絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【R18版】

萩原繁殖

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蒼翼騎士団団長ランドル・アーヴィング

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 沈黙の詰所に、微かに風が通る。

 騎士団長さん? は、クラリーチェが転がっていった方向には一切視線をやらず、ただ静かに僕へと目を向けた。

「すまないね、君。大丈夫かい?」

 その声は、あまりにも穏やかだった。
 まるで何事もなかったかのように、静かに、柔らかく。
 さっきまでこの空間で苛烈な制裁が行われていたことが幻だったかのような、落ち着いた声音だった。

(この人笑ってんのにめちゃくちゃ怖いな……あれだ、ブ◯ーチの愛◯みたいな雰囲気だ)

「だ、大丈夫です。なかなか痛いけど、鍛えてはいるので」

 そう言うと彼は目を細める。

「ほう……確かに大丈夫そうだ。冒険者にしては良き鍛錬を積んでいるな。しかし、部下が君に対し行き過ぎた暴力を行使したことについては私の責任でもある。すまない」

 軽く顎を引いて謝意を表明する騎士団長さん。周囲からどよめきの声が上がる。

「え、ええっと。お気になさらず、騎士団長、様?」

「ランドル・アーヴィングだよ、冒険者くん。アーヴィングと呼んでくれ給え。君の名前を聞かせてもらえるかな? さきほどは聞きそびれてしまってね」

「あ、タネズと申します。タネズ・ケイです。しがない冒険者です」

「タネズ……?」

 アーヴィングさんはぴくり、と眉を動かし一瞬無表情になった。

 ゾワッ。

(無表情こわっっっっ!)

「もしかして君……前に商業ギルドと揉めたりしてなかったかな?」

「あ、あー。揉めたのかな? あ、揉めましたね。でも今は関係良好ですよ」

 良好……だよね?

「それはよかった。ふふ。……君の持ち込んだフレイムベアの素材で、この街はずいぶんと忙しくなったんだよ。アセンブラのネリス大司教閣下も興味を示してね。抑えるのがとても大変だったんだ」

 アーヴィングさんは小声でそう付け足した。

「うえっ!?」

 この人、フレイムベア先輩のこと知ってんの!? ていうか大司教って……そんなとこまで話が及んでたのか……。

「おかげで冒険者が増えていざこざを起こすわ、周辺地域に盗賊が増えて治安が乱れるわで、大忙しだよ。ガイウスのやつもボヤいてたな。確かに兵たちの給料は確かにいくらか上がったんだけど、仕事量は増えていく一方なんだよねえ」

 ニコニコ顔でチクチク嫌味を言ってくる騎士団長。な、なんだよこのやり方。仕事のミスを笑顔で迂遠に指摘する上司みたいだぞ。

「そ、それはすみません」

「いやいや、こっちも仕事だからね。君のせいじゃないよ。でもまあ、誰か手の空いてる人が近隣の盗賊討伐請け負ってくれるとありがたいんだけどなあ。フレイムベアの素材を取ってこれるような、凄腕なら有り難いんだけど」

 ネチネチネチネチ。

 この人、ほんとに騎士団長か……?

「ぜ、善処します」

「ははは。いやなに、軽い冗談さ。元凶を前にしてつい私も昂ってしまった。許してほしい」

 いや、元凶て。

「は、ははは」

「でもね、タネズくん。正義を標榜する騎士団の詰所で、お金を積むのはとても良くないよ。悪気が無かったとしてもね」

 アーヴィングさんはニコニコ顔で静かに言った。なんか圧が増している。

 僕には分かる。怒ってる。

「お、おっしゃる通りです。僕がアホでした」

「うんうん。素直に謝ってくれてありがとう。冒険者の中には強情な人もいるからね。全員が君のように物分かりが良いといいんだけど」

 そして転がっているクラリーチェをちらりと一瞥する。

「クラリーチェはね、あれでいて、普段はとても真面目で冷静かつ頼りになる騎士なんだ。信念も理念も確固たるものを持っている。実力も申し分ない。でも……彼女には冒険者を厳しく見てしまう事情があってね」

