とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

文字の大きさ
588 / 765
連載

グラッドの策

しおりを挟む
 グラッドのあの変身は、獣人連合での戦いでちらりとは見た。あらゆる武器を周囲に浮かし、自分で握って使ったり飛ばしたりすることが出来る。が、飛ばす方はともかく実際に握って戦うとなれば様々な武器に精通していなければその真価を発揮できない事は言うまでもない。そしてグラッドは強くなる為ならば外道行為以外の全てをやる男だ。それこそ、ひたすら修練に明け暮れて使いこなせるようになっているとみるべきだ。

(こちらの全能力が一〇倍になっていても、決して楽観視できる相手じゃない。さっきの飛び蹴りをアーツに頼らず純粋な技術と力でいなして見せたその実力は脅威的だ。こちらも全力で戦わないと危ないぞ)

 グラッドの戦闘力の高さは、今までの付き合いと有翼人との戦いで散々見せてもらったし理解させられている。そのグラッドが変身を切ってこうして真っ向勝負してきているのだから、一瞬の油断が命取りと言う事になりかねない。が、それを理解した上で攻めないと話にならない。こっちは一人で六人を相手する側なのだから、弱気になっている時間はない。

 突撃した自分に対し、グラッドは周囲に浮いている剣や短剣、槍などの投擲も出来る武器をこちらに向かって多数飛ばしてきた。しかも真っすぐばかりではなく、いくつかの短剣や剣をある程度迂回させて側面、並びに背後から突き立ててくると言った攻撃まで混ぜて、だ。あ、それだけではない──頭上への攻撃まで含まれているぞ!?

(ちいっ!!)

 その攻撃にに対して自分が取った行動は、八岐の月とレガリオンの二刀流で必要な物だけをはじき返しながら前進を続行する事だった。さらに前進するにしても左右への揺さぶりをランダムに行って、グラッドが自分を少しでも狙いにくい様に仕向ける。ただ──飛んでくる槍だけは回避に専念した。一回受け流したのだが、予想以上の重さで動きが鈍ってしまったからだ。

「なんだと!? いくら能力が上がってるからって、俺のこの攻撃を一発も喰らわずに突っ込んでくるだと!? マジで狂ってるなてめえはよ!」

 グラッドはグラッドで、自分が無被弾で突っ込んでくることに驚きを隠せなかったらしい。これだけの無数の武器を同時に操るのは、相当な訓練を積んだからこそできる事だろう。しかも様々な軌道を織り交ぜているのだから──その常人では届き得ないであろう技術は、恐らく執念と言っていいレベルでの訓練があったに違いない。

 その執念を、今自分が跳ねのけている構図になるのだろうか? もっともこちらとて簡単に進めている訳じゃない。短剣すら両手剣かと思うほどの重さを持ち、こちらの判断ミスで一瞬で崩れる薄氷の上を全力で走っている状態だ。そして、グラッドは後ろに下がりながらこの攻撃を続けている。お陰でなかなか距離が詰められない。

(グラッドの技術ならば、インファイトは十分やれる処が一級品なのになぜ近接戦闘を避ける? 近接戦闘になれば、飛ばしてくる武器の操れる数が減るから? いや、それだけでは理由としては弱い……近接戦闘になってしまうと、困る理由がある? 変身能力の問題とかそう言う事ではなくて、連携の問題で──)

 と考えた所で、こめかみあたりに寒気を感じた自分はその寒気からくる生存本能に従って後ろに大きく飛び下がった。その直後に、自分が前に進んでいたらいたであろうと予想される場所の候補の一つを通り過ぎる一本の矢が駆け抜けるのが見えた……ジャグドの狙撃か! つまり、この狙撃を通す事が本命であり、グラッドはそれを成功させるための目くらまし役だった訳だ。

「飛んできた方向は、右か」「読まれたか!? ち、行かせるかよ!!」

 グラッドはジャグドを逃がすためなのだろう、無数の短剣を飛ばしてくる。が、自分はそれらを無視して走る。自分の背後からいくつもの轟音が聞こえる……もちろんこちらの動きを先読みした短剣もたくさん飛んでくるが、引き付けてからのサイドステップや意図的に走る速度を変える事で先読みをずらす。そして、必死で逃げているジャグドの後ろ姿を捉えた。

「おいおいおい! もう追いついてきたのかよ!」「スナイパーは殺すべし! 慈悲を掛ける必要はなし!」

 遠距離から確実に軽くないダメージ、もしくは即死させてくるスナイパーは何時の時代であっても恐ろしく、そして忌み嫌われる存在だ。FPS経験者ならその恐ろしさと厄介さ、そして向けられる殺意なんてものは説明する必要はないだろう。だからこそ、見つけたら確実に切って捨てるか脳天をぶち抜いておかなければならない。自分達を護る為に。

「ジャグド、何とかして逃げろ!」「畜生、振り切れねえ! アースの足が速すぎる!」

 慌てたのだろうか、パーティチャットではなく直接の声によるやり取りがグラッドとジャグドの間で行われる。が、もうこちらの弓の間合いに入っている。八岐の月を構え、より一層走る速度を早めて勢いをつけた後にアーツではなく自分の動きでスライディングをして草の上を滑るような感じで移動する。高さが減った分、グラッドの短剣射出による攻撃を受けにくくなるだろうと踏んでの行動だ。そして、ジャグドの胴体、心臓付近を狙って矢を放つ。

「ぐはっ!?」

 矢が貫通し、ジャグドを地に伏せさせた。どうやら命中してくれたようだ。不慣れな体勢であったが、何とかと言った所だ。ほとんど曲芸に近かったが、当たればいいのである。当然鎖をジャグドに向かって投げつけて拘束されるまでの間グラッドによる鎖破壊を阻止する。そしてジャグドの救出失敗を理解したグラッドは──全力で逃げを打った。何かしらのアイテムを使ったのだろう、異様な速度で走り去っていく。

(あの異様なスピード、一定時間だけ効果があるがその後に多分反動があるタイプだな。だがら今は逃げるしかないと判断するときまでは使わなかったのだろう。ジャグドと言うスナイパー要因がいなくなった以上、作戦が破綻したから全力で逃げを選択できる……そこもグラッドの侮れない所だ)

 変身をしたのだから少しでもダメージを与えたい、そう普通のプレイヤーなら少し欲が出る所だろう。そんな欲を出さず、次の機械に備えて消耗を最大限に抑える選択を取る事はそうそうできる事じゃない。こういう点も、プレイヤーとしての強さの一つと言えるだろう。一方でジャグドは、かなりの遠距離から狙撃してきていた。射撃の射程を伸ばせるアイテムもあるとみて良いな。

(幾つものアイテムが分かってきたな、妨害用、強化用、そして変身補助関連もあるかもしれない。厄介だけど、そう言ったアイテムが無きゃこちらに対抗できないか)

 なんにせよ、ジャグドを一時的とはいえ拘束できたのは大きい。レンジャーであるジャグドは、グラッドパーティの中で一番機動力を持っているプレイヤーだ。だからジャグドが欠ければ、グラッド達の探索能力はかなり鈍るだろう。今のうちにもう一人、二人を発見して捕まえてより探索能力を低下させたいところだ。

 とにかく、想定外の戦いはあったが当初の目的通り市街地に向かおう。そして宝箱の空きぐらいで探索の度合いを測ろう。移動しながら考えを纏め、市街地に自分は足を踏み入れた。市街地は人族の街並みとそっくりに作られているようで、かなり家が多い。この家を一つ一つ巡って調べるのは骨が折れそうだ。

 なので大雑把に家の中を調べてみる。宝箱が開いている割合は四割弱と言った所か。道端の見つけやすい奴はほぼ開いているが、家の中を調べ回っている時に自分が強襲してきたら逃げ場がない事を恐れて避けているのだろうか? と、そう考えた時に一瞬だけ《危険察知》の反応が出た。すぐさま反応は消えてしまったが……このエリアに誰かがいる事は間違いない。

(出会っていないゼラァか、ザットのどちらかかの可能性が高いだろうな。とにかく反応があった付近に移動してみよう)

 二人捕まえられれば相手の三分の一を減らしたことになるから、かなりグラッド達側の探索速度を落とすことが出来る。だからこそ、これは逃がしたくない。さあ、今捕まえに行くよ……待っててくれよ?
しおりを挟む
感想 4,905

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。