とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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新しい盾の設計図製作開始……?

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 翌日。本格的にハサミ機構を備えた盾……仮称としてシザーシールドと呼ばせてもらう。このシザーシールドの設計図を清書し、そして最小限の素材で試作品を作るべく動くその第一歩目で自分は頭を悩ませていた。

 親方を始めとしたこの場にいる人達は、必要な物が確定したらすぐに作ると言ってくれているので自分が設計図を引き終わればすぐさま試作品が出来上がる事だろう。それまでは今までと同じように注文が入った品の中でこなせるものをこなしていく形となる。

(しかし、その肝心の設計図がなぁ……どうにも形にならない。昨日作ったふわっとした物から先に進まないんだよなぁ)

 頭を時々掻きむしるとまではいかないが、何度も頭を掻きながらああでもないこうでもないと悩ませている真っ最中である。機構は単純にしたい……だがまずハサミの機構を考える最初の一歩目から自分は躓いていた。幾つものハサミを頭に浮かべてはそれを仕込めないか考え、そして機構が複雑になりそうになるので没としている事を繰り返している。

(ハサミの刃を複層にしてスライドさせて伸ばせば……ダメだ、それじゃあ設計が複雑になり過ぎるしメンテナンスも難しくなる。変形などの機構は最小限にしなきゃ……自分が使うんじゃなくて他の人が使う以上、メンテナンスが難しくなりすぎる機構を組むのは却下だ。何か、何かいい案はない物か)

 自分だけが使うのであれば、メンテナンスが複雑になっても別にいい。設計した以上どこをどう手入れすれば良いのかがすぐ分かるからだ。だが、今回は他の人が使うという制約がつく以上、メンテナンスは出来るだけ簡単にできるようにしなければならない。特にハサミ部分はメインの攻撃を行う部分なので、ここは特にメンテナンスが簡単にできないといけない。

 この制約のせいで、どういうハサミならばそれが叶うかの試行錯誤で設計図作りが全く進んでいない。逆にこのハサミの形が決まれば、そこからの設計はそれなりに早く進むと思うのだ。だからこそ、シザーシールドの設計における第一関門が最大の障害と言ってもたぶん間違いではない。

(ハサミ、ハサミ……工業に使われている物も考えたがイマイチパッとしないんだよな。無論そう言うハサミを組み込む事は出来なくもないんだけど……普段は指を入れて開閉するからなぁ。そのまま盾の中に仕込むとどうしても機構が面倒かつ、スプリングとかも知れないとならなくなっちゃうんだよな)

 一回きりでいいなら、開いた状態で収めておけばいいだけだ。その後一回だけ閉じる機構を組めば完成だ。だが、戦いの最中で一回だけしか使えない武器に価値はあるか? もちろん価値があるものは存在する。一回しか使えないがとんでもないダメージを出すことが出来る剣。一回使うと砕け散ってしまうが、壊滅状態のパーティを回復させてくれる回復の力が込められた杖などだ。

 だが、シザーシールドはそう言う一発こっきりだが状況をひっくり返す、最後のとどめまで持っていけるというたぐいの武器にはまずならない。右手に持った武器を飛ばされた時などに使用して一撃を与え、その後はその存在をちらつかせて相手の動きを牽制し、手に持つ武器を拾いなおすか予備の武器を装備しなおして戦闘続行を行う感じになるだろう。依頼者も多分そう言った運用を想定しているはず。

 だが、ここで一回しか使えない、再使用には落ち着いた状態でハサミを開きなおさなければならないか──盾の中に引っ込めればすぐに使えるようにセットされるか。どちらが良いと問えば絶対後者だろう。戦いの経験がある人なら、一回しか使えないのか複数回使えるかの見切りは早い。牽制として生かすためにも、一発打ち切りでは頼りなさすぎる。

 だからこそ、連続使用しても問題ない剛性とシンプルな設計という二つの問題を解決する事を求められるわけだが……答えが出せない。時々水分を含みつつ頭を悩ませる。と、このタイミングで心配そうに親方が声をかけてきた。

「ずいぶん唸っているようだが大丈夫か?」「あ、親方。ええ、今までも作る時の設計図を考えている時はこんな感じでしたよ。こういうギミックを仕込んだ装備ってのはどうしても最初の設計に時間がかかってしまうんです。適当な設計だとすぐに使い物にならなくなるからこそ、最初の設計を行う時に想定できる問題を潰しておかないとゴミにしかならないので」

 あまりにうんうん唸っている自分を見かねたのだろうな、親方としても。取り合えず親方に返答した後、自分は幾つか考えてみたハサミの設計図を見せたが……

「なるほどな。確かに制作自体は可能ではあるがメンテナンスが相当手間になりそうなものばっかりだな。それに、耐久度も少し気になる」「そこなんですよね、普通のハサミは戦闘になんか使いませんからこの形で良いんですが、作りたいものはガチガチの戦闘用ですからね。ちょっと攻撃が当たっただけで機構がねじれて動かなくなるようじゃ話にならないんです」