 そ、そうなのか。だからといって問答無用で人をボコボコにしていいわけじゃないと思うけど。

 ……いや、僕があんま知らないだけで、ほとんどの冒険者ってのは碌でもない奴らばっかで問題ばかり起こしてるのかもしれないな。

「いえ、僕も途中からクラリーチェさんの足やお尻を見ていたんで、たぶん視線がキモくて力が入っちゃったんだと思います。だから気にしてないっす」

 怒れる凛々しいおっぱいがぷるぷる揺れてたし、舐め甲斐のありそうか御御足だったしね。

「……ははっ! なんだいそれは。君は、面白い男だねえ」

 アーヴィングさんは初めて面白そうな声で笑った。や、やっと笑ったよ。この人、笑ってんのに全然笑ってないんだもん。

「さて。今回の件についてだが、被収容者の状況を踏まえ、正式な処置が完了するまで、一般者の接触は禁止されている。
 だが、差し入れや伝言の提出は受け付けている。……たとえば、毛布や食事、手紙など。そういうものなら可能だ」

 僕はポカン、としてアーヴィングさんを見る。きっと間抜け顔だったに違いない。

「えっ……そうなんですか。じゃあ、最初からそうすればよかったですね……」

「そうだね。最初からそうしてくれれば、クラリーチェの顎も無事だったかもしれない」

 アーヴィングさんは他の騎士たちに介抱されているクラリーチェさんをチラリと見やる。

 あたしってホントバカ。

ーー

 その後ケイは周囲の店で衣類やら毛布やら、食料やら、牢屋でも困らないような生活用品を買えるだけ買い、シャフナさんに差し入れする手続きをした。

 最後にもう一度一礼し、肩をしょんぼり落としたケイが詰所を出て行ったのを確認すると、ランドルはわずかに目を細めた。
 部屋にまだ残る緊張の残滓――あれは、彼の“連れ”によるものだ。

「……さて。落ち着いたようだね。皆、警戒を解いて構わないよ」

 小さな言葉一つで、詰所全体の空気が緩んだ。
 だが、すぐにランドルは背後にいた騎士のひとり――軽装の斥候役の青年に視線を向けた。彼は今しがた、“急遽発生した任務”から帰ってきたばかりだった。

「ノーア。さっきの“気配”の元、追えたかい?」

 ノーアと呼ばれた青年は首を振る。明らかに顔色を悪くしていた。
 戦場を知る者の瞳が、恐れを隠しきれないままランドルを見る。

「……申し訳ありません。まるで、霧のように……。姿を追うことはできませんでした」

「ふむ……君は、精鋭の斥候だったね?」

「はい。蒼翼第二遊撃隊にて、偵察を専門に……ですが、あれは……」

 言葉に詰まり、彼はわずかに肩を震わせた。

「まるで……まるで赤子扱いされているかのように、気配ごと……振り払われました」

 ランドルは目を細める。
 その瞳に宿るのは、好奇心とも警戒ともつかない、底知れぬ思索の光だった。

「君の感覚でいい。印象はどうだ? どれくらいの脅威度と見る?」

「はっ。相対した訳ではないので確かなことは言えませんが……」

 ノーアは早鐘を打つ心臓を抑え、ゆっくりと自分を落ち着かせるように言った。

「印象は……“人の皮を被った強大な魔獣”です。あれほどの濃密な殺気、人には出せません。質があまりにも違いすぎる。魔獣のように、理性のタガが外れ本能のままに生きるモノにしか出せません。なのに……」

 ノーアは震える手を抑える。

「あの殺意の持ち主は……それを“コントロール”していました。まるでそれが当たり前かのように。強大な魔獣が、人のように理性で殺意を操っているんです。
 また、我らの反応を楽しんでいるかのような印象も受けました。知能の高い魔獣が弱い者をいたずらにいたぶり、戯れに生かす事があるのをご存知でしょう? あれと同じです。我らは、生かされたのです。“次は無いぞ”という看板を首に下げられて」

 ノーアはすっかり顔色を悪くし、同僚に介抱されながら医務室に連れて行かれた。

「……なるほど。タネズ・ケイくんか」

 そう呟いた彼の声は、決して大きくはなかった。
 だがそれは、詰所全体の空気を再び引き締めるのに十分だった。

「改めて、ガイウスやアーラとも共有しておく必要があるね」

ーー

「は~疲れた」

 騎士団からの帰り道、ベステルタと並んで帰る。思わず溜息が出てしまった。

 しっちゃかめっちゃかになったけど、とりあえず目的は果たせた……と思う。たくさん差し入れ買ったし、騎士団の人も少し顔を引き攣らせながらも「責任をもって渡す」と言ってくれたし。

 帰り際にランドルさんからも「看守には不公平にならない程度に、よく見るようには言っておくよ」という言葉も引き出せた。

 その後ブラガさんとブレシアさんに、騎士団での出来事を伝えたら、割と呆れられてしまった。とても残念そうな目で見られたので、シャロンちゃんのことを頼んで、そそくさと退散した。

「お疲れ様、ケイ」

「ベステルタ、フォローしてくれてありがとう」

「ううん。こっちこそ、ケイの合図を待たずに助けちゃってごめんなさい。ケイが殴られてるの見たら、どうしても殺したくなってしまって」

 あっぶね、ちゃんと『待て』の指示しておいてよかった。

「いいんだ、ベステルタ。我慢させちゃってごめんね。ギリギリまで待てたんだね、偉いよ」

「だって、ケイの言いつけだもの。私、ケイの言ったことはちゃんと守るわ。傷は平気?」

 心配そうに、こわれものを扱うかのように僕の身体に触れてくる。

「大丈夫さ。練喚功を常に張ってるから大きな怪我はしてない。まあ衝撃は伝わってきまし、痛みもあったからダメージゼロって訳じゃないけど」

「ほんとうに、あいつら滅ぼさなくていいの?」

 と、隣を歩くベステルタが、わりと真剣な顔で言ってきた。

 その声は抑えられていたけれど、口調は本気だった。

「ぼさないぼさない。こんなことで滅してたら世の中から詰め所がなくなっちゃうよ。そもそも僕がもっとスマートに行動できてればよかった話なんだ。クラリーチェさんには悪いことしたよ。まだ痙攣してるのかなあ」

 アーヴィングさんのパンチすごかったなー。ほぼ直立の姿勢から手打ちで放った拳なのにあんな威力あるんだもん。

「痙攣じゃ足りないわ」

「足りるよ」

 ベステルタはムスッとしたまま僕の顔を見て、さらに口を尖らせた。

「……笑ってるってことは、余裕あるってことよね。じゃあ、やっぱりあいつら滅ぼしても大丈夫そう」

「いや、ちょっとまって。余裕があるのと、詰所滅ぼしていいかどうかは別の話だよね?」

 ベステルタはむすっとしたまま、じーっと僕を見ている。
 その顔は不満そうだけど、どこか安心したようにも見える。

「ベス、ありがとうね」

「なに? 急に」

「怒ってくれて。僕のこと、ちゃんと見てくれてたんだなって、嬉しかった」

「そんなの当たり前じゃない。私のケイなんだから」

 事も無げにキリっとした顔で言ってくる。きゃー、イケメン。

「えっ、なに? 今すごい大事なこと言ったよね? もう一回言って?」

「ケイは私の大事な契約者で、私のケイなのよ。ずっと一緒に冒険するし、一度に二十回は種付けしてもらうことになってる」

「死んじまうよ」

 十回でもやばいのに、二十じゃ冗談抜きでテクノブレイカータネズになっちゃう。勢力回復魔法とかあれば別だけど。
 
 ていうか、ここは頰を赤らめて「い、言わないっ!」とか言って照れるとこだろ。なんでしれっと契約付け足してるんだよ。

ーー

 そんなこんなで教会に戻り、扉を開けた瞬間、
 中からぱたぱたと駆けてくる足音が聞こえた。

「ケイ!」

 真っ先に出迎えてくれたのは、シルビアだった。その後ろにはセラミナもいる。蒼パンツではなくふつーに服を着ている。でも、ぐっとくるスカート姿だ。
 焦った様子で僕の顔を覗き込み、胸元に手を当てる。

「大丈夫なの? 殴られたって……セラミナちゃんから聞いて……」

 セラミナも、とても心配そうな眼差しをしている。

「あ、あの、明日からのために父と食材や必要品を調達しに行っていたら、詰め所でボッコボコにされてる御主人様を見て……急いでシルビア様にお伝えしたんです」

 ぼ、ボッコボコすか。セラミナ意外とフランクな言葉使うんだね。まあ、日本基準で考えればJでKな若者だしな……。

「あ、うん……まあ、ちょっとボコられたけど、見ての通り、元気だよ」

「見ての通りじゃ分からないの! もう……心配させないで……!」

 言いながら、シルビアは僕の頬に手を当て、指先でそっと撫でるように触れてくる。

 き、距離感が近い。距離ではない。距離感が、前よりもベリークローズだ。

「……ごめんね。事情を説明するよ」

 と、僕のアホムーブを衆目環視の下、お披露目する。さあ、いくらでも呆れるがいい。 

「とまあこんな訳だね」

「はぁ……なんというか、ケイらしいね」

 シルビアは案の定呆れたように腰に手を当てた。

「すんません」

「でもね」

 そこで彼女は言葉を区切る。

「ケイは確かにちょっと常識に疎くて馬鹿なところあるけど、人のためになりふり構わず行動できるところは……素敵だと思うな」

 ふわりと微笑むシルビア。
 
 その仕草を見た瞬間、僕の中の空気が、ザワッと少しだけ変わった気がした。

 胸元に手を当てていたシルビアの指が、さらりと下ろされる。
 その手の動きすら、なぜか妙に滑らかで、柔らかい。

 髪が、肩の動きに合わせて揺れた。
 普段は無造作気味にまとめている淡い栗毛が、今日はゆるく波打つように整えられていて、
 その毛先が光を受けて、やけに艶やかだった。

 落ち着いた色味のスカートに、装飾のないシャツ。
 どちらも質素な布地なのに、不思議と彼女の輪郭を引き立てていた。
 たぶん、それは“姿勢”のせいだ。

(……ああ、僕のことをまっすぐ見てくれているんだ)

 立ち方、首の角度、笑い方――そのすべてが、僕を見るために、話すために整えられていた。

(なんか、いつもより……)

 シルビアって、こんなに綺麗だったっけ?

 僕はそんな風に思ってしまって、ちょっとだけ目を逸らした。まったく、童貞じゃないんだから……。

「使徒様、おかえりなさいませ」

 すると後ろからゆっくりとカリンがやってきた。

「ただいま、カリン。心配かけたかな?」

「はい、相手方の騎士様の心配をしておりました」

「そっちかい」

 カリンはくすりと笑う。

「使徒様には亜人様がついていらっしゃいますし、ご自身も相当にお強いと聞いております。何も心配することはございません」

 断言する彼女の表情からは、僕への絶対の信頼が見て取れる。

「えー、なによカリン。心配した私が馬鹿みたいじゃん」

「シルビアはもっと使徒様を信じ敬いなさい。信心が足りません」

「ケイを敬うかぁ……」

 彼女は僕の顔をチラッと見て、フンッと鼻で笑った。なんやこいつ、失礼やろがい。

「うーん、ケイのことはそりゃ、し、信頼してるけど、敬うって感じじゃないんだよね」 

「その割には濃厚に舌を絡ませていたようですが」

「ちょおっ!」

 シルビアは突然ぶっこまれたカリンからの発言に真っ赤になってガクガクと揺らした!

「か、カリンだって! めちゃくちゃになってたじゃん!」

「私は使徒ケイ様の忠実な下僕であり、此の御方に仕える巫女です。肉便器でも性奴隷でも、白目剥いて唾液を飛び散らしたとしても、何も恥ずる所はありません」

「ぐ、ぐぬぬ」

 カリンの澄ました顔にシルビアがぐぬぬってる。

 二人とも仲良くて、見てるだけでほっこりしてくるなあ。

「あっ、使徒様! いらっしゃいやしたか!」

 そこへ強面の男がやってくる。あー、この人名前なんだっけか。

「信徒パウロ、どうしたのですか?」

 と、カリンが代わりに僕の代わりに答えてくれた。そしてニコリと微笑む。どうやら忘れていたことを見透かされていたみたいだ。なんて気遣いのできるいい子なんだろう。ありがたい。

「へ、へい。フェイの旦那がお呼びでございやす」

「……使徒様をわざわざ呼び付けるとは。信徒フェイは信心を失ってしまったようですね」

 カリンが不快げに言うと、パウロは慌てて弁解する。

「す、すいやせん! 旦那は、その、亜人様との連日の組手で、心身共に疲弊しておりやして、動けない状態なんでさぁ。旦那本人も、大変申し訳ない、とおっしゃってやした」 

「あー、なるほど」

 それってベステルタとの組手だよね?

 ぜんぜん気にしてなかったけど、いくら鍛錬しているとは言え人間が、亜人を毎日相手にしてたらぶっ倒れるか。次第によっては浄火してあげたほうがいいかもしれない。

「わかった、行くよ」

 僕はベステルタを連れてフェイさんのところへ向かうことにした。

ーー

 ケイが去ったのを皮切りに、それぞれが仕事場に戻っていく。
 
「まったく、あいつ、心配ばかりかけて……」

「無事にお帰りになったのですからよいではありませんか。シルビア、寛容の心を持たないといけませんよ」

「はいはいー、どうせ私は不寛容ですよ」

 ぼやくシルビアとなだめるカリン。

 その姿をセラミナは後ろから眺めていた。

(御主人様、こんな綺麗な人たちがいつも側にいて、心配してくれるんだ……)

(私、やっぱり地味なのかな)

(……でもあの方はやっぱり、“家族”にお優しい人だ)

 セラミナは少し俯いて、ちょっとだけ苦しそうに、胸の前で手をぎゅっとした。そしてぶんぶんと顔を振り、家族の元に戻っていった。
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