とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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決勝戦第五試合その2

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 ノーラも奮闘している。襲い来る短剣に対処しつつ相手本体からの攻撃を回避して致命の一撃は防ぐ。多少のかすり傷こそ負いはするが、それでも彼女は戦いを続けている。それ故に相手も手を緩める事が出来ないのだろう。これだけ粘れる相手を討ち漏らせば、味方にとって大きな障害になる事は嫌でも理解する事になるのだから。

「これだけやっても、まだ折れないのか!?」「甘く見ないでよ、これぐらいで折れるようじゃ今までの冒険は乗り越えてこれなかったわよ!」

 相手の言葉にノーラが吠える。そして直後。相手本体の攻撃に対し、ノーラがカウンターで相手の肩に深々と短剣を突き入れた。相手の鮮血が舞い、返り血がノーラの体の一部に掛かる。直後、複数の短剣がノーラを傷つけるが致命には至らない。一方で短剣が深く突き刺さりすぎたためか、ノーラは自分の短剣を手放した。

 お互いが動きを止めて見合う形となる。ノーラは新しい短剣を取り出し、相手は短剣を抜こうとする。が、ノーラの短剣を抜こうとすると激痛が走ったのだろう、相手の顔が大きくゆがむ。更に傷口からは出血が明確に増えた。それを見て相手は短剣を抜くことを諦めた様だ。

「普通の短剣じゃないな? こいつは」「お互いさま、でしょ? そんな空を飛び襲い掛かってくる無数の短剣なんてものを使っているのだから──卑怯なんて言わないわよね?」

 ノーラを睨みながら口を開いた相手にノーラからの返答。その返答に相手はわずかに笑みを浮かべた。

「当然だ、卑怯なんて言う訳がない。こちらも、そちらも勝つために必要な事をしているだけだ。そこに卑怯も何もある筈がない。あるとするならば、チート行為ぐらいだが──お互い、そんなふざけた真似はしていない。故に卑怯な行為など全くない!」

 相手の言葉に、ノーラは笑みを浮かべた。そこから数秒後、両者が共に飛び出した。無数のナイフがノーラを再び襲うが、ノーラはそれをわずかな動きで回避しながら相手に迫ってゆく。相手もそんなノーラの姿を見てより速度を上げて距離を詰める。そして両者共に、ナイフと突き刺すモーションを取って──ナイフ同士の切っ先がぶつかり合った。

 一瞬だけ激しくぶつかり合う事でナイフの周囲に火花が散って、直後両者が弾かれたかのように後ろにのけ反った。が、ノーラにはそこに無数のナイフがノーラの体を貫こうと襲い掛かってくる。ノーラは体の硬直によって数本のナイフからの攻撃は受けてしまったが、それでも致命的なダメージは幸い受けずに済んだ。

 しかし、やはり相手が動かしている無数のナイフによってノーラは嫌でも体力を削られていく。だからこそノーラは数少ないチャンスをモノにして、先ほどのようなカウンターによる大きな一撃を与える事が勝機をつかむ方法だろう。普通の人ならば精神力が持たないだろうが、苦しい戦いを乗り越えてきたブルーカラーのメンツならば、最後まで精神力を持たせることは不可能ではない。

 むしろノーラの目は、今の状況を楽しんでいるかのように輝いている。その目の様子に、むしろ相手が少々戸惑っているところがあるように感じる。こんな苦しい状況をむしろ楽しむとは、なんて奴だと思っているのかもしれない。

「やはり、並ではないな! だからこそ有翼人のボスを討ち果たしたのか!」「苦境、苦戦なんて日常茶飯事だったもの! これぐらいで折れないわよ!」

 なんて会話が合間に挟まりながらも、両者は激突を繰り返す。両者のナイフが火花を散らし、相手の命を貫かんと鍔迫り合う。しかし、それは延々と続くものではない。どうしても戦いが続けば消耗が激しくなる。そしてその消耗が均衡を崩すきっかけになる。そして消耗が激しく、不利になったのはノーラの方だった。

「くっ!?」

 ノーラの回避の精度が明確に落ち始めた。無理もない、多対一の状況が長く続けば消耗は非常に激しい。しかも相手もカウンターを警戒し、ノーラは最初のカウンター攻撃以降明確なダメージを与える事が出来ていない。そうなるとどうしても精神的に前を向き続けるのが難しくなっていく。そしてそうなると──

 明確な被弾が増えてきた。いくつものナイフがノーラの四肢に傷をつけていく。当然ノーラの体が紅に染まっていく。が、相手は全く油断していない……短剣という武器が持つ特性……致命の一撃による大逆転が常にありうるからだ。心臓を的確につけばクリティカルヒット判定が出て一撃必殺になる。

 それを短剣を使っている相手が知らない訳がない。だからこそむやみやたらに自分で攻めず、動かしている短剣で確実に削っているのだろう。それは正しい……相手を無力化したと考えて突撃した結果、その渾身の一撃を躱されて己が相手の致命的な一撃を受けて負けるなんて展開は、物語では時々出てくる。

「しかし、タフだな……これほどまでにダメージを受け続けているというのにまだ倒れないのか」「……この程度で、やられてあげられないわよ」

 ノーラの体は、自分自身から流れ出た血によって七割ほどが紅に染まってしまっている。だが、それほどのダメージを受けてなお、ノーラは倒れることなく両の足で立ち、必死に相手の短剣に対して立ち向かっている。確かに相手の言葉通り、普通ならばノーラのHPはとっくに尽きているだろう。

 しかし、ノーラは水魔法が使える。詠唱が短い回復魔法をできるだけ目立たないように使って耐えていると予想される。だが、限界は必ずある。その限界が来る前にチャンスが巡ってくることを信じてノーラは耐え続けているのだろう。一瞬のチャンスに全てを賭けるしか、もうノーラに勝ちの目はない様に見える……相手が操る無数の短剣が本当に厄介にもほどがある。

(本当にあの短剣がノーラの動きをことごとく止めてしまっているのがキツイ。あの短剣がなければ、ノーラはもっとのびのびと動けただろうに)

 今回の戦い、ノーラ本来の動きとは到底言えるものじゃない。もちろんそうさせなかった相手が上手いという事になるのだが──あの無数の空を飛ぶ短剣がなければどうなっていたか、それをどうしても考えてしまう。卑怯とは言わないが、どうしてもあの無数の短剣さえなければと思ってしまう。

 そしてその無数の短剣は今なおノーラの体を切り刻むべくノーラに襲い掛かっている。しかし、そこで気が付いた。相手の顔から大量の汗が流れ落ちている事に。なるほど、向こうのMPが尽きつつあるのかもしれない。そうだ、あれだけ無数の短剣を動かし続ける燃料は何だ? 当然MPだろう。

 あんな動きをする短剣を多数動かし続けるんだ、MP消費をスキルなどを駆使してどれだけ抑えても決して軽くはない事は容易に予想がつく。なるほど、ノーラが耐え続けているのはそれが理由か。相手のMPが尽きて、短剣が空から落ちるその瞬間まで耐え抜こうとしているのだろう。

 むろん相手がMPポーションを持ち出して飲む可能性はある。だが。ポーションを飲んでいるその瞬間は明確に無防備になりやすい。その一瞬が訪れたのであれば、一瞬のうちにノーラは前に出て相手の心臓に自分の短剣を突き立てるだろう。当然相手もそれを警戒しているはず。

 しかし、向こうにとって誤算だったのはノーラがまだ倒れない事実その物なのは間違いない。向こうの計算ではすでに倒せているはずだったノーラがいまだに粘り続けている、それは相手にとってただならぬ脅威であり恐怖。故に必死で歯を食いしばってノーラを倒すべく全力で短剣を操っている。

(決着がつく瞬間は、もうすぐそこか。当然武舞台の上にいる二人はその事を理解しているはず。ノーラ、頑張ってくれ)

 決着がついた瞬間、立っているのがノーラであってくれと祈る。それからわずかな時間の後、事態が動く。当然両者も──決着をつけるべく動く。勝者は……
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