が守るのだ!」
けっこうな剣幕で詰め寄るジャンゴさん。
まあ、気持ちは分かる。ニステルを失うのはものすごい損失だってことだ。
「ジャンゴ、もうアタシがいなくてもアタシの育てた連中ならお前の商会を立派に守り切れるよ」
「し、しかしだな」
苦笑気味のニステルに対して、しどろもどろになるジャンゴさん。
「あんたには感謝してる。集落を出て右も左も分からない馬鹿なアタシに、最低限の教養や読み書きを教えてくれた。闘技場のオーナーと掛け合ってくれたのも、あんただけだった。闘うことしか能の無いアタシが、ここまでやってこれたのもあんたのおかげさね。アタシはもう家族と絶縁しているけど、ジャンゴ、あんたのことは兄みたいに思っていたよ。だからあんたには笑って見送って欲しいんだ」
「ニ、ニステル……」
ニステルの言葉を聞いたジャンゴさんが、ブワッと涙を流して泣き始めた。ニステルが彼を抱き締める。
「ニステル……私もお前を妹のように思っていた。強く気高い王虎族の女。男色で野心の強い私を周囲が疎む中、お前だけは普通に接してくれた。それどころか私の才覚を認めてくれた。私はな、ニステル。お前に憧れていたんだ。私は弱い。大事なものを守れない。だから小細工で立ち回るしかなかった。だから、全てを腕っぷしで解決するお前に嫉妬し……憧れていた。お前が私の才覚を認めてくれた時、決心したのだ。この誇り高い女に認められたのだ。私はもっとやれるはずだ、と。嬉しかった……嬉しかったのだ……ニステル……」
巨漢のぶよぶよ男と歴戦の女用心棒。ジャンゴさん、昔何かあったのかな。
ジャンゴさんがおいおい泣く姿は、そりゃ絵面的にはひどいけど、みっともなくは見えなかった。長年一緒にいたはずの身内が突然いなくなる、その悲しさは何だかよく分かる。二人はしばらく抱き合っていた。
……
「それではタネズ殿、ニステルは明日にでもそちらに伺わせますので」
「ありがとうございます」
ジャンゴさんと僕はがっちり握手を交わす。ニステルのこともあり、心の壁が一枚減ったような気分だ。それにこの人、なりふり構わずニステルから僕の事助けようとしてくれたしね。その恩は今後返していこう。ちなみにニステルは荷造りと引継ぎのために席を外している。彼女を慕う者は多く、きちんと別れを言わないとどこまでも追っかけてくるらしい。こわ。
ちなみにニステルとバステンについてもしっかり話し合った。二人とも奴隷待遇で迎えることになった。バステンは元々奴隷だったから分かるけど、まさかニステルまで奴隷でいいとは思わなかった。それもジャンゴさんから頼まれるなんて。
「本当に奴隷待遇でいいんですか?」
「もちろんです。というよりも本人がそれを望んでいます。タネズ様を主と認めた以上、明確に自分が下であることを示したいのでしょう」
ああ、なるほど。彼女なりのけじめなのかな。でも、それだけでまた奴隷に戻るもんなのかな。彼女はせっかくチャンピオンになって解放奴隷になったのにさ。
僕がもやもやしているとジャンゴさんが苦笑する。
「ふふ。その顔は納得されていませんね。白状すると、当商会としての打算もあります」
ジャンゴさんが下顎の肉をぶるりと震わせて悪い顔をする。
「打算ですか?」
「はい。タネズ様は、あのニステルに勝利できるほどの実力の持ち主。しかもその実力はほとんど知られていません。さらに商業ギルドと唯ならぬ関係をお持ちですね? 何でも非常に希少な素材を独占しているとか。冒険者としての強さに加え、デイライトを牛耳る商業ギルドへのコネ。他にもスラムの住人が貴方を神のように崇めている、との情報が入っております」
げっ。思ったより調べられていた。もしかして他の商人にも知られていたりするのかな。
「ご安心を。この情報は当商会によって秘匿しております」
不安が顔に出ていたのか、ジャンゴさんが安心させるように言ってきた。ほっ、よかった。
でも、なんで打算に繋がるんだ?