 スプリングを始めとした仕組みを出来る限りハサミに入れたくないのはそこだ。飛び出した攻撃用のハサミにスプリングをつけると、たまたまそこに攻撃を貰ってスプリングが破損して動かなくなったら重いだけの盾という事になってしまう。更にその状態でハサミが正常にしまえなくなったら、使用者にとっては邪魔どころか危険極まりない物に変貌してしまう。

 そんな失敗作に、依頼者の命を預けさせたくはないのだ。自分しか使わないのであればそれでもいいのだが……自分だけなら失敗から修正案を考えて、徐々に完成品へと到達できるように改良を重ねていけばいいのだから。

「戦闘に使う以上、一定レベルの頑丈さは確かに大事だな。意図的に壊れる事で相手にダメージを与える使い捨て考慮した武器というのがない訳ではないが、これはその例には当てはまらないからな」

 親方の言葉に、自分は頷いた。親方の言葉に合った通り、特殊な使い捨て武器でもない限り武器は頑丈なのが一番だ。耐久性が武器防具に設定されているゲームで、戦闘中に武器がぶっ壊れてしまった経験のある人はそれなりに居ると思う。そのゲームがコマンド選択肢のゲームならまだいい。アクション重視で高速戦闘やぎりぎりの戦いの最中に突然武器が折れたらどうなる? 

 すぐさま別の武器を装備すればいいんじゃん。そう言うだろう? そう思うだろう? だが、それは普段の冷静な状況だからこそ言えるのだ。実際の現場でそうなった場合、軽いパニックに陥って数回程壊れた武器を振ってしまう事が大体だ。その後装備切り替えないととなって使える武器に切り替える。

 が。ワンモア世界の住人にとってはこの世界はゲームではなく現実だ。その人達が武器が壊れた後に数回空振り、しかも軽いパニック状態でやったらどうなる? 致命的な隙を晒す事になってしまう。その隙を毎回見逃してもらえるなんて──万が一にもそんな考えを持つのであれば、冒険者として旅をする事は止めた方が良いだろう。

「攻撃力、特殊能力。そう言った物ももちろん大事です……ですが、やはり壊れず戦い抜いてくれることはなにより大切な事ですよね?」「ああ、それは同意する。俺の武器も頑丈な点を評価してくる人は多かったからな。ある程度粗っぽい扱いをしても耐えてくれるから助かるとな。戦いの最中、いつもきれいな使い方ばかり出来る訳じゃねえしな」

 戦いの展開では、武器が痛む事を理解した上でどうしてもやらなきゃ自分が死ぬと言う事はある。実際自分もかなり武器や防具は酷使してきた方だと自覚もある。それでもやらなきゃ負ける、死ぬからやるしかないのだ。戦いは試合じゃない、きれいな使い方ばかりは出来ない。

 無論、だからと言って荒っぽく使っても良いと言う訳でもない。出来る限り綺麗に使えるように訓練し、武器に負荷がかかる扱いは出来るだけしないようにする必要がある。矛盾ぽく聞こえるかもしれないが、そういうものなのだ。それを自分はワンモアという疑似空間とはいえ、十分に理解させられている。

「俺も武器、特に新しい奴を打つときには試行錯誤の日々を過ごしたことは数え切れねえほどある。ましてや盾の中に仕込みを入れるなんてのはやった事がねえ……アースには済まないが、設計という部分では力になってやれねえ。心苦しいが頑張ってもらうしかねえな……」

 これは親方にとって、武器ではあるが畑違いな内容だからね。親方にはちょいちょい世話になってきたんだし、こういう形で何とかお返ししたい。だからこそ引き受けたわけなんだが……ダメだ、まだ答えが出ない。どうしても挟み込むっていうのがネックになる。パイルバンカーみたいに杭、もしくは細い針を相手に突き刺すという機構ならばまだ簡単になる……

(気分転換に、そっちも考えてみるか? そう言う別物を考えている時に意外な角度から新しい知識が入って元の問題に対する答えが出るって事もある。このままうんうん唸り続けるよりは──よっぽどましって奴だな)

 そう考えを変えて、新しく図面を引き始める。出来ればハサミの機構を思いつけますようにと願いながら。これを人によっては現実逃避と評しそうだが──このまま唸り続けると言うのも避けたかったのだ。正直親方だけでなくお弟子さん達の視線もかなり心配そうになってきていたからね……



*****

今週から新刊の作業が本格化すると担当さんから連絡が入りました。

ですので、更新は今後しばらく鈍りそうです。よろしくお願いします。
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