「おおむねジャンゴさんの言う通りですけど、それと打算に何の関係が?」
「タネズ様……。貴方はご自分のことになると無自覚なのですね」
え、なんか「やれやれ」みたいな顔されたんだけど。
「先ほども申しましたが、個人として破格の強さを持ち、大きな金の動きに食い込める人脈も持っている。さらに多くの人の心を掴んでいる。タネズ様、貴方は人の上に立つ者になると、私は踏んでおります」
確信めいた表情で話すジャンゴさん。
「いや、そんなことは」
「いいえ。貴方はお優しい方です。死にかけのバステンを助け、貴方を殺そうとしたニステルや失態を犯した私を許す心の広さを持ち合わせています。おそらく、貴方は貴方の意志に関係なく、周りが放っておかないでしょう」
ジャンゴさんに静かに諭される。ええ……、僕って周りから見てそんな風に見えていたの? 分からん。そう言えば自分を客観視することなんてあまりなかったよ。無意識のうちに避けていたから。
「でも、僕は本当に弱い人間なんです。そんな担ぎ上げられるような人物じゃありません」
「そうですね。人はとても弱い。だからこそ、救いを求め、無意識のうちに強い者の庇護下に加わろうとします。しかし強い者は、弱い者の気持ちが分かりません。だから結局何も変わらないのです。タネズ様、貴方は弱い者たちの弱さを知っています。そして私は弱さを知る強者の弱さを支える人物になりたいのです」
……んん? なんか話がおかしな方向に流れているような。
「タネズ様、いくらニステルの願いと言えど、彼女の存在は強力です。いるだけで牽制になります。それをみすみす手放すような真似を、商人がするとお思いですか?」
やっぱそうだよね。ニステルやばいもん。フレイムベアに単騎で勝てる奴なんていないだろ。リトル亜人だよ。きっとジャンゴさんとの間で契約しているだろうし、それを持ち出せば彼女をジャンゴさんのところに縛り付けるのも可能なはずだ。
「彼女は投資です。当商会からの贈り物です。未来の……統治者への」
ぐっと身体を乗り出して澄み切った瞳で僕を見つめる。
統治者? 何を言っているんだ? 僕、性職者なんだけど。
「ははは。ジャンゴさん。そんなわけありませんよ。僕が統治者なんて。あり得ないです」
「そうですね。あり得ないかもしれません。しかし、タネズ様は条件を満たしているように思えます。仮に統治者にならずとも貴方は有力なお方です。有力者に取り入る重要性はタネズ様もご存じのはずでは?」
う。ま、まぁ、そうだけど。
「私が勝手に思ってやったことです。上手くいかなくても責任を取れ、と言うつもりは毛頭ございません。ただ、当商会はタネズ様を全力で支援する、その意志表明だと思ってくだされば幸いです」
そう言って深々礼をするジャンゴさん。
う、うーん。確かにジャンゴさんは商人として海千山千っぽいし、味方になってくれるのは有難い。責任取れ、と言ってくることも無いみたいだし。
それなら、いいのかな? 僕も、ニステルを預かる身としては彼と仲良くしていきたいし。
「統治者とかはよく分からないですが……個人的にジャンゴさんとは仲良くしていきたいと思っていますよ」
「タネズ様……ありがとうございます」
彼は柔和に微笑んだ。
あ、今イケメン時代の面影見えたかもしれない。
そんなやり取りの後、僕たちはさらに契約を詰めた。亜人のことも話して、理解を得ることができた。シュレアやサンドリアを見られてしまったし、話さない訳にはいかないでしょ。かなりびっくりしていたけどね。
亜人の存在、ジオスの使徒であること、僕の使命。
それらについて、かいつまんで話すと感極まったように顎の肉をぶるぶる震わせていた。
「やはり私の目に狂いはありませんでした……」
そう言って跪こうとするのをマジで止めさせた。これ以上狂信者は増やしたくない。
ちなみにジオス教徒への改宗は現状厳しいらしい。
デイライトやソルレオン王国ではアセンブラ教であることが有利に働くし、逆にアセンブラ教で無いと目の敵にされるようだ。まあ、商人なんかはそこら辺の影響もろに受けそうだもんな。念のためアセンブラ教への信仰心について訊いてみたが、まったく持っていないようだった。
「あくまでも商売でうまくやっていくために、表面上信仰しているだけでございます」
憎々し気に吐き捨てる。うわぁ、苦労してそうだな。あいつら暴利貪ってそうだしね。
そして「改宗できず申し訳ございません」と悔しそうにつぶやくジャンゴさん。でも、彼のようにアセンブラ教の協力者がいることは、こっちにとってもメリットになる。アセンブラ教の動きは知っておきたいからね。そう言うと、少しほっとしたようだった。
最後にそこら辺のことを話して、契約魔法で誓いを立てる。この秘密を漏らした場合、彼は財産を僕に譲渡した上で命を絶つ、という内容だ。ちょっとやりすぎな気もしたけど「改宗しないまま信用して頂くにはこれくらいの覚悟をお見せする必要がございます」と言って、譲らなかった。
ニステルとバステンに関しては、明日にでもこっちに寄越してくれるらしい。ニステルさんはともかく、バステンさんはそんな急にこっちに来て大丈夫か心配したんだけど、どうやら本人の回復力が凄いのとジャンゴさんの方でポーションをじゃぶじゃぶ与えたらしい。報告に来たおっさん奴隷曰く「ぴんぴんしております」とのこと。あと、「ご主人様の元に馳せ参じなくては!」と今にも飛び出しそうな勢いらしい。これはやばい。一日置いて、ちょっと冷静になってもらおう。
あとニステルは闘奴時代から人望があり、たまに彼女を訪ねてくる者もいたそうだ。もしかしたらこっちに来るかもしれないとのこと。まあ、ニステルが信用した人間なら大丈夫だろう。
最後に、新たな奴隷を仕入れたら連絡するようにジャンゴさんに言い、握手して商会を後にした。
ふぃー。だいぶいろいろあったな……。かなり濃い時間を過ごした。お昼も結構過ぎちゃったね。軽くご飯食べて、ゴドーさんのところに行かないとな。
『ケ、ケイ。あたし、役に立てたかな?』
もやぁ、とうっすらと霧が発生した。それが僕に近付いてくる。
ぎゅっと見えない手が僕の腕を掴み、チャンネル越しにサンドリアが訊いてきた。不安そうな声だ。
サンドリアの存在にはずいぶん助けられているから、不安に思うことなんてないのにな。
『うん。サンドリアがいてくれて助かったよ。あと、もっと自信もって大丈夫だよ? いつもありがとうね』
『ふ、ふひゅ。そ、そっか。よかったぁ』
変な笑い声が、微かにマダム・ジャンゴ奴隷商会前に漂った。
29
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる